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転生したらまた魔女の男子だった件

165.白虎族の伝統の図案

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 リヒ様が次の土地に行って秋が来て、僕は数件の依頼を抱えていた。
 どれも結婚式の衣装の依頼だった。母の結婚式やアマンダ姉さんの結婚式を見た人が依頼してくれたのだ。

「アマンダのドレスがとても美しくて、私もあんなドレスで結婚式を挙げたいと思ったのよ」

 依頼をくれたのは魔法使いの女性だった。アマンダ姉さんの知り合いで結婚式に参列していたようだ。僕は結婚式にいたことに気付かなかったけれど、アマンダ姉さんの知り合いに依頼をもらえるのは光栄だった。

「アマリエ様のドレスを作った子はこの子?」

 母の知り合いも見せに来てくれて僕を指名してくれていた。

「色は白がいいのだけれど、あんなクラシックなドレスを着て結婚したいのよ」

 母は真っ黒のウエディングドレスだったけれど、母の知り合いは白いクラシックなドレスをお望みのようだった。
 手が空いているときには自分とセイラン様、リラとレイリ様の結婚衣装を作っているが、それ以外の時間は僕は依頼にかかりきりになるような状態になっていた。
 忙しく働いていると時間が飛ぶように過ぎていく。
 冬になって僕は二つの依頼をこなして、青いカクテルドレスと、白いクラシックなウエディングドレスを作り上げていた。
 ドレスを着た魔法使いの二人はとても美しかった。

「こんなドレスが着たかったのよ。嬉しいわ」
「真っ白なウエディングドレスに憧れていたの。こんなに素敵なのね」

 涙ぐんで喜んでくれる二人に僕は胸がいっぱいになっていた。

 二人の依頼を終えてから僕は母から話を聞いた。

「ラーイに結婚衣装を作って欲しいっていう依頼はもっともっと来ているのよ。ラーイの力量じゃ多すぎると作業に集中できなくなっちゃうから、ある程度はお断りしているの」
「え!? そうだったの!?」
「ラーイはやっぱり才能があるのよ。女性にとっては一番大事な舞台で着る衣装を頼みたいって思うのよ」

 母にも認められていると分かると僕は嬉しくて胸がいっぱいになる。
 それにしても、僕がこなせないような量の依頼が来ているとは知らなかった。

「ラーイは自分とセイラン様、リラとレイリ様の衣装も作っているでしょう?」
「そうなんだ。お母さんに相談したいことがあって」

 僕の羽織に入れる刺繍とか、袴の柄とか、リラとレイリ様の結婚式の衣装の刺繍とか、図案を描いて何度か練習しているのだが、まだはっきりと決まっていない。
 締め切りは初夏なのに、僕はまだ刺繍の図案もきっちりと決められていなかった。

「刺繍の図案は、セイラン様とレイリ様に聞いた方がいいんじゃないかしら?」
「セイラン様とレイリ様に?」
「白虎族の伝統の図案とかあるかもしれないでしょう?」

 白虎族の伝統の結婚式で使う図案があるのならば僕はそれを使いたい。母に相談してよかったと思いながら僕は社に帰った。リラも一緒に帰るのだが、リラは日に日に表情が引き締まっていく気がする。

「お母さんにどうやっても勝てないのよ……スリーズちゃんと手を組んでも無理だったわ」
「スリーズちゃんを巻き込んだの!?」
「スリーズちゃんも薔薇乙女仮面二号よ! 正義の味方なのよ!」
「スリーズちゃんはまだ七歳だからね!?」

 七歳の妹を勝つために利用するとは、本当に手段を選んでいない。

「フレーズちゃんがもうちょっと大きくなれば……」
「フレーズちゃんまで!?」
「フレーズちゃんは薔薇乙女仮面四号になるのよ!」
「本人の意思はないの!?」

 リラにしてみれば妹たちは当然薔薇乙女仮面になるようだが、フレーズちゃんは違う道を選ぶかもしれないではないか。僕が主張するとリラも張り合って来る。

「私の妹なんだから薔薇乙女仮面になるに決まってるじゃない!」
「僕の妹でもあるんだけど……」
「お兄ちゃんの妹だけど、私の妹よ!」
「僕の妹なんだから、仕立て屋を選ぶかもしれないじゃないか!」
「ないわね!」
「ないのー!?」
「フレーズちゃんは勇ましい顔をしてるわ! 絶対薔薇乙女仮面よ!」

 燕の顔が勇ましいとか分かるのだろうか。
 僕は呆気に取られてしまった。
 スリーズちゃんがフレーズちゃんが生まれて来たときにすぐに女の子だと分かったが、リラもスリーズちゃんのようにフレーズちゃんの表情を読む術でも持っているのだろうか。

 社に帰って僕はセイラン様に飛び付いた。セイラン様は大きな体で受け止めてくれるが僕も普通の成人男性くらいには身長が伸びている。そろそろ抱き付くのはやめた方がいいのだろうか。
 考える僕を軽々と抱き上げてセイラン様が部屋に連れて帰ってくれる。

 二人きりで話したかったので僕はセイラン様と部屋で絨毯の上に座布団を敷いて座ることにした。
 膝を突き合わせるようにして座っているとセイラン様がにこにこしながら僕を見ている。

「セイラン様、嬉しそうですね」
「ラーイが帰って来て嬉しいのはいけないか?」
「僕が帰ってきたら嬉しいんですか?」
「ラーイが傍にいるのは嬉しい」

 無邪気に笑っているセイラン様に僕はぎゅっと抱き付く。膝の上に抱き上げられて僕はセイラン様の匂いを胸いっぱいに嗅ぎながら問いかけた。

「白虎族の伝統の刺繍の図案とかあれば教えて欲しいんですよ」
「伝統の図案か? どんなものがあるのだろう」
「知りたいんですけど」
「白虎族の村に行ってみるか?」

 結婚式前に白虎族の村に行くのは嬉しいような恥ずかしいような気がするが、セイラン様が連れて行ってくれるというのだから僕は甘えることにした。
 セイラン様は僕を抱き締めて風に乗って飛んでいく。
 山の頂にある白虎族の村はかなり寒かった。
 震えてしまう僕をセイラン様が抱き寄せて温めてくれる。

 セイラン様は僕をセイラン様とレイリ様のご両親のところに連れて行ってくれた。白虎族の村の中央にある巨木の太い枝に寝そべっているセイラン様とレイリ様のご両親に僕は挨拶をする。

「この前はありがとうございました。今度はお願いがあって来ました」
「よく来ましたね、ラーイ」
「お願いとは何かな?」
「今、セイラン様と僕、レイリ様とリラの結婚式の衣装を作っています。白虎族に伝わる刺繍の図案などあったら、教えて欲しいのです」

 白虎の姿の二人にお願いすると、セイラン様とレイリ様のご両親は巨木から飛び降りた。
 セイラン様に抱き締められたままついて行くと、白虎の姿のセイラン様とレイリ様のご両親は一人の白虎族の女性を紹介してくれた。

「この者は白虎族の仕立て屋です」
「ラーイが求める図案を教えてくれるであろう」

 紹介された女性に僕は問いかける。

「白虎族の婚姻の際に使われる刺繍の図案がありますか?」
「いくつかありますよ。持って来ましょうね」

 近くの家に入って行った女性は図案を持って戻って来てくれた。渡してくれると女性は僕に微笑みかける。

「セイラン様とレイリ様とお相手様の結婚衣装ですね。頑張ってください」
「これ、もらっていいんですか?」
「私はもう覚えました。持って行っていいですよ。結婚衣装以外の図案もありますから、使ってください」

 快く図案を譲ってくれた女性にお礼を言って、僕はセイラン様と社に帰る。
 社に帰るとマオさんが晩ご飯を用意して待っていてくれた。

 大根マンドラゴラの入ったおでんに、人参マンドラゴラのサラダとご飯だ。
 マンドラゴラが入っている料理は特に僕は気持ちを込めて手を合わせる。それはリラも同じだ。

「リラ、僕が全力で結婚式の衣装を作ってあげるからね」
「お兄ちゃん、楽しみにしてるわ」

 僕とリラが話していると、マオさんが何か言いたそうにしている気がする。僕はマオさんに視線を向けた。
 マオさんは迷っている様子だったが、ややあって口を開いた。

「私は結婚してもいいのでしょうか?」

 土地神様の巫女としてずっと働いてくれているマオさん。
 マオさん自身が幸せになってはいけないなんてことはないはずだ。

 僕がセイラン様とレイリ様を見ると、セイラン様とレイリ様は頷いている。

「結婚してもいいに決まっておる」
「マオが幸せになるのは僕たちも楽しみにしていますよ」
「は、はい」

 マオさんに僕は提案する。

「僕にマオさんの結婚衣装も作らせて!」
「いいんですか!?」
「マオさんにはお世話になったから、作りたいんだ」

 きっとマオさんの相手はフウガくんだ。
 フウガくんとマオさんの結婚衣装も僕の作りたいものに加わった。
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