土地神様に守られて 〜転生したらまた魔女の男子だった件〜

秋月真鳥

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転生したらまた魔女の男子だった件

155.魔女族から魔法使いへ

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 十五歳になったからかもしれない。
 セイラン様はたくさんのことを僕と話してくれるようになった。
 眠る前にセイラン様と話したり、キスをしたりするのが僕は嬉しくて堪らなかった。

「セイラン様は小さな頃どんな子どもでしたか?」
「私は大人しい子どもだったと思う。群れで同年代の子どもたちがじゃれ合っているのを遠くから見ていた記憶がある」

 夜中にセイラン様とレイリ様が話していたときにも、セイラン様は子どものじゃれ合いに参加していなかったというようなことを話していた気がする。だから噛む衝動の制御が分かっていないのだとレイリ様は言っていた。

「レイリ様はどんな子どもでしたか?」
「レイリは元気のいい子どもだった。同年代の群れの中に入って、じゃれ合って、年上の群れからも可愛がられていた」

 知的で穏やかなイメージのあるセイラン様とレイリ様だが、レイリ様は幼少期はやんちゃだったようだ。

「赤ちゃんが生まれたら、大人しい子になるのでしょうか。やんちゃな子になるのでしょうか」

 僕の呟きにセイラン様が甘く笑う。

「私とラーイに似たら大人しい子になるであろうな。レイリやリラに似たら元気な子になるであろうな。私とレイリ、ラーイとリラは双子だから、生まれてくる子どもがどちらに似て来るかは分からないからな」

 セイラン様に似てもレイリ様に似ても、僕に似てもリラに似ても、赤ちゃんはおかしくはないということなのだ。

 僕に似ていたらすごく嬉しいけれど、セイラン様に似ていても嬉しい。レイリ様に似ていても可愛いだろうし、リラは僕の妹でとても可愛いのでリラに似ていても当然可愛いに決まっている。

 僕も笑うとセイラン様も笑う。
 そのまま抱き締め合って僕とセイラン様は眠った。

 最近はセイラン様は人間の姿で僕を抱き締めて眠る。セイラン様に抱き締められて、僕は胸がドキドキすることもあるけれど、十六歳までずっとセイラン様と一緒だったから落ち着いて眠ることができた。

 春になって僕は高等学校の六年生になった。
 高等学校の六年生といえば一番上の学年だ。ついに卒業の年を迎えたのだ。

 リラは最近特に母に似て来た気がする。似ているのだがリラは前髪を編んでいるし、後ろの髪も編んで薔薇の髪飾りで留めているので、豪奢な波打つ髪を解いている母とは印象が違う。
 着ている服も制服なので、大きな胸を強調するドレスを着ている母とはかなりイメージが違う。けれど、リラの胸も大きくなり始めている気がしていた。

 母は胸が大きいので、遺伝子をコピーして生まれてきているリラも胸は大きくなるのだろう。アマンダ姉さんもアンナマリ姉さんもアナ姉さんもみんな胸が大きかった。

 僕は生物学上の父と遺伝子が混じっているのかどうか分からないけれど、母とは違うストレートの髪で、目も母やリラが金色なのに対して僕は紫なので若干違ってくる。

 今のところ男性の魔女は僕とレオくんと他に生まれた男の子の三人だけだけれど、これから魔女の森の改革が進んでいくにつれて魔女の男の子も増えて行くのだろう。
 レオくんは小学校に在学中に下級生に男の子が入学してくるはずなのだ。

「男の魔女って変だよね?」
「男と魔女の間には矛盾があるわ」
「呼び方を変えられないのかな」

 呼び方を変えるなら僕は魔法使いにして欲しかったけれど、リラは行けんが違うようだ。

「魔法使いなんておとぎ話みたいで子どもっぽいわ。もっと格好いい呼び方がいいと思うのよ」
「例えば?」
「グレートマジシャンとか」
「却下!」

 どうしてリラはネーミングセンスがこうなのだろう。
 僕は遠い目になってしまった。

 六年生になったら僕とリラは実地で勉強するために母のところに通うことになる。
 母は仕立て屋の魔女としても超一流であり、戦いもものすごく強い。妊娠しているので戦いは激しくできないが、リラに指導することはできた。

「ラーイには課題を用意してるわ。リラは庭でサンドバッグ相手に練習よ!」
「サンドバッグが壊れない?」
「平気よ。強化しておいたわ」

 用意された課題は僕の苦手な空間拡張の魔法だった。クラスでは僕が一番上手にできたけれど、母のようにはできない。
 空間拡張するバッグ作りから丁寧にやって、一針一針に魔法を込めていく。
 出来上がったポーチはクローゼット一つ分くらいの空間が広がるものだった。

「お母さん、ちょっと出来を見てくれる?」
「よくできているわね。でも、魔法を込める方に集中しすぎて、バッグのクオリティが落ちていない?」
「え!?」
「もっと指す穴は均等に開けて、美しいものを作ることを心がけてみなさい。そうすれば、自然と魔法も強くかかるようになるから」
「は、はい!」

 やはり母は一筋縄ではいかない。だからこそ学び甲斐があるというものだ。
 最初に僕一人でやらせたのも僕の実力を見たかったのだろう。

 二回目は丁寧に丁寧に作っていくと、それだけ編み込める魔法の力が強くなっているのを感じる。
 作り直したバッグは、倉庫くらいの空間を備えていた。

「すごい、僕にもできた」
「次はバッグを小さく作ることね」
「まだ課題があるの!?」
「そうよ。付与魔法を極めるにはまだまだ課題はたくさんあるわ。バッグを小さく作ることは、高等学校に持って帰って課題としなさい」
「はい!」

 一日母に教えてもらっただけで僕は相当魔法の力が伸びた気がしていた。
 リラも同じような経験をしたようだ。

「さすがお母さんだわ。全然私が気付いてないところに強化ポイントがあるって教えてくれたのよ」
「リラはそれを習得できた?」
「高等学校に課題として持って帰って、しばらくは修練の日々ね!」
「僕と同じだ。僕も高等学校に課題として持って帰るんだ」
「頑張りましょうね、お兄ちゃん!」

 リラと僕は母のおかげでまた強い魔女になれた気がする。

「お母さん、魔女って呼び方、どうにかならないかな?」
「男の子もいるものね。そろそろ違う呼び方を考えた方がよさそうね」
「グレートマジシャンがいいと思うの」
「それはちょっと……」

 リラの発言には母も苦笑していた。

「魔法使い、が妥当かしら」

 僕の希望である魔法使いが通りそうな雰囲気だ。
 魔女ではなく、魔法使いになれば、この森も魔女の森ではなく、魔法使いの森になる。

「魔女の森という言い方も気になっていたのよね。森というよりも魔女の街のようなものだものね。これからは、魔女の森も『魔法使いの街』と呼ぶことにしましょうか」

 魔女の森も魔法使いの街に変わる。
 それはきっと大きな変化だと思う。
 
 これから生まれて来る全ての男の子のためにも、今いる男性のためにも、魔女の森は変わらなければいけない。

「生まれて来るのに女の子の方が多い状態は変わらないだろうけれど、これから男の子も増えて来ると思うわ。恐らくだけど、本当に心を交わして共に暮らすくらいの気持ちがない限りは、まだコピーしか産めない女性はたくさんいると思う。それでも、少しずつこの街は変わっていく」

 もう魔女の森ではなく、魔法使いの街となったこの場所は、母が魔女族の長になったときから変わり始めていた。変革の証ともいえる男の子の魔女である僕を受け入れたときから、魔女族は変化していたのだ。

 魔女族の長だった母も、自分で決めた魔法使いという名称に基づいて、魔法使いの長になった。

「私、進路指導の紙を書き換えなきゃ!」

 リラが声をあげる。

「魔法使いの長になるって書くわ。ちょっと子どもっぽいけど」

 グレートマジシャンになると書かれなくてよかったと僕は胸を撫で下ろす。
 魔女は、魔法使いに変わった。
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