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転生したらまた魔女の男子だった件

172.レイリ様とセイラン様の出産

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 セイラン様が妊娠した。
 僕はセイラン様が心配でできるだけそばについておきたかった。
 白虎の妊娠期間は人間よりも短いと聞いているし、セイラン様は体が大きいので出産も比較的楽だろうと言われているが、そんなことは関係ない。
 妊娠と出産は神族でも人間でも命を懸けなければいけない大仕事なのだ。

 母がスリーズちゃんを産んだときもとても苦しんでいたのを僕は知っている。
 僕はセイラン様とレイリ様を、アンナマリ姉さんに診て欲しかったが、セイラン様もレイリ様も必要ないと言われた。

「出産のときには白虎族の村に戻る。魔法使いの医者は必要ない」
「僕が先で、セイラン兄上が後になるでしょうね。出産の時期が重ならなくてよかったです。出産の時期には、エイゼンや山犬、熊族のものにも働いてもらいましょう」

 こういうときの眷属なのだとレイリ様は言う。
 心配だったけれど僕はアンナマリ姉さんにセイラン様を診てもらうのを諦めるしかなかった。

 アンナマリ姉さんの結婚式は年明けに行われた。
 粉雪のちらつく中、アンナマリ姉さんと旦那さんは社にセイラン様とレイリ様に挨拶に来ていた。

「夫は大陸で医師をしていた。夫の知識も得てますます医学の知識を伸ばしたいと思う」
「アンナマリと共に学び、成長していきたいと思っています」
「土地神様、私たちの門出に祝福を」
「これからよろしくお願いします」

 アンナマリ姉さんの美しいウエディングドレス姿に僕は感動して胸がいっぱいになっていた。

「この土地で一人でも病や怪我に倒れるものが救われることを願っている」
「これからこの土地で医学を人々に授けてくださいね」

 セイラン様もレイリ様も妊娠してからは白虎の姿を通していた。
 僕はセイラン様が心配で傍を離れずに社で縫物をしているし、リラもレイリ様のそばを離れていない。
 週に一度母の家は訪れているが、逆に母の方が社に来て僕とリラに縫物や肉体強化を教えていた。

 店を休んでもいいと言われるだけのとても重要なことなのだと心に刻み込む。セイラン様とレイリ様が生むのは次の土地神様かもしれないのだ。

 春になってレイリ様が先に白虎の村に行った。
 リラも一緒で、僕とセイラン様は社でレイリ様を待っていた。
 スリーズちゃんとフレーズちゃんのお誕生日にもリラとレイリ様は帰ってこなかった。

 産み月が近付いているので、白虎の村で養生しているのだろう。

「ねぇね、いないねー」
「お姉ちゃんは赤ちゃんを産みに行ったのよ! さみしいけど、応援してあげなくちゃ!」
「ねぇね、あかたん?」
「そうよ!」

 スリーズちゃんはフレーズちゃんに言い聞かせているが、寂しそうなのは同じだった。フレーズちゃんは三歳になっていたが、どこまでスリーズちゃんの言っていることを理解しているかは分からなかった。
 スリーズちゃんももう九歳になる。前世で命を落とした十歳まで後一年だ。
 僕は十歳になるまで、前世の記憶があったので比較的楽に過ごせていたが、スリーズちゃんはどうなのだろう。十歳を超えてからも二年早く入った小学校でうまくやっていけるのだろうか。

「お母さん、スリーズちゃんの成績はどうなの?」
「とてもいいのよ。高等学校に入学する頃にはラーイと同じで成績優秀者になっているんじゃないかしら」
「そうなんだ!?」

 スリーズちゃんは身体能力は高いが、頭までいいなんて思わなかった。前世の記憶があるからかもしれないが、十歳を超えても成績が優秀でいられることを僕は願っていた。

 スリーズちゃんとフレーズちゃんのお誕生日にはアナ姉さんが焼き菓子を大量に作って持ってきてくれていた。フレーズちゃんは焼き菓子が大好きなので、小さく千切ってもらって、嘴でついばんで食べていた。
 フレーズちゃんは成人近くまで人間の姿にはなれないというのだが、燕の姿のままで小学校に入学できるのだろうか。フレーズちゃんに関してはまだまだ心配なことが多かった。

 アナ姉さんはお誕生日をお祝いしてから僕を呼んでお願いをした。

「私も今、結婚相手を探しているところなの。アンナマリ姉さんのウエディングドレス、最高に美しかったわ。私にも必ず作ってよね」
「もちろん! あ、子育てが大変になってるかもしれないけど、注文が来たら時間がかかっても作るよ」
「私も頑張って相手を口説かなきゃ!」
「アナ姉さん、相手はいるの?」
「気になるひとはいるのよ」

 アマンダ姉さんとアンナマリ姉さんが結婚したことで、アナ姉さんも結婚したい気持ちが出てきたようだ。

「初めて出産した娘がいるでしょう? あの子の父親のことを、私は本当は愛していたんじゃないかと思っているの。今更だけど、会いに行って気持ちを確かめてみるわ」
「頑張って、アナ姉さん!」

 かつては男性は妊娠させるだけの役目で、結婚という形式が存在しなかった魔法使いの街でも、最近は結婚をする魔法使いが増えているようだ。
 結婚をした魔法使いと旦那さんの間には男の子の魔法使いも生まれていると聞く。
 魔法使いの街にも大きな変化が起きつつあった。

 春の終わりにリラとレイリ様は帰って来た。
 レイリ様の腕には二匹のころころとした白虎の赤ちゃんが抱かれていた。
 赤ちゃんはきゅーきゅーと鳴きながらおっぱいを探している。レイリ様が白虎の姿になって横たわると赤ちゃんはレイリ様の胸を探って一生懸命お乳を飲んでいた。

「可愛いでしょう? 名前は、レンとリリよ。男の子と女の子なの」
「おめでとう、リラ。お母さんになったんだね」
「レイリ様がお母さんだけど、形式上私がお母さんってことにしておくわ」

 どういう意味か分からないが、レイリ様がリラの体を慮って胎児をお腹に移す術を使って生んだのだから、リラはレイリ様が生んだということを尊重してお母さんと言っているのかもしれない。
 僕には分からない夫婦の形があるのだ。

 レイリ様とリラが戻って来たので、今度は僕とセイラン様が白虎の村に旅立った。
 白虎の村ではセイラン様は白虎の姿で家を借りて出産までの時間を過ごしている。僕はセイラン様のお体を拭いたり、お水を持って来たり、できる限りお世話をした。

「ラーイ、お腹は減っていないか?」
「不思議と減っていません」
「ラーイも神族になったのだったな」

 言われて気付いたが、僕はもう神族なので食事を摂る必要がなくなっていた。日々の楽しみとして食事は続けていきたいが、セイラン様のお世話を続けている間は食事を摂らなくても済むのは楽で助かった。

「セイラン様、痛みますか?」
「陣痛が来たようだな。痛むが、これも赤子と会うためには仕方のないこと」

 セイラン様に陣痛が来た。
 僕はセイラン様の腰を摩って陣痛が和らぐように必死になる。セイラン様は白虎の姿でお腹を舐めていた。

 陣痛が始まってから何時間経ったのだろう。
 セイラン様がぐぅっと喉を鳴らす。
 つらそうな様子に僕は何もできない無力さを噛み締めていた。

 お腹を舐めていたセイラン様が何かを咥えて僕に差し出す。
 それは小さな白虎の赤ちゃんだった。

「セイラン様、赤ちゃんが!」
「もう一匹生まれる」
「セイラン様!」

 もう一匹も咥えて引きずり出したセイラン様は、白虎の赤ちゃんを舐めて綺麗にしてあげていた。僕は赤ちゃんに産湯をつかわせてあげる。

「双子ですね……性別は……?」
「男の子と女の子だな」
「僕とリラと同じだ……」

 嬉しくて幸せで涙が溢れて来る。
 ころころとした白虎の赤ちゃんはすぐにみゃーみゃー鳴き出して、セイラン様の胸を探る。セイラン様は赤ちゃんにお乳を飲ませていた。

「ラーイに乳を飲ませていたのを思い出すな」
「セイラン様のお乳を飲むのは僕の大事な時間でした」
「もう赤子に譲ってもよいな?」
「もちろんです」

 必死にセイラン様の胸に吸い付く赤ちゃんを見ながら、僕は涙を零していた。
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