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転生したらまた魔女の男子だった件

153.マンドラゴラの蕾

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「マオさん、好きです!」
「ごめんなさい」

 冬休みのある日、社の庭でフウガくんが盛大に振られていた。
 地面にしゃがみ込んでショックを受けているフウガくんに僕は近付く。
 マオさんは洗濯物を取り入れて社の中に入ってしまった。

「ラーイ、見てたのか?」
「見ちゃった」
「あー、恥ずかしいよー! もう十五歳なんだからお付き合いくらいしてくれるかと思ってたのに、あっさりお断りだよ! なんでなんだよー!」

 マオさんは僕がゼロ歳のときに十六歳だったから、今は三十一歳のはずである。十五歳の男子から告白をされても困るというのが本当のところなのだろう。

「年の差があるからじゃない?」
「ラーイと土地神様もものすごく年の差があるじゃないか」
「土地神様は長寿だから年の差は関係ないんだよ」
「マオさんも土地神様の加護を受けて長寿になってると思うんだけどな。それに十六歳くらい大した差じゃないだろう」
「僕とフウガくんの年齢より大きい差だよ?」
「それでも大したことないよ。百二十歳と百四歳になったら、気にならないだろう?」

 普通の人間であるフウガくんはマオさんと共に百二十歳と百四歳まで生きようと思っている。そこまで考えているのならば確かに年の差は小さなものかもしれなかった。

 僕とセイラン様の年の差は何歳くらいあるのだろう。
 セイラン様は僕が生まれたときに立派な大人の姿をしていたが、神族としては何歳くらいの肉体をしているのだろう。

 フウガくんのことがあってから僕は気になってしまった。

 セイラン様に直接聞くのも何となく恥ずかしくて、魔女の森の母のところに行ったときにお父さんに聞いてみることにした。

「お父さん、セイラン様は人間に換算すると何歳くらいなの? お若いの?」
「セイラン様は非常にお若い神族であられるよ。この土地の土地神になったのが二百年と少し前だけれど、その頃に成人されているから、人間でいえば十九歳くらいかな」
「えええええ!? そんなにお若いの!? ちなみにお父さんは?」
「私もこの土地を渡るようになった頃に成人したから、十九歳くらいだね」

 セイラン様もお父さんも人間にしてみれば十九歳という若さだった。僕が十八歳になるころにもそれは変わらないだろうから、十八歳と十九歳の夫婦になるということである。

「そんなにお若いとは思わなかった」
「白虎族でお体が大きいからね。神族としての格も高いし」

 セイラン様とレイリ様は十九歳。そう考えると色々といけない思いがわいてくる。セイラン様もレイリ様も恋愛に興味がなくて、僕とリラと婚約するまで相手を作ったことはないみたいだったけれど、十九歳ならばそれもよく分かる。

「お父さんも若かったんだ……」
「アマリエも若い姿をしているから、つり合うと思っているよ」

 言われてみれば母もとても若い姿をしている。二十歳前後ではないだろうか。魔女族の長ともなると年を取るのがゆっくりになるようだ。

 魔女族は成人までは人間と同じように成長して、その後、老化が止まる。特に神族のセイラン様に婿入りする僕は、セイラン様と寿命を分け合うことになるので、十八歳で老化は完全に止まってしまうだろう。
 セイラン様は十九歳になるまでに二百年以上かかっているようだから、僕も一つ年を取るのにそれくらいかかるようになるのかもしれない。

 セイラン様と結婚して神族に仲間入りするということを真剣に考えた瞬間だった。

「マオさん、付き合ってくれ!」
「ごめんなさい!」

 社に帰ってきたらまたフウガくんが振られていた。
 真正面からストレートに言うから難しいのであって、もうちょっとやりようがあるような気がするのは、僕が部外者で客観的に見ていられるからだろう。

「マオさんに、お花を届けたら?」
「マオさんは花が好きか?」
「好意を遠回しに伝えるんだよ」
「マオさんは何が好きなんだ?」

 何が好きなんだろう。
 マオさんと十五年一緒に暮らしているが、僕はすぐにフウガくんに返事ができなかった。マオさんはどこまでも社の世話役として僕とリラの好きなものを作ってくれて、セイラン様とレイリ様の酒の肴も作ってくれているが、本人が好きなものには心当たりがない。

「何が好きなんだろう? 食べ物に好き嫌いはなさそうだけど」
「野菜を届けるのか? それはちょっと色気がなさすぎないか?」
「野菜だったら、僕とリラが食べる分に回しそうだもんね」

 頭を突き合わせて僕とフウガくんが悩んでいると、蕪マンドラゴラのシロが僕とフウガくんの間に立った。

「びぎゃ! ぶーぎゃぎぎゃびぎゃびょえ!」

 何か話しかけているようだがよく分からない。
 よく見ると蕪マンドラゴラのシロの頭のふさふさの葉っぱに、蕾がついていた。

「蕪の花ってこんなに大きかったっけ?」
「いや、小さかったと思う」
「これをマオさんに上げたらいいの?」
「びゃい!」

 短いお手手を上げて返事をする蕪マンドラゴラのシロに、僕はその蕾を根元から折らせてもらった。フウガくんに丸い親指くらいの蕾の付いた茎を渡すと、深く頷いてマオさんのところに駆けていく。

「マオさん、これ、受け取って欲しい」
「これはなんですか?」
「蕪マンドラゴラのシロが俺のために生やしてくれた花だ」
「お花……まだ蕾ですね」
「俺もまだ蕾なんだ。花が咲いたら、マオさんに申し込みに来る! それまで待っててくれ!」

 ぐいっと蕾の付いた茎を押し付けられてマオさんは無言で受け取っていた。これまで「ごめんなさい!」と断られていたのよりもかなりいい返事なのではないだろうか。

「蕾、大事に咲かせます」
「俺も、たくさん勉強して、いい男になる!」

 マオさんのところから走って戻って来たフウガくんの頬は寒さからではなく真っ赤になっていた。

 いい場面を見られた気がして僕はにこにことしていた。
 それにしても蕪マンドラゴラのシロの頭に生えた蕾は何なんだろう。

 考えていても分からないので、僕は魔法の本を取り出して調べることにした。
 マンドラゴラの生態が乗っているページを映し出してもらうと、マンドラゴラの蕾についても書いてある。

「ラーイ様、これ、フウガくんからもらったのですが、どうやって育てればいいのでしょう?」

 居間で虎の姿のセイラン様に寄りかかって床に座って調べていると、マオさんもやってくる。

「僕も気になって調べてるところなんだ。一緒にどうぞ」
「はい、失礼します」

 床に本を置いて広げて読み出すと、マオさんが耳を澄ましているのが分かる。
 マオさんは教育を受ける機会がなかったので、難しい字は読めないのだ。

「えーっと、マンドラゴラはその種類の花の他に、時々大きな蕾を付けることがあります。その蕾からは新しいマンドラゴラが生まれます。マンドラゴラの増殖のための行為ですが、マンドラゴラにとっても負担は大きいので稀にしか見られませんって、シロ、大丈夫!?」

 読み上げて蕪マンドラゴラのシロを確認すると、社の中に設置されている土に潜ってじっとしている。あの蕾は蕪マンドラゴラのシロにとってはかなり貴重なものだったようだ。

「蕪マンドラゴラにとって大事なものだったのではないですか? お返ししますか?」
「いえ、持っていてください。フウガくんの気持ちだから」
「フウガくんの気持ち……」

 とても大切なものをもらったとマオさんも気付いたようだ。蕪マンドラゴラのシロはその後数日、土から出てこなかった。

 マオさんは毎日蕾の水を替えて、大事に育てている。
 もう少しで花がほころびそうになっている蕾から、どんな小さなマンドラゴラが生まれるのかは分からない。

 蕾が咲くのは春になってからかもしれない。
 その頃にはマオさんの気持ちも少し解けているといいなと思う僕だった。
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