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転生したらまた魔女の男子だった件

135.僕とリラの将来

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 孤児院から魔女の森の母の家までスリーズちゃんを送っていくと、庭先でぽつんとレオくんが座っていた。スリーズちゃんの帰りを待っていたのだ。
 僕とスリーズちゃんを抱っこしたセイラン様と、リラを抱っこしたレイリ様が降り立つと、レオくんが立ち上がって目を輝かせる。

「スリーズちゃん!」
「レオくん!」

 ぽんっとセイラン様の腕から飛び降りて、スリーズちゃんがレオくんに駆け寄って行った。抱き合って再会を喜び合う二人に胸が暖かくなる。
 精神と肉体の乖離に苦しんでいるのではないかと思っていたが、意外とスリーズちゃんは三歳の体も楽しんでいる気がする。

 首から下げていたポーチからレオくんが大きな箱を取り出す。箱の中には真っ赤に色付いた苺がたくさん入っていた。

「スリーズちゃん、あさっておたんじょうびだろ? もってきたんだ」
「すーにプレゼント? うれしい! レオくんだいすき!」

 喜んで受け取って母に大きな箱を渡すスリーズちゃんに母がレオくんの前で膝を曲げて視線を合わせる。

「こんなにたくさんいただいて申し訳ないわ。何かお礼をしなきゃ」
「レオがあげたかったんです。スリーズちゃんがだいすきだから!」
「スリーズ、よかったわね。苺、大好きだものね」
「レオくん、ありがとう!」

 お誕生日お祝いに箱いっぱいの苺を持って来てくれるレオくんをスリーズちゃんが嫌いなわけがない。レオくんの方もスリーズちゃんが大好きだから苺を持って来てくれるわけだ。

 冬にレオくんは五歳になっているので、五歳ともうすぐ四歳になるスリーズちゃんとの清らかな姿に僕は二人を拝んでしまいそうになった。
 僕の妹がこんなにも可愛い。

 将来のことを考えても、魔女同士で結婚できる方がスリーズちゃんにはいい気がする。レオくんはスリーズちゃんにお似合いの相手なのではないだろうか。

 魔女の男の子ということでレオくんは非常に希少だが、魔法を使うことはできない。スリーズちゃんはそれを補ってあげることができるし、神族の血も流れているので、普通の人間を相手にすることはないだろう。

 そこまで考えて、僕はもう一つの可能性に気付いてしまった。

 レオくんは冬生まれで五歳。スリーズちゃんは春生まれでもうすぐ四歳。
 年の差は一歳に思えるのだが、学年は春で変わるので、二つ違うのではないだろうか。

「お母さん、気付いてた? レオくんとスリーズちゃんの学年のこと」
「しっ! ラーイ、今言うとスリーズがショックを受けるから、ギリギリまで言わないつもりよ」

 母はやっぱり気付いていた。
 スリーズちゃんも生まれ変わっているという事情があるので、僕とリラのように二年早く小学校に入るというのもありなのだが、それができるかどうかは分からない。
 できもしないことを口にしてしまったらスリーズちゃんをぬか喜びさせることになるので母は黙っているのだろう。

 僕も知らないふりをしておくことにした。

 二日後のスリーズちゃんのお誕生日にはレオくんは当然招かれていたし、ナンシーちゃんも来てくれた。
 ナンシーちゃんは紅茶を持ってきてくれていた。

「お父さんの果樹園の果物で、香りを付けたフレーバーティーを開発し始めたの。よかったら飲んでみて」
「もらってばかりで申し訳ないな」
「スリーズちゃんのお誕生日だし、ラーイくんとリラちゃんとお母様にご意見を伺いたいの」

 フレーバーティーは桃と苺があって、二種類を入れて飲み比べることになった。
 桃のフレーバーティーを入れると爽やかな桃の香りが部屋に広がる。苺のフレーバーティーはショートケーキのような香りがしていた。

「苺は不思議な感じだね」
「分かる? バニラも入れてみたのよ」
「それでか!」

 どちらのフレーバーティーも桃と苺とバニラの香りがしてとても美味しかった。
 ケーキのお皿が一つにカップが二つずつ。桃のフレーバーティーには母が蜂蜜を入れて甘くしてくれて、苺とバニラのフレーバーティーには牛乳をたっぷり入れてくれた。

 紅茶とケーキを楽しんでいると、レオくんが首から下げたポーチから花束を取り出した。
 それは庭に生えている花を摘んで束ねただけのものだったけれど、素朴で綺麗だった。
 受け取ったスリーズちゃんは嬉しそうににこにこしている。

「ありがとう、レオくん」
「スリーズちゃん、よんさい、おめでとう!」

 スリーズちゃんももう四歳になるのだ。
 僕はしみじみしてしまう。

 僕からはスリーズちゃんにお祝いがあった。
 レオくんと色違いの長めのシャツだ。ひらひらと揺れる裾は、スリットが入っていてズボンと合わせると綺麗に見える。

「レオのぶんもある! ありがとう、ラーイおにいちゃん!」
「レオくんとおそろい! うれしい!」

 広げたシャツをスリーズちゃんとレオくんは大事に畳んで片付けていた。

 四年生になって高等学校では専門科目に分かれるようになった。
 ナンシーちゃんも勉強の仕方を覚えたので心配はない。リラも成績優秀者を保てるだろう。

 僕は付与魔法の専門課程に進んでいて、毎日縫物の日々になった。
 夏には薔薇乙女仮面の衣装も暑いかもしれないから、もっと涼しげなものを作ってあげた方がいいのだろうか。
 髪飾りも作りたい。

 リラは肉体強化の魔法を順調に覚えているようだった。

「お兄ちゃん、私、思うのよ」
「何を?」
「スリーズちゃん、あの年で私との雪合戦に勝ったでしょう? 将来有望じゃない?」
「スリーズちゃんは将来有望に決まってるよ」

 僕の妹が可愛くないわけがない。
 自信を持って言えば、聞いていたナンシーちゃんに笑われてしまう。

「ラーイくんって、妹のことを可愛がっているのね」
「ナンシーちゃんもレオくんのこと可愛くない?」
「可愛いわ」

 問い返せばナンシーちゃんは真顔になって答えていた。
 ナンシーちゃんの悩みはお父さんの果樹園のことだった。

「お父さんは普通の人間だから、魔女の森の加護で多少老化が遅くなっているとしても、私が大人になるころには第一線で働けなくなってるかもしれないのよね。私は早くお父さんの力になれるように勉強して、果樹園を継がなきゃ」
「ナンシーちゃんは果樹園を継ぐつもりでいるの?」
「そうよ。将来はレオと一緒に果樹園で働くのよ」

 ナンシーちゃんの将来はもう決まっていた。
 僕も大人になったら魔女の森で母と一緒に仕立て屋をするつもりではあるのだが、その話をまだ母としていない気がする。
 しっかりとご両親と話し合って将来を見据えているナンシーちゃんが眩しい気がしていた。

「リラは将来何になりたいの?」
「正義の味方!」

 うーん。
 なかなか難しい答えが返って来た。
 正義の味方ってどうやってなるものなのだろう。
 そもそも、正義の味方はどうやって稼いで食べていけるものなのだろう。

「リラ、正義の味方ってどうやってお金を稼ぐの?」
「分からないけど、助けたひとがくれたりするんじゃない?」
「それでいいのー!?」

 正義の味方ではご飯は食べていけない気がするのだが、リラをどうすればいいのだろうか。
 土地神様のお嫁さんになれば食べるには困らないだろうが、それでリラが納得するとは思えない。自分で稼いで自分の食べる分は確保しないと、一人前と言えないのではないだろうか。

 困っている僕に、ナンシーちゃんが助け舟を出してくれた。

「リラちゃんは、魔女族の長を継いだら?」
「え!? そんなことができるの!?」

 確かに僕とリラの母は魔女族の長だが、それを継ぐことなどできるのだろうか。
 驚き戸惑っている僕にナンシーちゃんが言う。

「魔女族の長様は、魔女族の行く末を決定したり、魔女の森の結界を張ったり、魔女の森を守ったりしてくれているわ。それは、正義の味方の仕事ではないかしら?」
「確かに! 正義の味方だわ、ナンシーちゃん!」
「そのお礼に魔女族の長様は魔女族からお礼をもらっているはずなのよ。それなら、リラちゃんも納得する正義の味方の姿じゃない?」

 魔女族の長になったリラのことを考えると、母が魔女族の長だからできないわけではない気がしてきた。

「リラ、魔女族の長になる?」
「なってもいいわ! 私、誰にも負けない、強い長になる」
「魔女族の長は結界も張れないとダメなんだよ?」
「そっちも勉強してみるわ」

 リラにも具体的な目標ができたようだった。
 リラが治める魔女族はどうなるのだろう。
 スリーズちゃんと協力すれば、それも悪くないのではないかと思えていた。
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