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転生したらまた魔女の男子だった件
150.母とお父さんの結婚式
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夏の終わりが近付いたころ、リヒ様がお父さんと一緒にセイラン様とレイリ様の社にやって来た。
先にお父さんが頭を下げてセイラン様とレイリ様に告げる。
「姪のリヒを修行させてくださってありがとうございました。リヒも渡る神になれるようになりました」
「セイラン様、レイリ様、この土地で修行できたことを深く感謝いたします。お二人のおかげで私は渡る神として叔父の後を継ぎます」
遂にこのときが来たのだ。
セイラン様の隣りで聞いていた僕は飛び上がりたいくらい嬉しかった。レイリ様の隣りで聞いているリラも喜んでいることだろう。
「これより、燕族の長に会って来て、代替わりの儀式を行います。戻ってきたら、私はこの地でアマリエと共に暮らすことになります」
「来年からは私がこの地に夏を運んで参ります。まだまだ未熟ですが、雨と恵みをもたらせるように頑張ります」
今年の夏を最後にお父さんは渡る神の地位から降りる。神族として渡る神であるということは、土地神であるということの次くらいに名誉なことなので、その地位を捨ててでも母と暮らしたいとお父さんが思ってくれていることは僕にとってはとても嬉しかった。
「行ってくるがよい、エイゼン。これまでご苦労だったな」
「これからはリヒ殿、よろしくお願いしますね」
セイラン様とレイリ様に見送られて、お父さんとリヒ様は燕の姿で飛んで行った。
代替わりの儀式にどれくらい時間がかかるか分からないけれど、それほど待たなくてもいいだろう。
「お父さんがずっといてくれるようになるよ」
「お父さんはどんな仕事をするのかな?」
囁き交わす僕とリラに、セイラン様とレイリ様が答えてくれる。
「この地におる山犬を覚えておるであろう?」
「あの山犬のように、僕とセイラン兄上の下で働いてもらうことになりますよ」
「優秀な眷属ができて助かる」
「魔女の森の魔女に興味を持って大陸から来る慮外者もいますからね。エイゼン殿にはしっかりと守っていただきましょう」
お父さんはこの土地を守っている山犬さんのような立場で、魔女の森周辺を守ってもらうことになりそうだった。それならば母やスリーズちゃんのそばにいられるし、これまで夏しか一緒にいられなかった分、スリーズちゃんもお父さんに甘えられるだろう。
お父さんがこの地に住むことになるのならば、僕は作りたいものがあった。
魔女の森に行って母にお願いする。
「お母さんにウエディングドレスを作りたいんだ。お母さんとお父さんには結婚して欲しい」
「エイゼンが渡る神を辞めたら結婚する約束だったわね」
「お母さん、ウエディングドレスはどんなのがいい?」
布もヴェールも母の調達したものを使わなければいけないが、僕は縫うのだけは全部自分でしたかった。
「ラーイが作ってくれるならお願いしようかしら。私はエイゼンのタキシードを作るわ」
「お母さん、どんなウエディングドレスにする?」
「そうねぇ、普通じゃないのがいいわ」
仕立て屋の母はウエディングドレスも何度も作ったことがあった。魔女の森の外からウエディングドレスを求めて仕立てにくる女性もいるし、タキシードを仕立てにくる男性もいるのだ。
「真っ黒なウエディングドレスを作ってくれる?」
「え!? 真っ白じゃなくて?」
「黒がいいのよ」
ウエディングドレスと言えば白というイメージだったが、母は真っ黒がいいと言っている。それならば真っ黒な布で作らなければいけない。
練習のつもりで母の採寸も自分でさせてもらって、僕はまず仮縫いをした。
仮縫いは布で型紙を作って、それを縫い合わせて実際に着てもらってサイズが合うか見るためのものだ。高価な布を使うときには失敗は許されないので、慎重に作るのだ。
仮縫いでダーツを入れて体のラインを綺麗に見せる場所などを確認して、やり直して縫って、また母に着てもらって、布の型紙を仕上げる。
出来上がった型紙は全部解いて、布を断つために使った。
真っ黒な艶のあるシルクの布をドレスの形に縫い上げて行って、胸に金色のビーズで刺繍をする。きらきらと輝く金色のビーズは母の目の色に合わせたものだった。
ヴェールも真っ黒で作って、薄く透けるように刺繍を施して行く。
ドレスが出来上がるころには、お父さんも帰って来ていた。
「エイゼン、ラーイがドレスを作ってくれているの。結婚してくれる?」
「私が申し込むところだったよ。アマリエ、結婚して欲しい」
「嬉しいわ、エイゼン」
出来上がった真っ黒なウエディングドレスを着て、お父さんも真っ黒なタキシードを着て、社で母とお父さんは結婚式を挙げた。
「アマリエ、エイゼンと幸せになるといい」
「エイゼン、魔女の中で生きていくことは難しいかもしれません。けれど、渡る神を辞めてまでそれを選んだ勇気、尊敬します」
「アマリエとエイゼンの結婚を土地神として祝そう」
セイラン様とレイリ様に祝われて、母もお父さんも深く頭を下げていた。
社にはアナ姉さんが来て、ご馳走を振舞っていた。アナ姉さんの娘も、アンナマリ姉さんと娘も、アマンダ姉さんと娘も来ていた。
アナ姉さんの娘もアンナマリ姉さんの娘もアマンダ姉さんの娘も、リラと母とそっくりである。魔女の森の遺伝子をコピーするシステムは解かれたはずなのだが、まだ何か残っているようだ。
スリーズちゃんは母にそっくりではなくお父さんの因子も持っているのだから、アナ姉さんとアンナマリ姉さんとアマンダ姉さんの娘たちとは何かが違うのだろう。
それはもしかすると愛情なのかもしれないと僕は思ってしまう。
子どもを作るためだけに関係を持った相手との間にはコピーの子どもしか生まれなくて、愛情を持って結婚までするような相手との間には遺伝子の混ざった通常の子どもが生まれて来る。
それも僕の仮説でしかないが、まだまだ魔女の森には問題が残っていそうだ。
「アマリエ、とても綺麗だけれど、どうして黒を選んだのかな?」
「似合っているでしょう?」
「とてもよく似合っているよ」
くつくつと笑いながら、母がお父さんの頬にキスをして囁く。
「白い結婚衣装は『あなたの色に染まります』という意味なのよ」
「それで、黒を?」
「そうよ。黒は『もうあなたの色に染まっています』という意味だから」
「アマリエ!? そんな意味が!?」
そうだったのか。
母がそんな意味を込めて真っ黒なウエディングドレスを選んだなんて初耳だった。
「あなたも真っ黒だから、私の色に染まっているのよ」
「光栄だな」
囁き交わす母とお父さんに、僕は胸がいっぱいになっていた。
アナ姉さんが作ったご馳走をお腹いっぱい食べて、母とお父さんとスリーズちゃんを見送って、僕は社に戻った。
時刻は夕暮れで晩ご飯の時間が近いが、ご馳走を食べたのでお腹はまだ空いていない。
セイラン様と二人で部屋でごろごろしながら、僕は結婚式の様子を思い出していた。
「僕とセイラン様もあんな風に結婚式を挙げるのでしょうか?」
「結婚式はするであろうな。土地神として、土地のものに結婚は伝えねばならぬ」
「土地のひとたちが来るのですか?」
「祝いに来るであろうな。今日とは全く違う、大変な人数の結婚式になると思うぞ」
今日は家族だけの結婚式だったが土地のひとたちがお祝いに来てくれるとなると、ものすごい数になる。
母とお父さんは結婚式でイチャイチャしていたが、挨拶をするだけでそれどころではない結婚式が目に見える気がして、僕はげっそりとした。
「白虎の村に報告に行かねばならないだろうな。そのときはもう両親とレイリとリラと私たちだけで、小規模にできるかもしれない」
「白虎の村にも! 行きたいです」
白虎の村での結婚の報告ならば、今日のような小規模で落ち着いた式ができるかもしれない。
土地神様であるセイラン様と結婚するのだから、ある程度は覚悟をしていても、僕は母とお父さんのような結婚式に憧れを抱いてしまっていた。
三年後、僕はどんな風に育っているのだろう。
セイラン様はそんな僕を変わらず愛してくれているだろうか。
先にお父さんが頭を下げてセイラン様とレイリ様に告げる。
「姪のリヒを修行させてくださってありがとうございました。リヒも渡る神になれるようになりました」
「セイラン様、レイリ様、この土地で修行できたことを深く感謝いたします。お二人のおかげで私は渡る神として叔父の後を継ぎます」
遂にこのときが来たのだ。
セイラン様の隣りで聞いていた僕は飛び上がりたいくらい嬉しかった。レイリ様の隣りで聞いているリラも喜んでいることだろう。
「これより、燕族の長に会って来て、代替わりの儀式を行います。戻ってきたら、私はこの地でアマリエと共に暮らすことになります」
「来年からは私がこの地に夏を運んで参ります。まだまだ未熟ですが、雨と恵みをもたらせるように頑張ります」
今年の夏を最後にお父さんは渡る神の地位から降りる。神族として渡る神であるということは、土地神であるということの次くらいに名誉なことなので、その地位を捨ててでも母と暮らしたいとお父さんが思ってくれていることは僕にとってはとても嬉しかった。
「行ってくるがよい、エイゼン。これまでご苦労だったな」
「これからはリヒ殿、よろしくお願いしますね」
セイラン様とレイリ様に見送られて、お父さんとリヒ様は燕の姿で飛んで行った。
代替わりの儀式にどれくらい時間がかかるか分からないけれど、それほど待たなくてもいいだろう。
「お父さんがずっといてくれるようになるよ」
「お父さんはどんな仕事をするのかな?」
囁き交わす僕とリラに、セイラン様とレイリ様が答えてくれる。
「この地におる山犬を覚えておるであろう?」
「あの山犬のように、僕とセイラン兄上の下で働いてもらうことになりますよ」
「優秀な眷属ができて助かる」
「魔女の森の魔女に興味を持って大陸から来る慮外者もいますからね。エイゼン殿にはしっかりと守っていただきましょう」
お父さんはこの土地を守っている山犬さんのような立場で、魔女の森周辺を守ってもらうことになりそうだった。それならば母やスリーズちゃんのそばにいられるし、これまで夏しか一緒にいられなかった分、スリーズちゃんもお父さんに甘えられるだろう。
お父さんがこの地に住むことになるのならば、僕は作りたいものがあった。
魔女の森に行って母にお願いする。
「お母さんにウエディングドレスを作りたいんだ。お母さんとお父さんには結婚して欲しい」
「エイゼンが渡る神を辞めたら結婚する約束だったわね」
「お母さん、ウエディングドレスはどんなのがいい?」
布もヴェールも母の調達したものを使わなければいけないが、僕は縫うのだけは全部自分でしたかった。
「ラーイが作ってくれるならお願いしようかしら。私はエイゼンのタキシードを作るわ」
「お母さん、どんなウエディングドレスにする?」
「そうねぇ、普通じゃないのがいいわ」
仕立て屋の母はウエディングドレスも何度も作ったことがあった。魔女の森の外からウエディングドレスを求めて仕立てにくる女性もいるし、タキシードを仕立てにくる男性もいるのだ。
「真っ黒なウエディングドレスを作ってくれる?」
「え!? 真っ白じゃなくて?」
「黒がいいのよ」
ウエディングドレスと言えば白というイメージだったが、母は真っ黒がいいと言っている。それならば真っ黒な布で作らなければいけない。
練習のつもりで母の採寸も自分でさせてもらって、僕はまず仮縫いをした。
仮縫いは布で型紙を作って、それを縫い合わせて実際に着てもらってサイズが合うか見るためのものだ。高価な布を使うときには失敗は許されないので、慎重に作るのだ。
仮縫いでダーツを入れて体のラインを綺麗に見せる場所などを確認して、やり直して縫って、また母に着てもらって、布の型紙を仕上げる。
出来上がった型紙は全部解いて、布を断つために使った。
真っ黒な艶のあるシルクの布をドレスの形に縫い上げて行って、胸に金色のビーズで刺繍をする。きらきらと輝く金色のビーズは母の目の色に合わせたものだった。
ヴェールも真っ黒で作って、薄く透けるように刺繍を施して行く。
ドレスが出来上がるころには、お父さんも帰って来ていた。
「エイゼン、ラーイがドレスを作ってくれているの。結婚してくれる?」
「私が申し込むところだったよ。アマリエ、結婚して欲しい」
「嬉しいわ、エイゼン」
出来上がった真っ黒なウエディングドレスを着て、お父さんも真っ黒なタキシードを着て、社で母とお父さんは結婚式を挙げた。
「アマリエ、エイゼンと幸せになるといい」
「エイゼン、魔女の中で生きていくことは難しいかもしれません。けれど、渡る神を辞めてまでそれを選んだ勇気、尊敬します」
「アマリエとエイゼンの結婚を土地神として祝そう」
セイラン様とレイリ様に祝われて、母もお父さんも深く頭を下げていた。
社にはアナ姉さんが来て、ご馳走を振舞っていた。アナ姉さんの娘も、アンナマリ姉さんと娘も、アマンダ姉さんと娘も来ていた。
アナ姉さんの娘もアンナマリ姉さんの娘もアマンダ姉さんの娘も、リラと母とそっくりである。魔女の森の遺伝子をコピーするシステムは解かれたはずなのだが、まだ何か残っているようだ。
スリーズちゃんは母にそっくりではなくお父さんの因子も持っているのだから、アナ姉さんとアンナマリ姉さんとアマンダ姉さんの娘たちとは何かが違うのだろう。
それはもしかすると愛情なのかもしれないと僕は思ってしまう。
子どもを作るためだけに関係を持った相手との間にはコピーの子どもしか生まれなくて、愛情を持って結婚までするような相手との間には遺伝子の混ざった通常の子どもが生まれて来る。
それも僕の仮説でしかないが、まだまだ魔女の森には問題が残っていそうだ。
「アマリエ、とても綺麗だけれど、どうして黒を選んだのかな?」
「似合っているでしょう?」
「とてもよく似合っているよ」
くつくつと笑いながら、母がお父さんの頬にキスをして囁く。
「白い結婚衣装は『あなたの色に染まります』という意味なのよ」
「それで、黒を?」
「そうよ。黒は『もうあなたの色に染まっています』という意味だから」
「アマリエ!? そんな意味が!?」
そうだったのか。
母がそんな意味を込めて真っ黒なウエディングドレスを選んだなんて初耳だった。
「あなたも真っ黒だから、私の色に染まっているのよ」
「光栄だな」
囁き交わす母とお父さんに、僕は胸がいっぱいになっていた。
アナ姉さんが作ったご馳走をお腹いっぱい食べて、母とお父さんとスリーズちゃんを見送って、僕は社に戻った。
時刻は夕暮れで晩ご飯の時間が近いが、ご馳走を食べたのでお腹はまだ空いていない。
セイラン様と二人で部屋でごろごろしながら、僕は結婚式の様子を思い出していた。
「僕とセイラン様もあんな風に結婚式を挙げるのでしょうか?」
「結婚式はするであろうな。土地神として、土地のものに結婚は伝えねばならぬ」
「土地のひとたちが来るのですか?」
「祝いに来るであろうな。今日とは全く違う、大変な人数の結婚式になると思うぞ」
今日は家族だけの結婚式だったが土地のひとたちがお祝いに来てくれるとなると、ものすごい数になる。
母とお父さんは結婚式でイチャイチャしていたが、挨拶をするだけでそれどころではない結婚式が目に見える気がして、僕はげっそりとした。
「白虎の村に報告に行かねばならないだろうな。そのときはもう両親とレイリとリラと私たちだけで、小規模にできるかもしれない」
「白虎の村にも! 行きたいです」
白虎の村での結婚の報告ならば、今日のような小規模で落ち着いた式ができるかもしれない。
土地神様であるセイラン様と結婚するのだから、ある程度は覚悟をしていても、僕は母とお父さんのような結婚式に憧れを抱いてしまっていた。
三年後、僕はどんな風に育っているのだろう。
セイラン様はそんな僕を変わらず愛してくれているだろうか。
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