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第4部 天然女子高生のための大そーかつ
第109話 イラスト生成AI
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。
「これが系列校の共産大学が開発したイラスト生成ロボットなのですよ。といっても中身はAIを搭載した印刷機に過ぎないのですけどね」
「へえー、でも漫研まで持ってくるってことは実用化できてるんでしょ? どんな絵を描いてくれるのかな」
ある日の放課後、私、野掘真奈は普段は全く用事がない漫画研究会の部室でタヌキとも猫ともつかない姿をしたロボットを見ていた。
柔道部員にしてプログラミングの心得がある同じクラスの国靖まひるさんは今朝から学校に空気清浄機ぐらいのサイズのロボットを持ち込んでいて、放課後にロボットを台車で運搬し始めた国靖さんに付いていったところ向かった先が漫研だったという経緯で私はここに来ていた。
「このロボットは人工知能でイラストを描いてくれるってことですけど、そんなこと本当にできるんですか? 私が知ってるAIイラストは腕が変な所から生えてる美少女の絵ぐらいなんですけど」
漫研の唯一の女子部員なので当然ここにいる宝来遵さんは訝しげな表情でロボットを見ていて、以前から絵を描くのが趣味の人なのでAIによる作画には好感が持てないようだった。
「数年前まではそういうレベルでしたが、今は中々すごいのですよ。このロボット『タヌえもん』に搭載されたAI『Tanukki』には数百人以上ものイラストレーターの絵が事前にインプットされていて、大量のイラストをディープラーニングすることでテーマと画風を指定すれば大体どんな絵でも描いてくれるのです。野掘さん、何か見てみたいイラストはありませんか?」
「うーん、じゃあ幼児向けのスーパーヒーローはどうかな? お隣さんの子供に見せてあげたくて」
「分かりました。ええと、テーマはスーパーヒーロー、画風はキッズ……ありました、すぐ出てきますよ」
国靖さんが画面をタッチして操作すると「タヌえもん」の印刷装置からはすぐにA4用紙が出てきて、そこには朝の幼児向け番組に出てきそうな丸っこいヒーローが描かれていた。
「へえー、すっごい。このままでもアニメに使えそうなクオリティだね」
「確かにすごいですけど……こんなの私は認めません! イラストっていうのは自分が見てみたいものを具現化するから魅力が生まれるのであって、テーマと画風を決めたら自動的に出てくるのなんてイラストじゃありません! こんなのにイラストレーターの仕事が奪われるのは許せないのであります!!」
「お気持ちは分かりますが、タヌえもんのようなロボットはイラストレーターの人々の仕事を奪うためにあるのではなく、イラストという文化をより高度化するためにあるのですよ? 囲碁や将棋の世界では既にAI相手の練習で上達するやり方が一般的ですし。とはいえAIのイラストにも個性があるべきという考え方には一理ありますね……」
国靖さんは今回共産大学の知人に頼まれて意見募集のためにタヌえもんを漫研まで持ってきたらしく、宝来さんに当事者の視点から意見をくれたことへのお礼を述べるとタヌえもんを再び台車に載せて去っていった。
その数か月後、国靖さんはタヌえもんを改良した新型ロボットを学校に持ってきて、今回は事前に漫研部室に運び入れてあるということで私は再び見学に招待されていた。
「新型ロボットは『タヌ助』という名前で、自立移動こそできませんが会話ができて自らが見てみたいと思うイラストを描くようなAIが搭載されています。今頃宝来さんと交流しているはずですよ」
「それは面白そう。お邪魔しまーす……」
国靖さんと並んで歩きつつ漫研部室の前までたどり着き、私は入り口のドアを開けた。
「だーかーらー、私はセクシーな大人の女性を描いてって言ってるじゃないですか! こんなメカメカしいサイボーグを描けとは誰も言ってないのであります!!」
『その言葉は心外ナリ、拙者はセクシーな大人の女性を描いているつもりナリ! この双眼式バイザーと背部スラスターのどこがセクシーじゃないのか教えて欲しいナリ! 大体ニンゲンのようなグロテスクな有機物のイラストなど誰も喜ばないナリ!!』
ロボットの観点に基づいた美しい女性のイラストを量産している「タヌ助」を見て、私はシンギュラリティって本当に実現するのかなあと思った。
(続く)
「これが系列校の共産大学が開発したイラスト生成ロボットなのですよ。といっても中身はAIを搭載した印刷機に過ぎないのですけどね」
「へえー、でも漫研まで持ってくるってことは実用化できてるんでしょ? どんな絵を描いてくれるのかな」
ある日の放課後、私、野掘真奈は普段は全く用事がない漫画研究会の部室でタヌキとも猫ともつかない姿をしたロボットを見ていた。
柔道部員にしてプログラミングの心得がある同じクラスの国靖まひるさんは今朝から学校に空気清浄機ぐらいのサイズのロボットを持ち込んでいて、放課後にロボットを台車で運搬し始めた国靖さんに付いていったところ向かった先が漫研だったという経緯で私はここに来ていた。
「このロボットは人工知能でイラストを描いてくれるってことですけど、そんなこと本当にできるんですか? 私が知ってるAIイラストは腕が変な所から生えてる美少女の絵ぐらいなんですけど」
漫研の唯一の女子部員なので当然ここにいる宝来遵さんは訝しげな表情でロボットを見ていて、以前から絵を描くのが趣味の人なのでAIによる作画には好感が持てないようだった。
「数年前まではそういうレベルでしたが、今は中々すごいのですよ。このロボット『タヌえもん』に搭載されたAI『Tanukki』には数百人以上ものイラストレーターの絵が事前にインプットされていて、大量のイラストをディープラーニングすることでテーマと画風を指定すれば大体どんな絵でも描いてくれるのです。野掘さん、何か見てみたいイラストはありませんか?」
「うーん、じゃあ幼児向けのスーパーヒーローはどうかな? お隣さんの子供に見せてあげたくて」
「分かりました。ええと、テーマはスーパーヒーロー、画風はキッズ……ありました、すぐ出てきますよ」
国靖さんが画面をタッチして操作すると「タヌえもん」の印刷装置からはすぐにA4用紙が出てきて、そこには朝の幼児向け番組に出てきそうな丸っこいヒーローが描かれていた。
「へえー、すっごい。このままでもアニメに使えそうなクオリティだね」
「確かにすごいですけど……こんなの私は認めません! イラストっていうのは自分が見てみたいものを具現化するから魅力が生まれるのであって、テーマと画風を決めたら自動的に出てくるのなんてイラストじゃありません! こんなのにイラストレーターの仕事が奪われるのは許せないのであります!!」
「お気持ちは分かりますが、タヌえもんのようなロボットはイラストレーターの人々の仕事を奪うためにあるのではなく、イラストという文化をより高度化するためにあるのですよ? 囲碁や将棋の世界では既にAI相手の練習で上達するやり方が一般的ですし。とはいえAIのイラストにも個性があるべきという考え方には一理ありますね……」
国靖さんは今回共産大学の知人に頼まれて意見募集のためにタヌえもんを漫研まで持ってきたらしく、宝来さんに当事者の視点から意見をくれたことへのお礼を述べるとタヌえもんを再び台車に載せて去っていった。
その数か月後、国靖さんはタヌえもんを改良した新型ロボットを学校に持ってきて、今回は事前に漫研部室に運び入れてあるということで私は再び見学に招待されていた。
「新型ロボットは『タヌ助』という名前で、自立移動こそできませんが会話ができて自らが見てみたいと思うイラストを描くようなAIが搭載されています。今頃宝来さんと交流しているはずですよ」
「それは面白そう。お邪魔しまーす……」
国靖さんと並んで歩きつつ漫研部室の前までたどり着き、私は入り口のドアを開けた。
「だーかーらー、私はセクシーな大人の女性を描いてって言ってるじゃないですか! こんなメカメカしいサイボーグを描けとは誰も言ってないのであります!!」
『その言葉は心外ナリ、拙者はセクシーな大人の女性を描いているつもりナリ! この双眼式バイザーと背部スラスターのどこがセクシーじゃないのか教えて欲しいナリ! 大体ニンゲンのようなグロテスクな有機物のイラストなど誰も喜ばないナリ!!』
ロボットの観点に基づいた美しい女性のイラストを量産している「タヌ助」を見て、私はシンギュラリティって本当に実現するのかなあと思った。
(続く)
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