天然女子高生のためのそーかつ

輪島ライ

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第2部 天然女子高生のための再そーかつ

第40話 多様性の統一

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。


「お疲れー、正輝まさき。今日はどうしたの? 普段テニス部の練習なんて見に来ないのに」
「大した理由はないんだけど、いつもアメフト部の練習応援しに来てくれるから俺もたまにはお返ししようかなって」

 ある日の放課後。私、野掘のぼり真奈まなは珍しく硬式テニス部の練習を見学しに来た弟の正輝に声をかけていた。

「そんなこと言って、どうせゆき先輩見に来ただけでしょ?」
「そ、それは違うよ。俺はただ姉ちゃんを」
「恥ずかしがらなくていいって、男の子なら誰でも憧れると思うし。じゃ、好きなだけ見ていってねー!」

 赤面する正輝をからかいながら練習に戻ると、私はラケットを振るっている先輩方に話しかけられた。


「マナの弟君おとうとくん、本当にお姉さんのことが大好きなんですのね。わたくしは一人っ子なのでうらやましいですわ」
「シスコンのイケメン弟とか面白いよー! ねえねえ、まなちゃんもやっぱりブラコンなの?」
「はたこ先輩は黙っててください。……あ、知ってる顔が来ましたよ」

 純粋な感想を述べる堀江ほりえ有紀ゆき先輩と面白がっている赤城あかぎ旗子はたこ先輩に返事をしていると、私はテニスコートの外側から顔見知りの男子2人が歩いてくるのを目にした。

 彼らは私と同じクラスの梅畑うめはた伝治でんじ君と円城寺えんじょうじ網人あみと君で、私たちの練習を熱心に見学している男子中学生に興味を持ったようだった。


「よう、君はテニス部の関係者なの? 何か見覚えがある感じがするけど」
「俺、マルクス中学3年生の野掘正輝っていいます。姉ちゃんがあっちで練習してて……」
「なるほど、野掘殿の弟君おとうとぎみなのですね。わたくしたちは君の姉上の学友なのです」
「へえー、姉ちゃん男友達いたんですね。いつも姉がお世話になってます」

 彼らは私を通じた知人として仲良く話し始めたらしく、私は正輝に仲のいい部外の先輩ができるといいなと思いつつ練習を続けた。



「遠くから見てたけど、君、2年生の堀江先輩ばっかり目で追ってるよね。やっぱり憧れなの?」
「あー、やっぱり先輩には分かりましたか。俺、ああいう美人で巨乳の女の子が大好きなんですよね」
「ほほう、正輝殿はお目が高い。わたくしめは豊かな乳も貧しい乳も等しく好んでおりますが」
「うーん、君らは分かってないんだよなあ。小さすぎず大きすぎない、CカップからせいぜいDカップぐらいが一番美しいって思わない? 俺が好きな人もそれぐらいなんだけど」
「そんなの普通すぎますよ。夢を見るならもっと大胆にいかないと男として負けた気がします」
「何だって? ふん、そっちこそまだまだ青いな。もっと成長して現実を見るといいよ」
「お待ちなさい! 梅畑殿も正輝殿も、そのようなことで言い争ってはなりません!!」
「えっ!?」

「好む対象が大きくとも小さくとも、私たちは女性の胸が好きだという点で同じ仲間ではありませんか。多様性を認めつつも、それらに共通する点をもって一致団結する多様性の統一こそが世界を平和に導くのです」
「確かに、円城寺の言う通りだな。君、さっきは俺の好みを押し付けて悪かった。これからは乳を愛する同志として仲良くしようじゃないか」
「こちらこそです。俺もゆき先輩以外のおっぱいにも目を向けぬぐふっ!!!」
「あんたたち黙って聞いてたら! 正輝もそこの2人も神聖なるテニスコートから出ていきなさい!!」
「ひえー」

 背後から正輝の脳天にゲンコツを叩き込んで気絶させると、梅畑君と円城寺君は慌てて逃げ去っていった。


「全く、思春期の男の子は油断なりませんわね。ところで、マナって意外と着やせするタイプですわよね」
「私なんてAAカップだからまなちゃんぐらいでも憧れだよー! 彼氏できたら成長するのかな?」
「先輩方まで頭の中ピンク色にならないでください……」

 乳談義で盛り上がる先輩方に、私は人々の頭の中が多様すぎるのも考えものだと思った。


 (続く)
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