121 / 181
第4部 天然女子高生のための大そーかつ
第109話 イラスト生成AI
しおりを挟む
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。
「これが系列校の共産大学が開発したイラスト生成ロボットなのですよ。といっても中身はAIを搭載した印刷機に過ぎないのですけどね」
「へえー、でも漫研まで持ってくるってことは実用化できてるんでしょ? どんな絵を描いてくれるのかな」
ある日の放課後、私、野掘真奈は普段は全く用事がない漫画研究会の部室でタヌキとも猫ともつかない姿をしたロボットを見ていた。
柔道部員にしてプログラミングの心得がある同じクラスの国靖まひるさんは今朝から学校に空気清浄機ぐらいのサイズのロボットを持ち込んでいて、放課後にロボットを台車で運搬し始めた国靖さんに付いていったところ向かった先が漫研だったという経緯で私はここに来ていた。
「このロボットは人工知能でイラストを描いてくれるってことですけど、そんなこと本当にできるんですか? 私が知ってるAIイラストは腕が変な所から生えてる美少女の絵ぐらいなんですけど」
漫研の唯一の女子部員なので当然ここにいる宝来遵さんは訝しげな表情でロボットを見ていて、以前から絵を描くのが趣味の人なのでAIによる作画には好感が持てないようだった。
「数年前まではそういうレベルでしたが、今は中々すごいのですよ。このロボット『タヌえもん』に搭載されたAI『Tanukki』には数百人以上ものイラストレーターの絵が事前にインプットされていて、大量のイラストをディープラーニングすることでテーマと画風を指定すれば大体どんな絵でも描いてくれるのです。野掘さん、何か見てみたいイラストはありませんか?」
「うーん、じゃあ幼児向けのスーパーヒーローはどうかな? お隣さんの子供に見せてあげたくて」
「分かりました。ええと、テーマはスーパーヒーロー、画風はキッズ……ありました、すぐ出てきますよ」
国靖さんが画面をタッチして操作すると「タヌえもん」の印刷装置からはすぐにA4用紙が出てきて、そこには朝の幼児向け番組に出てきそうな丸っこいヒーローが描かれていた。
「へえー、すっごい。このままでもアニメに使えそうなクオリティだね」
「確かにすごいですけど……こんなの私は認めません! イラストっていうのは自分が見てみたいものを具現化するから魅力が生まれるのであって、テーマと画風を決めたら自動的に出てくるのなんてイラストじゃありません! こんなのにイラストレーターの仕事が奪われるのは許せないのであります!!」
「お気持ちは分かりますが、タヌえもんのようなロボットはイラストレーターの人々の仕事を奪うためにあるのではなく、イラストという文化をより高度化するためにあるのですよ? 囲碁や将棋の世界では既にAI相手の練習で上達するやり方が一般的ですし。とはいえAIのイラストにも個性があるべきという考え方には一理ありますね……」
国靖さんは今回共産大学の知人に頼まれて意見募集のためにタヌえもんを漫研まで持ってきたらしく、宝来さんに当事者の視点から意見をくれたことへのお礼を述べるとタヌえもんを再び台車に載せて去っていった。
その数か月後、国靖さんはタヌえもんを改良した新型ロボットを学校に持ってきて、今回は事前に漫研部室に運び入れてあるということで私は再び見学に招待されていた。
「新型ロボットは『タヌ助』という名前で、自立移動こそできませんが会話ができて自らが見てみたいと思うイラストを描くようなAIが搭載されています。今頃宝来さんと交流しているはずですよ」
「それは面白そう。お邪魔しまーす……」
国靖さんと並んで歩きつつ漫研部室の前までたどり着き、私は入り口のドアを開けた。
「だーかーらー、私はセクシーな大人の女性を描いてって言ってるじゃないですか! こんなメカメカしいサイボーグを描けとは誰も言ってないのであります!!」
『その言葉は心外ナリ、拙者はセクシーな大人の女性を描いているつもりナリ! この双眼式バイザーと背部スラスターのどこがセクシーじゃないのか教えて欲しいナリ! 大体ニンゲンのようなグロテスクな有機物のイラストなど誰も喜ばないナリ!!』
ロボットの観点に基づいた美しい女性のイラストを量産している「タヌ助」を見て、私はシンギュラリティって本当に実現するのかなあと思った。
(続く)
「これが系列校の共産大学が開発したイラスト生成ロボットなのですよ。といっても中身はAIを搭載した印刷機に過ぎないのですけどね」
「へえー、でも漫研まで持ってくるってことは実用化できてるんでしょ? どんな絵を描いてくれるのかな」
ある日の放課後、私、野掘真奈は普段は全く用事がない漫画研究会の部室でタヌキとも猫ともつかない姿をしたロボットを見ていた。
