土地神様に守られて 〜転生したらまた魔女の男子だった件〜

秋月真鳥

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転生したらまた魔女の男子だった件

173.社に帰ってから

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 赤ちゃんを連れて社に帰るころには僕のお誕生日も過ぎていた。
 社では居間にレイリ様が寝そべって赤ちゃんたちにお乳をあげている。レンくんもリリちゃんも、どちらがどちらか分からないがお乳を飲んでふくふくと丸く育っていた。

 僕とセイラン様は赤ちゃんの名前を付けなければいけなかった。
 既にレイリ様とリラの赤ちゃんには名前がついている。社に帰るまで名前を付けなかったのは赤ちゃんの名前が浮かばなかったからなのだ。

「ラーイの名前は私が付けたが、ラーイの赤子の名前はラーイに付けて欲しい」
「僕がですか?」
「ラーイが頑張ってくれて生まれた子だ。一生呼ばれる名前はラーイに付けて欲しいのだ」

 それを言うならセイラン様が頑張って産んでくださった赤ちゃんなのだが、赤ちゃんができないことに悩んで必死にセイラン様を抱いた思い出があるのは確かだった。
 セイラン様のお乳を欲しがって腕の中で蠢く赤ちゃんをセイラン様に預けて、お乳を飲ませながら僕は必死に考える。

「可愛い赤ちゃんですね。頑張られました。ラーイ様、何か食べたいものがありますか?」

 労ってくれるマオさんに僕は頬が赤くなる。閨でのことを頑張ったといわれるとこんなにも恥ずかしいのだと実感した。

「大根が……セイラン様と一緒にふろふき大根が食べたいです」
「今日の夕飯に作りますね」
「それと、煮卵も」
「角煮も作りましょうか?」
「嬉しいです」

 ふろふき大根も煮卵も角煮もセイラン様が酒の肴に摘まむのが大好きなおかずだ。どれも作ってくれるというマオさんにお礼を言って僕は再び赤ちゃんの名前を考え始めた。

「リクとライラ……では、縁起が悪いでしょうか?」

 十歳で殺されてしまった前世の僕と妹の名前を呟くと、セイラン様は胸に吸い付いている赤ちゃんを舐めていたが、顔を上げて白虎の姿のまま笑った気がした。

「リクとライラか。いいではないか。もう一度人生をやり直せる」

 十歳で死んだリクとライラという子どもは僕とスリーズちゃんに生まれ変わっていたが、リクとライラという名前ではない。前世の名前は母に言われるまで僕は忘れていたが、それでも大事な名前に違いなかった。

 僕の赤ちゃんはリクとライラになった。

 リクは大人しくてセイラン様のそばを離れないが、ライラはやんちゃでセイラン様のそばを離れて少し生まれが上のリリちゃんとレンくんに果敢に挑んでいく。リリとレンとライラが猫団子ならぬ虎団子になって遊んでいるのを見ると胸が暖かくなる。
 臆病なリクは決してセイラン様と僕のそばを離れることがなかった。

 手を伸ばしてリクを撫でると目を瞑って気持ちよさそうに撫でられている。僕のことは父親と分かっているので怖がることはない。
 小さなリクとライラは生まれたときは手の平の上に乗るくらいだったが、セイラン様のお乳を飲んでめきめきと大きくなっていた。

「白虎の子どもは成長が早いのですか?」
「魔法使いの血も入っておるから若干早いのかもしれぬ」
「ライラはもうリリちゃんとレンくんと遊んでいますよ」
「ライラは元気がいいからな」

 排泄はまだ決まった場所にできないので、漏らすたびに拭いて回らなければいけなかったが、そんなことは気にならないくらい僕もセイラン様もライラとリクが可愛かった。

「ラーイも幼少期は私から全く離れなかった」
「魔女の長に殺されると思って怖かったのです」
「リクはラーイによく似ておる」
「可愛いですね」
「ライラは元気がよくてリラを思い出す」
「リラは小さい頃から元気だったから」

 セイラン様と穏やかな時間を持てるのも僕にとっては嬉しかった。
 十九歳で二児の父親になってしまったけれど、僕は少しも後悔していなかった。赤ちゃんは欲しかったし、早く父親になりたかった。

