天然女子高生のためのそーかつ

輪島ライ

文字の大きさ
上 下
78 / 181
第3部 天然女子高生のための超そーかつ

第70話 ゾーニング

しおりを挟む
 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。


「いらっしゃい野掘さん。旗子は元気にしてるかい?」
「ええ、いつも通り元気はつらつとされてますよ。点太郎さんもすっかり一人前の書店員さんですね」

 ある日の放課後、古文の参考書を買いに高校近くの書店を訪れた私は2年生の赤城あかぎ旗子はたこ先輩のお兄さんである赤城あかぎ点太郎てんたろうさんに出会った。

 点太郎さんは色々あって大学を退学になってからしばらく無職で過ごしていたが、先日全国的なチェーン店であるこの書店に就職が決まり、今では新進気鋭の書店員さんとして頑張っていた。

「ところで、何か前回来た時と店の雰囲気が変わってません? 書棚の列ごとに床の色が違いますし……」
「いい所に気づいたね。実験的な取り組みとして、この店舗ではあらゆるジャンルの本を傾向ごとに分けて陳列ちんれつしているんだ。例えば保守系の評論を好む人は革新系の書籍はあまり見たくないだろうし、逆もまた然り。漫画の場合は前から傾向ごとに分けてたけど、その上さらに少女漫画の列と青年漫画の列は場所を大きく離したりしてみたんだ」
「なるほど。お客さんのことを考えたいい取り組みだと思います」

 書店に来る人は自分の好みの本を探したくて来ている訳で、全く好みに合わない本はなるべく目に入らないようにするという取り組みはお客さんの精神衛生上よいと思った。

 店内で点太郎さんと話していると見たことのある顔の二人組が入店してきたので、私は慌てて彼女らから見えない場所に隠れた。


「へえー、宝来さんも歴史人物を題材にした二次創作に興味があるのね。私は読んでばっかりだけど、同好の士がいて嬉しいわ」
「出羽さんこそBLにすごくお詳しいそうじゃありませんか。私はその界隈には未熟者でして……」

 オタクトークを繰り広げながら入店してきたのはこの前転校してきた同じクラスの宝来ほうらいじゅんさんとケインズ女子高校硬式テニス部所属の3年生である出羽でわののかさんで、彼女らはそのまま歴史書のコーナーに入っていった。

「宝来さんはマルクス高校だから、スターリンとかレーニンはご存知でしょ? 私なんて妄想が激しすぎて、光秀×信長とか孔子×宰予さいよどころかあの2人でも脳内創作しちゃうのよね」
「いいご趣味ですね。スターリン×レーニンはリバーシブルも成り立つと私は考えますよ」

 あの2人はどうも腐女子と呼ばれる人たちだったらしく、会話の意味はよく分からないがともかく楽しそうだと思った。


「全くその通りね。流石に蒋介石と毛沢東なら毛×蒋が鉄板だと思うけど」
「それは少し無理がありませんでしょうか? 思想と立場が異なる相手で、最終的には政争に敗れて台湾に落ち延びてしまった蒋介石のことを想い続ける毛沢東は受けとしか言いようがないのでは……」
「いいえ、一度は相手に中国の盟主の座を譲って、その上で国共内戦で国民党軍を打倒した毛沢東の戦略は誘い受けでしょう? 精神的には攻めなんだから、やっぱり本質的には毛×蒋よ」
「誘い受けを事実上の攻めと言い切るのは無理があります! そうであれば毛×蒋も蒋×毛も成り立つリバーシブルになるではありませんか」
「むしろ誘い受けこそ純粋な攻めじゃない! その段階で価値観を共有できないなら同好の士とは言えないわ!!」

 2人はそのまま歴史書コーナーの書棚の前でBL論争を続け、私は面倒に巻き込まれる前に古文単語の参考書を買って帰宅した。


 その翌週……

 【腐女子向け書籍コーナー このコーナー以外でBLトークをするのはご遠慮ください】

「野掘さん、これが人々を守るためのゾーニングなんだよ」
「今回ばかりは同意する他ないです……」

 自作の店内看板を紹介しながら言った点太郎さんに、私はゾーニングの重要性を改めて理解した。


 (続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...