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転生したらまた魔女の男子だった件

142.マンドラゴラ農家に見学に行く

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 マンドラゴラの栽培は春に始まって、冬に収穫が行われる。
 普通の野菜のように数か月で収穫ができるのではなく、一年かけて丁寧に育てなければいけないようなのだ。
 マンドラゴラを育ててくれている村の農家に、僕は行ってみたいと思っていた。

「セイラン様、マンドラゴラ農家に見学に行きたいのですが、いいでしょうか?」
「マンドラゴラ農家には私も世話になっている。リラとレイリも誘って一緒に行くか」
「お願いします」

 僕がお願いするとセイラン様は快く了承してくれた。

「レイリ、リラ、マンドラゴラ農家に挨拶に行かぬか?」

 レイリ様とリラにセイラン様が話すと、リラは「それなら」と提案した。

「ナンシーちゃんとナンシーちゃんのお母さんも呼んだらどうかしら? マンドラゴラの栄養剤について教えてくれるかもしれないでしょう。それに、スリーズちゃんもレオくんも興味があると思うわよ」

 確かにマンドラゴラの栄養剤を作ってくれているナンシーちゃんのお母さんの話は聞いてみたかったし、ナンシーちゃんもマンドラゴラに興味があるだろう。スリーズちゃんは自分が食べているものだし、飼っているものでもあるし、レオくんはお母さんが作っているマンドラゴラの栄養剤がどんなに役に立っているかを知りたいかもしれない。

「大所帯になるが、みんなで行ってみるか」
「ありがとうございます、セイラン様」

 ナンシーちゃんとレオくんと二人のお母さんとスリーズちゃんも連れて行くことに決めてくれたセイラン様に、僕はお礼を言って深く感謝した。

 高等学校が冬休みに入ってから、僕たちはマンドラゴラ農家に行くことにした。高等学校が休みにならないと僕とリラとナンシーちゃんの予定が合わなかったのだ。

 冬休みの寒い日にマフラーと手袋を付けて、毛糸のコートで暖かくして、僕とリラとスリーズちゃんは社に集まった。
 ナンシーちゃんとレオくんとレオくんのお母さんもコートを着て来ていた。
 粉雪が舞っていて、雪は積もっていなかったが底冷えのする日だった。

 歩いてマンドラゴラ農家に向かいながら、ナンシーちゃんのお母さんが説明してくれる。ナンシーちゃんのお母さんはナンシーちゃんそっくりで麦わら色の髪をしている。

「マンドラゴラの栄養剤は専用の薬草を煎じて作ります。マンドラゴラの栄養剤を作るためには、薬草を育てるところから始めなければいけません」
「植物を育てるために、植物を使うんですか? ちょっと不思議な感じですね」
「マンドラゴラは魔法植物ですからね。特別な栄養が必要なのです」

 話を聞いているととても興味深い。

「栄養剤用の薬草は春に種を植えて、夏に収穫します。夏から栄養剤を作り始めて、マンドラゴラが実り始める秋には栄養剤を届けなければいけません」
「栄養剤作りにそんなに時間がかかるの?」
「そうなのよ。長く煮詰めたり、熟成させたりしなければいけないからね」

 リラの質問にもナンシーちゃんのお母さんは丁寧に答えてくれている。

 マンドラゴラにそれだけ手がかけられていたとは驚きだった。
 隣りを歩くセイラン様を見上げて僕は問いかける。

「栄養剤は農家が買っているのですか?」
「いや、私たちが支払って農家に渡している」
「それなら、農家の純利益は増えるわけですね」

 マンドラゴラを育てるだけで一年中畑を使わなければいけなかったら、マンドラゴラ農家はかなりの金額でマンドラゴラを売らないと暮らしていけないだろう。マンドラゴラだけが一年の収益になるのだから。
 それを考えると、栄養剤代まで出していたらマンドラゴラ農家は潰れてしまいそうな気がしていた。

 それをセイラン様とレイリ様も分かっているのだろう。マンドラゴラ農家に栄養剤代は出させずに、セイラン様とレイリ様は支払っていた。

「マンドラゴラ農家が長く続いたら、マンドラゴラがこの土地の特産品になるんじゃないですか?」
「マンドラゴラの栽培は難しい。栄養剤を作れるものも少ない。大量生産は難しいだろう」

 簡単に考えてしまっていたが、マンドラゴラを育てるためにはそれなりのノウハウがあるわけだし、マンドラゴラの栄養剤を現在作っているのはナンシーちゃんのお母さんだけだった。
 マンドラゴラの栄養剤を誰もが作れるようになれば、マンドラゴラの栽培も盛んになるのではないだろうか。

「マンドラゴラの栄養剤は魔法を使わなければ作れないのですか?」
「熟成期間を短縮したり、煮詰める時間を短縮したりするのに魔法は使っていますが、それを辛抱強く待つことができれば魔法なしでも作れないことはないですよ」

 ナンシーちゃんのお母さんの答えに一抹の希望が見えて来た。

 マンドラゴラ農家につくと、マンドラゴラの畑を見せてもらう。土地神様が揃ってきているということで、マンドラゴラ農家のひとたちは平伏せんばかりに僕たちを迎えてくれた。

「ジンジン、おともだちがいるわよ」
「おともだちをたべちゃうのか……」
「それは……」

 人参マンドラゴラのジンジンを抱いたスリーズちゃんがレオくんに言われてしんみりとしている。
 畑の畝の中ではマンドラゴラが「びぎゃ」「びょえ」「びょわ」と何か話して蠢いているようだった。

「マンドラゴラ農家の方に話しをしたいのですが」
「なんでしょう」

 僕がお願いすると成人してすぐくらいの男性が歩み出て来る。僕の隣りにはセイラン様が立っているので、圧倒されている様子だ。

「薬草を育てる農地がありますか?」
「薬草を、ですか? 家の裏に、自分たちの食べる野菜を作っている農地がありますが、そこでよければ育てられると思います」
「自分たちの食べる野菜を作らなくても大丈夫なんですか?」
「あれはなくても食べていけますし、マンドラゴラを育てる効率がよくなるのならば、その方法を教えて欲しいです」

 僕が考えたのは、マンドラゴラ農家が自分たちで栄養剤を作ることによって、セイラン様とレイリ様から収入を更に得ることができるようになるシステムだった。
 魔法を使わなくても栄養剤が作れるのならば、それも不可能ではない。

「ナンシーちゃんのお母さん、マンドラゴラ農家の方に栄養剤の作り方を教えるというのはどうでしょう?」
「薬草の育て方や栄養剤の作り方を教えて、マンドラゴラ農家の方が自分たちで作れるようにするんですね」
「ナンシーちゃんのお母さんの収入は減ってしまうかもしれませんが……」

 そのことを心苦しく思っている僕に、ナンシーちゃんのお母さんは笑顔で答える。

「栄養剤作りも、レオが小学校に入るまでにさせてほしいと思っていたんです。レオが小学校に入ったら、本格的に働けるようになるから、副業はもう辞めたいと」

 来年の春からレオくんは小学校に入学する。
 今年の冬はいい節目だったようだ。

 僕の提案に答えてナンシーちゃんのお母さんは薬草の育て方をマンドラゴラ農家の方に教えて、後日薬草の種を持ってくると約束していた。

「栄養剤の作り方は薬草が育ってから教えましょうね。実物があった方が分かりやすいですからね」
「魔法を使わなくても作れるのですか?」
「魔法を使わなくても作れますよ」

 ナンシーちゃんとマンドラゴラ農家の方の間で話はまとまった。

「最初に私が栄養剤の作り方を覚えて、他の農家に伝えていきます。どうか、教えてください」
「しっかり覚えてくださいね。後で見直せるように作り方を書いて纏めて来ましょうね」

 ナンシーちゃんのお母さんはマンドラゴラ農家の方に協力的だった。

 マンドラゴラの畑を見せてもらうと、大根や蕪や人参の葉っぱが生えているだけに見える。土の下にマンドラゴラがいて、小声で話しながら蠢いているのだけが、普通の大根や蕪や人参と違うところだ。

「収穫は年明けになります。正月にお届けいたします」
「マンドラゴラは大事に使う。頼んだぞ」

 セイラン様に言われてマンドラゴラ農家の方は深く頭を下げていた。
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