「これでセイラン様と相性がいいのが証明できましたね」
「その通りだな。私とラーイは相性がいい。リクとライラがそれを証明しておる」

 セイラン様の伴侶として相性がいいことも赤ちゃんの存在ではっきり分かるので、僕は誇らしかった。

 それはそれとして、僕は聞き捨てならないことを土地のひとたちから聞いていた。

「ラーイ様はあんなに細い腰で赤ん坊を二人もお産みになった」
「まだお若いのに頑張られた」

 どういうことだろう。
 僕がリクとライラを生んだと思われている。

 訂正しようとするのだが、暖かい目で見守られてしまって、なかなか言葉が出てこない。何と言えばいいのだろう。
 僕ではなく生んだのはセイラン様ですといえばいいのだろうか。
 そうなるとセイラン様の威厳にも傷が付くような気がするのだ。

 悩んでいる間にその話は土地中に広まってしまった。

「ラーイ、次の子どもを生むまでにはしばらく時間を空けるのだよ」
「それは分かっているよ。子どもを生むのは一大事。体に負担がかかるからね」

 アンナマリ姉さんに言われて了承したのだが、診療所から帰るときになって僕は気付いてしまった。

「もしかして、アンナマリ姉さん、僕が生んだと思っている!?」

 一人だけ診療所に呼ばれて何か様子がおかしいと思ったのだが、アンナマリ姉さんは僕が赤ちゃんを産んだと勘違いしている。そうではないのだと訂正するには全てがもう遅かった。

 僕はアンナマリ姉さんにまで誤解されてしまっていた。

 秋まで仕事は完全に休んでセイラン様と子育てに集中して、冬から僕はまた母の家に通い始めた。リラも同じ時期に母の家に通うのを再開した。

「赤ちゃんたちは私とフウガさんでしっかりと見ております。気を付けて行ってらっしゃいませ」

 みゃーみゃーと鳴いて寂しがるリクとライラに後ろ髪引かれないわけではなかったが、マオさんとフウガくんがしっかりと見ていてくれるというし、セイラン様もレイリ様もいるので、僕は仕事を再開した。

 最初のお客さんはアナ姉さんだった。

「出産、大変だったわね。無事に二人も赤ちゃんが生まれてよかったわ」
「ありがとう、アナ姉さん」
「私、娘の父親の気持ちを確かめてきたの。あのひとも同じ気持ちだった。私が去ってからずっと私を探していたと話していたのよ」

 アナ姉さんは生んだ娘の父親と会って結婚したい旨を伝えられたようだ。娘の父親も同じ気持ちだった。

「あのひとは貴族だったから、今は土地を離れるための煩雑な手続きを行っていて、春にはこの街に来てくれるの。そしたら結婚式を挙げようって約束したわ」
「アナ姉さん、おめでとう」

 お祝いを言ってから僕はやっと気付いた。アナ姉さんも僕が生んだと勘違いしていないだろうか。

「ウエディングドレスを作って欲しいの。春に間に合うように」

 アナ姉さんに訂正する間もなく、僕は仕事に取り掛からねばならなかった。
 アナ姉さんのウエディングドレスはアンナマリ姉さんと同じカクテルドレスだ。色は鮮やかな青を選んだ。

「青ならピンクの花を作って添えようか。青とピンクは相性がいいんだよ」
「それは素敵ね」
「旦那さんのお衣装は大丈夫?」
「あのひとは貴族だから衣装は持っているものを使うと言っていたわ」

 今回は旦那さんの衣装までは作らなくていいようだ。それならば春までに十分間に合う。

「最高のドレスを作るね」
「お願いするわ、ラーイ」

 アナ姉さんの晴れの日に相応しいドレスを作るために僕は生地を広げて選んで、型紙を作り始めた。

 社に帰るとセイラン様だけでなくリクとライラも待っている。リクも最近はやっとライラとリリちゃんとレンくんと遊べるようになっていた。
 春が来れば外で遊ぶこともできるようになるだろう。スリーズちゃんやフレーズちゃんも呼んで、リクとライラを紹介したい。

「セイラン様、ただいま帰りました」
「お帰り、ラーイ」

 セイラン様に告げると、僕はセイラン様の腕に飛び込んだ。
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