26 / 181
第1部 天然女子高生のためのそーかつ
第25話 ステルスマーケティング
しおりを挟む
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。
「来週のオープンスクールに向けて、何かいい案はありませんこと? マナ、あなたから何か提案してくださらない?」
「そうですねー、今でも部員は十分多いですし、例年のやり方を踏襲すればいいとは思いますけど」
来週に迫った第2回オープンスクールに向けて、硬式テニス部では予定の空いている部員が集まって会議を開いていた。
前回のオープンスクールと異なり今回は各クラブの紹介イベントや部活の見学・体験が予定されていて、来年入学してくる小学6年生を青田買いするためにどのクラブも綿密な準備を重ねていた。
今日の会議を仕切っているのは2年生の堀江有紀先輩で、ゆき先輩は1年生から唯一参加している私、野掘真奈に何かいいアイディアがないか尋ねていた。
「まなちゃんの意見にも一理あるけど、最近はいくつか新しいクラブが設立されたし、気を抜いてると新入部員を取られちゃうよ。具体的なアイディアは思いつかないけど、いつもとは一味違う勧誘をやった方がいいよ」
「確かに、この前できたゲーム研究部は小学生に人気になりそうですね。でも、私も特に思いつかないです……」
赤城旗子先輩は珍しくまともな意見を口にしていたが、具体的なアイディアは何もないという点では私と同様らしかった。
「皆、うちにええ考えがあるで。この前ネットニュースで見てんけど、最近は表立ってアピールするより目立たへんように宣伝するんが人気なんやって。俗に言うステルスマーケティングっちゅうやつや」
「オークションサイトとかで問題になりましたよね。でも、硬式テニス部のステマって?」
平塚鳴海先輩には腹案があるようだが、硬式テニス部の勧誘で具体的にどうステルスマーケティングを行うのかは想像も付かなかった。
「敵を騙すにはまず味方からいうし、具体的なやり方はうちとゆきだけの秘密にしとくわ。当日楽しみにしといてな」
「分かりました。それでは、今日の会議はここで終了と致しますわ」
ゆき先輩はそう言うとなるみ先輩を連れて部室を出ていき、私は当日先輩方をサポートできるよう頑張ろうと思った。
そしてオープンスクール当日……
「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。世界的プロゲーマーのウメハタが、今日はあの『イカラトゥーン』に挑戦するよ!」
「イカラトゥーン!? わあっ見たい見たい!!」
コンピュータゲーム研究部の活動場所となっている教室の前では部長にして現役プロゲーマーである梅畑伝治君が部活見学の宣伝をしており、中学受験生の子供たちは梅畑君の活躍を見に集まっていた。
「わあ、子供たちが一杯来てるよ。硬式テニス部も負けてられないね」
「そうですね。オタクっぽい小学生だけじゃなくて、運動部に入りそうな男の子も結構来てますし」
ゲーム研究部を遠巻きに眺めて感嘆しているはたこ先輩に、私はなるみ先輩が考えたステルスマーケティングとは一体何なのだろうと期待していた。
「おはようございます。マナと旗子も来ていたのね」
「あっ、ゆき先輩」
階段を上ってきたのはゆき先輩で、私は声がした方に振り向いた。
「ゆき先輩、その格好は……」
「いかがかしら? 鳴海が特別に作ってくれましたのよ」
現れたゆき先輩は硬式テニス部員らしくテニスウェアを身にまとっていたが、そのウェアはノースリーブの上に胸元が大きく開いており、グラマーなゆき先輩だけあって胸の谷間が見事に強調されていた。
ゆき先輩の胸元の肌には黒色のマーカーで「硬式テニス部」と大きく書かれており、これがなるみ先輩が考えたステルスマーケティングのようだった。
「さて、ここからがわたくしの出番ですわ。行って参ります」
「ええ……」
ドン引きする私にも構わずゆき先輩はゲーム研究部の教室の前まで歩き、集まっている小学生男子の1人に話しかけた。
「こんにちは。あなたはゲーム研究部に興味があるの?」
「あっ、はい……!?」
非常に露出の高いテニスウェアを着た美女に話しかけられ、小学生男子は顔を真っ赤にして視線をゆき先輩の胸元に集中させた。
「男の子らしいわね。皆さん、ゲーム研究部はとても楽しいクラブですから、ぜひ見学していってね。それでは、わたくしは硬式テニス部に戻ります」
ゆき先輩は小学生男子たちに当てつけがましくゲーム研究部の宣伝をすると、そのまま踵を返して階段を下りていった。
「そろそろ試合を始めるから、皆も教室に入ってくれ! ウメハタの実力をお見せするよ」
「すみません、僕やっぱり硬式テニス部の方に行きます!」
「俺も!!」
小学生男子たちはゆき先輩を追いかけてゲーム研究部から次々に立ち去り、梅畑君は突然の事態に絶句していた。
「すっごーい、これがステマの力なんだね!!」
「全然ステルスになってないですけどね……」
大量集客に成功したゆき先輩の功績に目を輝かせるはたこ先輩を見て、私は梅畑君に後でお詫びしておこうと思った。
(続く)
「来週のオープンスクールに向けて、何かいい案はありませんこと? マナ、あなたから何か提案してくださらない?」
「そうですねー、今でも部員は十分多いですし、例年のやり方を踏襲すればいいとは思いますけど」
来週に迫った第2回オープンスクールに向けて、硬式テニス部では予定の空いている部員が集まって会議を開いていた。
前回のオープンスクールと異なり今回は各クラブの紹介イベントや部活の見学・体験が予定されていて、来年入学してくる小学6年生を青田買いするためにどのクラブも綿密な準備を重ねていた。
今日の会議を仕切っているのは2年生の堀江有紀先輩で、ゆき先輩は1年生から唯一参加している私、野掘真奈に何かいいアイディアがないか尋ねていた。
「まなちゃんの意見にも一理あるけど、最近はいくつか新しいクラブが設立されたし、気を抜いてると新入部員を取られちゃうよ。具体的なアイディアは思いつかないけど、いつもとは一味違う勧誘をやった方がいいよ」
「確かに、この前できたゲーム研究部は小学生に人気になりそうですね。でも、私も特に思いつかないです……」
赤城旗子先輩は珍しくまともな意見を口にしていたが、具体的なアイディアは何もないという点では私と同様らしかった。
「皆、うちにええ考えがあるで。この前ネットニュースで見てんけど、最近は表立ってアピールするより目立たへんように宣伝するんが人気なんやって。俗に言うステルスマーケティングっちゅうやつや」
「オークションサイトとかで問題になりましたよね。でも、硬式テニス部のステマって?」
平塚鳴海先輩には腹案があるようだが、硬式テニス部の勧誘で具体的にどうステルスマーケティングを行うのかは想像も付かなかった。
「敵を騙すにはまず味方からいうし、具体的なやり方はうちとゆきだけの秘密にしとくわ。当日楽しみにしといてな」
「分かりました。それでは、今日の会議はここで終了と致しますわ」
ゆき先輩はそう言うとなるみ先輩を連れて部室を出ていき、私は当日先輩方をサポートできるよう頑張ろうと思った。
そしてオープンスクール当日……
「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。世界的プロゲーマーのウメハタが、今日はあの『イカラトゥーン』に挑戦するよ!」
「イカラトゥーン!? わあっ見たい見たい!!」
コンピュータゲーム研究部の活動場所となっている教室の前では部長にして現役プロゲーマーである梅畑伝治君が部活見学の宣伝をしており、中学受験生の子供たちは梅畑君の活躍を見に集まっていた。
「わあ、子供たちが一杯来てるよ。硬式テニス部も負けてられないね」
「そうですね。オタクっぽい小学生だけじゃなくて、運動部に入りそうな男の子も結構来てますし」
ゲーム研究部を遠巻きに眺めて感嘆しているはたこ先輩に、私はなるみ先輩が考えたステルスマーケティングとは一体何なのだろうと期待していた。
「おはようございます。マナと旗子も来ていたのね」
「あっ、ゆき先輩」
階段を上ってきたのはゆき先輩で、私は声がした方に振り向いた。
「ゆき先輩、その格好は……」
「いかがかしら? 鳴海が特別に作ってくれましたのよ」
現れたゆき先輩は硬式テニス部員らしくテニスウェアを身にまとっていたが、そのウェアはノースリーブの上に胸元が大きく開いており、グラマーなゆき先輩だけあって胸の谷間が見事に強調されていた。
ゆき先輩の胸元の肌には黒色のマーカーで「硬式テニス部」と大きく書かれており、これがなるみ先輩が考えたステルスマーケティングのようだった。
「さて、ここからがわたくしの出番ですわ。行って参ります」
「ええ……」
ドン引きする私にも構わずゆき先輩はゲーム研究部の教室の前まで歩き、集まっている小学生男子の1人に話しかけた。
「こんにちは。あなたはゲーム研究部に興味があるの?」
「あっ、はい……!?」
非常に露出の高いテニスウェアを着た美女に話しかけられ、小学生男子は顔を真っ赤にして視線をゆき先輩の胸元に集中させた。
「男の子らしいわね。皆さん、ゲーム研究部はとても楽しいクラブですから、ぜひ見学していってね。それでは、わたくしは硬式テニス部に戻ります」
ゆき先輩は小学生男子たちに当てつけがましくゲーム研究部の宣伝をすると、そのまま踵を返して階段を下りていった。
「そろそろ試合を始めるから、皆も教室に入ってくれ! ウメハタの実力をお見せするよ」
「すみません、僕やっぱり硬式テニス部の方に行きます!」
「俺も!!」
小学生男子たちはゆき先輩を追いかけてゲーム研究部から次々に立ち去り、梅畑君は突然の事態に絶句していた。
「すっごーい、これがステマの力なんだね!!」
「全然ステルスになってないですけどね……」
大量集客に成功したゆき先輩の功績に目を輝かせるはたこ先輩を見て、私は梅畑君に後でお詫びしておこうと思った。
(続く)
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
最近の女子高生は思想が強い ~雇用・利子および女子高生の一般りろん~
輪島ライ
大衆娯楽
東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には寛容の精神と資本主義思想が教え込まれている。
社会派ドタバタポリティカルコメディ、ここでも開幕!!
※この作品は「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※これは架空の物語です。過去、あるいは現在において、たまたま実在する人物、出来事と類似していても、それは偶然に過ぎません。
※姉妹作「天然女子高生のためのそーかつ」を並行連載中です。(内容に一部重複があります)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!
コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。
性差とは何か?
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる