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第5部 天然女子高生のための真そーかつ
第129話 ファクトフルネス
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)
「うーん、肩こりが治らない……整形外科行ったほうがいいのかな……」
3日前の放課後、硬式テニス部所属の2年生である堀江有紀先輩に要らなくなった古い置き時計を貰ってから、私は毎日肩こりと頭重感に悩まされていた。
両親は弟の正輝を連れて朝から外出中なので相談することもできず、日曜日の昼なのにリビングのソファから立ち上がれず苦しんでいると、テレビ台の横に置いていた古い置き時計がガタガタと音を立て始めた。
『やれやれ、ようやく封印から目覚めることができました。これまで霊力で苦しめてしまい申し訳ありません』
「何かデジャヴ感!?」
突如としてリビングの床に現れたのは全身が半透明になっている三頭身の小さな男の子で、ざんぎり頭に和服を着ているその幽霊は床の上で正座すると私にぺこりとお辞儀をした。
『先日は姉の真霊たそがお世話になりました。私は幕末から明治の頃に姉と共に堀江家にお仕えしていた者で、使用人でありながら優しさと真心に溢れていると評価され優真という名字を与えられました。黒塗りの高級馬車に追突されたことで姉と共に若くしてこの世を去り、今は幽霊の身であることから幽魔たそと名乗っております』
「何でお姉さんと名前同じなのに名字違うのとかツッコミを入れたい所ですけど、今目覚めたってことは何か目的があるんですよね?」
真霊たその弟の幽魔たそと名乗った幽霊のプロフィールは大体分かったが、真霊たそが現れた時は非礼の波動を感知して目覚めていたのでこの幽霊も何かを感知したのだろうと思われた。
『実はこの家屋の近くに偽装の波動を感じておりまして、誰かが人と争っているようなのです。優しさと真心を旨とする者としてどうにか解決に導きたいのですが、ご協力を頂けませんか?』
「例によって早いうちに成仏して頂きたいので連れていきますね。私の肩にでも乗って貰えます?」
今日は特にやることもないので私は幽魔たそに協力することにして、玄関から家を出ると彼が指示する方向に進んでいった。
「とうじくんひどいよ! ぼくががんばってすなのおしろをつくったのに、どろだんごをぶつけてこわしちゃうなんて!!」
「こんなすなばでしろなんてつくってもあしたにはなくなってるじゃないか! そんなにおこるなよ!!」
たどり着いたのは近所の子供たちがよく遊んでいる公園で、昨今の風潮によりほとんどの遊具が撤去されていった中で数少ない遊び場となっている砂場ではお隣さんの6歳児である村田蓮くんが幼稚園の友達と喧嘩していた。
「だからってぼくがつくったおしろをこわすなんてあんまりだよ! つくりなおせなんていわないからあやまってよ!!」
「うるさいな、だったらおまえもどろだんごでもつくれよ! しろなんてつくってなんになるんだよ!!」
『これは問題ですね。私には彼らの心が読めるのですが、彼らはお互い本音を隠していて、そのせいで諍いがヒートアップしているようです。ファクトフルネスを軽視した議論が建設的になることはありませんから、今からお互いの心の声を顕現させますね』
「幽霊って何でもありですね……」
明治時代から目覚めた割には「ヒートアップ」とか「ファクトフルネス」といった用語を知っている幽魔たそに小声でツッコミを入れる間もなく、幽魔たそは右手で虚空を切り始めた。
『ごめんな、れん。なげたどろだんごがそれてすなのしろにぶつかっちゃって、ほんとうはこわすきなんてなかったんだ』
『とうじくん、ぼくもほんとうはとうじくんとどろだんごをつくってあそびたいんだよ。きびしくせめてごめん』
「えっ?」
「れん、あきらかにぜんぶおれがわるいのにそんなふうにおもってくれてたのか……」
「ぼくこそとうじくんとなかなおりしたいってはっきりいえなくてごめん! いまからいっしょにどろだんごをつくろう!!」
幽魔たそが霊力でお互いの本音を明らかにしたことで蓮くんと統司くんは仲直りできて、私は彼らが一緒に遊び始めたことを確認すると公園を後にした。
「最初はどうなるかと思いましたけど、結構いいことしましたね。その力で他にも誰か助けてあげたらどうですか?」
『いえいえ、私はあくまで幽霊の身ですので。成仏するまで人助けも悪くありませんけどね』
「あら、野掘さん。誰かとイヤホンで電話してたの?」
「いや違います、全然どうでもいい独り言なので!!」
幽魔たそを肩に載せて自宅への帰り道を歩いていた私は日曜日にデート中らしいマルクス高校2年生の裏羽田由自先輩とケインズ女子高校3年生の出羽ののかさんのカップルに出くわした。
「お二人とも最近よくデートされてますよね。私彼氏とかいないのでうらやましいです」
「はははは、僕と出羽さんはあくまで高校生同士の清い仲だからね。だからこそ僕も彼女と同じ大学に進学したいと思ってるんだ」
「そうなのよ、裏羽田君って付き合っててもいきなりボディタッチとかしないからすっごく紳士的。北欧の男性顔負けのクールさで惚れ惚れしちゃうわ」
『出羽さんの胸って触ったらどれぐらい柔らかいんだろう。今度ちょっと積極的なアプローチを』
「○ね!!!」
「ぐふうっ!!」
