109 / 181
第4部 天然女子高生のための大そーかつ
第97話 ロジカルハラスメント
しおりを挟む
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。
ある日の放課後。硬式テニス部の練習がない日なので直帰しようとしていた私、野掘真奈は書道部所属の2年生である金原真希先輩が小型犬を連れて廊下を歩いている姿を見かけた。
「お疲れ様です先輩。よく見たらおもちゃの犬みたいですけど、家から持ち込まれたんですか?」
「あら野掘さん。この前深夜の通販番組で偶然見かけて、面白そうだから買ってみたの。税抜で9800円もしたのよ」
「9800円? 中々お高いですね。というと何か便利な機能があるんですか?」
「ええ、もちろん。この愛くるしい愛犬ロボ『ひろ』は、リモコンのこのボタンを押すと……あ、ごめんなさい。何か質問してみてくれる?」
「分かりました。えーと、ひろ君は何歳なのかな?」
『薄学で申し訳ないんですけど、機械に年齢っていう概念あるんですか?』
「うわっ喋った!!」
金原先輩が連れていたおもちゃの犬には飼い主がボタンを押している時に話しかけられると返事をする機能があるらしく、返事の内容も複雑だったので私は素直に驚いた。
「これは面白いですね、AIが搭載されてて9800円は確かにお値打ちです」
『えっ、そんなこと言っちゃっていいんですか? 9800円がお値打ちかどうかなんて高校生の身分で分かるんすかね』
「しばいていいですか?」
「これからこの愛犬ロボを使う用事があるから、今は勘弁してあげて。……あら、来たわね」
「真希、ここにいたのか。今学期から応援団の予算が減らされてたから生徒会に問い合わせてみたら書道部からのクレームが理由だったらしいんだけど、一体どういうことなんだ?」
金原先輩を探して廊下の向こうから歩いてきたのは彼女の従兄である裏羽田由自先輩で、部活の予算を巡って何やらトラブルが起きているようだった。
「どういうことも何も、部活の予算を削減する流れなんだから自前で何も生み出さない部活の予算は少なくて結構でしょう? その分だけ創造的な活動をしている運動部や文化部に予算を回すべきよ」
「そんな発言は言語道断だ! 公式戦での僕たちの応援を楽しみに練習している運動部員は沢山いるんだぞ!!」
『何かそういうデータあるんですか? 応援を楽しみにしてるってどうして他人の思考が読めるんすかね?』
「うわっ犬が喋った!! データも何も、僕たち応援団員はこれまで彼らの喜ぶ顔を見てきている訳で……」
『それってあなたの感想ですよね? 応援団の活動って自己満足のためにやってるんすか?』
「しばいていいか?」
「あら、言い返せないようね。これからあんたが何を言ってきても、この愛犬論破ロボ『ひろ』に敵うはずはないわ! 悔しかったらもっと論破力を身に付けることね!!」
「こ、こんなロジカルハラスメントロボに負けるなんて。帰ってYoutubeでも見て論破の勉強だ!!」
裏羽田先輩は潔く負けを認めると走り去り、好感が持てるかはともかくこの愛犬ロボのAIは高度だと思った。
その翌週……
「ちょっとあんた、用もないのに学校まで付いてこないでよ! 言うこと聞かないなら電池抜くわよ?」
『その発言パワハラですよね? 大体僕充電式なんで簡単に電池外せないですよ』
「ムキー!! こんな犬今すぐ保健所送りにしてやるわ! クーリングオフで返品よ!!」
『いやもう返品期限過ぎてるんで。もうちょっと考えてから物を言われた方がいいですよ』
登校中の路上で愛犬論破ロボと言い争っている金原先輩を見て、私はこのAIはもうちょっとまともな用途に使えないのだろうかと思った。
(続く)
ある日の放課後。硬式テニス部の練習がない日なので直帰しようとしていた私、野掘真奈は書道部所属の2年生である金原真希先輩が小型犬を連れて廊下を歩いている姿を見かけた。
「お疲れ様です先輩。よく見たらおもちゃの犬みたいですけど、家から持ち込まれたんですか?」
「あら野掘さん。この前深夜の通販番組で偶然見かけて、面白そうだから買ってみたの。税抜で9800円もしたのよ」
「9800円? 中々お高いですね。というと何か便利な機能があるんですか?」
「ええ、もちろん。この愛くるしい愛犬ロボ『ひろ』は、リモコンのこのボタンを押すと……あ、ごめんなさい。何か質問してみてくれる?」
「分かりました。えーと、ひろ君は何歳なのかな?」
『薄学で申し訳ないんですけど、機械に年齢っていう概念あるんですか?』
「うわっ喋った!!」
金原先輩が連れていたおもちゃの犬には飼い主がボタンを押している時に話しかけられると返事をする機能があるらしく、返事の内容も複雑だったので私は素直に驚いた。
「これは面白いですね、AIが搭載されてて9800円は確かにお値打ちです」
『えっ、そんなこと言っちゃっていいんですか? 9800円がお値打ちかどうかなんて高校生の身分で分かるんすかね』
「しばいていいですか?」
「これからこの愛犬ロボを使う用事があるから、今は勘弁してあげて。……あら、来たわね」
「真希、ここにいたのか。今学期から応援団の予算が減らされてたから生徒会に問い合わせてみたら書道部からのクレームが理由だったらしいんだけど、一体どういうことなんだ?」
金原先輩を探して廊下の向こうから歩いてきたのは彼女の従兄である裏羽田由自先輩で、部活の予算を巡って何やらトラブルが起きているようだった。
「どういうことも何も、部活の予算を削減する流れなんだから自前で何も生み出さない部活の予算は少なくて結構でしょう? その分だけ創造的な活動をしている運動部や文化部に予算を回すべきよ」
「そんな発言は言語道断だ! 公式戦での僕たちの応援を楽しみに練習している運動部員は沢山いるんだぞ!!」
『何かそういうデータあるんですか? 応援を楽しみにしてるってどうして他人の思考が読めるんすかね?』
「うわっ犬が喋った!! データも何も、僕たち応援団員はこれまで彼らの喜ぶ顔を見てきている訳で……」
『それってあなたの感想ですよね? 応援団の活動って自己満足のためにやってるんすか?』
「しばいていいか?」
「あら、言い返せないようね。これからあんたが何を言ってきても、この愛犬論破ロボ『ひろ』に敵うはずはないわ! 悔しかったらもっと論破力を身に付けることね!!」
「こ、こんなロジカルハラスメントロボに負けるなんて。帰ってYoutubeでも見て論破の勉強だ!!」
裏羽田先輩は潔く負けを認めると走り去り、好感が持てるかはともかくこの愛犬ロボのAIは高度だと思った。
その翌週……
「ちょっとあんた、用もないのに学校まで付いてこないでよ! 言うこと聞かないなら電池抜くわよ?」
『その発言パワハラですよね? 大体僕充電式なんで簡単に電池外せないですよ』
「ムキー!! こんな犬今すぐ保健所送りにしてやるわ! クーリングオフで返品よ!!」
『いやもう返品期限過ぎてるんで。もうちょっと考えてから物を言われた方がいいですよ』
登校中の路上で愛犬論破ロボと言い争っている金原先輩を見て、私はこのAIはもうちょっとまともな用途に使えないのだろうかと思った。
(続く)
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最近の女子高生は思想が強い ~雇用・利子および女子高生の一般りろん~
輪島ライ
大衆娯楽
東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には寛容の精神と資本主義思想が教え込まれている。
社会派ドタバタポリティカルコメディ、ここでも開幕!!
※この作品は「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※これは架空の物語です。過去、あるいは現在において、たまたま実在する人物、出来事と類似していても、それは偶然に過ぎません。
※姉妹作「天然女子高生のためのそーかつ」を並行連載中です。(内容に一部重複があります)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!
コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。
性差とは何か?
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる