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割り込み連載 雇用・利子および女子高生の一般りろん2
そのよん 功利主義
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東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には寛容の精神と資本主義思想が教え込まれている。
実りの秋を迎え、私、灰田菜々を含む私立ケインズ女子高校硬式テニス部の4人は都内の山でピクニックに興じていた。
「まともに登山するの初めてだけど、意外と歩けるものね。志乃ちゃんは大丈夫?」
「ええ、私別に虚弱体質ではないので。お弁当も美味しかったですし……」
顧問の先生はレンタカーの大型車から降りた瞬間にぎっくり腰でダウンしてしまったので、今は3年生で部長の出羽ののか先輩と2年生の宇津田志乃先輩が後輩2人を先導して歩いていた。
「右子ちゃんって普段インドア派なのに全然疲れてないよね。何かトレーニングとかしてるの?」
「ええ、お父様から乙女たるもの自らの身は自らで守れと教えられています。あと話の途中ですみませんがクマです」
私と同じく1年生の三島右子ちゃんが表情一つ変えずに指さした方を見ると、そこには全長2メートル近くありそうな熊が立っていた。
「グルルルルル……」
「皆落ち着いて、こういう時は食べ物を遠くに投げて逃げるのよ!」
「さっき全部食べたからお弁当の空き箱しか残ってないですよ……」
「先輩方と菜々さん、ここは私が囮になります! 三島家秘技・偽装切腹術!!」
右子ちゃんはそう言うといつも懐に隠している血糊を腹部で炸裂させつつ頭から地面に倒れた。
「仕方ないわ、ここは右子ちゃんを犠牲にして逃げるわよ!」
「ちょっ、それは流石にひどくないですか!?」
「グルルルルルゥ!!」
ののか先輩を非難した私だけど、熊は倒れた右子ちゃんに目もくれずに近づいてきたので残りの3人で走り出すしかなかった。
「って結局右子ちゃん一人助かってるじゃない! 何がいけなかったの!?」
「そりゃ死体の肉より生きてる肉の方が美味しいでしょうし……」
「何か熊が私目がけて走ってるような気がするんですけど気のせいですよね!?」
「きっと菜々ちゃんのお肉が一番美味しいのよ、ほら菜食主義者だし」
「そんな理由で菜食主義やってるんじゃないですぅ!!」
「グガアアア!!」
そうして逃げ回っている間にどうにか3人で大きめの岩の裏に隠れることができたけど、熊は人間よりも嗅覚が鋭いはずなので見つかってしまう時はそう遠くなさそうだった。
「出羽先輩、どうします? ここから3人で散り散りになって逃げますか?」
「そんなことしたら菜々ちゃんが食べられちゃうじゃない。先輩としてみすみす後輩を犠牲にできないでしょう?」
「ののか先輩……」
さっき右子ちゃんをあっさり見殺しにしようとしていたことはともかく、私はののか先輩の言葉に感動していた。
「そういう訳で私か志乃ちゃんのどちらかが犠牲になる訳だけど、全員助かる道がなさそうな以上、ここは功利主義に基づいて判断するべきじゃない?」
「功利主義ですか? 具体的にどういう……」
「ほら、私って来年から大学生だしもう慶楼大学に指定校推薦決まってるし、こういうルックスだから生き残った場合の資産価値が高いでしょう? という訳でよろしくっ!!」
「ぎゃああああああああ化けて出てやるううううう」
ののか先輩は早口で言うと志乃先輩を岩の外側に向けて突き飛ばし、志乃先輩は熊に発見されつつ山肌の崖を転がり落ちていった。
熊は転落していく志乃先輩にはやはり目もくれず、そのまま私とののか先輩を追いかけてくる。
「こんな事態は想定外よ! どうしましょう、これ以上デコイにできる後輩がいないわ」
「そういうこと言わないでください! こうなったらもう一緒に逃げない方が……そうだ、あの坂道で上下に別れません? 私の方が狙われてる訳なので、私は上の道で、ののか先輩は下の道で逃げませんか?」
走っている先に上下にそれぞれ続く坂道があり、熊が私を狙っている以上は私が上に逃げた方が重力の関係上追いつかれにくいと考えてそう提案してみた。
「確かにそれはいいアイディアね。……でも菜々ちゃん、熊が私を狙って下に降りてくる可能性もあると思わない?」
「えっ?」
「ほら、私ってお金持ちの娘だし他校の男子生徒とお付き合いしたこともあるし、まあ色々あるけど菜々ちゃんより資産価値が高いからよろしくっ!!」
「ひいいいいぃ、何考えてるんですかああああぁぁぁぁ」
ののか先輩は坂道までたどり着いた瞬間に早口でそう言うと私を下に続く坂道へと突き飛ばし、私は涙目になりながら案の定下の道を選んだ熊から逃げ続けた。
「もう嫌ああああ、これで食べられたら一生恨んでやるうううぅぅぅ」
「グガアアアアアアア!! グルルル……!?」
ののか先輩への呪詛を叫びながら熊から逃げ続けていたその時、突然熊の叫び声が止まった。
後方に振り向くと熊は頭に銃弾を受けて倒れていて、その向こうには猟銃を持った複数名のおじいさんと笑顔を浮かべているののか先輩の姿があった。
「君、危なかったねえ。このお嬢さんが走っていた所に偶然僕たちが通りがかって、事情を聞いて助けに来たんだよ」
「ありがとうございます、本当に危ない所でした」
「菜々ちゃん、私は菜々ちゃんに全力で逃げて貰おうと思ってあえてああ言ったのよ! ねね、功利主義的に正しいでしょ!?」
「その猟銃を寄越せえええええええええ!!」
「君、落ち着きなさい! それは素人が扱っていいものじゃうわああああああ」
ののか先輩の白々しい言葉を聞いて怒りに身を任せた私には、その後の記憶がない。
(続く)
実りの秋を迎え、私、灰田菜々を含む私立ケインズ女子高校硬式テニス部の4人は都内の山でピクニックに興じていた。
「まともに登山するの初めてだけど、意外と歩けるものね。志乃ちゃんは大丈夫?」
「ええ、私別に虚弱体質ではないので。お弁当も美味しかったですし……」
顧問の先生はレンタカーの大型車から降りた瞬間にぎっくり腰でダウンしてしまったので、今は3年生で部長の出羽ののか先輩と2年生の宇津田志乃先輩が後輩2人を先導して歩いていた。
「右子ちゃんって普段インドア派なのに全然疲れてないよね。何かトレーニングとかしてるの?」
「ええ、お父様から乙女たるもの自らの身は自らで守れと教えられています。あと話の途中ですみませんがクマです」
私と同じく1年生の三島右子ちゃんが表情一つ変えずに指さした方を見ると、そこには全長2メートル近くありそうな熊が立っていた。
「グルルルルル……」
「皆落ち着いて、こういう時は食べ物を遠くに投げて逃げるのよ!」
「さっき全部食べたからお弁当の空き箱しか残ってないですよ……」
「先輩方と菜々さん、ここは私が囮になります! 三島家秘技・偽装切腹術!!」
右子ちゃんはそう言うといつも懐に隠している血糊を腹部で炸裂させつつ頭から地面に倒れた。
「仕方ないわ、ここは右子ちゃんを犠牲にして逃げるわよ!」
「ちょっ、それは流石にひどくないですか!?」
「グルルルルルゥ!!」
ののか先輩を非難した私だけど、熊は倒れた右子ちゃんに目もくれずに近づいてきたので残りの3人で走り出すしかなかった。
「って結局右子ちゃん一人助かってるじゃない! 何がいけなかったの!?」
「そりゃ死体の肉より生きてる肉の方が美味しいでしょうし……」
「何か熊が私目がけて走ってるような気がするんですけど気のせいですよね!?」
「きっと菜々ちゃんのお肉が一番美味しいのよ、ほら菜食主義者だし」
「そんな理由で菜食主義やってるんじゃないですぅ!!」
「グガアアア!!」
そうして逃げ回っている間にどうにか3人で大きめの岩の裏に隠れることができたけど、熊は人間よりも嗅覚が鋭いはずなので見つかってしまう時はそう遠くなさそうだった。
「出羽先輩、どうします? ここから3人で散り散りになって逃げますか?」
「そんなことしたら菜々ちゃんが食べられちゃうじゃない。先輩としてみすみす後輩を犠牲にできないでしょう?」
「ののか先輩……」
さっき右子ちゃんをあっさり見殺しにしようとしていたことはともかく、私はののか先輩の言葉に感動していた。
「そういう訳で私か志乃ちゃんのどちらかが犠牲になる訳だけど、全員助かる道がなさそうな以上、ここは功利主義に基づいて判断するべきじゃない?」
「功利主義ですか? 具体的にどういう……」
「ほら、私って来年から大学生だしもう慶楼大学に指定校推薦決まってるし、こういうルックスだから生き残った場合の資産価値が高いでしょう? という訳でよろしくっ!!」
「ぎゃああああああああ化けて出てやるううううう」
ののか先輩は早口で言うと志乃先輩を岩の外側に向けて突き飛ばし、志乃先輩は熊に発見されつつ山肌の崖を転がり落ちていった。
熊は転落していく志乃先輩にはやはり目もくれず、そのまま私とののか先輩を追いかけてくる。
「こんな事態は想定外よ! どうしましょう、これ以上デコイにできる後輩がいないわ」
「そういうこと言わないでください! こうなったらもう一緒に逃げない方が……そうだ、あの坂道で上下に別れません? 私の方が狙われてる訳なので、私は上の道で、ののか先輩は下の道で逃げませんか?」
走っている先に上下にそれぞれ続く坂道があり、熊が私を狙っている以上は私が上に逃げた方が重力の関係上追いつかれにくいと考えてそう提案してみた。
「確かにそれはいいアイディアね。……でも菜々ちゃん、熊が私を狙って下に降りてくる可能性もあると思わない?」
「えっ?」
「ほら、私ってお金持ちの娘だし他校の男子生徒とお付き合いしたこともあるし、まあ色々あるけど菜々ちゃんより資産価値が高いからよろしくっ!!」
「ひいいいいぃ、何考えてるんですかああああぁぁぁぁ」
ののか先輩は坂道までたどり着いた瞬間に早口でそう言うと私を下に続く坂道へと突き飛ばし、私は涙目になりながら案の定下の道を選んだ熊から逃げ続けた。
「もう嫌ああああ、これで食べられたら一生恨んでやるうううぅぅぅ」
「グガアアアアアアア!! グルルル……!?」
ののか先輩への呪詛を叫びながら熊から逃げ続けていたその時、突然熊の叫び声が止まった。
後方に振り向くと熊は頭に銃弾を受けて倒れていて、その向こうには猟銃を持った複数名のおじいさんと笑顔を浮かべているののか先輩の姿があった。
「君、危なかったねえ。このお嬢さんが走っていた所に偶然僕たちが通りがかって、事情を聞いて助けに来たんだよ」
「ありがとうございます、本当に危ない所でした」
「菜々ちゃん、私は菜々ちゃんに全力で逃げて貰おうと思ってあえてああ言ったのよ! ねね、功利主義的に正しいでしょ!?」
「その猟銃を寄越せえええええええええ!!」
「君、落ち着きなさい! それは素人が扱っていいものじゃうわああああああ」
ののか先輩の白々しい言葉を聞いて怒りに身を任せた私には、その後の記憶がない。
(続く)
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