128 / 181
第4部 天然女子高生のための大そーかつ
第116話 ハイパーインフレ
しおりを挟む
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「これが今回の売り物ですの? 正直言ってどれもガラクタみたいな感じですわね」
「私は使いさしの消しゴム10個を100円で売るよ! 手間賃の方がかかりそうだけどこれもSDGsの一環だよ!!」
「私も昔遊んでたおもちゃぐらいしか持ってこれなかったんです。昔のアニメのマイナーなグッズですし買う人いなさそうですけど……」
マルクス中高では学外の人も交えたイベントとして定期的にフリーマーケットを開催しており、今回は生徒が団体として参加すれば1人につき図書カード500円分を貰えるということで硬式テニス部も部活として参加を申請していた。
2年生の堀江有紀先輩はかつて会社経営者だったお父さんの昔の仕事仲間から貰った食器や小物を、同じく2年生の赤城旗子先輩はあまり使われていなさそうな使いさしの筆記用具を出品物として持参しており、私は小学校低学年の頃に遊んでいたおもちゃを自宅のタンスから引っ張り出して持ってきていた。
「まなちゃん……このおもちゃどうやって遊ぶん? 何かすごい面白そうやねんけど」
「ぼくのいえグルグルゲームですか? 真ん中の支柱から伸びてるアームに付いてるお皿にバランスよくブロックを置いて、重量でグルグル回すだけのおもちゃですけど……」
私が持ってきたおもちゃは「ぼくのいえグルグルゲーム」という名前で、これは今から15年ほど前に放映されていた『ぼくのいえ』という日常系アニメを題材にしたグッズだった。
元々商品化できる題材がほぼないアニメのグッズだけあって作りは雑であり、当時の私はよくこんなものを定価6480円も出して買って貰ったものだと思っていたが、2年生の平塚鳴海先輩はぼくのいえグルグルゲームを見て目を輝かせていた。
「なあなあまなちゃん、このおもちゃって誰も買わへんかったらうちが持って帰ってもええか? 元々要らへんのやろ?」
「全然いいですし、多分誰も買わないので大丈夫だと思いますよ。値段を500円ぐらいにしたら別かもですけど……」
「そらあかん、やったらうちが値段決めるわ! ほれ、この値段なら誰も買わへんやろ!!」
なるみ先輩はそう言うとぼくのいえグルグルゲームに「1103354300000000」と油性マーカーで書かれた値札を貼り付け、ゼロの数を数えてみると1103兆3543億円ということらしかった。
「確かに絶対誰も買いませんけど、ちょっと極端すぎるような……」
「いえ、鳴海のやり方にも意義はありますわ。アンカリング効果といって、人は最初に極端に大きい数字を見せられるとそれ以外の数字は小さく見えるものです。このおもちゃを一番目立つ所に置けば他の商品がどんどん売れますわよ!!」
「せやせや、グルグルゲームで一石二鳥や!!」
「これなら私の消しゴム10個も300円で売れるよ! のみの市で大儲け大儲け!!」
「ええ……」
先輩方はなるみ先輩のやり方に賛同して勝手に盛り上がり始め、私はこれで大丈夫なのだろうかと思った。
そうこうしているうちにフリーマーケットは始まり、中学校校舎の正門の方から見覚えのある親子が歩いてきた。
「皆さんこんにちは、千代田区議会議員の村田舫です。今日は一市民として参りました」
「まなおねえちゃんこんにちは。てにすぶはなにをうってるの?」
「こんにちは、蓮くんも来てくれたんだね。あんまり蓮くんが喜びそうなものはないですけど……」
「せやで! 特にこのぼくのいえグルグルゲームは絶対買ったらあかんで!!」
中高のフリーマーケットに興味津々の6歳児である村田蓮くんになるみ先輩は警戒心を隠さず、よせばいいのにぼくのいえグルグルゲームを指さして警告した。
「おかあさん、ぼくこれほしい! でも、いちいちぜろさんさんご……よくわからないけどかえないよー!」
「へっへっへっ、ボク、大人の世界を甘うみたらあかんで。世の中には欲うても手に入らへんものもあんねん」
「なるみ先輩、流石に大人げないですよ……」
ぼくのいえグルグルゲームの値札を読んで涙目になっている蓮くんを見てなるみ先輩は邪悪な笑みを浮かべており、これは流石にひどいと思った。
「これ、単位は無関係で1104兆あればいいんですよね。ちょうど100兆ジンバブエドルを30枚持ってきてますから、12枚で売ってくださいますね? お釣りは要りませんので」
「ファッ!?」
「よかったわねえ蓮、今からゲーム研究部のフリーマーケットも見に行きましょうね」
「ありがとうおかあさん! ぼくよんてんどーのむかしのげーむほしい!!」
蓮くんの母である舫さんはブルーシートの上に100兆ジンバブエドル12枚を置き、あっさり購入したぼくのいえグルグルゲームを抱えて去っていった。
「う、うちのグルグルゲームがぁぁぁ……」
「いいから他の商品売りますわよ。旗子、そこの消しゴム10個は100円に直しておきなさい」
「がってんだー!」
目の前に残されたハイパーインフレ紙幣を見て号泣しているなるみ先輩を見て、私は世の中上には上がいるものだと思った。
(続く)
「これが今回の売り物ですの? 正直言ってどれもガラクタみたいな感じですわね」
「私は使いさしの消しゴム10個を100円で売るよ! 手間賃の方がかかりそうだけどこれもSDGsの一環だよ!!」
