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第2部 天然女子高生のための再そーかつ
第54話 トーンポリシング
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)
「今回もデザイン、設定ともに秀逸だね。これで女子受験生を集められそうだ」
「ええ、本当に。あの問題が何とかなるといいんですけど……」
「教頭先生、それに金原先輩、このイラストは一体?」
ある日の放課後。美術室の前を通りがかった私はマルクス高校の教頭である琴名枯之助先生と2年生で元生徒会長の金原真希先輩が2人で何やら話しているのを目にした。
教頭先生と金原先輩の目の前にある机にはラミネート加工されたA3サイズのイラスト原画らしきものが置かれており、そこには短く太いステッキを持ってピンク色のヘルメットを被ったかわいい女の子が描かれていた。
「ああ、1年生の野掘さんか。まだ企画を進めている段階なんだけど、この高校では新左翼少年のせくとくんに加えて、女子受験生向けの新たなマスコットキャラクターを誕生させることになったんだ。美少女キャラクターが得意で本校のOBでもある漫画家のセイルカー先生にデザインをお願いしたんだよ」
「このかわいい女の子はマルクス中学校に通う魔法少女の『魔法の闘士バリケードマリ』って言って、1960年代の学生運動を現代に復活させようと日夜頑張っているって設定なの。テーマソングの『バリケードで好きにして』のCD500枚は例によって私の実家のレコード会社が製造する予定よ」
「いつもながら利権バリバリですけど、企画選考に何か問題があるんですか?」
先ほど聞いた話ではバリケードマリの企画には何らかの問題が生じているらしく、私は興味本位で詳しく聞いてみた。
「実は、バリケードマリの妹という設定のファイアポットユナのデザインにPTAから異議が出ていてね。これなんだけど……」
「小学校低学年ぐらいの女の子ですね。ええと……」
「教頭先生、こちらにいらっしゃいましたのね!? 今すぐその原画を廃棄するざます!!」
教頭先生にデザインを見せて貰おうとした私は、美術室の入り口から聞こえてきた大声に振り向いた。
そこにはマルクス高校のPTA会長にしてなるみ先輩のお母さんである平塚瞳さんがいて、彼女は例によって表現を規制しに来たらしかった。
「バリケードマリはまだ許せますけど、この幼女はスカートから白いパンツが丸見えになっているではありませんか! これは紛れもない児童ポルノざます!! こんなデザインを通そうとした教頭先生は小児性愛者に他ならないざます!!」
「平塚さん、落ち着いてください。この程度のデザインは毎週日曜日に放送されている国民的アニメにも出てきますし、いきなり私を小児性愛者などと言うのはあんまりじゃありませんか。どうか気分を鎮めて、冷静に話しませんか」
「そのように相手の言っている内容ではなく口調や語気を批判するのはトーンポリシングざます! そちらこそ真っ当な議論をするべきざます!!」
瞳さんは幼女のパンツが見えているキャラクターデザインに怒りが収まらないらしく、私は金原先輩に耳打ちをしてファイアポットユナのデザイン原画を部屋の隅に避難させた。
「そう言われましても、このデザインはあくまで現役小学生である女子受験生を対象にしておりまして、いやらしい意図などどこにもないのです。PTAの皆様方にはどうか理解して頂きたく……」
「当事者の意図など関係ありません! セクシャルハラスメントかどうかは見た側が決めることざます!!」
「ああうるさい、フェミニストの苦情対応はいいから、そろそろ俺にデザイン料を払って貰えませんかね」
「あっ、セイルカー先生!!」
大騒ぎしている瞳さんを批判しつつ新たに入室してきたのはバリケードマリとファイアポットユナのデザイナーらしい漫画家のセイルカー先生で、彼は金原先輩が避難させたのと同じデザイン原画を丸めて持ってきていた。
「そこのフェミニストさん、俺の描いた幼女のデザインに文句があるんですよね? 見せパンが悪いって言うんですね?」
「その通りざます。どのような経緯があれ、あのようなデザインが許されるのは昭和までざます」
「分かりましたよ、じゃあこのスクリーントーンで俺のポリシーをお示ししようじゃありませんか」
セイルカー先生はそう言うと持参したデザイン原画にどこからか取り出したスクリーントーンを貼り、両手で広げたデザイン原画ではファイアポットユナの見せパンに縞模様が入っていた。
「これはどういうことざます? パンツに模様が入っただけじゃないですか」
「何を言うんです、しまパンは普通のパンツとは一線を画した芸術性を持つもので、しまパンこそが少女の清純性の象徴なのです! あなたはこの俺のトーンポリシングに文句を付けられるんですか!?」
「言葉の意味はよく分かりませんが、とにかくすごい自信ざます。ここは負けを認めるざます……」
堂々とポリシーを表明したセイルカー先生の前に瞳さんは床にくずおれ、教頭先生は笑顔を浮かべてセイルカー先生にお礼を述べていた。
「あれ、余計にいやらしくなってない?」
「そこはまあ勢いで押し切りましょう……」
珍しく正論を述べた金原先輩に、私は苦笑いしながら答えるしかなかった。
(続く)
「今回もデザイン、設定ともに秀逸だね。これで女子受験生を集められそうだ」
「ええ、本当に。あの問題が何とかなるといいんですけど……」
「教頭先生、それに金原先輩、このイラストは一体?」
ある日の放課後。美術室の前を通りがかった私はマルクス高校の教頭である琴名枯之助先生と2年生で元生徒会長の金原真希先輩が2人で何やら話しているのを目にした。
教頭先生と金原先輩の目の前にある机にはラミネート加工されたA3サイズのイラスト原画らしきものが置かれており、そこには短く太いステッキを持ってピンク色のヘルメットを被ったかわいい女の子が描かれていた。
「ああ、1年生の野掘さんか。まだ企画を進めている段階なんだけど、この高校では新左翼少年のせくとくんに加えて、女子受験生向けの新たなマスコットキャラクターを誕生させることになったんだ。美少女キャラクターが得意で本校のOBでもある漫画家のセイルカー先生にデザインをお願いしたんだよ」
「このかわいい女の子はマルクス中学校に通う魔法少女の『魔法の闘士バリケードマリ』って言って、1960年代の学生運動を現代に復活させようと日夜頑張っているって設定なの。テーマソングの『バリケードで好きにして』のCD500枚は例によって私の実家のレコード会社が製造する予定よ」
「いつもながら利権バリバリですけど、企画選考に何か問題があるんですか?」
先ほど聞いた話ではバリケードマリの企画には何らかの問題が生じているらしく、私は興味本位で詳しく聞いてみた。
「実は、バリケードマリの妹という設定のファイアポットユナのデザインにPTAから異議が出ていてね。これなんだけど……」
「小学校低学年ぐらいの女の子ですね。ええと……」
「教頭先生、こちらにいらっしゃいましたのね!? 今すぐその原画を廃棄するざます!!」
教頭先生にデザインを見せて貰おうとした私は、美術室の入り口から聞こえてきた大声に振り向いた。
そこにはマルクス高校のPTA会長にしてなるみ先輩のお母さんである平塚瞳さんがいて、彼女は例によって表現を規制しに来たらしかった。
「バリケードマリはまだ許せますけど、この幼女はスカートから白いパンツが丸見えになっているではありませんか! これは紛れもない児童ポルノざます!! こんなデザインを通そうとした教頭先生は小児性愛者に他ならないざます!!」
「平塚さん、落ち着いてください。この程度のデザインは毎週日曜日に放送されている国民的アニメにも出てきますし、いきなり私を小児性愛者などと言うのはあんまりじゃありませんか。どうか気分を鎮めて、冷静に話しませんか」
「そのように相手の言っている内容ではなく口調や語気を批判するのはトーンポリシングざます! そちらこそ真っ当な議論をするべきざます!!」
瞳さんは幼女のパンツが見えているキャラクターデザインに怒りが収まらないらしく、私は金原先輩に耳打ちをしてファイアポットユナのデザイン原画を部屋の隅に避難させた。
「そう言われましても、このデザインはあくまで現役小学生である女子受験生を対象にしておりまして、いやらしい意図などどこにもないのです。PTAの皆様方にはどうか理解して頂きたく……」
「当事者の意図など関係ありません! セクシャルハラスメントかどうかは見た側が決めることざます!!」
「ああうるさい、フェミニストの苦情対応はいいから、そろそろ俺にデザイン料を払って貰えませんかね」
「あっ、セイルカー先生!!」
大騒ぎしている瞳さんを批判しつつ新たに入室してきたのはバリケードマリとファイアポットユナのデザイナーらしい漫画家のセイルカー先生で、彼は金原先輩が避難させたのと同じデザイン原画を丸めて持ってきていた。
「そこのフェミニストさん、俺の描いた幼女のデザインに文句があるんですよね? 見せパンが悪いって言うんですね?」
「その通りざます。どのような経緯があれ、あのようなデザインが許されるのは昭和までざます」
「分かりましたよ、じゃあこのスクリーントーンで俺のポリシーをお示ししようじゃありませんか」
セイルカー先生はそう言うと持参したデザイン原画にどこからか取り出したスクリーントーンを貼り、両手で広げたデザイン原画ではファイアポットユナの見せパンに縞模様が入っていた。
「これはどういうことざます? パンツに模様が入っただけじゃないですか」
「何を言うんです、しまパンは普通のパンツとは一線を画した芸術性を持つもので、しまパンこそが少女の清純性の象徴なのです! あなたはこの俺のトーンポリシングに文句を付けられるんですか!?」
「言葉の意味はよく分かりませんが、とにかくすごい自信ざます。ここは負けを認めるざます……」
堂々とポリシーを表明したセイルカー先生の前に瞳さんは床にくずおれ、教頭先生は笑顔を浮かべてセイルカー先生にお礼を述べていた。
「あれ、余計にいやらしくなってない?」
「そこはまあ勢いで押し切りましょう……」
珍しく正論を述べた金原先輩に、私は苦笑いしながら答えるしかなかった。
(続く)
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