75 / 181
第3部 天然女子高生のための超そーかつ
第67話 タックスヘイブン
しおりを挟む
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。
ある朝登校した私、野掘真奈は、同じクラスの男友達である梅畑伝治君がスマホを開いて何やら検索しているのを見かけた。
この高校ではスマートフォンは校内への持ち込みも校内での使用(授業時間外のみ)も認められているが、梅畑君は暇だからといってすぐにスマホをいじる人ではないので理由を聞いてみることにした。
「梅畑君、またゲームの攻略情報でも調べてるの? 」
「ああ、野掘さん。それに近いんだけど、実は○川県に住んでる中学生のいとこが困ってるんだ。この前発売された『ビーストハンターアライズ』を通信プレイで一緒に遊びたいんだけど、○川県では条例で子供は1日60分までしかゲームをしちゃいけなくて……」
「その条例テレビで見たことある。でも、別に破っても罰則がある訳じゃないんでしょ?」
子供のゲーム習慣を規制する○川県の条例は今の時代に即していないと各方面から批判されているが、罰則を伴う条例ではないので事実上は問題ないはずだった。
「もちろんそうなんだけど、今時のゲームには保護者が子供の遊び方を制限する機能があって、いとこが持ってるヨンテンドージョイッチも1日の使用時間を60分までに設定されちゃったんだ。制限を解除するやり方を検索してるけど、中々いいのが見つからなくて……」
「それは大変だね……」
梅畑君は矜持のあるプロゲーマーなので中学生のいとこを長時間ゲームに付き合わせて迷惑をかけたりするとは思えず、私はいとこと遊ぶ時間が減って悲しむ彼を率直に気の毒だと思った。
「タックスヘイブンじゃないけど、ゲームの使用時間だけよその県の基準になればいいのにね。いとこさんが他県の中学校に通ってたりすればできるかもだけど」
「なるほど、確かに基準を○川県に合わせる必要はないな。ちょっといとこに提案してみるよ」
梅畑君はそう言うとスマホのメッセージアプリを起動し、私は一体何をするつもりなのだろうと不思議に思った。
その翌週……
『ここ○川県では現在、子供たちの間で本籍地を変更する運動が起こっています。元々はゲーム規制条例への反発により生じた運動とのことですが、本籍地を×閣諸島や△島に変更したいと役場を訪れる子供たちの続出に大人たちは困惑を隠せず……』
「これで誰にも邪魔されずにゲームし放題ですわね。電気が通ってるかは分かりませんけど」
「ゆき先輩、本籍地は実際に住んでる場所じゃないです……」
練習の帰りに立ち寄ったうどん屋でニュース番組を見ながら言った堀江有紀先輩に、私はどうしてこうなったと思った。
(続く)
ある朝登校した私、野掘真奈は、同じクラスの男友達である梅畑伝治君がスマホを開いて何やら検索しているのを見かけた。
この高校ではスマートフォンは校内への持ち込みも校内での使用(授業時間外のみ)も認められているが、梅畑君は暇だからといってすぐにスマホをいじる人ではないので理由を聞いてみることにした。
「梅畑君、またゲームの攻略情報でも調べてるの? 」
「ああ、野掘さん。それに近いんだけど、実は○川県に住んでる中学生のいとこが困ってるんだ。この前発売された『ビーストハンターアライズ』を通信プレイで一緒に遊びたいんだけど、○川県では条例で子供は1日60分までしかゲームをしちゃいけなくて……」
「その条例テレビで見たことある。でも、別に破っても罰則がある訳じゃないんでしょ?」
子供のゲーム習慣を規制する○川県の条例は今の時代に即していないと各方面から批判されているが、罰則を伴う条例ではないので事実上は問題ないはずだった。
「もちろんそうなんだけど、今時のゲームには保護者が子供の遊び方を制限する機能があって、いとこが持ってるヨンテンドージョイッチも1日の使用時間を60分までに設定されちゃったんだ。制限を解除するやり方を検索してるけど、中々いいのが見つからなくて……」
「それは大変だね……」
梅畑君は矜持のあるプロゲーマーなので中学生のいとこを長時間ゲームに付き合わせて迷惑をかけたりするとは思えず、私はいとこと遊ぶ時間が減って悲しむ彼を率直に気の毒だと思った。
「タックスヘイブンじゃないけど、ゲームの使用時間だけよその県の基準になればいいのにね。いとこさんが他県の中学校に通ってたりすればできるかもだけど」
「なるほど、確かに基準を○川県に合わせる必要はないな。ちょっといとこに提案してみるよ」
梅畑君はそう言うとスマホのメッセージアプリを起動し、私は一体何をするつもりなのだろうと不思議に思った。
その翌週……
『ここ○川県では現在、子供たちの間で本籍地を変更する運動が起こっています。元々はゲーム規制条例への反発により生じた運動とのことですが、本籍地を×閣諸島や△島に変更したいと役場を訪れる子供たちの続出に大人たちは困惑を隠せず……』
「これで誰にも邪魔されずにゲームし放題ですわね。電気が通ってるかは分かりませんけど」
「ゆき先輩、本籍地は実際に住んでる場所じゃないです……」
練習の帰りに立ち寄ったうどん屋でニュース番組を見ながら言った堀江有紀先輩に、私はどうしてこうなったと思った。
(続く)
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天使の隣
鉄紺忍者
大衆娯楽
人間の意思に反応する『フットギア』という特殊なシューズで走る新世代・駅伝SFストーリー!レース前、主人公・栗原楓は憧れの神宮寺エリカから突然声をかけられた。慌てふためく楓だったが、実は2人にはとある共通点があって……?
みなとみらいと八景島を結ぶ絶景のコースを、7人の女子大生ランナーが駆け抜ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる