17 / 30
第一部
17.イフラース様の物語
しおりを挟む
イフサーンとイフラースは裕福な貴族の家に双子の男の子として生まれた。
男性が生まれること自体が希少なのに、双子ということで、両親も乳母も、イフサーンとイフラースを死なせないように育てようと必死になった。
その結果として、イフサーンとイフラースはとても甘やかされて育った。
イフサーンとイフラースにはそれぞれ乳母がついていて、イフサーンの部屋とイフラースの部屋は別々だった。
違う部屋にいるそっくりな兄を気にしつつも、イフラースは乳母がとても信心深かったので、経典を読み、神の教えを学びながら大きくなった。
神は富める者は貧しいものに分け与えよと仰っていた。
イフラースは貧しいものに与えるだけのものは持っていなかったし、市井に出ることは許されていなかったので、屋敷の中だけでもできることをしようと考えた。
そのときに乳母の家の近くに捨て猫がいるということで、イフラースはその捨て猫を引き取って育てることにした。
それがイフラース十歳のとき。
最初は懐かなくて、毛もバサバサ、片目も目やにで開かないような子猫を、暖かいタオルで日に何度も顔を拭いてやり、体を拭いてやっていると、ふわふわの可愛い猫に育った。
毎日猫に餌をやって、庭で遊ばせていたが、あるとき猫が食べ物を吐いて苦しんでいるのに気付く。医者に見せると、何かよくないものを拾い食いしてしまったのではないかと話をしてくれた。
猫を医者に見せた数日後、イフラースは見てしまった。
庭でイフラースの猫に食べ物を与えているイフサーンを。
イフラースはイフサーンを問い詰めた。
「どれだけ毒物を食べさせれば死ぬのか興味があっただけなんだ。どうせ、拾ってきた猫だろう?」
イフラースにとっては目やにを拭いて、体を拭いて、毎日糞の始末もした可愛い猫なのに、イフサーンにとっては実験動物のようにしか映っていない。その事実が怖くて、イフラースはその猫がこれ以上害されないように、乳姉妹のところに引き取ってもらった。
「やっぱり、猫じゃ分からないな」
恐ろしいことを言ってイフサーンがイフラースの食事にも何かを混入させ始めたのはその時期だった。イフラースは気付いて、自分は肉や魚を食べられないということにした。
肉や魚を食べられないのならば、厨房ではイフラースのために特別に作るしかない。イフサーンが手を加えられないようにするにはそうするしかなかったのだ。
「肉や魚を食べなければ大きくなれませんよ」
「僕はチーズやヨーグルトを食べているから大丈夫だよ」
心配する乳母に本当のことを言えず、イフラースはそう誤魔化した。
後宮に上がってからもイフサーンが悪い癖を出さないか、イフラースはずっと心配していた。後宮には次期皇帝陛下の父親となる千里様もおられる。
イフラースはイフサーンの関心ができる限り自分に向くように、そして、イフサーンが妙なものを仕入れないように、監視を続けていた。
イフサーンの手に入れたものを真似して手に入れるのはそのためだった。
イフサーンが化粧品と偽って毒物を手に入れていないか、イフラースはずっと監視していたのだ。
そして、イフサーンが遂に毒物を手にしたというのが分かった。
すぐに商人を呼び同じものを取り寄せると、イフサーンがその毒物を使ったときの証拠のためにイフラースはそれを化粧台の引き出しの一番奥にしまい込んだ。
後宮生活の刺激のなさに飽きていたイフサーンが、イフラースのサフランを入れた米と野菜を炒めた料理に黄色の絵具を混ぜ込んだときにも、イフラースは匂いですぐに気付いた。
椀を投げ捨てて誰も食べないようにしつつ、イフラースは「イフサーンが肉を紛れ込ませていた」と言うことでイフサーンを庇ってしまった。
性格が捻じ曲がって、最悪の兄であっても、イフラースにとってはイフサーンはたった一人の双子の兄だったのだ。
その後で、デメトリオの事件が起きて、イフラースはすぐにイフサーンの仕業だということに気付いた。
もう隠すことはできない。
イフサーンは皇帝陛下の妾の一人を害したのだから、後宮から追い出されてしまう。
戦々恐々としつつ、いつか裁かれる日が来たら、全てを話そうとイフラースは決めていた。
長いイフラース様の話を聞き終わって、皇帝陛下はイフサーン様に向き直る。
イフサーン様はもう青ざめていなかった。不敵な笑みを浮かべている。
「そなた、デメトリオで試したのだな?」
「そうだ。ひとがどれくらいの毒物で死ぬのか、幼い頃から興味があった。私をイフラースと間違えて縋って来たデメトリオに怒りもあった。私がイフラースに毒を盛ったのにバレてしまったのをあざ笑われている気分になった」
「全くの逆恨みではないか! デメトリオは、そんなことで毒を飲まされたのか!?」
「飲んだ後の残りの瓶は取り巻きに処分させた。忠誠の証に、一口ずつ飲ませて行ってもよかったと後悔している」
なんということをイフサーン様は言っているのだろう。恐ろしくなった私がよろめくと、シャムス様に肩を支えられる。シャムス様の逞しい腕に支えられて、私はほっと息を吐いていた。
「騎士たちよ、イフサーンを捕らえて牢に入れよ! イフラース、そなたからも改めて話は聞く。そなたも後宮に毒物を持ち込んだのは変わりない」
「はい、いつでもお受けいたします」
「イフラース、もっと早くに私に伝えて欲しかった」
「お許しください……あんな奴でも、私には大事な兄なのです」
平伏するイフラース様に苦々しく言った皇帝陛下に、イフラース様は顔を上げないままにつらい口調で答えていた。
「デメトリオの処遇はどうしますか?」
「デメトリオにも真実を伝えた上で、後宮に戻りたいかどうか聞かせよう」
「心得ました。デメトリオにこのことを伝えて、処遇を聞く相手はどういたしますか?」
シャムス様の問いかけに、皇帝陛下の視線が私に向く。
「伝達、そなたならば本心を聞くことができよう。それが、取材にもなるのであろう?」
「皇帝陛下がお望みならば、私が参ります」
「次は、傷付いたイフラースを慰めるデメトリオの物語を書くがいい」
これくらいの楽しみがなければ、この憂鬱には耐えられない。
皇帝陛下のため息はどこまでも重々しいものだった。
その夜は皇帝陛下は自分の部屋に戻られて休まれた。私は千里様の部屋に呼ばれて、事の次第を聞かれた。
「イフラース様がイフサーン様の幼少期からのことを語ってくださいました。イフサーン様はずっと毒物に興味があって、毒物をイフラース様の可愛がっている猫に飲ませたこともあるそうです」
「猫に!? なんと惨いことを」
飼い猫は人間に世話をされて、人間の手で与えられる餌を食べて生きている。信頼して食べた餌に毒が混じっていたなど、猫にとっては酷い裏切りだ。
「猫、か。私も猫を飼いたいな。皇帝陛下に頼んだら飼わせてくれるだろうか?」
「これまで頼んだことはなかったのですか?」
「私は後宮で一番地位が高い。私が飼い出すと、他のものも飼い出すのではないかと思ったのだ。後宮が猫だらけになると困るだろう?」
後宮が猫だらけになると困るのだろうか。
私は猫が好きだし、イフラース様も猫がお好きなようなので、後宮が猫だらけになったら喜ぶものは多い気がする。
「まぁ、犬派もおりましょうね」
「犬も飼うか。犬は外で飼わねばなるまいな」
後宮の自殺未遂事件が解決して千里様の心も、こんな話ができるくらいに軽くなっているようだった。
「皇帝陛下は貴族たちを集めて伝達の物語を披露するためのお茶会を計画している。私の同郷で、部下の伝達の物語が広まると思うと私も誇らしい」
「え!? お茶会は本当に開くのですか!?」
私がこれまでに書いた小説と言えば、最初にシャムス様が偶然見て、皇帝陛下に持って行った、後宮に入る男性が従者の男性に別れを告げるときに、最後に抱かれるもの。
次に、アズハル様をモデルにした、高貴な男性が家庭教師に恋をしていて、素直になれずにいる両片思いもの。
その次が、イフサーン様とイフラース様の両方の視点で書いた双子の近親相姦もの。
四番目が、ニキアス様が故郷から連れて来た従者に恋心を抱かれているが素直になれないツンデレもの。
五番目が、ジェレミア様と武芸指南役の爽やかな全年齢ボーイズラブ。
そして、最後に書いたのが、イフサーン様とイフラース様にデメトリオを交えた嫉妬ものだった。
どれも側室をモデルにしていて、身内の方が読めばすぐにバレてしまう。
「どうしましょう……焼け野原になってしまう……」
「伝達の物語が素晴らしいことは皇帝陛下のお墨付きなのだ。胸を張れ、伝達」
「無理ですぅ! あれをお身内の方に読まれてしまうと思うと」
皇帝陛下のお茶会をどうにかして止められないか。
私はそのことを考え始めていた。
男性が生まれること自体が希少なのに、双子ということで、両親も乳母も、イフサーンとイフラースを死なせないように育てようと必死になった。
その結果として、イフサーンとイフラースはとても甘やかされて育った。
