36 / 181
第2部 天然女子高生のための再そーかつ
第33話 エコーチェンバー
しおりを挟む
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)
「お疲れー、正輝。お弁当買ってきたよ」
「ありがとう姉ちゃん。今日の昼パン1つしか食べてないから、もう空腹で仕方なくて」
ある日の放課後。私は附属中学校のアメリカンフットボール部に所属している弟に頼まれ、近くのコンビニでお弁当を買ってきた。
正輝は今日の昼休みはクラス委員の用事で購買部に行くのが遅れたらしく、過酷な練習のアメフト部だけあって今は空腹で死にそうになっていた。
「こっ、この人、噂に聞く正輝のお姉さんかよ!? すげえ美人じゃん!!」
「流石は普段から女子にモテるイケメンの姉さん、憧れるぜ……」
制服姿で正輝にお弁当を手渡すと、チームメイトの中学生男子たちが私を見て歓声を上げていた。
「えへへ、そう言ってくれると嬉しいけど……」
「ちょっと待ったああぁぁぁぁぁぁ!!」
照れ隠しの笑いを浮かべていると、高校の校舎の方から誰かが全速力でダッシュしてきた。
「なるみ先輩じゃないですか。こんな所にどうして」
長身とベリーロングヘアが特徴的なその女性は硬式テニス部所属の2年生である平塚鳴海先輩だった。
「あんた、今割り箸を使おうとしたやろ! SDGsが叫ばれる今の時代に、マイ箸を持ってないとはどういうこっちゃ! 明日からは絶対にマイ箸を持ってくるんやで!!」
「ええー、でも衛生的に好ましくないんじゃ……」
突然命令されて戸惑う正輝に、なるみ先輩は続ける。
「今は食洗器も普通にある時代やから、マイ箸はいくつも用意して毎日洗えばええねん。一人一人の心がけは大したことなくても、ここにいるアメフト部員全員がマイ箸を使えば割り箸の消費量は大きく減って、森林破壊は食い止められるんやで。あんたがその端緒になるんや!」
「確かに、環境保護には一人一人の行動が大事ですもんね。俺、明日からマイ箸持ってきます」
「よっしゃ、それでこそエコ社会の実現や! 地球の未来は明るいで!!」
なるみ先輩はそう言うと高校の校舎に向けてダッシュしていき、そういえば私は視界にも入っていなかったと気づいた。
その1か月後……
「マイ箸は……あったあった。お昼ご飯いただきまーす」
昼休みの教室で、私は持参したマイ箸を使ってコンビニ弁当を食べようとしていた。
「ちょっと待ちなさい鳴海! コンビニ弁当を食べている人を襲ってどうするの!?」
「止めんといてやゆき、うちは可燃ごみが増えるのが許せへんねん!!」
廊下で騒いでいたのはなるみ先輩で、暴れる彼女を親友である堀江有紀先輩が必死で制止していた。
「ああ、まなちゃんもちょっと逃げといた方がいいよ。なるみが今暴走してるから」
「はたこ先輩、なるみ先輩に一体何が……?」
赤城旗子先輩は1年生の教室に入ると私を教室の隅に避難させてくれて、はたこ先輩は事情を知っているようだった。
「なるみが変な環境保護団体に入ってるんだけど、極端な意見ばっかり聞いたせいでどんどん過激な思想になっちゃってるんだよ。エコのためにエコーチェンバー現象が起きてるとかシャレにならないよ!」
「は、ははは……」
生徒からの通報で駆け付けた先生に引きずられていくなるみ先輩を見て、私はあの人の場合は平常運転のような気がした。
(続く)
「お疲れー、正輝。お弁当買ってきたよ」
「ありがとう姉ちゃん。今日の昼パン1つしか食べてないから、もう空腹で仕方なくて」
ある日の放課後。私は附属中学校のアメリカンフットボール部に所属している弟に頼まれ、近くのコンビニでお弁当を買ってきた。
正輝は今日の昼休みはクラス委員の用事で購買部に行くのが遅れたらしく、過酷な練習のアメフト部だけあって今は空腹で死にそうになっていた。
「こっ、この人、噂に聞く正輝のお姉さんかよ!? すげえ美人じゃん!!」
「流石は普段から女子にモテるイケメンの姉さん、憧れるぜ……」
制服姿で正輝にお弁当を手渡すと、チームメイトの中学生男子たちが私を見て歓声を上げていた。
「えへへ、そう言ってくれると嬉しいけど……」
「ちょっと待ったああぁぁぁぁぁぁ!!」
照れ隠しの笑いを浮かべていると、高校の校舎の方から誰かが全速力でダッシュしてきた。
「なるみ先輩じゃないですか。こんな所にどうして」
長身とベリーロングヘアが特徴的なその女性は硬式テニス部所属の2年生である平塚鳴海先輩だった。
「あんた、今割り箸を使おうとしたやろ! SDGsが叫ばれる今の時代に、マイ箸を持ってないとはどういうこっちゃ! 明日からは絶対にマイ箸を持ってくるんやで!!」
「ええー、でも衛生的に好ましくないんじゃ……」
突然命令されて戸惑う正輝に、なるみ先輩は続ける。
「今は食洗器も普通にある時代やから、マイ箸はいくつも用意して毎日洗えばええねん。一人一人の心がけは大したことなくても、ここにいるアメフト部員全員がマイ箸を使えば割り箸の消費量は大きく減って、森林破壊は食い止められるんやで。あんたがその端緒になるんや!」
「確かに、環境保護には一人一人の行動が大事ですもんね。俺、明日からマイ箸持ってきます」
「よっしゃ、それでこそエコ社会の実現や! 地球の未来は明るいで!!」
なるみ先輩はそう言うと高校の校舎に向けてダッシュしていき、そういえば私は視界にも入っていなかったと気づいた。
その1か月後……
「マイ箸は……あったあった。お昼ご飯いただきまーす」
昼休みの教室で、私は持参したマイ箸を使ってコンビニ弁当を食べようとしていた。
「ちょっと待ちなさい鳴海! コンビニ弁当を食べている人を襲ってどうするの!?」
「止めんといてやゆき、うちは可燃ごみが増えるのが許せへんねん!!」
廊下で騒いでいたのはなるみ先輩で、暴れる彼女を親友である堀江有紀先輩が必死で制止していた。
「ああ、まなちゃんもちょっと逃げといた方がいいよ。なるみが今暴走してるから」
「はたこ先輩、なるみ先輩に一体何が……?」
赤城旗子先輩は1年生の教室に入ると私を教室の隅に避難させてくれて、はたこ先輩は事情を知っているようだった。
「なるみが変な環境保護団体に入ってるんだけど、極端な意見ばっかり聞いたせいでどんどん過激な思想になっちゃってるんだよ。エコのためにエコーチェンバー現象が起きてるとかシャレにならないよ!」
「は、ははは……」
生徒からの通報で駆け付けた先生に引きずられていくなるみ先輩を見て、私はあの人の場合は平常運転のような気がした。
(続く)
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最近の女子高生は思想が強い ~雇用・利子および女子高生の一般りろん~
輪島ライ
大衆娯楽
東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には寛容の精神と資本主義思想が教え込まれている。
社会派ドタバタポリティカルコメディ、ここでも開幕!!
※この作品は「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※これは架空の物語です。過去、あるいは現在において、たまたま実在する人物、出来事と類似していても、それは偶然に過ぎません。
※姉妹作「天然女子高生のためのそーかつ」を並行連載中です。(内容に一部重複があります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる