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転生したらまた魔女の男子だった件

143.スリーズちゃんの小学校入学

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 マンドラゴラ農家からは年明けにマンドラゴラが治められた。マンドラゴラに対してはセイラン様もレイリ様もたっぷりと報酬を与えていた。

「今年は栄養剤作りから頑張ってみます」
「マンドラゴラがこれまで以上に獲れるようになるかもしれません」

 今でもマンドラゴラは余っていて、僕とリラだけでは食べきれずに、スリーズちゃんのところにお裾分けしているのだが、スリーズちゃんのところではもらったマンドラゴラは食べきっているのだろうか。
 お正月で来ていた母に僕は聞いてみた。

「マンドラゴラは全部食べ切っているの?」
「もらったけれど多すぎて、アマンダやアンナマリやアナにお裾分けしてるわ」
「やっぱり多すぎたのか」
「アナは料理をお店に出して、特別な子ども用のメニューを考えているらしいのよ」

 アナ姉さんは料理の魔法を使う魔女だ。
 アナ姉さんの家はレストランにもなっていて、お客さんが食べに来るのだそうだ。マンドラゴラを使ったメニューは子どもの魔力を補うとしてとても人気だという。

「たくさん取れたマンドラゴラをアナ姉さんが買い取ったら、マンドラゴラ農家と魔女の森の間に繋がりができるんじゃないかな?」
「いい考えだと思うわ。土地神様とアナに伝えましょう」

 僕の意見を聞いて母はセイラン様とレイリ様に話しに行って、アナ姉さんにも話しに行く様子だった。
 お雑煮に入っている大根とお節に入っている人参と蕪の菊花蕪を見て、スリーズちゃんが神妙な顔で手を合わせている。僕もリラも静かに手を合わせた。
 「いただきます」の気持ちもあるが、それ以上に命を懸けて僕とリラとスリーズちゃんの栄養になってくれるマンドラゴラに感謝と鎮魂の意味を込めての祈りだった。

 大根はほろほろに煮られていて、蕪と人参の菊花蕪はシャキシャキとして美味しかった。
 セイラン様もレイリ様もお節を摘まんで、お雑煮を食べてお酒を飲んでいる。

「んぎぎぎぎぎぎぎ!」
「スリーズ、お餅は切ってあげるから、ちょっと待って」
「たべるぅー! んぐぐぐぐぐ!」

 噛み切れないお餅をびよーんと伸ばしているスリーズちゃんに母が介助に入るのだが、スリーズちゃんは自分で食べると聞かない様子だった。スリーズちゃんも四歳。自分で何でもしたい年頃だ。

「喉に詰まったら困るからね」
「ちゃんと切ってもらいましょうね」
「にぃにとねぇねがいうなら」

 僕とリラが言って、やっとスリーズちゃんは噛み付いていたお餅を口から放した。素早く母がお餅を千切っていく。一口大になったお餅をスリーズちゃんがもちゅもちゅと食べる。
 異変が起きたのは煮物に入っている里芋を食べたときだった。

 さぁっとスリーズちゃんの顔色が変わる。
 咳き込むこともできない様子で苦しがっているスリーズちゃんを、セイラン様が足を掴んで逆さにした。ばしばしと背中を叩かれて、スリーズちゃんの口から里芋が飛び出る。
 里芋を吐き出したスリーズちゃんは大きく咳き込んで苦しそうにしていた。

「お餅は気を付けたけど、里芋も危険だったのね」
「かか、おちゃ、ちょーだい」
「スリーズ、苦しかったでしょう? 大丈夫?」
「こわかった」

 洟を啜ってお茶を飲んでいるスリーズちゃんの顔を母が拭いてあげていた。

「スリーズはよく噛んで食べないとダメよ? これじゃ、小学校に行けないわ」
「わたし、しょうがっこうにいけないの?」

 スリーズちゃんは四歳。冬の間に六歳になったレオくんと一緒には小学校には行けない。そのはずだった。

「校長先生にスリーズの複雑な生まれを話したのよ。前世の記憶があって、十歳程度の知能があることもね。そしたら、『ラーイくんとリラちゃんを受け入れたのに、スリーズちゃんだけ受け入れないということはできませんね』ってお返事をいただいたの」
「それって、わたし、しょうがっこうにいけるってことよね」
「そうよ。スリーズ、あなた、春から小学校に行けるのよ」

 スリーズちゃんには嬉しい知らせに、里芋に苦しめられてしょげ返っていたスリーズちゃんが飛び跳ねて喜ぶ。

「春までにオムツが取れるように練習していきましょうね」
「がんばる!」
「小学校に持って行くポーチに着替えを入れておきましょう」
「かか、きがえ、みっついれておいて」
「三組も?」
「だって……しっぱいしちゃうかもしれないでしょう?」

 どれだけ精神的に成長していても、スリーズちゃんの体は四歳のままなのだ。排泄がコントロールできるかは、膀胱の発達の問題になってくる。体が発達しないとどうしてもオムツを取るのは難しかった。

「にぃに、ねぇね、わたし、はるからしょうがくせいよ」
「スリーズちゃんなら大丈夫だよ」
「私も五歳の秋から小学校に入学したわ。スリーズちゃんならきっと大丈夫」
「レオくんもいるからね」

 僕とリラで励ますと、スリーズちゃんは自信を取り戻したようだった。

「かか、きがえはふたつでいいかも」
「そう? 無理はしなくていいからね」

 母は笑いながらそれを聞いていた。

 春になってスリーズちゃんとレオくんの入学式には、高等学校がお休みの日だったので、僕とリラも出席させてもらうことにした。
 スリーズちゃんは着物とスカートを合わせたような可愛いワンピースを着ている。レオくんもかっこいいジャケットとスラックスにシャツを着ている。

 スリーズちゃんが一番小さいので一番前の席に座っているが、先生も配慮してくれているのだろう、レオくんはスリーズちゃんの隣りだった。
 レオくんがスリーズちゃんと手を繋いで入場してくる。
 一番前の席に座って、二人でお目目を輝かせて先生のお話を聞いている。

 一年生の担任はヘルミーナ先生だった。
 僕が一年生のときと同じだ。
 ヘルミーナ先生は僕に気付いたら、小さく手を振ってくれた。

「一年生の担任のヘルミーナです。二年生までこのクラスを担当します。これから二年間よろしくお願いします」
「よろしくおねがいします」
「おれ、レオ。このこが、スリーズちゃん」
「レオくんのこともスリーズちゃんのことも知っていますよ。レオくんは後でお手洗いを教えましょうね」

 そうだった。魔女の森の小学校には男の子用のお手洗いが一つしかないのだ。僕の教室はずっとそのお手洗いの前で変わらなかったけれど、レオくんもきっとそうなるのだろう。
 お手洗いには広い洗面所がついていて、清潔に保たれていたから、そこで体育の前に着替えることもできた。

「レオくんは僕以来の男の子の魔女ってことになるね」
「男の子の魔女ってちょっと変な言い方じゃない?」
「そういえばそうだね」

 男の子なのに「魔女」というのは、これまで気付いていなかったけれど、かなり変な言い方だ。男と女が同居している。
 リラに指摘されて僕は気付いた。

「魔女という言い方自体がこれから古くなってくるのかもしれないわね。魔女ではない言い方を考えるべきときが来ているのかもしれないわ」

 しみじみと言う母に、僕とリラで考える。

「魔法使いはどうかな?」
「お兄ちゃん、ちょっと夢を見過ぎじゃない? それじゃ、絵本みたいよ」
「そうかな? 魔法使いなら、男女どっちでもいい気がするんだけど」
「もっと、格好いいのがいいわよ」

 魔法使いを推す僕と、反対するリラ。
 絵本では魔法使いが出て来て困っている子どもを助ける場面などたくさんあった気がしていた。布団の中で熱を出しながら、前世では僕はそんな物語をたくさん読んだ覚えがある。

「何かいい呼び名はないか、考えておきましょうね」

 魔女が魔女でなくなるとき、それが本当に魔女の森が変わるときなのかもしれない。
 そのときには、魔女の森も違う名前になっているだろう。

 その名前がなんなのか僕にはまだ分からなかったけれど、誰もが納得できる名前であればいいと思っていた。
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