「私も昔遊んでたおもちゃぐらいしか持ってこれなかったんです。昔のアニメのマイナーなグッズですし買う人いなさそうですけど……」
マルクス中高では学外の人も交えたイベントとして定期的にフリーマーケットを開催しており、今回は生徒が団体として参加すれば1人につき図書カード500円分を貰えるということで硬式テニス部も部活として参加を申請していた。
2年生の堀江有紀先輩はかつて会社経営者だったお父さんの昔の仕事仲間から貰った食器や小物を、同じく2年生の赤城旗子先輩はあまり使われていなさそうな使いさしの筆記用具を出品物として持参しており、私は小学校低学年の頃に遊んでいたおもちゃを自宅のタンスから引っ張り出して持ってきていた。
「まなちゃん……このおもちゃどうやって遊ぶん? 何かすごい面白そうやねんけど」
「ぼくのいえグルグルゲームですか? 真ん中の支柱から伸びてるアームに付いてるお皿にバランスよくブロックを置いて、重量でグルグル回すだけのおもちゃですけど……」
私が持ってきたおもちゃは「ぼくのいえグルグルゲーム」という名前で、これは今から15年ほど前に放映されていた『ぼくのいえ』という日常系アニメを題材にしたグッズだった。
元々商品化できる題材がほぼないアニメのグッズだけあって作りは雑であり、当時の私はよくこんなものを定価6480円も出して買って貰ったものだと思っていたが、2年生の平塚鳴海先輩はぼくのいえグルグルゲームを見て目を輝かせていた。
「なあなあまなちゃん、このおもちゃって誰も買わへんかったらうちが持って帰ってもええか? 元々要らへんのやろ?」
「全然いいですし、多分誰も買わないので大丈夫だと思いますよ。値段を500円ぐらいにしたら別かもですけど……」
「そらあかん、やったらうちが値段決めるわ! ほれ、この値段なら誰も買わへんやろ!!」
なるみ先輩はそう言うとぼくのいえグルグルゲームに「1103354300000000」と油性マーカーで書かれた値札を貼り付け、ゼロの数を数えてみると1103兆3543億円ということらしかった。
「確かに絶対誰も買いませんけど、ちょっと極端すぎるような……」
「いえ、鳴海のやり方にも意義はありますわ。アンカリング効果といって、人は最初に極端に大きい数字を見せられるとそれ以外の数字は小さく見えるものです。このおもちゃを一番目立つ所に置けば他の商品がどんどん売れますわよ!!」
「せやせや、グルグルゲームで一石二鳥や!!」
「これなら私の消しゴム10個も300円で売れるよ! のみの市で大儲け大儲け!!」
「ええ……」
先輩方はなるみ先輩のやり方に賛同して勝手に盛り上がり始め、私はこれで大丈夫なのだろうかと思った。
そうこうしているうちにフリーマーケットは始まり、中学校校舎の正門の方から見覚えのある親子が歩いてきた。
「皆さんこんにちは、千代田区議会議員の村田舫です。今日は一市民として参りました」
「まなおねえちゃんこんにちは。てにすぶはなにをうってるの?」
「こんにちは、蓮くんも来てくれたんだね。あんまり蓮くんが喜びそうなものはないですけど……」
「せやで! 特にこのぼくのいえグルグルゲームは絶対買ったらあかんで!!」
中高のフリーマーケットに興味津々の6歳児である村田蓮くんになるみ先輩は警戒心を隠さず、よせばいいのにぼくのいえグルグルゲームを指さして警告した。
「おかあさん、ぼくこれほしい! でも、いちいちぜろさんさんご……よくわからないけどかえないよー!」
「へっへっへっ、ボク、大人の世界を甘うみたらあかんで。世の中には欲うても手に入らへんものもあんねん」
「なるみ先輩、流石に大人げないですよ……」
ぼくのいえグルグルゲームの値札を読んで涙目になっている蓮くんを見てなるみ先輩は邪悪な笑みを浮かべており、これは流石にひどいと思った。
「これ、単位は無関係で1104兆あればいいんですよね。ちょうど100兆ジンバブエドルを30枚持ってきてますから、12枚で売ってくださいますね? お釣りは要りませんので」
「ファッ!?」
「よかったわねえ蓮、今からゲーム研究部のフリーマーケットも見に行きましょうね」
「ありがとうおかあさん! ぼくよんてんどーのむかしのげーむほしい!!」
蓮くんの母である舫さんはブルーシートの上に100兆ジンバブエドル12枚を置き、あっさり購入したぼくのいえグルグルゲームを抱えて去っていった。
「う、うちのグルグルゲームがぁぁぁ……」
「いいから他の商品売りますわよ。旗子、そこの消しゴム10個は100円に直しておきなさい」
「がってんだー!」
目の前に残されたハイパーインフレ紙幣を見て号泣しているなるみ先輩を見て、私は世の中上には上がいるものだと思った。
(続く)
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天使の隣
鉄紺忍者
大衆娯楽
人間の意思に反応する『フットギア』という特殊なシューズで走る新世代・駅伝SFストーリー!レース前、主人公・栗原楓は憧れの神宮寺エリカから突然声をかけられた。慌てふためく楓だったが、実は2人にはとある共通点があって……?
みなとみらいと八景島を結ぶ絶景のコースを、7人の女子大生ランナーが駆け抜ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる