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人権戦隊ヒュウライジャーVS悪の組織ブラックワーク
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俺の名はミサイルカンキツ。
かつては日本の一般企業で係長を務めていたが、帰宅中の電車内で痴漢冤罪の容疑をかけられ線路に飛び込んで自死したことで俺の人間としての生涯は終わった。
俺の遺体は近隣の病院に運ばれたが、その病院が秘密結社ブラックワークの隠れ蓑であったことで俺はこの世に再び生まれ変わった。
ミサイルとイルカと柑橘という3種類の素材をモチーフとする改造人間として復活した俺は、自分を甦らせてくれたブラックワークに報いるため日夜悪事に励んでいる。
悪事の内容は様々だが、その目的についてはひとまず置いておこう。非合法的な秘密結社というのはいつの時代も目的などあってないようなものだ。活動の邪魔になるので片手間に壊滅させたが、かつて日本で暗躍していた暴力団という奴らも同じような事情だったのではないだろうか。
ともかく俺は年中悪事を続け、それを邪魔できる者は事実上存在しなかった。仮面の変身ヒーローは変身中を狙えば一撃だったし、宇宙からやってきた刑事たちは地球の病原体によって自滅した。巨大な宇宙人も何度か襲ってきたが地球人には正体も分からない巨大生命体の方が脅威に思えたらしく、米軍の攻撃やら何やらにうんざりして全員母星に帰ってしまった。
そんな俺の悪事を初めて妨げたのは、意外にも普通の地球人たちだった。
「行け、バイトロンども! 今日は書店の本棚のストックを荒らしてくるのだ!」
「「ヨロコンデー!!」」
大阪府中心にある地下街で、俺は配下の戦闘員であるバイトロンたちに命令を下していた。
彼らも俺と同じ改造人間だが、指揮官になれるほどの資質がないため今では上位の改造人間(怪人)の命令に従うだけの存在として扱われている。
今日の悪事は書店の本棚の下部にあるストックを勝手に開け、そこにある本を適当に散らばせておくことだ。ストックにある本は直接客の手に渡ることを想定されていないため書店は勝手にストックの中の本を取られると困るらしい。これは豆知識だ。
「ククク……書店が疲弊すれば地球人に本は行き渡らなくなり、知能の劣化は社会問題になるというものだ」
書店が開いていなくても電子書籍はネットで買えるし、大阪府中心街の書店をいくつか荒らした所で地球全体で見ればほとんど影響がないことは言わない約束だ。
「ちょっと待った!」
バイトロンが出払った所で、俺は自分に向けて発された声に気付いた。
「何だ!?」
振り向いた先には赤・青・黄・緑・桃の5人の戦士が並び立っていた。
「私たちは人権戦隊ヒュウライジャー。人々の自然権を侵害し、公共の福祉を乱す悪人は許しません!」
桃色の戦士(女性らしい)はそう言って俺を非難した。
「また正義の味方とやらか。まあいい、最近は歯ごたえのある敵に飢えていた所だ。俺が自ら相手をしてやりたいが、まずはお手並み拝見といこう」
俺はそこまで話すと周囲に向けて大声で叫んだ。
「現れろ、バイトロンども!」
「「ヨロコンデー!!」」
周囲の店から突如として10人程度のバイトロンが現れた。俺の率いるブラックワーク部隊が現れた時点で市民たちは避難しているので特に悲鳴などは上がらない。
こういう事態に備え、俺は必ずバイトロンたちを近くに潜伏させておくことにしているのだ。
「バイトロンども、奴らを叩きのめしてやれ!」
「「ヨロコンデー!!」」
「ちょっと待った!」
バイトロンの返事を遮り、青い戦士が再び制止の言葉を発した。
「今度は何だ?」
「あの戦闘員たちは我々が来なければ出番がなかった訳ですが、潜伏している間の給与は支払われているのですか?」
戦闘開始直前に何を言っているのかよく分からないが、俺は一応答えてやることにした。
「そんなものを払う必要はない。出番がなければ給与など出すものか」
「それ、労働基準法違反っすよ」
緑の戦士が若者言葉でそう指摘した。
「労働基準法だと?」
「出番がないっつっても戦闘員たちの私生活は潜伏してた時間の分だけ犠牲になった訳でしょ? だったらそれに見合うだけの給料は払うべきでしょ」
「まあ、そうかも知れんが……」
バイトロンたちは戦闘時には俺の指示に従うだけの存在とはいえ、普段はブラックワーク傘下の企業で従業員として働いている。その時にはちゃんと時給を支払っているのだ。
「大体なあ、戦闘員は自分の仕事についてあらかじめ説明受けてから入社しとんのか? まさか一般事務職と偽って戦闘行為に従事させとんちゃうやろな」
黄色の戦士が関西弁で追及を続ける。
「ううむ……」
バイトロンは様々な事情で改造人間となった元人間だが、無料で改造手術を受けた見返りとして低賃金でこき使われているのは事実だ。
「悪の戦闘員とはいえ仕事に嫌気が差すこともあるだろう。貴方がたの組織は退職に伴う手続きなどを定め、それを戦闘員たちに公開しているのか?」
リーダー格らしき赤の戦士が問いかけた。
「これまで退職しようとしたバイトロンはいないから、特にルールを定めてはいないが……」
「ルールがないというが、組織の側がルールを定めていないがために退職を言い出せない戦闘員もいるのではないか? だとしたら重大な人権侵害だぞ!」
「そ、そうか……」
強い口調で詰め寄る赤の戦士に、俺は一戦も交えていないにも関わらずこいつには勝てそうにないと感じた。
「あなたは話が通じる怪人のようだから今日はここで帰るわ。最後に言っておくけど、もし悪の組織としてずっと活動していきたいなら私たちの意見にも耳を貸すことね」
桃色の戦士が最後にそう言うと、ヒュウライジャーたちはそのまま踵を返して去っていった。
「どうします、ミサイルカンキツ様。奴らを攻撃しますか?」
バイトロンの一人が尋ねた。
「……いや、今日はやめておこう。作戦もひとまず中止して基地に戻るぞ」
俺は携帯端末を操作し、書店に向かったバイトロンたちに撤退命令を出した。
それから。
「おい、バイトロン1922」
「何でしょう?」
俺はすぐそこにいるバイトロン1922(個人情報保護のため登録番号で呼ばれる)に一言、
「いつも文句も言わず働いてくれて、ありがとうな」
と、感謝を伝えた。
「ミサイルカンキツ様……」
その時のバイトロンの表情は、マスクに隠されていて分からなかった。
それから数か月が経った。
「ミサイルカンキツは何をしている。ここの所悪事の進捗が遅れているぞ!」
怒鳴り声を上げながら組織の幹部であるホッチキスライムが基地に入ってきた。ホッチキスとスライムとライムをモチーフとした改造人間である彼は俺が管理する基地の視察に来ていたのだった。
「ホッチキスライム様、そんなに大声を出さないでくださいよ。社員の気が散ります」
「何だと!?」
俺の発言に対してホッチキスライムは再び怒りの声を上げた。
「おはようございまーす。あ、もう昼間か」
眠そうな声で挨拶しながら最近配属されたバイトロン2034が基地に入ってきた。
「貴様、今は正午だぞ! 出社時刻を守らないとはどういうことだ!」
「危ない!」
ホッチキスライムが振り上げた鞭を、俺は小型ミサイルを射出して吹き飛ばした。
「な、何をする。幹部に攻撃を加えるとは、貴様は粛清対象になりたいのか!」
「それはこちらの台詞です。ホッチキスライム様がなさろうとした行為は体罰といって、社員に対しては絶対に行ってはならないものです!」
「ミサイルカンキツ様……」
バイトロン2034(戦闘時でないのでマスクを外している)は自分を守った俺の行為に感動の目を向けていた。
「体罰だと? 確かにそういう見方もあるな……」
自分がこれまで行ってきた懲罰方法は人権侵害だと気づいたのか、ホッチキスライムは少し考え込んでいた。
「物騒なことはなさらず、今日はゆっくり視察していって下さい。ちなみに先ほどのバイトロンは本日フレックスタイムでの出社です」
「そうだったのか……」
気まずそうな顔をするホッチキスライムを先導し、俺は基地内を案内していった。
俺が自分の基地で実施していたのは、以下のような働き方改革だった。
悪事を働くのは勤務時間内として、退社時刻を超過した場合は残業代を支払うか翌日以降の業務を減らす。
バイトロンが組織の命令で悪事を働いている時、正義の味方の攻撃で負傷した際は労災扱いとして多額の補償金を支払う。
出社時と退社時にはタイムカードを通し、その記録は外部の第3者機関が管理する。
悪事成功後の飲み会は参加を任意として、アルコールを注文しないバイトロンの支出は割安の料金とする。
こういった働き方改革の実例を見てホッチキスライムは感心していた。
「中々面白いことをやるではないか。確かにバイトロンどもの忠誠心を育むには最適な策だな」
「いえ、ホッチキスライム様。私はそういった目的で働き方改革を行ったのではありません」
「そうなのか?」
俺の発言にホッチキスライムは驚きの声を上げた。
「我々は悪の組織を運営していますが、非合法的な仕事内容であるからこそバイトロンの中には退職を考えてしまう者もいます。怪人だけでは悪事は成り立たない訳ですから、バイトロンに退職されると組織全体が困るのです。だからこそ働き方改革が必要なのです」
「確かにそうだな……」
「ブラックワークのさらなる繁栄のため、世界中の基地に働き方改革の提案をお願いします。その際は退職時の手続きを定めてバイトロンたちに開示することもお忘れなく」
「了解だ。貴様の提案には充分説得力があるから上層部にかけあってみよう」
「ありがとうございます!」
俺がそう言うとホッチキスライムは片手を上げてそのまま基地を去っていった。
あれからブラックワークは極めて労働環境のよい悪の組織として有名になり、現在ではバイトロンへの応募が絶えない。バイトロンへの改造は可逆的なので今は全員に入社試験を課しているが、いずれは抽選システムを導入する必要があるかも知れない。
ブラックワークがこうして悪事を続けていられるのも、全てはあのヒュウライジャーたちのアドバイスのおかげだ。彼らにまた会うことがあれば、その時は深く感謝を伝えたい。
(完)
かつては日本の一般企業で係長を務めていたが、帰宅中の電車内で痴漢冤罪の容疑をかけられ線路に飛び込んで自死したことで俺の人間としての生涯は終わった。
俺の遺体は近隣の病院に運ばれたが、その病院が秘密結社ブラックワークの隠れ蓑であったことで俺はこの世に再び生まれ変わった。
ミサイルとイルカと柑橘という3種類の素材をモチーフとする改造人間として復活した俺は、自分を甦らせてくれたブラックワークに報いるため日夜悪事に励んでいる。
悪事の内容は様々だが、その目的についてはひとまず置いておこう。非合法的な秘密結社というのはいつの時代も目的などあってないようなものだ。活動の邪魔になるので片手間に壊滅させたが、かつて日本で暗躍していた暴力団という奴らも同じような事情だったのではないだろうか。
ともかく俺は年中悪事を続け、それを邪魔できる者は事実上存在しなかった。仮面の変身ヒーローは変身中を狙えば一撃だったし、宇宙からやってきた刑事たちは地球の病原体によって自滅した。巨大な宇宙人も何度か襲ってきたが地球人には正体も分からない巨大生命体の方が脅威に思えたらしく、米軍の攻撃やら何やらにうんざりして全員母星に帰ってしまった。
そんな俺の悪事を初めて妨げたのは、意外にも普通の地球人たちだった。
「行け、バイトロンども! 今日は書店の本棚のストックを荒らしてくるのだ!」
「「ヨロコンデー!!」」
大阪府中心にある地下街で、俺は配下の戦闘員であるバイトロンたちに命令を下していた。
彼らも俺と同じ改造人間だが、指揮官になれるほどの資質がないため今では上位の改造人間(怪人)の命令に従うだけの存在として扱われている。
今日の悪事は書店の本棚の下部にあるストックを勝手に開け、そこにある本を適当に散らばせておくことだ。ストックにある本は直接客の手に渡ることを想定されていないため書店は勝手にストックの中の本を取られると困るらしい。これは豆知識だ。
「ククク……書店が疲弊すれば地球人に本は行き渡らなくなり、知能の劣化は社会問題になるというものだ」
書店が開いていなくても電子書籍はネットで買えるし、大阪府中心街の書店をいくつか荒らした所で地球全体で見ればほとんど影響がないことは言わない約束だ。
「ちょっと待った!」
バイトロンが出払った所で、俺は自分に向けて発された声に気付いた。
「何だ!?」
振り向いた先には赤・青・黄・緑・桃の5人の戦士が並び立っていた。
「私たちは人権戦隊ヒュウライジャー。人々の自然権を侵害し、公共の福祉を乱す悪人は許しません!」
桃色の戦士(女性らしい)はそう言って俺を非難した。
「また正義の味方とやらか。まあいい、最近は歯ごたえのある敵に飢えていた所だ。俺が自ら相手をしてやりたいが、まずはお手並み拝見といこう」
俺はそこまで話すと周囲に向けて大声で叫んだ。
「現れろ、バイトロンども!」
「「ヨロコンデー!!」」
周囲の店から突如として10人程度のバイトロンが現れた。俺の率いるブラックワーク部隊が現れた時点で市民たちは避難しているので特に悲鳴などは上がらない。
こういう事態に備え、俺は必ずバイトロンたちを近くに潜伏させておくことにしているのだ。
「バイトロンども、奴らを叩きのめしてやれ!」
「「ヨロコンデー!!」」
「ちょっと待った!」
バイトロンの返事を遮り、青い戦士が再び制止の言葉を発した。
「今度は何だ?」
「あの戦闘員たちは我々が来なければ出番がなかった訳ですが、潜伏している間の給与は支払われているのですか?」
戦闘開始直前に何を言っているのかよく分からないが、俺は一応答えてやることにした。
「そんなものを払う必要はない。出番がなければ給与など出すものか」
「それ、労働基準法違反っすよ」
緑の戦士が若者言葉でそう指摘した。
「労働基準法だと?」
「出番がないっつっても戦闘員たちの私生活は潜伏してた時間の分だけ犠牲になった訳でしょ? だったらそれに見合うだけの給料は払うべきでしょ」
「まあ、そうかも知れんが……」
バイトロンたちは戦闘時には俺の指示に従うだけの存在とはいえ、普段はブラックワーク傘下の企業で従業員として働いている。その時にはちゃんと時給を支払っているのだ。
「大体なあ、戦闘員は自分の仕事についてあらかじめ説明受けてから入社しとんのか? まさか一般事務職と偽って戦闘行為に従事させとんちゃうやろな」
黄色の戦士が関西弁で追及を続ける。
「ううむ……」
バイトロンは様々な事情で改造人間となった元人間だが、無料で改造手術を受けた見返りとして低賃金でこき使われているのは事実だ。
「悪の戦闘員とはいえ仕事に嫌気が差すこともあるだろう。貴方がたの組織は退職に伴う手続きなどを定め、それを戦闘員たちに公開しているのか?」
リーダー格らしき赤の戦士が問いかけた。
「これまで退職しようとしたバイトロンはいないから、特にルールを定めてはいないが……」
「ルールがないというが、組織の側がルールを定めていないがために退職を言い出せない戦闘員もいるのではないか? だとしたら重大な人権侵害だぞ!」
「そ、そうか……」
強い口調で詰め寄る赤の戦士に、俺は一戦も交えていないにも関わらずこいつには勝てそうにないと感じた。
「あなたは話が通じる怪人のようだから今日はここで帰るわ。最後に言っておくけど、もし悪の組織としてずっと活動していきたいなら私たちの意見にも耳を貸すことね」
桃色の戦士が最後にそう言うと、ヒュウライジャーたちはそのまま踵を返して去っていった。
「どうします、ミサイルカンキツ様。奴らを攻撃しますか?」
バイトロンの一人が尋ねた。
「……いや、今日はやめておこう。作戦もひとまず中止して基地に戻るぞ」
俺は携帯端末を操作し、書店に向かったバイトロンたちに撤退命令を出した。
それから。
「おい、バイトロン1922」
「何でしょう?」
俺はすぐそこにいるバイトロン1922(個人情報保護のため登録番号で呼ばれる)に一言、
「いつも文句も言わず働いてくれて、ありがとうな」
と、感謝を伝えた。
「ミサイルカンキツ様……」
その時のバイトロンの表情は、マスクに隠されていて分からなかった。
それから数か月が経った。
「ミサイルカンキツは何をしている。ここの所悪事の進捗が遅れているぞ!」
怒鳴り声を上げながら組織の幹部であるホッチキスライムが基地に入ってきた。ホッチキスとスライムとライムをモチーフとした改造人間である彼は俺が管理する基地の視察に来ていたのだった。
「ホッチキスライム様、そんなに大声を出さないでくださいよ。社員の気が散ります」
「何だと!?」
俺の発言に対してホッチキスライムは再び怒りの声を上げた。
「おはようございまーす。あ、もう昼間か」
眠そうな声で挨拶しながら最近配属されたバイトロン2034が基地に入ってきた。
「貴様、今は正午だぞ! 出社時刻を守らないとはどういうことだ!」
「危ない!」
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バイトロン2034(戦闘時でないのでマスクを外している)は自分を守った俺の行為に感動の目を向けていた。
「体罰だと? 確かにそういう見方もあるな……」
自分がこれまで行ってきた懲罰方法は人権侵害だと気づいたのか、ホッチキスライムは少し考え込んでいた。
「物騒なことはなさらず、今日はゆっくり視察していって下さい。ちなみに先ほどのバイトロンは本日フレックスタイムでの出社です」
「そうだったのか……」
気まずそうな顔をするホッチキスライムを先導し、俺は基地内を案内していった。
俺が自分の基地で実施していたのは、以下のような働き方改革だった。
悪事を働くのは勤務時間内として、退社時刻を超過した場合は残業代を支払うか翌日以降の業務を減らす。
バイトロンが組織の命令で悪事を働いている時、正義の味方の攻撃で負傷した際は労災扱いとして多額の補償金を支払う。
出社時と退社時にはタイムカードを通し、その記録は外部の第3者機関が管理する。
悪事成功後の飲み会は参加を任意として、アルコールを注文しないバイトロンの支出は割安の料金とする。
こういった働き方改革の実例を見てホッチキスライムは感心していた。
「中々面白いことをやるではないか。確かにバイトロンどもの忠誠心を育むには最適な策だな」
「いえ、ホッチキスライム様。私はそういった目的で働き方改革を行ったのではありません」
「そうなのか?」
俺の発言にホッチキスライムは驚きの声を上げた。
「我々は悪の組織を運営していますが、非合法的な仕事内容であるからこそバイトロンの中には退職を考えてしまう者もいます。怪人だけでは悪事は成り立たない訳ですから、バイトロンに退職されると組織全体が困るのです。だからこそ働き方改革が必要なのです」
「確かにそうだな……」
「ブラックワークのさらなる繁栄のため、世界中の基地に働き方改革の提案をお願いします。その際は退職時の手続きを定めてバイトロンたちに開示することもお忘れなく」
「了解だ。貴様の提案には充分説得力があるから上層部にかけあってみよう」
「ありがとうございます!」
俺がそう言うとホッチキスライムは片手を上げてそのまま基地を去っていった。
あれからブラックワークは極めて労働環境のよい悪の組織として有名になり、現在ではバイトロンへの応募が絶えない。バイトロンへの改造は可逆的なので今は全員に入社試験を課しているが、いずれは抽選システムを導入する必要があるかも知れない。
ブラックワークがこうして悪事を続けていられるのも、全てはあのヒュウライジャーたちのアドバイスのおかげだ。彼らにまた会うことがあれば、その時は深く感謝を伝えたい。
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