柔道部員にしてプログラミングの心得がある同じクラスの国靖まひるさんは今朝から学校に空気清浄機ぐらいのサイズのロボットを持ち込んでいて、放課後にロボットを台車で運搬し始めた国靖さんに付いていったところ向かった先が漫研だったという経緯で私はここに来ていた。
「このロボットは人工知能でイラストを描いてくれるってことですけど、そんなこと本当にできるんですか? 私が知ってるAIイラストは腕が変な所から生えてる美少女の絵ぐらいなんですけど」
漫研の唯一の女子部員なので当然ここにいる宝来遵さんは訝しげな表情でロボットを見ていて、以前から絵を描くのが趣味の人なのでAIによる作画には好感が持てないようだった。
「数年前まではそういうレベルでしたが、今は中々すごいのですよ。このロボット『タヌえもん』に搭載されたAI『Tanukki』には数百人以上ものイラストレーターの絵が事前にインプットされていて、大量のイラストをディープラーニングすることでテーマと画風を指定すれば大体どんな絵でも描いてくれるのです。野掘さん、何か見てみたいイラストはありませんか?」
「うーん、じゃあ幼児向けのスーパーヒーローはどうかな? お隣さんの子供に見せてあげたくて」
「分かりました。ええと、テーマはスーパーヒーロー、画風はキッズ……ありました、すぐ出てきますよ」
国靖さんが画面をタッチして操作すると「タヌえもん」の印刷装置からはすぐにA4用紙が出てきて、そこには朝の幼児向け番組に出てきそうな丸っこいヒーローが描かれていた。
「へえー、すっごい。このままでもアニメに使えそうなクオリティだね」
「確かにすごいですけど……こんなの私は認めません! イラストっていうのは自分が見てみたいものを具現化するから魅力が生まれるのであって、テーマと画風を決めたら自動的に出てくるのなんてイラストじゃありません! こんなのにイラストレーターの仕事が奪われるのは許せないのであります!!」
「お気持ちは分かりますが、タヌえもんのようなロボットはイラストレーターの人々の仕事を奪うためにあるのではなく、イラストという文化をより高度化するためにあるのですよ? 囲碁や将棋の世界では既にAI相手の練習で上達するやり方が一般的ですし。とはいえAIのイラストにも個性があるべきという考え方には一理ありますね……」
国靖さんは今回共産大学の知人に頼まれて意見募集のためにタヌえもんを漫研まで持ってきたらしく、宝来さんに当事者の視点から意見をくれたことへのお礼を述べるとタヌえもんを再び台車に載せて去っていった。
その数か月後、国靖さんはタヌえもんを改良した新型ロボットを学校に持ってきて、今回は事前に漫研部室に運び入れてあるということで私は再び見学に招待されていた。
「新型ロボットは『タヌ助』という名前で、自立移動こそできませんが会話ができて自らが見てみたいと思うイラストを描くようなAIが搭載されています。今頃宝来さんと交流しているはずですよ」
「それは面白そう。お邪魔しまーす……」
国靖さんと並んで歩きつつ漫研部室の前までたどり着き、私は入り口のドアを開けた。
「だーかーらー、私はセクシーな大人の女性を描いてって言ってるじゃないですか! こんなメカメカしいサイボーグを描けとは誰も言ってないのであります!!」
『その言葉は心外ナリ、拙者はセクシーな大人の女性を描いているつもりナリ! この双眼式バイザーと背部スラスターのどこがセクシーじゃないのか教えて欲しいナリ! 大体ニンゲンのようなグロテスクな有機物のイラストなど誰も喜ばないナリ!!』
ロボットの観点に基づいた美しい女性のイラストを量産している「タヌ助」を見て、私はシンギュラリティって本当に実現するのかなあと思った。
(続く)
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最近の女子高生は思想が強い ~雇用・利子および女子高生の一般りろん~
輪島ライ
大衆娯楽
東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には寛容の精神と資本主義思想が教え込まれている。
社会派ドタバタポリティカルコメディ、ここでも開幕!!
※この作品は「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※これは架空の物語です。過去、あるいは現在において、たまたま実在する人物、出来事と類似していても、それは偶然に過ぎません。
※姉妹作「天然女子高生のためのそーかつ」を並行連載中です。(内容に一部重複があります)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!
コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。
性差とは何か?
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる