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第4部 天然女子高生のための大そーかつ
第116話 ハイパーインフレ
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「これが今回の売り物ですの? 正直言ってどれもガラクタみたいな感じですわね」
「私は使いさしの消しゴム10個を100円で売るよ! 手間賃の方がかかりそうだけどこれもSDGsの一環だよ!!」
「私も昔遊んでたおもちゃぐらいしか持ってこれなかったんです。昔のアニメのマイナーなグッズですし買う人いなさそうですけど……」
マルクス中高では学外の人も交えたイベントとして定期的にフリーマーケットを開催しており、今回は生徒が団体として参加すれば1人につき図書カード500円分を貰えるということで硬式テニス部も部活として参加を申請していた。
2年生の堀江有紀先輩はかつて会社経営者だったお父さんの昔の仕事仲間から貰った食器や小物を、同じく2年生の赤城旗子先輩はあまり使われていなさそうな使いさしの筆記用具を出品物として持参しており、私は小学校低学年の頃に遊んでいたおもちゃを自宅のタンスから引っ張り出して持ってきていた。
「まなちゃん……このおもちゃどうやって遊ぶん? 何かすごい面白そうやねんけど」
「ぼくのいえグルグルゲームですか? 真ん中の支柱から伸びてるアームに付いてるお皿にバランスよくブロックを置いて、重量でグルグル回すだけのおもちゃですけど……」
私が持ってきたおもちゃは「ぼくのいえグルグルゲーム」という名前で、これは今から15年ほど前に放映されていた『ぼくのいえ』という日常系アニメを題材にしたグッズだった。
元々商品化できる題材がほぼないアニメのグッズだけあって作りは雑であり、当時の私はよくこんなものを定価6480円も出して買って貰ったものだと思っていたが、2年生の平塚鳴海先輩はぼくのいえグルグルゲームを見て目を輝かせていた。
「なあなあまなちゃん、このおもちゃって誰も買わへんかったらうちが持って帰ってもええか? 元々要らへんのやろ?」
「全然いいですし、多分誰も買わないので大丈夫だと思いますよ。値段を500円ぐらいにしたら別かもですけど……」
「そらあかん、やったらうちが値段決めるわ! ほれ、この値段なら誰も買わへんやろ!!」
なるみ先輩はそう言うとぼくのいえグルグルゲームに「1103354300000000」と油性マーカーで書かれた値札を貼り付け、ゼロの数を数えてみると1103兆3543億円ということらしかった。
「確かに絶対誰も買いませんけど、ちょっと極端すぎるような……」
「いえ、鳴海のやり方にも意義はありますわ。アンカリング効果といって、人は最初に極端に大きい数字を見せられるとそれ以外の数字は小さく見えるものです。このおもちゃを一番目立つ所に置けば他の商品がどんどん売れますわよ!!」
「せやせや、グルグルゲームで一石二鳥や!!」
「これなら私の消しゴム10個も300円で売れるよ! のみの市で大儲け大儲け!!」
「ええ……」
先輩方はなるみ先輩のやり方に賛同して勝手に盛り上がり始め、私はこれで大丈夫なのだろうかと思った。
そうこうしているうちにフリーマーケットは始まり、中学校校舎の正門の方から見覚えのある親子が歩いてきた。
「皆さんこんにちは、千代田区議会議員の村田舫です。今日は一市民として参りました」
「まなおねえちゃんこんにちは。てにすぶはなにをうってるの?」
「こんにちは、蓮くんも来てくれたんだね。あんまり蓮くんが喜びそうなものはないですけど……」
「せやで! 特にこのぼくのいえグルグルゲームは絶対買ったらあかんで!!」
中高のフリーマーケットに興味津々の6歳児である村田蓮くんになるみ先輩は警戒心を隠さず、よせばいいのにぼくのいえグルグルゲームを指さして警告した。
「おかあさん、ぼくこれほしい! でも、いちいちぜろさんさんご……よくわからないけどかえないよー!」
「へっへっへっ、ボク、大人の世界を甘うみたらあかんで。世の中には欲うても手に入らへんものもあんねん」
「なるみ先輩、流石に大人げないですよ……」
ぼくのいえグルグルゲームの値札を読んで涙目になっている蓮くんを見てなるみ先輩は邪悪な笑みを浮かべており、これは流石にひどいと思った。
「これ、単位は無関係で1104兆あればいいんですよね。ちょうど100兆ジンバブエドルを30枚持ってきてますから、12枚で売ってくださいますね? お釣りは要りませんので」
「ファッ!?」
「よかったわねえ蓮、今からゲーム研究部のフリーマーケットも見に行きましょうね」
「ありがとうおかあさん! ぼくよんてんどーのむかしのげーむほしい!!」
蓮くんの母である舫さんはブルーシートの上に100兆ジンバブエドル12枚を置き、あっさり購入したぼくのいえグルグルゲームを抱えて去っていった。
「う、うちのグルグルゲームがぁぁぁ……」
「いいから他の商品売りますわよ。旗子、そこの消しゴム10個は100円に直しておきなさい」
「がってんだー!」
目の前に残されたハイパーインフレ紙幣を見て号泣しているなるみ先輩を見て、私は世の中上には上がいるものだと思った。
(続く)
「これが今回の売り物ですの? 正直言ってどれもガラクタみたいな感じですわね」
「私は使いさしの消しゴム10個を100円で売るよ! 手間賃の方がかかりそうだけどこれもSDGsの一環だよ!!」
「私も昔遊んでたおもちゃぐらいしか持ってこれなかったんです。昔のアニメのマイナーなグッズですし買う人いなさそうですけど……」
マルクス中高では学外の人も交えたイベントとして定期的にフリーマーケットを開催しており、今回は生徒が団体として参加すれば1人につき図書カード500円分を貰えるということで硬式テニス部も部活として参加を申請していた。
2年生の堀江有紀先輩はかつて会社経営者だったお父さんの昔の仕事仲間から貰った食器や小物を、同じく2年生の赤城旗子先輩はあまり使われていなさそうな使いさしの筆記用具を出品物として持参しており、私は小学校低学年の頃に遊んでいたおもちゃを自宅のタンスから引っ張り出して持ってきていた。
「まなちゃん……このおもちゃどうやって遊ぶん? 何かすごい面白そうやねんけど」
「ぼくのいえグルグルゲームですか? 真ん中の支柱から伸びてるアームに付いてるお皿にバランスよくブロックを置いて、重量でグルグル回すだけのおもちゃですけど……」
私が持ってきたおもちゃは「ぼくのいえグルグルゲーム」という名前で、これは今から15年ほど前に放映されていた『ぼくのいえ』という日常系アニメを題材にしたグッズだった。
元々商品化できる題材がほぼないアニメのグッズだけあって作りは雑であり、当時の私はよくこんなものを定価6480円も出して買って貰ったものだと思っていたが、2年生の平塚鳴海先輩はぼくのいえグルグルゲームを見て目を輝かせていた。
「なあなあまなちゃん、このおもちゃって誰も買わへんかったらうちが持って帰ってもええか? 元々要らへんのやろ?」
「全然いいですし、多分誰も買わないので大丈夫だと思いますよ。値段を500円ぐらいにしたら別かもですけど……」
「そらあかん、やったらうちが値段決めるわ! ほれ、この値段なら誰も買わへんやろ!!」
なるみ先輩はそう言うとぼくのいえグルグルゲームに「1103354300000000」と油性マーカーで書かれた値札を貼り付け、ゼロの数を数えてみると1103兆3543億円ということらしかった。
「確かに絶対誰も買いませんけど、ちょっと極端すぎるような……」
「いえ、鳴海のやり方にも意義はありますわ。アンカリング効果といって、人は最初に極端に大きい数字を見せられるとそれ以外の数字は小さく見えるものです。このおもちゃを一番目立つ所に置けば他の商品がどんどん売れますわよ!!」
「せやせや、グルグルゲームで一石二鳥や!!」
「これなら私の消しゴム10個も300円で売れるよ! のみの市で大儲け大儲け!!」
「ええ……」
先輩方はなるみ先輩のやり方に賛同して勝手に盛り上がり始め、私はこれで大丈夫なのだろうかと思った。
そうこうしているうちにフリーマーケットは始まり、中学校校舎の正門の方から見覚えのある親子が歩いてきた。
「皆さんこんにちは、千代田区議会議員の村田舫です。今日は一市民として参りました」
「まなおねえちゃんこんにちは。てにすぶはなにをうってるの?」
「こんにちは、蓮くんも来てくれたんだね。あんまり蓮くんが喜びそうなものはないですけど……」
「せやで! 特にこのぼくのいえグルグルゲームは絶対買ったらあかんで!!」
中高のフリーマーケットに興味津々の6歳児である村田蓮くんになるみ先輩は警戒心を隠さず、よせばいいのにぼくのいえグルグルゲームを指さして警告した。
「おかあさん、ぼくこれほしい! でも、いちいちぜろさんさんご……よくわからないけどかえないよー!」
「へっへっへっ、ボク、大人の世界を甘うみたらあかんで。世の中には欲うても手に入らへんものもあんねん」
「なるみ先輩、流石に大人げないですよ……」
ぼくのいえグルグルゲームの値札を読んで涙目になっている蓮くんを見てなるみ先輩は邪悪な笑みを浮かべており、これは流石にひどいと思った。
「これ、単位は無関係で1104兆あればいいんですよね。ちょうど100兆ジンバブエドルを30枚持ってきてますから、12枚で売ってくださいますね? お釣りは要りませんので」
「ファッ!?」
「よかったわねえ蓮、今からゲーム研究部のフリーマーケットも見に行きましょうね」
「ありがとうおかあさん! ぼくよんてんどーのむかしのげーむほしい!!」
蓮くんの母である舫さんはブルーシートの上に100兆ジンバブエドル12枚を置き、あっさり購入したぼくのいえグルグルゲームを抱えて去っていった。
「う、うちのグルグルゲームがぁぁぁ……」
「いいから他の商品売りますわよ。旗子、そこの消しゴム10個は100円に直しておきなさい」
「がってんだー!」
目の前に残されたハイパーインフレ紙幣を見て号泣しているなるみ先輩を見て、私は世の中上には上がいるものだと思った。
(続く)
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