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第3部 天然女子高生のための超そーかつ
第71話 商標権
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「うわあ、この茶碗蒸しとっても美味しいですね。寒下さんが発明されたんですよね?」
「その通り。細かいレシピは秘密なんだけど、先に試食して頂いた先生方にも好評だったから商品化を検討中なんだ」
「寒下のおっちゃん、これお代わりないん? 晩ご飯食べれへんぐらい味わいたいわ」
ある日の放課後、私と平塚鳴海先輩は学生食堂調理師長の寒下丹次郎さんから新メニューの試食のため調理室に招待されていた。
寒下さんが独自にレシピを編み出したという茶碗蒸しは私が人生でこれまで食べたどの茶碗蒸しよりも美味しくて、あの寒下さんにも普通の料理が作れたという事実にも私は感動していた。
「もちろん沢山作ってあるよ。まずは近場のスーパーで売り出して貰う予定だから、今度は学外の人たちにも試食に来て貰うことになっているんだ。ちなみに商品名は『まったり茶碗蒸』で……」
「待ちたまえ、寒下君。その商品名を君が使うことはできないぞ」
「あ、あなたは海山先生! 一体なぜここに……」
「寒下のおっちゃん、知り合いなんか?」
調理室の入り口から勝手に入ってきたのは黒いスーツを着た大柄な壮年男性で、年齢的には寒下さんより若そうだが先生と呼ばれていた。
「こちらの海山満先生は高名な飲食店経営者で、私はここに来る前は先生の経営する高級レストランで働いていたんだ。スローフードの推進の是非で意見が衝突して、結局は私から辞表を出したんだが……」
「寒下君、今更君に私のもとに戻れと言うつもりはないが、『まったり茶碗蒸』という単語は今後の商品展開に備えて私の会社が商標を押さえている。ちなみに『ゆっくり茶碗蒸』『ゆったり茶碗蒸』『ゆっとり茶碗蒸』といった類似の単語も商標登録しているから少し変えたって無駄だぞ」
「うわあ、グルメバトル漫画なのかビジネス漫画なのかよく分からない展開になってる……」
海山さんは元被用者である寒下さんの新商品の噂を聞きつけてここまで来たらしく、これは厄介なダブルブッキングだと思った。
その時……
「待ちなさい! そちらの男性、調理師長さんに文句を言われる前にあなたに確認させて頂きたいことがあるわ!!」
「金原はんやないの。せっかくやし茶碗蒸し食ってくか?」
海山さんの後ろからさらに入室してきたのは2年生の金原真希先輩で、彼女も噂を聞きつけてやって来たらしい。
「何だ、いきなり入ってきて。質問があれば答えるが……」
「マルクス高校の綱紀委員長としてお尋ねしますが、あなたが商標登録された『まったり茶碗蒸』の『まったり』とはどういう意味ですか? ネーミングの由来からお聞かせ願いたいです」
「ああ、そんなことか」
その設定生きてたんですねという感想はともかく、敏腕ビジネスマンらしい海山さんは落ち着いた様子で説明を始めた。
「まったり、という言葉には茶碗蒸しを食べた人々が落ち着いた気持ちになり、時を忘れるほどの快感を得られるという意味を込めている。美味しさではなく、あえて食べた時の気持ちを商品名にしているエモーショルなネーミングが狙いなんだよ」
「ピピー! あなたは『まったり』という言葉の意味を間違えています! そういう意味合いが定着したのはNHKの国民的アニメの影響であって、本来は口当たりがまろやかでコクがあるという意味よ!!」
「な、何だって!? 味覚に関する言葉の意味を間違えるとは、私は飲食店経営者失格ではないか。潔く負けを認め、商標登録は解除するとしよう……」
ホイッスルを吹いて言葉の誤りを指摘した金原先輩に、海山さんはその場でがっくりとうなだれた。
「何やよう分からんけど茶碗蒸し旨いわ! 寒下のおっちゃん、商品化されたらうちも買うからな!!」
「ありがとう。さあさあ、海山先生も金原さんもどうぞ食べていってください!」
5人でテーブルを囲んで茶碗蒸しを食べながら、私って今回何もしてないなあと思った。
(続く)
「うわあ、この茶碗蒸しとっても美味しいですね。寒下さんが発明されたんですよね?」
「その通り。細かいレシピは秘密なんだけど、先に試食して頂いた先生方にも好評だったから商品化を検討中なんだ」
「寒下のおっちゃん、これお代わりないん? 晩ご飯食べれへんぐらい味わいたいわ」
ある日の放課後、私と平塚鳴海先輩は学生食堂調理師長の寒下丹次郎さんから新メニューの試食のため調理室に招待されていた。
寒下さんが独自にレシピを編み出したという茶碗蒸しは私が人生でこれまで食べたどの茶碗蒸しよりも美味しくて、あの寒下さんにも普通の料理が作れたという事実にも私は感動していた。
「もちろん沢山作ってあるよ。まずは近場のスーパーで売り出して貰う予定だから、今度は学外の人たちにも試食に来て貰うことになっているんだ。ちなみに商品名は『まったり茶碗蒸』で……」
「待ちたまえ、寒下君。その商品名を君が使うことはできないぞ」
「あ、あなたは海山先生! 一体なぜここに……」
「寒下のおっちゃん、知り合いなんか?」
調理室の入り口から勝手に入ってきたのは黒いスーツを着た大柄な壮年男性で、年齢的には寒下さんより若そうだが先生と呼ばれていた。
「こちらの海山満先生は高名な飲食店経営者で、私はここに来る前は先生の経営する高級レストランで働いていたんだ。スローフードの推進の是非で意見が衝突して、結局は私から辞表を出したんだが……」
「寒下君、今更君に私のもとに戻れと言うつもりはないが、『まったり茶碗蒸』という単語は今後の商品展開に備えて私の会社が商標を押さえている。ちなみに『ゆっくり茶碗蒸』『ゆったり茶碗蒸』『ゆっとり茶碗蒸』といった類似の単語も商標登録しているから少し変えたって無駄だぞ」
「うわあ、グルメバトル漫画なのかビジネス漫画なのかよく分からない展開になってる……」
海山さんは元被用者である寒下さんの新商品の噂を聞きつけてここまで来たらしく、これは厄介なダブルブッキングだと思った。
その時……
「待ちなさい! そちらの男性、調理師長さんに文句を言われる前にあなたに確認させて頂きたいことがあるわ!!」
「金原はんやないの。せっかくやし茶碗蒸し食ってくか?」
海山さんの後ろからさらに入室してきたのは2年生の金原真希先輩で、彼女も噂を聞きつけてやって来たらしい。
「何だ、いきなり入ってきて。質問があれば答えるが……」
「マルクス高校の綱紀委員長としてお尋ねしますが、あなたが商標登録された『まったり茶碗蒸』の『まったり』とはどういう意味ですか? ネーミングの由来からお聞かせ願いたいです」
「ああ、そんなことか」
その設定生きてたんですねという感想はともかく、敏腕ビジネスマンらしい海山さんは落ち着いた様子で説明を始めた。
「まったり、という言葉には茶碗蒸しを食べた人々が落ち着いた気持ちになり、時を忘れるほどの快感を得られるという意味を込めている。美味しさではなく、あえて食べた時の気持ちを商品名にしているエモーショルなネーミングが狙いなんだよ」
「ピピー! あなたは『まったり』という言葉の意味を間違えています! そういう意味合いが定着したのはNHKの国民的アニメの影響であって、本来は口当たりがまろやかでコクがあるという意味よ!!」
「な、何だって!? 味覚に関する言葉の意味を間違えるとは、私は飲食店経営者失格ではないか。潔く負けを認め、商標登録は解除するとしよう……」
ホイッスルを吹いて言葉の誤りを指摘した金原先輩に、海山さんはその場でがっくりとうなだれた。
「何やよう分からんけど茶碗蒸し旨いわ! 寒下のおっちゃん、商品化されたらうちも買うからな!!」
「ありがとう。さあさあ、海山先生も金原さんもどうぞ食べていってください!」
5人でテーブルを囲んで茶碗蒸しを食べながら、私って今回何もしてないなあと思った。
(続く)
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