出羽さんは幽魔たその霊力により聞こえてきた彼氏の本音に激怒すると裏羽田先輩に右フックを食らわせ、私はそこはファクトフルネスを徹底してはいけない所ではと思った。
(続く)
「うーん、肩こりが治らない……整形外科行ったほうがいいのかな……」
3日前の放課後、硬式テニス部所属の2年生である堀江有紀先輩に要らなくなった古い置き時計を貰ってから、私は毎日肩こりと頭重感に悩まされていた。
両親は弟の正輝を連れて朝から外出中なので相談することもできず、日曜日の昼なのにリビングのソファから立ち上がれず苦しんでいると、テレビ台の横に置いていた古い置き時計がガタガタと音を立て始めた。
『やれやれ、ようやく封印から目覚めることができました。これまで霊力で苦しめてしまい申し訳ありません』
「何かデジャヴ感!?」
突如としてリビングの床に現れたのは全身が半透明になっている三頭身の小さな男の子で、ざんぎり頭に和服を着ているその幽霊は床の上で正座すると私にぺこりとお辞儀をした。
『先日は姉の真霊たそがお世話になりました。私は幕末から明治の頃に姉と共に堀江家にお仕えしていた者で、使用人でありながら優しさと真心に溢れていると評価され優真という名字を与えられました。黒塗りの高級馬車に追突されたことで姉と共に若くしてこの世を去り、今は幽霊の身であることから幽魔たそと名乗っております』
「何でお姉さんと名前同じなのに名字違うのとかツッコミを入れたい所ですけど、今目覚めたってことは何か目的があるんですよね?」
真霊たその弟の幽魔たそと名乗った幽霊のプロフィールは大体分かったが、真霊たそが現れた時は非礼の波動を感知して目覚めていたのでこの幽霊も何かを感知したのだろうと思われた。
『実はこの家屋の近くに偽装の波動を感じておりまして、誰かが人と争っているようなのです。優しさと真心を旨とする者としてどうにか解決に導きたいのですが、ご協力を頂けませんか?』
「例によって早いうちに成仏して頂きたいので連れていきますね。私の肩にでも乗って貰えます?」
今日は特にやることもないので私は幽魔たそに協力することにして、玄関から家を出ると彼が指示する方向に進んでいった。
「とうじくんひどいよ! ぼくががんばってすなのおしろをつくったのに、どろだんごをぶつけてこわしちゃうなんて!!」
「こんなすなばでしろなんてつくってもあしたにはなくなってるじゃないか! そんなにおこるなよ!!」
たどり着いたのは近所の子供たちがよく遊んでいる公園で、昨今の風潮によりほとんどの遊具が撤去されていった中で数少ない遊び場となっている砂場ではお隣さんの6歳児である村田蓮くんが幼稚園の友達と喧嘩していた。
「だからってぼくがつくったおしろをこわすなんてあんまりだよ! つくりなおせなんていわないからあやまってよ!!」
「うるさいな、だったらおまえもどろだんごでもつくれよ! しろなんてつくってなんになるんだよ!!」
『これは問題ですね。私には彼らの心が読めるのですが、彼らはお互い本音を隠していて、そのせいで諍いがヒートアップしているようです。ファクトフルネスを軽視した議論が建設的になることはありませんから、今からお互いの心の声を顕現させますね』
「幽霊って何でもありですね……」
明治時代から目覚めた割には「ヒートアップ」とか「ファクトフルネス」といった用語を知っている幽魔たそに小声でツッコミを入れる間もなく、幽魔たそは右手で虚空を切り始めた。
『ごめんな、れん。なげたどろだんごがそれてすなのしろにぶつかっちゃって、ほんとうはこわすきなんてなかったんだ』
『とうじくん、ぼくもほんとうはとうじくんとどろだんごをつくってあそびたいんだよ。きびしくせめてごめん』
「えっ?」
「れん、あきらかにぜんぶおれがわるいのにそんなふうにおもってくれてたのか……」
「ぼくこそとうじくんとなかなおりしたいってはっきりいえなくてごめん! いまからいっしょにどろだんごをつくろう!!」
幽魔たそが霊力でお互いの本音を明らかにしたことで蓮くんと統司くんは仲直りできて、私は彼らが一緒に遊び始めたことを確認すると公園を後にした。
「最初はどうなるかと思いましたけど、結構いいことしましたね。その力で他にも誰か助けてあげたらどうですか?」
『いえいえ、私はあくまで幽霊の身ですので。成仏するまで人助けも悪くありませんけどね』
「あら、野掘さん。誰かとイヤホンで電話してたの?」
「いや違います、全然どうでもいい独り言なので!!」
幽魔たそを肩に載せて自宅への帰り道を歩いていた私は日曜日にデート中らしいマルクス高校2年生の裏羽田由自先輩とケインズ女子高校3年生の出羽ののかさんのカップルに出くわした。
「お二人とも最近よくデートされてますよね。私彼氏とかいないのでうらやましいです」
「はははは、僕と出羽さんはあくまで高校生同士の清い仲だからね。だからこそ僕も彼女と同じ大学に進学したいと思ってるんだ」
「そうなのよ、裏羽田君って付き合っててもいきなりボディタッチとかしないからすっごく紳士的。北欧の男性顔負けのクールさで惚れ惚れしちゃうわ」
『出羽さんの胸って触ったらどれぐらい柔らかいんだろう。今度ちょっと積極的なアプローチを』
「○ね!!!」
「ぐふうっ!!」
出羽さんは幽魔たその霊力により聞こえてきた彼氏の本音に激怒すると裏羽田先輩に右フックを食らわせ、私はそこはファクトフルネスを徹底してはいけない所ではと思った。
(続く)
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