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転生したらまた魔女の男子だった件

169.初夜の翌日

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 セイラン様と初夜を過ごした翌日、僕は起きられなかった。
 腰が抜けて、膝がかくかくして立てないのだ。
 動けない僕をセイラン様は軽々と抱き上げて居間まで連れて行ってくれて、食事をさせてくれた。
 マオさんは食べやすいように僕に美味しいお出汁のおじやを作ってくれた。
 レイリ様は紳士だったのか、リラは元気いっぱいに起きて来てレイリ様と並んで座っていた。

「ラーイ、大丈夫か?」
「腰が立ちません」

 椅子に座っているのもきつい状態の僕は、食べ終わるとセイラン様に抱き上げられて洗面所で身支度をして、またベッドに連れて行かれた。
 セイラン様と抱き合えたことは嬉しかったが、これでは仕事にもならないし、日常生活もままならない。僕はセイラン様と話し合わなければいけなかった。

「睦み合うのは幸せで嬉しいのですが、毎日これだったら、僕は仕事ができません。日常生活もできません」
「そのようだな。ラーイが仕事が休みの日の前の日にだけ交わることにするか?」
「しばらくはそうしてください。その間に僕は体を鍛えます」

 セイラン様と毎日でも交わって平気なように体を鍛えなければいけない。
 肉体強化も母は得意だから教えてもらえるはずだ。

「週に二回しかラーイと抱き合えぬということか」
「満足させられずにすみません」
「ラーイは仕事を持っておるので仕方がないな。私の我が儘でラーイの仕事を取り上げることはできぬ」

 土地神様と子どもを作るということはとても重要なので、僕は仕事を辞めるように言われてもおかしくはなかった。セイラン様はそんなことは言わず、僕の仕事にも理解を持ってくれている。

「セイラン様が妊娠したら、仕事は休みます。ずっとセイラン様のおそばにいて、お世話をします」
「初めての出産になるからな。ラーイがいてくれれば心強い」

 水色の目を細めて笑うセイラン様に飛び付いて昨日の続きをしたい気持ちと、腰が立たなくて動けない悔しさと、複雑な気持ちで僕はベッドに寝かされていた。
 昨日からセイラン様はやたらと色っぽく見える。
 笑う顔など、唇や眉の形、細めた目と影を落とす睫毛、美しくて胸が高鳴ってどうしようもない。

 改めて僕はセイラン様が好きで好きで堪らないのだと実感させられた。

「セイラン様、キスをしましょう」
「キスだけでは止まらなくなるかもしれないぞ?」
「それでも……キスがしたいです」

 強請るとセイラン様が僕にキスをしてくれる。長くて大きな舌が僕の舌を絡め取って、口の中を犯される感覚にぞくぞくとしてしまう。どこまでもセイラン様は肉食獣なのだと実感できる。

「ふっぁ! あぁっ!」
「可愛いな、ラーイ」
「セイラン様ぁ」

 唇を離すとセイラン様が真面目な顔で顎を撫でた。

「褥でまで『様付け』は何か味気ないな。二人きりのときはセイランと呼んでくれぬか?」
「せ、セイラン様を、セイランと!?」
「もう夫婦になったのだ。それくらい良いではないか」
「せ、セイラン……」

 呼んでしまうとものすごく恥ずかしい。セイラン様をセイランと呼べる日が来るなんて思わなかった。
 セイラン様の許しはあるが、心の中では僕はずっとセイラン様と呼ぼうと決めていた。僕にとってセイラン様はそれだけの価値のあるお方なのだ。

「セイラン……慣れませんね。せ、セイラン」
「なんだ、ラーイ?」
「今日仕事を休むことを母に伝えなければいけません」
「リラに頼んでおこう」
「僕が頼みに行きます」

 出かける準備をしているリラに話をしに行こうとしても、ベッドから降りると膝がかくかくして、腰が立たなくて、すとんっと床に座り込んでしまう。床に座り込んだ僕をセイラン様が軽々と抱き上げた。
 セイラン様に抱き上げられたまま、僕はリラのところに話しに行った。

「今日はお休みするってお母さんに伝えて。明日はきっと行くから」
「分かったわ」
「理由は……その……」
「分かってるわ!」

 分かられていた。
 恥ずかしいけれどリラにしっかりと事付けをしたので僕は安心してベッドで休んだ。夜に激しく睦み合った分、眠れていなかったので、ベッドに倒れ込むと眠気が襲ってくる。
 眠りながら僕は昔のことを思い出していた。
 魔女の長のふりをしていた前世の母が、今世の母に負けて僕とリラの処遇を母とセイラン様とレイリ様が決めた頃の話だ。
 僕とリラはセイラン様とレイリ様と暮らしたくて必死に二人にしがみ付いて、母はそれを許してくれた。
 その後に母がやって来て告げたのだ。

――魔女の男女の双子は土地神様を孕ませる。

 先見の魔法を使う魔法使いが言い出したことらしい。
 僕はあのときはよく分かっていなかったが、あの予言は本当になりつつある。僕がセイラン様を孕ませる……つまり、赤ちゃんを作ることになりそうだからだ。
 となると、リラもレイリ様を孕ませるという予言が出ているが、それはどうなのだろう。リラは女性でレイリ様は男性だ。レイリ様がリラを抱くのが普通ではないのだろうか。

「まさか、リラが……」
「どうした、ラーイ?」
「なんれもないれす」

 眠りながら呟いた僕は夢でリラが立派な中心を持っていて、レイリ様を抱いているところを見てしまった。
 起き上がってから、それが夢だと確かめるように目を何度も瞬かせる。

「リラには生えていないもの。できるはずがない」
「ラーイ、起きたのか? 蜂蜜レモン水があるぞ? 喉は渇いてないか?」

 僕が起きるたびに声をかけてくれるセイラン様は今日はずっと僕についていてくれるようだ。僕は甘えて蜂蜜レモン水を飲ませてもらった。大きな手でグラスを持って、背中を支えて座らせて口まで運んでくれるセイラン様の優しさに、惚れたのがセイラン様でよかったとしみじみと思う。

「セイラン様、じゃない、セイラン、レイリ様とリラは上手くいっていると思いますか?」
「夫婦には色んな形がある。レイリとリラも自分たちでその形を作っていくのではないかな」
「そうですね」

 セイラン様と話すと心が落ち着いてくる。
 蜂蜜レモン水を飲んでから居間に運んでもらう頃には腰はかなり回復していた。
 お昼ご飯にマオさんはうどんを作ってくれた。うどんにはたくさんの天ぷらが乗っている。
 セイラン様は天ぷらだけを齧って酒の肴にしていた。

 夕方にはリラが元気に帰って来た。

「レイリ様、お風呂に入るわよ!」
「入りましょうね、リラ」

 夫婦になるまではお風呂に一緒に入ることもできなかったリラだったが、やっと許されてレイリ様と入っている。汗をかいて帰って来たリラはお風呂に入ってさっぱりとしてから晩ご飯に臨んでいた。

 晩ご飯は焼き魚と豚汁とワカメとキュウリの酢の物とお赤飯だった。

 お赤飯を炊かれて僕は真っ赤になる。

「こ、これって」
「ラーイ様とセイラン様、リラ様とレイリ様が結ばれたお祝いですよ」
「ま、マオさん、そんな、恥ずかしい」
「マオお姉ちゃんありがとう! 私お赤飯大好き!」

 無邪気に食べるリラと違って、意味が分かっている僕は妙に恥ずかしかった。

「俺も手伝ったんだ。たくさん食べてくれよな」
「フウガくん、社に住むことになったんだね」
「荷物を持って来て引越ししたよ。これからよろしくな」

 社の巫女であるマオさんと結婚するためにフウガくんは社に婿入りすることを選択した。それならばマオさんも断れないと分かっているからだ。

「フウガさん、土地神様には礼儀を払ってください。ラーイ様とリラ様も土地神様の伴侶となられたんですよ!」
「いいよ、マオさん。このままの方が僕は楽だよ」
「フウガくんはそのままがいいわ」

 僕とリラが言えばマオさんが「いいのですか?」とセイラン様とレイリ様に視線を向けている。

「構わぬよ。これくらいのものがいた方が面白い」
「僕も構いませんよ」

 セイラン様とレイリ様も同感だったようだ。
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