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第1部 天然女子高生のためのそーかつ
第23話 霊感商法
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「あー困ったなー、困った困った」
「はたこ先輩、また何かお悩みですか?」
硬式テニス部の練習のために着替えている時、赤城旗子先輩が私の方をチラチラ見ながら呟いていたので私はいつものように事情を尋ねた。
「お兄ちゃん今無職なんだけど、早く就職したいからって新興宗教の団体から高い壺をいくつも買ってきて困ってるんだよ。今は自分の貯金切り崩してるからまだいいけど、そのうち家のお金に手を付けたらどうしようって」
「それは現実的に困りますよね……」
はたこ先輩のお兄さんである赤城点太郎さんは諸事情により大学を退学になったばかりで、就職先がまだ見つかっていないとは聞いていた。
「という訳なんだけど、円城寺君はどう思う? 仏教的に壺って意味あるの?」
「少なくとも私の宗派では壺は扱いませんが、そもそも仏具とは僧侶が使うもので、おいそれと市井の人々に売っていいものではありません。どこの宗派でも感心できませんね」
宗教の話題は専門家に聞くのが早いということで、私は点太郎さんの問題について同じクラスの円城寺網人君(臨済宗)に助言を求めていた。
「それなら、円城寺君からはたこ先輩のお兄さんを説得して貰うことってできる?」
「協力したいのはやまやまなのですが、俗に言うかると宗教の信者の方が私の話に耳を傾けてくださるとは思えないのです……」
「円城寺さん、そんなことを言っていてはいけません!」
教室の後方から届いた声に振り向くと、そこには同じクラスの国靖まひるさん(無神論者)の姿があった。
「ただの壺に霊的な力なんてあるはずがないんですから、赤城先輩のお家に行って全部叩き割ってしまえばいいんです。円城寺さんも一緒にやりましょう!」
「そ、それは流石にまずいんじゃない?」
「うーむ、叩き割るのは気が引けますが国靖殿のご意見にも一理ありますね。では、放課後に皆で参るとしましょう」
円城寺君は国靖さんの強硬姿勢を見て何かを思い付いたらしく、私ははたこ先輩にメッセージアプリで連絡した上でその日の放課後に3人で先輩の自宅を訪れた。
「やあ、君たちはマルクス高校の生徒さんだね。いつも妹がお世話になっているから、特別に僕のコレクションを見せてあげよう。今のところこの5つだよ」
行く途中で国靖さんが買ってきた和菓子を手土産として渡すと、点太郎さんは私たちを倉庫に案内して高い金を出して買ったという壺を見せてくれた。
「これはこれは立派な壺ですね。ですが、壺は人のためにあるのであり、人が壺のためにあるのではありませんから、やはり実生活に活用してみるべきでしょう。国靖殿、あれをお願いします」
「分かりました。こぼさないよう気を付けてください」
国靖さんはそう言うと円城寺君が持ってきたスポーツバッグのファスナーを開き、中から大量の塩が入った袋を取り出した。
「さあ、塩・梅・塩・梅で交互に重ねるのですよ。ほれ」
円城寺君は国靖さんから塩の袋を受け取ると一番大きな壺に中身を流し入れ、国靖さんはタッパーに入った焼酎漬けの梅をその上に放り込み始めた。
「なっ、何をするだァーーーーーッ!?」
「これで美味しい梅干しを作れますよ! なあに、壺を買ったお金は売り上げで補填すればよいのです」
「あ、この梅干し美味しい。円城寺君、どんどん作っちゃってよ」
目の前で行われている惨事に仰天する点太郎さんを尻目にはたこ先輩はサンプルとして持参された円城寺君の梅干しを頂いており、私は少しでも返品できるようにとこっそり壺を一つ持ち出した。
その1か月後、私は自宅のリビングでくつろぎながらテレビのワイドショーを見ていた。
『今日のズームインレフトウイングでは最近話題の自家製梅干し業者を取材してきました! それではVTRをお願いします』
『最初は新興宗教に騙されて壺をいくつも買ってしまったのですが、ある人の影響で梅干しを作ってみたらこれが美味しくて。今では梅干し販売で生計を立てられています』
「姉ちゃん、最近人気の梅干し買ってきたよ! 職人さんと知り合いなんだって?」
「は、ははは……」
部活から帰ってきた弟の声に、私は人間万事塞翁が馬という言葉を思い浮かべた。
(続く)
「あー困ったなー、困った困った」
「はたこ先輩、また何かお悩みですか?」
硬式テニス部の練習のために着替えている時、赤城旗子先輩が私の方をチラチラ見ながら呟いていたので私はいつものように事情を尋ねた。
「お兄ちゃん今無職なんだけど、早く就職したいからって新興宗教の団体から高い壺をいくつも買ってきて困ってるんだよ。今は自分の貯金切り崩してるからまだいいけど、そのうち家のお金に手を付けたらどうしようって」
「それは現実的に困りますよね……」
はたこ先輩のお兄さんである赤城点太郎さんは諸事情により大学を退学になったばかりで、就職先がまだ見つかっていないとは聞いていた。
「という訳なんだけど、円城寺君はどう思う? 仏教的に壺って意味あるの?」
「少なくとも私の宗派では壺は扱いませんが、そもそも仏具とは僧侶が使うもので、おいそれと市井の人々に売っていいものではありません。どこの宗派でも感心できませんね」
宗教の話題は専門家に聞くのが早いということで、私は点太郎さんの問題について同じクラスの円城寺網人君(臨済宗)に助言を求めていた。
「それなら、円城寺君からはたこ先輩のお兄さんを説得して貰うことってできる?」
「協力したいのはやまやまなのですが、俗に言うかると宗教の信者の方が私の話に耳を傾けてくださるとは思えないのです……」
「円城寺さん、そんなことを言っていてはいけません!」
教室の後方から届いた声に振り向くと、そこには同じクラスの国靖まひるさん(無神論者)の姿があった。
「ただの壺に霊的な力なんてあるはずがないんですから、赤城先輩のお家に行って全部叩き割ってしまえばいいんです。円城寺さんも一緒にやりましょう!」
「そ、それは流石にまずいんじゃない?」
「うーむ、叩き割るのは気が引けますが国靖殿のご意見にも一理ありますね。では、放課後に皆で参るとしましょう」
円城寺君は国靖さんの強硬姿勢を見て何かを思い付いたらしく、私ははたこ先輩にメッセージアプリで連絡した上でその日の放課後に3人で先輩の自宅を訪れた。
「やあ、君たちはマルクス高校の生徒さんだね。いつも妹がお世話になっているから、特別に僕のコレクションを見せてあげよう。今のところこの5つだよ」
行く途中で国靖さんが買ってきた和菓子を手土産として渡すと、点太郎さんは私たちを倉庫に案内して高い金を出して買ったという壺を見せてくれた。
「これはこれは立派な壺ですね。ですが、壺は人のためにあるのであり、人が壺のためにあるのではありませんから、やはり実生活に活用してみるべきでしょう。国靖殿、あれをお願いします」
「分かりました。こぼさないよう気を付けてください」
国靖さんはそう言うと円城寺君が持ってきたスポーツバッグのファスナーを開き、中から大量の塩が入った袋を取り出した。
「さあ、塩・梅・塩・梅で交互に重ねるのですよ。ほれ」
円城寺君は国靖さんから塩の袋を受け取ると一番大きな壺に中身を流し入れ、国靖さんはタッパーに入った焼酎漬けの梅をその上に放り込み始めた。
「なっ、何をするだァーーーーーッ!?」
「これで美味しい梅干しを作れますよ! なあに、壺を買ったお金は売り上げで補填すればよいのです」
「あ、この梅干し美味しい。円城寺君、どんどん作っちゃってよ」
目の前で行われている惨事に仰天する点太郎さんを尻目にはたこ先輩はサンプルとして持参された円城寺君の梅干しを頂いており、私は少しでも返品できるようにとこっそり壺を一つ持ち出した。
その1か月後、私は自宅のリビングでくつろぎながらテレビのワイドショーを見ていた。
『今日のズームインレフトウイングでは最近話題の自家製梅干し業者を取材してきました! それではVTRをお願いします』
『最初は新興宗教に騙されて壺をいくつも買ってしまったのですが、ある人の影響で梅干しを作ってみたらこれが美味しくて。今では梅干し販売で生計を立てられています』
「姉ちゃん、最近人気の梅干し買ってきたよ! 職人さんと知り合いなんだって?」
「は、ははは……」
部活から帰ってきた弟の声に、私は人間万事塞翁が馬という言葉を思い浮かべた。
(続く)
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