イフサーンとイフラースにはそれぞれ乳母がついていて、イフサーンの部屋とイフラースの部屋は別々だった。
違う部屋にいるそっくりな兄を気にしつつも、イフラースは乳母がとても信心深かったので、経典を読み、神の教えを学びながら大きくなった。
神は富める者は貧しいものに分け与えよと仰っていた。
イフラースは貧しいものに与えるだけのものは持っていなかったし、市井に出ることは許されていなかったので、屋敷の中だけでもできることをしようと考えた。
そのときに乳母の家の近くに捨て猫がいるということで、イフラースはその捨て猫を引き取って育てることにした。
それがイフラース十歳のとき。
最初は懐かなくて、毛もバサバサ、片目も目やにで開かないような子猫を、暖かいタオルで日に何度も顔を拭いてやり、体を拭いてやっていると、ふわふわの可愛い猫に育った。
毎日猫に餌をやって、庭で遊ばせていたが、あるとき猫が食べ物を吐いて苦しんでいるのに気付く。医者に見せると、何かよくないものを拾い食いしてしまったのではないかと話をしてくれた。
猫を医者に見せた数日後、イフラースは見てしまった。
庭でイフラースの猫に食べ物を与えているイフサーンを。
イフラースはイフサーンを問い詰めた。
「どれだけ毒物を食べさせれば死ぬのか興味があっただけなんだ。どうせ、拾ってきた猫だろう?」
イフラースにとっては目やにを拭いて、体を拭いて、毎日糞の始末もした可愛い猫なのに、イフサーンにとっては実験動物のようにしか映っていない。その事実が怖くて、イフラースはその猫がこれ以上害されないように、乳姉妹のところに引き取ってもらった。
「やっぱり、猫じゃ分からないな」
恐ろしいことを言ってイフサーンがイフラースの食事にも何かを混入させ始めたのはその時期だった。イフラースは気付いて、自分は肉や魚を食べられないということにした。
肉や魚を食べられないのならば、厨房ではイフラースのために特別に作るしかない。イフサーンが手を加えられないようにするにはそうするしかなかったのだ。
「肉や魚を食べなければ大きくなれませんよ」
「僕はチーズやヨーグルトを食べているから大丈夫だよ」
心配する乳母に本当のことを言えず、イフラースはそう誤魔化した。
後宮に上がってからもイフサーンが悪い癖を出さないか、イフラースはずっと心配していた。後宮には次期皇帝陛下の父親となる千里様もおられる。
イフラースはイフサーンの関心ができる限り自分に向くように、そして、イフサーンが妙なものを仕入れないように、監視を続けていた。
イフサーンの手に入れたものを真似して手に入れるのはそのためだった。
イフサーンが化粧品と偽って毒物を手に入れていないか、イフラースはずっと監視していたのだ。
そして、イフサーンが遂に毒物を手にしたというのが分かった。
すぐに商人を呼び同じものを取り寄せると、イフサーンがその毒物を使ったときの証拠のためにイフラースはそれを化粧台の引き出しの一番奥にしまい込んだ。
後宮生活の刺激のなさに飽きていたイフサーンが、イフラースのサフランを入れた米と野菜を炒めた料理に黄色の絵具を混ぜ込んだときにも、イフラースは匂いですぐに気付いた。
椀を投げ捨てて誰も食べないようにしつつ、イフラースは「イフサーンが肉を紛れ込ませていた」と言うことでイフサーンを庇ってしまった。
性格が捻じ曲がって、最悪の兄であっても、イフラースにとってはイフサーンはたった一人の双子の兄だったのだ。
その後で、デメトリオの事件が起きて、イフラースはすぐにイフサーンの仕業だということに気付いた。
もう隠すことはできない。
イフサーンは皇帝陛下の妾の一人を害したのだから、後宮から追い出されてしまう。
戦々恐々としつつ、いつか裁かれる日が来たら、全てを話そうとイフラースは決めていた。
長いイフラース様の話を聞き終わって、皇帝陛下はイフサーン様に向き直る。
イフサーン様はもう青ざめていなかった。不敵な笑みを浮かべている。
「そなた、デメトリオで試したのだな?」
「そうだ。ひとがどれくらいの毒物で死ぬのか、幼い頃から興味があった。私をイフラースと間違えて縋って来たデメトリオに怒りもあった。私がイフラースに毒を盛ったのにバレてしまったのをあざ笑われている気分になった」
「全くの逆恨みではないか! デメトリオは、そんなことで毒を飲まされたのか!?」
「飲んだ後の残りの瓶は取り巻きに処分させた。忠誠の証に、一口ずつ飲ませて行ってもよかったと後悔している」
