上 下
175 / 180
転生したらまた魔女の男子だった件

175.それから三年

しおりを挟む
 三年のときが経って、フレーズちゃんは六歳、スリーズちゃんは十二歳になった。
 二年早く小学校に入学しているスリーズちゃんはもう高等学校の二年生だった。
 フレーズちゃんは小学校に入学した。

 燕の姿のままで人間の姿になれないフレーズちゃんだったが、小学校の先生はきちんと受け入れを考えてくれた。フレーズちゃんのために止まり木の席を作ってくれて、毎日フレーズちゃんのお手伝いの係が変わるようにしてくれて、お手伝いの係の子はフレーズちゃんのために教科書を捲ったり、お手洗いに連れて行ってくれたりする。

 小さな燕の姿のままで入学式を迎えたフレーズちゃんに心配していなかったわけではないけれど、僕が初めての男の子の魔法使いとして入学してきたときにも柔軟に迎え入れてくれた小学校に僕は信頼を持っていた。

「リクとライラが六歳になったら魔法使いの街の小学校に入学させましょう?」
「ラーイの後輩になるのだな」
「僕も通っていたので安心です」
「白虎の姿のままでも受け入れてくれるであろう。それに、リクとライラは半分は魔法使いの血を引いておる」

 フレーズちゃんを受け入れてくれたように、リクとライラも小学校に受け入れてもらえる。それを僕は確信していた。

「ママー! ライラがあむちたー!」
「リクがあむちたのよー!」
「リクじゃなくて、レンー!」

 レンくんが噛んだのに間違えてリクに仕返しをされて、泣き顔でリクが僕に引っ付いてくる。抱き上げると毛皮が若干乱れていた。そこが噛まれたところなのだろう。

 白虎の姿のままだけれど、僕はリクとライラの表情を少しは読めるようになっていた。父親だから当然なのかもしれない。
 リクを抱き上げて噛まれたところを撫でていると、ライラがきゅーんきゅーんと鳴いて謝っている。

「まちがえたの。ごめちゃい」
「噛まれたらすぐに噛み返すんじゃなくてどうしてそんなことをするのかをお話ししないと」
「むつかち!」

 三歳児にとってはまだ話し合いは難しかった。
 泣き顔になって反省しているライラも抱き上げると、リクがライラの頭を舐めて仲直りをする。喧嘩をしてもすぐに仲直りできるのが双子のいいところだった。

 一歳を越してから分かったことだが、リクもライラも紫色の目をしていた。
 セイラン様は水色の目で、僕が紫色の目だからリクもライラも目の色は僕に似たようなのだ。

 レンくんとリリちゃんはリラと同じ金色の目をしていた。目の色以外はそっくりなので、ライラがレンくんとリクを見間違えたのも仕方がない。

「レンくんにお話ししに行こうか」
「ママ、きて」
「うん、一緒に行こう」

 レンくんのところにライラとリクを抱っこしたまま話に行くと、レンくんは部屋の隅でおしっこを漏らしていた。雑巾でおしっこを拭いて、レンくんの体も洗って綺麗に拭くと、レンくんがふるふると震えているのが分かる。

「リリとあとんでたら、わからなくなったった」
「興奮して訳が分からなくなっちゃったのかな?」
「そうなの……ごめちゃい」
「もうかまないでね?」
「あい」

 レンくんはリリちゃんと遊んでいるうちに興奮してしまって、訳が分からなくなってライラを噛んだようだ。小さな子どもにはよくあることだ。怒られるのが怖くて部屋の隅で漏らしてしまうくらいだったのだから、僕も許さなくてはいけなくなる。

「ママ、おはなちでちた」
「お話しできたね。ライラ、よかったね」
「あい。らーも、あむちない」
「噛まないように気を付けてね」

 噛み付きは白虎族の本能がある限りは仕方がないことではあるが、小学校に上がる年になる前には僕はなんとはリクとライラ、レンくんとリリちゃんの噛み付きの癖を直したいところだった。

 リクもライラも三歳になったのでセイラン様とは体を重ねることを再開していた。
 三歳になるまではお互いに舐めて処理し合ったり、セイラン様に扱いてもらったりしていたのだが、晴れてリクとライラの三歳のお誕生日を過ぎてからは再び体を重ねるようになった。

 セイラン様も相当我慢していらしたし、僕も我慢していたので、最初の頃は僕の腰が立たなくなるまで貪られることが多かった。腰が立たなくなるとリクとライラのお世話もできないし、母の店にも行くことができないので、手加減してもらおうとするのだが、セイラン様はなかなか止まってくれなかった。

「ずっとラーイが欲しかったのだ。これだけ我慢したのだから存分に与えてくれ」
「セイランさまっ! もうだめ! でないぃ!」

 白濁が出なくなるまで搾り取られても許してもらえず、僕はベッドの上で何度も泣かされた。泣き腫らした顔でセイラン様に抱かれて居間に連れて来られるので、リクとライラも何事かと最初は怯えていた。

「ママ、いちゃい?」
「ママ、おびょーき?」
「アンナマリおばたま、いく?」
「アンナマリおばたま、よぶ?」

 定期健診でアンナマリ姉さんのところにはリクとライラを連れて行っているので、病気や怪我のときにはアンナマリ姉さんの診療所に行くのだと二人とも理解していた。
 紫色の僕に似た目に涙を溜めて心配してくれるリクとライラに、睦み合い過ぎたからこうなったのだなどといえず、僕は言葉を濁したのだった。

 リクとライラのお誕生日から少し経った秋ごろにはセイラン様も落ち着いてきた。

「すまなかった。私は発情していたのではないかと思うのだ」
「へ!?」
「体がラーイを求めて仕方がなかった」

 セイラン様が発情状態になるということは結婚前にセイラン様とレイリ様のご両親から聞いていたけれど、あんなに激しいものだとは全く思っていなかった。セイラン様も恥ずかしそうにしているが、僕はセイラン様が落ち着いてよかったと胸を撫で下ろしていた。

 母の店では、僕は結婚式中心のオーダーを受けていた。
 母のウエディングドレスからアマンダ姉さんのカクテルドレス、アンナマリ姉さんのウエディングドレス、アナ姉さんのカクテルドレス、それらが魔法使いの森でものすごく評判になっていたのだ。
 毎日のように来るウエディングドレスとタキシードのオーダーに僕は応えきれていなかった。

 ウエディングドレスは一着を作るのにどうしても時間がかかってしまう。タキシードも一緒となると更に時間がかかる。
 オーダーを一度に複数は受けられなくて、一件ずつ受けて行くのだが、それではとても間に合わないオーダーの量だった。

「今は注文が詰まっておりますので、母のアマリエに頼んでもらえますか?」
「注文が空くまで待ちます」
「注文が空くのは一年以上先ですよ」

 注文待ちが大量に発生していて、僕の予定は一年先までみっしりと詰まっていた。

「それでも構いません。この仕立て屋の男の魔法使いにウエディングドレスを縫ってもらうと必ず幸せになれるし、子宝にも恵まれると言われているのです」
「え!? そんな付与魔法はかけていませんよ? 幸せになれるようには願っていますが……」
「土地神様の伴侶でいらっしゃるのでしょう? きっとご加護があるのです」

 僕の作るウエディングドレスには加護があるという噂が立っているようだった。
 そんな付与魔法をかけたつもりはないのだが、土地神様の伴侶であるのは確かだし、僕も早くに子宝に恵まれているので、もしかするとそんな加護もあるのかもしれない。

 結婚する花嫁と花婿が幸せになるように願いはかけているけれど、それは付与魔法とはちょっと違う。

 社に帰って僕は膝の上に甘えて来るリクとライラを撫でながら、セイラン様に聞いてみた。

「僕が作ったウエディングドレスを着て結婚すると幸せになるし、子宝に恵まれると言われたんです」
「そうなのか」
「セイラン様、僕に何かそんな加護を付ける能力があるのですか?」

 セイラン様は少し考えて、リクとライラを撫でながら答えた。

「ラーイも神族になっておる。そのような能力が備わっていてもおかしくはないな」
「神族の効果ですか!?」
「神族には祝福を授ける能力があるものがおる。ラーイはそれなのかもしれぬ」

 セイラン様に言われて僕は自分のことを考える。
 神族になったのはセイラン様と結婚してからなので、それより前に作ったウエディングドレスにそんな加護が付いていたわけではなくて、母やアマンダ姉さんやアンナマリ姉さんが自分たちで築いた幸せと子宝なのだが、アナ姉さんに関してはどうなのだろう。

 まだ分からないけれど、僕にそんな力があるのならば、たくさんのひとを幸せに導きたいと思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥
恋愛
エリザベートは六歳の公爵家の娘。 国一番のフェアレディと呼ばれた母に厳しく礼儀作法を教え込まれて育てられている。 母の厳しさとプレッシャーに耐えきれず庭に逃げ出した時に、護衛の騎士エクムントが迎えに来てくれる。 エクムントは侯爵家の三男で、エリザベートが赤ん坊の頃からの知り合いで初恋の相手だ。 エクムントに連れられて戻ると母は優しく迎えてくれた。 その夜、エリザベートは前世を思い出す。 エリザベートは、前世で読んだロマンス小説『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』で主人公クリスタをいじめる悪役令嬢だったのだ。 その日からエリザベートはクリスタと関わらないようにしようと心に誓うのだが、お茶会で出会ったクリスタは継母に虐待されていた。クリスタを放っておけずに、エリザベートはクリスタを公爵家に引き取ってもらう。 前世で読んだ小説の主人公をフェアレディに育てていたら、懐かれて慕われて、悪役令嬢になれなかったエリザベートの物語。 小説家になろう様、ノベルアップ+様にも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

処理中です...