110 / 181
第4部 天然女子高生のための大そーかつ
第98話 クラウドファンディング
しおりを挟む
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
ある日の硬式テニス部の練習後。寄り道の都合で堀江有紀先輩と一緒に帰っていた私は住職見習いで同じクラスの男友達である円城寺網人君が僧衣を着て路上に立っているのを見かけた。
「お疲れ、円城寺君。実家のお寺の衣装みたいだけど、これって何かのお仕事?」
「そのお椀、小銭が入っていますのね。人々から寄付されたものかしら?」
「これはこれは野掘殿と堀江先輩。今時の若い人にはなじみがなさそうですが、これは托鉢と言いまして、僧侶が道行く人から喜捨を頂く形式の修行なのです。小銭を受け取る僧侶と小銭を投じる道行く人がともに利他の心を養うという意味があるのですよ」
托鉢という言葉は聞いたことがなかったが日本の仏教が自利(自分が利益を得ること)よりも利他(他人に利益を与えること)を重視しているという話は倫理の授業で習っていたので、この修行もその一環だということは分かった。
「面白い風習ですけど、お金を払ってそれで終わりというのではありがたみがありませんわね。何かお礼は頂けますの?」
「托鉢のしきたりとして、喜捨を頂いた僧侶は心中で感謝しつつもそれを形にしてはならないということがありまして。相手に見返りを求めないのが利他の精神ではあるのですが、そのせいで最近はあまり喜捨を頂けませんね」
「な、なるほど……」
あくまで修行なのでお金が欲しくてやっている行為ではないものの、円城寺君が手にしているお椀には1円玉と5円玉が数枚しか入っておらず、流石にこれでは寂しい気がした。
「それならそれで、わたくしにいい考えがありますわ。クラウドファンディングの理念を応用したやり方で数万円や数十万円が集まる可能性がありますから、今度一緒に托鉢をしてみませんこと?」
「本当ですか? 頂いた喜捨は寺院の運営資金となりますので、しきたりから逸脱せずに大金を頂ければ大変ありがたく存じます。では後ほどめっせーじを送りますね」
ゆき先輩は円城寺君に托鉢の新たなやり方を提案しようとしており、私は一体どうするつもりなのだろうと不思議に思った。
その数日後、私は円城寺君からメッセージで高校近くの街頭に呼び出された。
「あっ、円城寺君。と、ゆき先輩……」
「私ども恩良院は本日より2人で托鉢を行います! 喜捨を頂ける方は私めかこちらの女性のどちらかのお椀に小銭をお入れください」
ゆき先輩はサイズが大きすぎてゆるゆるのドレスを身にまとっており、ドレスの下部にはお椀をいくつも括りつけていた。
「いかがかしら? この下はレオタード姿でして、お金が入れば入るほどドレスが下に落ちていきますのよ」
「おっ、美人のドレスが脱げかけてるぞ! 今からそこの自販機で小銭を崩そうぜ!!」
通りがかった若い男性たちは次々に小銭を持ってくるとゆき先輩のドレスに付いているお椀に投げ入れ、ドレスはみるみるうちにずり落ちていく。
「野掘殿、どれすが脱げてもこれは自然現象ですので感謝を形にしたことにはならないのです! 堀江先輩は素晴らしい托鉢のやり方をご考案なされました!!」
「は、ははは……」
「あーれー、お金が入りすぎてドレスが脱げてしまいますわー!!」
「おおっ、やっとレオタード姿を見れるぞ! 皆集まれ集まれ!!」
お椀に入った大量の小銭の重みで、ゆき先輩が身にまとっているドレスはついに地面へとずり落ちていき……
「そういえば、あと2枚ドレスを重ね着していましたわ。もっと小銭が貯まればこのドレスも脱げるかもしれませんわ!!」
「ここまで来たら最後まで付き合うぞ! 皆、どんどん小銭を崩すんだー!!」
「風俗営業法違反で逮捕する!!」
「なっ、私どもはあくまで利他の精神に則ってぬわあああああああぁぁぁぁ」
通行人からさらに小銭を搾取しようとしていた円城寺君とゆき先輩は通りがかったお巡りさんに連行されていき、私は残された大量の小銭をとりあえず交番に届けたのだった。
(続く)
ある日の硬式テニス部の練習後。寄り道の都合で堀江有紀先輩と一緒に帰っていた私は住職見習いで同じクラスの男友達である円城寺網人君が僧衣を着て路上に立っているのを見かけた。
「お疲れ、円城寺君。実家のお寺の衣装みたいだけど、これって何かのお仕事?」
「そのお椀、小銭が入っていますのね。人々から寄付されたものかしら?」
「これはこれは野掘殿と堀江先輩。今時の若い人にはなじみがなさそうですが、これは托鉢と言いまして、僧侶が道行く人から喜捨を頂く形式の修行なのです。小銭を受け取る僧侶と小銭を投じる道行く人がともに利他の心を養うという意味があるのですよ」
托鉢という言葉は聞いたことがなかったが日本の仏教が自利(自分が利益を得ること)よりも利他(他人に利益を与えること)を重視しているという話は倫理の授業で習っていたので、この修行もその一環だということは分かった。
「面白い風習ですけど、お金を払ってそれで終わりというのではありがたみがありませんわね。何かお礼は頂けますの?」
「托鉢のしきたりとして、喜捨を頂いた僧侶は心中で感謝しつつもそれを形にしてはならないということがありまして。相手に見返りを求めないのが利他の精神ではあるのですが、そのせいで最近はあまり喜捨を頂けませんね」
「な、なるほど……」
あくまで修行なのでお金が欲しくてやっている行為ではないものの、円城寺君が手にしているお椀には1円玉と5円玉が数枚しか入っておらず、流石にこれでは寂しい気がした。
「それならそれで、わたくしにいい考えがありますわ。クラウドファンディングの理念を応用したやり方で数万円や数十万円が集まる可能性がありますから、今度一緒に托鉢をしてみませんこと?」
「本当ですか? 頂いた喜捨は寺院の運営資金となりますので、しきたりから逸脱せずに大金を頂ければ大変ありがたく存じます。では後ほどめっせーじを送りますね」
ゆき先輩は円城寺君に托鉢の新たなやり方を提案しようとしており、私は一体どうするつもりなのだろうと不思議に思った。
その数日後、私は円城寺君からメッセージで高校近くの街頭に呼び出された。
「あっ、円城寺君。と、ゆき先輩……」
「私ども恩良院は本日より2人で托鉢を行います! 喜捨を頂ける方は私めかこちらの女性のどちらかのお椀に小銭をお入れください」
ゆき先輩はサイズが大きすぎてゆるゆるのドレスを身にまとっており、ドレスの下部にはお椀をいくつも括りつけていた。
「いかがかしら? この下はレオタード姿でして、お金が入れば入るほどドレスが下に落ちていきますのよ」
「おっ、美人のドレスが脱げかけてるぞ! 今からそこの自販機で小銭を崩そうぜ!!」
通りがかった若い男性たちは次々に小銭を持ってくるとゆき先輩のドレスに付いているお椀に投げ入れ、ドレスはみるみるうちにずり落ちていく。
「野掘殿、どれすが脱げてもこれは自然現象ですので感謝を形にしたことにはならないのです! 堀江先輩は素晴らしい托鉢のやり方をご考案なされました!!」
「は、ははは……」
「あーれー、お金が入りすぎてドレスが脱げてしまいますわー!!」
「おおっ、やっとレオタード姿を見れるぞ! 皆集まれ集まれ!!」
お椀に入った大量の小銭の重みで、ゆき先輩が身にまとっているドレスはついに地面へとずり落ちていき……
「そういえば、あと2枚ドレスを重ね着していましたわ。もっと小銭が貯まればこのドレスも脱げるかもしれませんわ!!」
「ここまで来たら最後まで付き合うぞ! 皆、どんどん小銭を崩すんだー!!」
「風俗営業法違反で逮捕する!!」
「なっ、私どもはあくまで利他の精神に則ってぬわあああああああぁぁぁぁ」
通行人からさらに小銭を搾取しようとしていた円城寺君とゆき先輩は通りがかったお巡りさんに連行されていき、私は残された大量の小銭をとりあえず交番に届けたのだった。
(続く)
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最近の女子高生は思想が強い ~雇用・利子および女子高生の一般りろん~
輪島ライ
大衆娯楽
東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には寛容の精神と資本主義思想が教え込まれている。
社会派ドタバタポリティカルコメディ、ここでも開幕!!
※この作品は「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※これは架空の物語です。過去、あるいは現在において、たまたま実在する人物、出来事と類似していても、それは偶然に過ぎません。
※姉妹作「天然女子高生のためのそーかつ」を並行連載中です。(内容に一部重複があります)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!
コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。
性差とは何か?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる