土地神様に守られて 〜転生したらまた魔女の男子だった件〜

秋月真鳥

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転生したらまた魔女の男子だった件

131.フウガくんの情熱

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 美味しいご馳走をいっぱい食べた僕もリラもセイラン様とレイリ様のご両親にお礼を言って社に帰った。
 白虎の村は寒かったが火がたかれていて、熱いお茶を飲むためにお湯が沸かされていたので室内は暖かだった。中央に生えている巨木は不思議と寒くなかった。

 社に帰ると寒さに僕とリラは震えていた。
 白虎の村の方が高地にあって寒いはずなのに、社の冬は底冷えがする寒さがある。ずっと座っていると足先と指先が冷たくなって動かなくなる気がする。

 先にリラにお風呂を譲って、僕が震えているとセイラン様が毛布を持ってきて僕を包んで膝の上に抱っこしてくれる。

「ラーイは冷えやすいのだったな」
「僕だけじゃありません。マオさんも寒いと思います」
「そうなのか」
「社に暖かな風を吹かせることはできないのですか?」
「風は冷たいものだからな。暖かな風は考えたことがなかった」

 できるかもしれないとセイラン様がレイリ様と話している間、マオさんが熱いお茶を湯飲みに入れて僕に渡してくれる。湯飲みを持っているだけで手が温まるし、ふうふう吹いて飲むと胃の中から体が温まる。

「私は熱い飲み物をよく飲んでいるし、厨房は火があるので意外と平気なのですよ」
「マオさんの部屋は寒くないの?」
「部屋は……寒いですけど」

 マオさんや僕やリラにとって寒さは長年の敵だった。
 今年こそは暖かく年を越したい。

 お風呂に入って僕は布団にすぐに入った。布団の中でセイラン様の胸を弄っていると、セイラン様が僕の髪に指を差し込む。

「ラーイ、飲むのならば飲んでくれ。そんなに触られると、変な感じがする」
「どんな感じがするのですか?」
「言わせるな」

 恥ずかしがっているセイラン様が可愛くてもっとその姿を見たかったけれど、僕はお乳も欲しくて、結局セイラン様の乳首に口を付けた。こくこくとお乳を飲むと癒されない渇きが満たされる気がする。
 美味しいお乳をお腹いっぱい飲んで、僕は眠りについた。

 寒さの件を魔女の森に行ったときに母に相談してみると、母はあっさりと僕に言った。

「その解決策を、ラーイは持ってるんじゃない?」
「え?」
「ラーイにはできることがあるはずよ」

 そうだった。
 僕にはできることがあった。

 僕は毛糸で靴下を編んで、ベストも編んで、それにしっかりと魔法をかける。体の温かさを保つ魔法は僕にでもかけられた。
 マオさんとリラには毛糸で腰に巻く、巻きスカートのようなものも作った。僕はひざ掛けを編んだ。
 ベストにしたのは作業をするときには袖がない方が楽だろうと思ったからだ。
 家の中ではマフラーは邪魔になるのでネックウォーマーを編む。

 セイラン様とレイリ様には寒さに強いのでいらないかと思ったが、せっかくなので僕とお揃いのひざ掛けを編んでおく。
 出来上がったベストと巻きスカートと靴下とひざ掛けとネックウォーマーは畳んでウエストポーチの中に入れた。

 社に帰ると僕はリラとマオさんとセイラン様とレイリ様を呼んだ。

「寒さ対策に作ってみました。よければ使ってください」

 リラにベストと巻きスカートとネックウォーマーと靴下を渡すと、意外ときっちりと編み込まれているそれに目を輝かせている。

「勉強しているときに寒かったのよね。助かるわ。お兄ちゃんありがとう」
「どういたしまして」

 マオさんにも渡すと、マオさんは恐縮しているようだ。

「私にまでいいのですか?」
「マオさんも家族だよ。社で暖かく過ごして欲しいんだ」
「大事に使います」

 セイラン様とレイリ様にひざ掛けを渡すと、結構ずっしりと重く編んだそれを手にして目を細めている。

「私にもあるのだな。爪を引っかけないように気を付けねば」
「温かそうですね。ありがとうございます」
「爪を引っかけたら修理するから教えてください」

 みんなに感謝されて、僕は母が僕にできることがあると教えてくれたことをあり難く思っていた。
 ベストにネックウォーマーに靴下にひざ掛けで、もこもことして、僕は社でも暖かく過ごせるようになった。
 マオさんの分には汚れや水を弾く魔法もかけているので、厨房で料理をしていても安心だ。

 今年の冬は特に寒くて、雪が積もっていたので、僕はベストと巻きスカートとネックウォーマーと靴下を作って本当によかった。

 冬休みもフウガくんは社の庭にやってくる。
 雪の中ぷるぷると震えているフウガくんは、着物に雪駄姿だ。

「フウガくん、寒いんじゃない?」
「ラーイはあったかそうだな」
「僕は魔法のかかった毛糸のベストを着てるし、靴下もはいてるからね。フウガくん、足袋をはいてるけど、濡れてるんじゃない?」
「足袋もはくだけ無駄なんだよ。もう、寒くて」

 震えているフウガくんの足元に手を翳して足袋を乾かして、濡れないように魔法をかけると、フウガくんが目を丸くしている。

「今の、魔法か?」
「そうだよ。僕、魔女だからね」
「すげぇ! 俺にも魔法の才能がないかな?」
「うーん、どうかなぁ。魔女の森の魔女以外で魔法が使えるって聞いたことないからなぁ」

 この世界で魔法が使えるのは魔女だけである。
 神族は魔法を超える術を使えるが、それと魔法はまた別物である。
 魔女だけが魔法という特別な力を持っている。

「俺、魔女に生まれたかったな」
「魔女の男の子、大変だよ?」

 そんな簡単なものではないと僕が言うと、フウガくんは不服そうな顔をしていた。
 魔女の男の子として生まれてきただけで殺されかけた僕にしてみれば、簡単ではないと言いたくもなる。前の生でも魔女の男の子というだけで殺されてしまったし、今世でもセイラン様とレイリ様に守られていなければ、僕は生まれたときに殺されていただろう。
 それに、魔女だからセイラン様のお乳を飲まなければ成長できないという弊害もある。セイラン様のお乳を飲むのは好きで、飲まなくてもよくなっても飲みたいのだが、セイラン様の触れ合いのためで、本来ならばお乳ではないもっと大人の触れ合いを求める時期に差し掛かっているのかもしれない。

「フウガくんにも毛糸で防寒具を作ってあげようか?」
「いいのか? 魔女の魔法がかかった防寒具は高いんじゃないのか?」
「友達だから気にしないよ。コウガくんの分もあった方がいいよね」

 コウガくんを連れてきてサイズを計りたいと僕が言えば、フウガくんは一度家に戻ってコウガくんを連れて来た。
 コウガくんも寒くて洟を垂らしている。

「計るからじっとしててね」

 社に上がってもらってコウガくんとフウガくんのサイズを計っていると、マオさんが声をかけてくれる。

「ラーイ様、おやつをどうぞ。お友達もご一緒に」
「マオさん、ありがとう」

 測り終えると、僕とコウガくんとフウガくんはマオさんに温かなぜんざいを作ってもらった。
 ぜんざいのお餅は焼かれていて、小豆の汁の中で蕩けて美味しい。
 はふはふと吹き冷ましながら食べていると、フウガくんの目がマオさんを一心に見つめている。

「お友達じゃないよ。俺はフウガだ」
「そうでしたね。お隣りのフウガくん。弟はコウガくんでしたね」
「マオさん、大きくなったら結婚して欲しい」

 真剣な眼差しで告げるフウガくんは、小さな頃と変わっていない。ずっとマオさんのことが大好きなのだ。

「フウガくんが大きくなったときには、私はお祖母ちゃんですよ」
「そんなことない! マオさんはずっとマオさんだ。マオさんがマオさんである限り、俺は好きだ」

 熱っぽく告白するフウガくんに僕は驚いてしまう。
 セイラン様は生まれたときからずっと年上だったけれど、神族なので年を取ることがない。僕が成人するまでの時間など、セイラン様にとっては一瞬の出来事なのだろう。

「フウガくん、そんなにマオさんのことが……」
「ずっとずっと好きなんだ。俺にとっては、唯一の女神みたいなひとだよ」

 あ、ちょっと変な妄想入ってきたかな?
 フウガくんは最近変な妄想が入るのだ。それに気付いているけれど、僕はフウガくんにツッコミを入れるだけでそれを止めることはしていない。

「兄ちゃんがマオさんと結婚したら、毎日ぜんざいが食える?」
「食えると思う」
「それなら、俺、応援する!」

 コウガくんもフウガくんを応援する体勢だ。
 フウガくんの情熱がマオさんに届くのか。それはフウガくんが成人してみないと分からない。
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