天然女子高生のためのそーかつ

輪島ライ

文字の大きさ
上 下
146 / 181
第5部 天然女子高生のための真そーかつ

第129話 ファクトフルネス

しおりを挟む
 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)


「うーん、肩こりが治らない……整形外科行ったほうがいいのかな……」

 3日前の放課後、硬式テニス部所属の2年生である堀江ほりえ有紀ゆき先輩に要らなくなった古い置き時計を貰ってから、私は毎日肩こりと頭重感に悩まされていた。

 両親は弟の正輝まさきを連れて朝から外出中なので相談することもできず、日曜日の昼なのにリビングのソファから立ち上がれず苦しんでいると、テレビ台の横に置いていた古い置き時計がガタガタと音を立て始めた。

『やれやれ、ようやく封印から目覚めることができました。これまで霊力で苦しめてしまい申し訳ありません』
「何かデジャヴ感!?」

 突如としてリビングの床に現れたのは全身が半透明になっている三頭身の小さな男の子で、ざんぎり頭に和服を着ているその幽霊は床の上で正座すると私にぺこりとお辞儀をした。

『先日は姉の真霊まれいたそがお世話になりました。私は幕末から明治の頃に姉と共に堀江家にお仕えしていた者で、使用人でありながら優しさと真心に溢れていると評価され優真ゆうまという名字を与えられました。黒塗りの高級馬車に追突されたことで姉と共に若くしてこの世を去り、今は幽霊の身であることから幽魔ゆうまたそと名乗っております』
「何でお姉さんと名前同じなのに名字違うのとかツッコミを入れたい所ですけど、今目覚めたってことは何か目的があるんですよね?」

 真霊たその弟の幽魔たそと名乗った幽霊のプロフィールは大体分かったが、真霊たそが現れた時は非礼の波動を感知して目覚めていたのでこの幽霊も何かを感知したのだろうと思われた。

『実はこの家屋の近くに偽装の波動を感じておりまして、誰かが人と争っているようなのです。優しさと真心を旨とする者としてどうにか解決に導きたいのですが、ご協力を頂けませんか?』
「例によって早いうちに成仏して頂きたいので連れていきますね。私の肩にでも乗って貰えます?」

 今日は特にやることもないので私は幽魔たそに協力することにして、玄関から家を出ると彼が指示する方向に進んでいった。


「とうじくんひどいよ! ぼくががんばってすなのおしろをつくったのに、どろだんごをぶつけてこわしちゃうなんて!!」
「こんなすなばでしろなんてつくってもあしたにはなくなってるじゃないか! そんなにおこるなよ!!」

 たどり着いたのは近所の子供たちがよく遊んでいる公園で、昨今の風潮によりほとんどの遊具が撤去されていった中で数少ない遊び場となっている砂場ではお隣さんの6歳児である村田むらたれんくんが幼稚園の友達と喧嘩していた。

「だからってぼくがつくったおしろをこわすなんてあんまりだよ! つくりなおせなんていわないからあやまってよ!!」
「うるさいな、だったらおまえもどろだんごでもつくれよ! しろなんてつくってなんになるんだよ!!」

『これは問題ですね。私には彼らの心が読めるのですが、彼らはお互い本音を隠していて、そのせいでいさかいがヒートアップしているようです。ファクトフルネスを軽視した議論が建設的になることはありませんから、今からお互いの心の声を顕現けんげんさせますね』
「幽霊って何でもありですね……」

 明治時代から目覚めた割には「ヒートアップ」とか「ファクトフルネス」といった用語を知っている幽魔たそに小声でツッコミを入れる間もなく、幽魔たそは右手で虚空を切り始めた。

『ごめんな、れん。なげたどろだんごがそれてすなのしろにぶつかっちゃって、ほんとうはこわすきなんてなかったんだ』
『とうじくん、ぼくもほんとうはとうじくんとどろだんごをつくってあそびたいんだよ。きびしくせめてごめん』

「えっ?」
「れん、あきらかにぜんぶおれがわるいのにそんなふうにおもってくれてたのか……」
「ぼくこそとうじくんとなかなおりしたいってはっきりいえなくてごめん! いまからいっしょにどろだんごをつくろう!!」

 幽魔たそが霊力でお互いの本音を明らかにしたことで蓮くんと統司とうじくんは仲直りできて、私は彼らが一緒に遊び始めたことを確認すると公園を後にした。


「最初はどうなるかと思いましたけど、結構いいことしましたね。その力で他にも誰か助けてあげたらどうですか?」
『いえいえ、私はあくまで幽霊の身ですので。成仏するまで人助けも悪くありませんけどね』
「あら、野掘さん。誰かとイヤホンで電話してたの?」
「いや違います、全然どうでもいい独り言なので!!」

 幽魔たそを肩に載せて自宅への帰り道を歩いていた私は日曜日にデート中らしいマルクス高校2年生の裏羽田りばた由自ゆうじ先輩とケインズ女子高校3年生の出羽でわののかさんのカップルに出くわした。

「お二人とも最近よくデートされてますよね。私彼氏とかいないのでうらやましいです」
「はははは、僕と出羽さんはあくまで高校生同士の清い仲だからね。だからこそ僕も彼女と同じ大学に進学したいと思ってるんだ」
「そうなのよ、裏羽田君って付き合っててもいきなりボディタッチとかしないからすっごく紳士的。北欧の男性顔負けのクールさで惚れ惚れしちゃうわ」

『出羽さんの胸って触ったらどれぐらい柔らかいんだろう。今度ちょっと積極的なアプローチを』

「○ね!!!」
「ぐふうっ!!」

 出羽さんは幽魔たその霊力により聞こえてきた彼氏の本音に激怒すると裏羽田先輩に右フックを食らわせ、私はそこはファクトフルネスを徹底してはいけない所ではと思った。


 (続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最近の女子高生は思想が強い ~雇用・利子および女子高生の一般りろん~

輪島ライ
大衆娯楽
 東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には寛容の精神と資本主義思想が教え込まれている。  社会派ドタバタポリティカルコメディ、ここでも開幕!! ※この作品は「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。 ※これは架空の物語です。過去、あるいは現在において、たまたま実在する人物、出来事と類似していても、それは偶然に過ぎません。 ※姉妹作「天然女子高生のためのそーかつ」を並行連載中です。(内容に一部重複があります)

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!

コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。 性差とは何か?

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...