なんということをイフサーン様は言っているのだろう。恐ろしくなった私がよろめくと、シャムス様に肩を支えられる。シャムス様の逞しい腕に支えられて、私はほっと息を吐いていた。
「騎士たちよ、イフサーンを捕らえて牢に入れよ! イフラース、そなたからも改めて話は聞く。そなたも後宮に毒物を持ち込んだのは変わりない」
「はい、いつでもお受けいたします」
「イフラース、もっと早くに私に伝えて欲しかった」
「お許しください……あんな奴でも、私には大事な兄なのです」
平伏するイフラース様に苦々しく言った皇帝陛下に、イフラース様は顔を上げないままにつらい口調で答えていた。
「デメトリオの処遇はどうしますか?」
「デメトリオにも真実を伝えた上で、後宮に戻りたいかどうか聞かせよう」
「心得ました。デメトリオにこのことを伝えて、処遇を聞く相手はどういたしますか?」
シャムス様の問いかけに、皇帝陛下の視線が私に向く。
「伝達、そなたならば本心を聞くことができよう。それが、取材にもなるのであろう?」
「皇帝陛下がお望みならば、私が参ります」
「次は、傷付いたイフラースを慰めるデメトリオの物語を書くがいい」
これくらいの楽しみがなければ、この憂鬱には耐えられない。
皇帝陛下のため息はどこまでも重々しいものだった。
その夜は皇帝陛下は自分の部屋に戻られて休まれた。私は千里様の部屋に呼ばれて、事の次第を聞かれた。
「イフラース様がイフサーン様の幼少期からのことを語ってくださいました。イフサーン様はずっと毒物に興味があって、毒物をイフラース様の可愛がっている猫に飲ませたこともあるそうです」
「猫に!? なんと惨いことを」
飼い猫は人間に世話をされて、人間の手で与えられる餌を食べて生きている。信頼して食べた餌に毒が混じっていたなど、猫にとっては酷い裏切りだ。
「猫、か。私も猫を飼いたいな。皇帝陛下に頼んだら飼わせてくれるだろうか?」
「これまで頼んだことはなかったのですか?」
「私は後宮で一番地位が高い。私が飼い出すと、他のものも飼い出すのではないかと思ったのだ。後宮が猫だらけになると困るだろう?」
後宮が猫だらけになると困るのだろうか。
私は猫が好きだし、イフラース様も猫がお好きなようなので、後宮が猫だらけになったら喜ぶものは多い気がする。
「まぁ、犬派もおりましょうね」
「犬も飼うか。犬は外で飼わねばなるまいな」
後宮の自殺未遂事件が解決して千里様の心も、こんな話ができるくらいに軽くなっているようだった。
「皇帝陛下は貴族たちを集めて伝達の物語を披露するためのお茶会を計画している。私の同郷で、部下の伝達の物語が広まると思うと私も誇らしい」
「え!? お茶会は本当に開くのですか!?」
私がこれまでに書いた小説と言えば、最初にシャムス様が偶然見て、皇帝陛下に持って行った、後宮に入る男性が従者の男性に別れを告げるときに、最後に抱かれるもの。
次に、アズハル様をモデルにした、高貴な男性が家庭教師に恋をしていて、素直になれずにいる両片思いもの。
その次が、イフサーン様とイフラース様の両方の視点で書いた双子の近親相姦もの。
四番目が、ニキアス様が故郷から連れて来た従者に恋心を抱かれているが素直になれないツンデレもの。
五番目が、ジェレミア様と武芸指南役の爽やかな全年齢ボーイズラブ。
そして、最後に書いたのが、イフサーン様とイフラース様にデメトリオを交えた嫉妬ものだった。
どれも側室をモデルにしていて、身内の方が読めばすぐにバレてしまう。
「どうしましょう……焼け野原になってしまう……」
「伝達の物語が素晴らしいことは皇帝陛下のお墨付きなのだ。胸を張れ、伝達」
「無理ですぅ! あれをお身内の方に読まれてしまうと思うと」
皇帝陛下のお茶会をどうにかして止められないか。
私はそのことを考え始めていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。
彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。
夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。
一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。
愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる