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転生したらまた魔女の男子だった件
130.前世のことをセイラン様とレイリ様のご両親に話す
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冬休みに入って僕は行きたい場所があった。
セイラン様とレイリ様の生まれた村だ。十一歳のときにスリーズちゃんと母とお父さんを連れて行ってから一度も行っていない。
長いときを生きるセイラン様とレイリ様にとっては二年くらい会わなくても気にならないのだろうが、僕はセイラン様とレイリ様のご両親も家族だと思っているので会わないのは嫌だった。
「セイラン様、レイリ様、冬休みに白虎の村に行きませんか?」
僕が提案すると床に白虎の姿で寛いでいたセイラン様はひとの姿になって立ち上がってくれるし、リラを膝の上に乗せて髪を梳いていたレイリ様は顔をこちらに向けてくれた。
「どれくらい会っていませんかね」
「二年ほどではないか?」
「ラーイにとっては長く感じられるのでしょうね」
十三年しか生きていない僕にとって、二年間はかなり長いし、二年前と比べて僕は変わった。僕の前世のことも、セイラン様とレイリ様のご両親は気付いているのだろうが、はっきりと自分の口からお伝えしたかった。
それに、スリーズちゃんが前世の妹であったことも伝えたい。
「セイラン様とレイリ様のご両親にお話ししたいことがたくさんあるのです」
「分かった。冬休みの間に白虎の村に行こう」
「ラーイ、これをアマリエから預かっているのですが」
白虎の村に行く前にレイリ様が僕とリラに渡してくれたのは、虎の刺繍が施されたウエストポーチだった。
これまでは小さな虎の形のポーチを使っていたが、流石に年齢が高くなったので母も気にしてくれたのだろう。僕が高等学校でからかわれたというのも考えてくれたのかもしれない。
「虎がついてるわ。これは白虎ね」
「虎の目には水色のビーズが縫い付けられていますね」
緻密に刺繍された白虎の目には水色の丸いビーズが縫い付けられている。セイラン様がそれを見て指で触れる。
「これはアクアマリンだな」
「アクアマリン?」
「宝石の一種だ。水色のアクアマリンを小さな丸いビーズにして縫い付けたのだろう」
刺繍の虎の目は宝石だった。
糸も銀色と艶やかな黒が使われていて、それが値の張るものだとすぐに分かる。
虎のポーチで十分だと思っていた僕も、ウエストポーチの出来上がりの見事さにそれが欲しくなっていた。
「僕がもらっていいのですか?」
「アマリエが言っていました。虎のポーチは幼すぎるのに気付いていなかったと。今度からこれを使って欲しいと」
母が気にすることではないし、僕もリラも虎のポーチを気に入っていたので問題なかったのだが、母が新しく作ってくれたウエストポーチは、青みがかった灰色と水色で、青みがかった灰色を僕がもらって、水色をリラがもらった。
「お母さんにお礼を言わなきゃ」
「次に会ったときに言おうね」
嬉しいプレゼントに僕もリラも気分が上向いていた。
白虎の村には僕がセイラン様に抱き上げられて、リラがレイリ様に抱き上げられて飛んだ。これまでは白虎の姿になったセイラン様とレイリ様の背中に跨っていたのだが、僕もリラも大きくなりすぎてしまったようだ。
抱っこも大きくなりすぎている気がするのだが、セイラン様とレイリ様が大きいのであまり気にならない。
白虎の村に着くとセイラン様とレイリ様は中央に生えている巨大な木に飛び移った。幹に近い場所にセイラン様とレイリ様のご両親が虎の姿で太い枝の上に寝そべっている。
「父上、母上、ラーイとリラを連れて来ました」
「ラーイもリラも大人になりましたよ」
レイリ様の報告に僕は胸がドキドキとしてしまう。肉体的に僕が大人になったことはレイリ様にも知られていた。リラも肉体的に大人になったのだと実感できる。
「それはめでたいですね。宴を開かねば」
「結婚する日も近付いてきておるな」
セイラン様とレイリ様のご両親も僕とリラの成長を喜んでくれている。気恥ずかしいが成長を祝われるのは嫌ではない。
「ご馳走が振舞われるの? 私、白虎族のご馳走好きよ」
「もち米に肉や野菜を入れて炊こう」
「お米はとても貴重なのですよ。もち米は特に貴重です。大事な宴にしか使いません」
「ありがとうございます。セイラン様とレイリ様のお父上とお母上にお話があるのです」
宴が始まる前に僕はセイラン様とレイリ様のご両親にお話ししておかなければいけないことがある。
口を開くと、緊張してくる。
「お気付きだったかもしれませんが、僕は生まれる前の記憶があります。生まれる前も僕は魔女の男の子で、十歳のときに殺されました」
「そうでないかと思っていた」
「魂の輝きが違いましたからね」
やはりセイラン様とレイリ様のご両親は気付いておられた。
木から落ちないようにセイラン様に支えられて僕は一歩前に出る。
「僕はずっと自分の前世の妹はリラだと思っていたのですが、十歳のときに生まれたスリーズちゃんだということが分かりました」
「魔女の長と渡る神の娘であったな。あの子も魂の輝きが違った」
「生まれ変わったのではないかと思っていたのですよ」
セイラン様とレイリ様のご両親はスリーズちゃんのことも気付いておられた。
それならば話が早い。
「僕は前回こちらに来た後で、大陸で前世の父と会いました。前世の父は前世の母に執着して、国王なのに子どもも作らずに後継者争いになっていた。前世の母の説得で前世の父は養子をもらって後継者争いに終止符を打つことができたのです」
「大変な冒険をしたのですね」
「大陸の情勢は耳に入って来る。あの国の国王だろうなということも分かっている」
「分かるのですか?」
「それは分かるよ。我らの眷属もあの国の近くの土地の土地神となっておる」
あの国の近くの土地にはセイラン様とレイリ様と同じ白虎族の土地神様がいた。新しい事実に、会っておけばよかったとちょっと後悔する。
大陸にはセイラン様も気軽に行けるわけではないのだ。
「お話を聞いてくださりありがとうございました」
「いや、いつでも話に来るといい」
「私たちの息子たちが選んだ婚約者ですからね」
セイラン様とレイリ様のお父上もお母上も優しくて、僕は話し終えてほっと胸を撫で下ろしていた。
宴の準備がされている間、リラがセイラン様とレイリ様のご両親に話しかけていた。
「私、高等学校で成績優秀者になったんです!」
「成績優秀者とはどのようなものですか?」
「えーっと、勉強がよくできて、生活態度もよくて、成績優秀者になると高等学校に払っている学費が免除されるんです」
「それはすごいではないか」
「お兄ちゃんはずっと成績優秀者だったんですが、私もなることができました」
「それはよかったですね」
「それも祝わねばなるまい」
「それならば、ラーイの成績も一緒に祝うのですよ」
「それはそうだな」
リラだけでなく僕の成績も祝ってもらえるようだ。
僕は二度目の人生だし、勉強ができて当たり前のように感じていたが、セイラン様も最近は褒めてくれるようになったし、セイラン様とレイリ様のご両親もこうやって祝ってくださる。
僕は本当に幸せ者だと噛み締めていた。
場所をセイラン様とレイリ様のご両親の家に移して、宴が行われる。
運ばれて来たご馳走に、僕もリラも視線を奪われた。
「子豚が一匹焼かれてる!?」
「これ、食べられるの?」
子豚の丸焼きが大きなお皿に乗せられて僕とリラの前に置かれる。
セイラン様とレイリ様がナイフとフォークを持って子豚の丸焼きを解体してくれる。
「皮がぱりぱりして美味しいのだぞ」
「塩と香辛料をかけて食べると美味しいのですよ」
お皿の上に乗せられた大きな肉の塊に僕もリラも涎が垂れそうだった。子豚の丸焼きからは香ばしいいい香りがしてくる。
それだけではない。
大きな葉っぱで包まれたもち米の炊き込みご飯も用意されていた。
葉っぱを開けるときに蒸気で熱くて躊躇ってしまうが、吹き冷ましながら開けて食べるともちもちしていてとても美味しい。
子豚の丸焼きに香辛料と塩をかけて食べながら、炊き込みご飯も食べる。
なんて贅沢なのだろうと僕はほっぺたが落ちそうになっていた。
セイラン様とレイリ様の生まれた村だ。十一歳のときにスリーズちゃんと母とお父さんを連れて行ってから一度も行っていない。
長いときを生きるセイラン様とレイリ様にとっては二年くらい会わなくても気にならないのだろうが、僕はセイラン様とレイリ様のご両親も家族だと思っているので会わないのは嫌だった。
「セイラン様、レイリ様、冬休みに白虎の村に行きませんか?」
僕が提案すると床に白虎の姿で寛いでいたセイラン様はひとの姿になって立ち上がってくれるし、リラを膝の上に乗せて髪を梳いていたレイリ様は顔をこちらに向けてくれた。
「どれくらい会っていませんかね」
「二年ほどではないか?」
「ラーイにとっては長く感じられるのでしょうね」
十三年しか生きていない僕にとって、二年間はかなり長いし、二年前と比べて僕は変わった。僕の前世のことも、セイラン様とレイリ様のご両親は気付いているのだろうが、はっきりと自分の口からお伝えしたかった。
それに、スリーズちゃんが前世の妹であったことも伝えたい。
「セイラン様とレイリ様のご両親にお話ししたいことがたくさんあるのです」
「分かった。冬休みの間に白虎の村に行こう」
「ラーイ、これをアマリエから預かっているのですが」
白虎の村に行く前にレイリ様が僕とリラに渡してくれたのは、虎の刺繍が施されたウエストポーチだった。
これまでは小さな虎の形のポーチを使っていたが、流石に年齢が高くなったので母も気にしてくれたのだろう。僕が高等学校でからかわれたというのも考えてくれたのかもしれない。
「虎がついてるわ。これは白虎ね」
「虎の目には水色のビーズが縫い付けられていますね」
緻密に刺繍された白虎の目には水色の丸いビーズが縫い付けられている。セイラン様がそれを見て指で触れる。
「これはアクアマリンだな」
「アクアマリン?」
「宝石の一種だ。水色のアクアマリンを小さな丸いビーズにして縫い付けたのだろう」
刺繍の虎の目は宝石だった。
糸も銀色と艶やかな黒が使われていて、それが値の張るものだとすぐに分かる。
虎のポーチで十分だと思っていた僕も、ウエストポーチの出来上がりの見事さにそれが欲しくなっていた。
「僕がもらっていいのですか?」
「アマリエが言っていました。虎のポーチは幼すぎるのに気付いていなかったと。今度からこれを使って欲しいと」
母が気にすることではないし、僕もリラも虎のポーチを気に入っていたので問題なかったのだが、母が新しく作ってくれたウエストポーチは、青みがかった灰色と水色で、青みがかった灰色を僕がもらって、水色をリラがもらった。
「お母さんにお礼を言わなきゃ」
「次に会ったときに言おうね」
嬉しいプレゼントに僕もリラも気分が上向いていた。
白虎の村には僕がセイラン様に抱き上げられて、リラがレイリ様に抱き上げられて飛んだ。これまでは白虎の姿になったセイラン様とレイリ様の背中に跨っていたのだが、僕もリラも大きくなりすぎてしまったようだ。
抱っこも大きくなりすぎている気がするのだが、セイラン様とレイリ様が大きいのであまり気にならない。
白虎の村に着くとセイラン様とレイリ様は中央に生えている巨大な木に飛び移った。幹に近い場所にセイラン様とレイリ様のご両親が虎の姿で太い枝の上に寝そべっている。
「父上、母上、ラーイとリラを連れて来ました」
「ラーイもリラも大人になりましたよ」
レイリ様の報告に僕は胸がドキドキとしてしまう。肉体的に僕が大人になったことはレイリ様にも知られていた。リラも肉体的に大人になったのだと実感できる。
「それはめでたいですね。宴を開かねば」
「結婚する日も近付いてきておるな」
セイラン様とレイリ様のご両親も僕とリラの成長を喜んでくれている。気恥ずかしいが成長を祝われるのは嫌ではない。
「ご馳走が振舞われるの? 私、白虎族のご馳走好きよ」
「もち米に肉や野菜を入れて炊こう」
「お米はとても貴重なのですよ。もち米は特に貴重です。大事な宴にしか使いません」
「ありがとうございます。セイラン様とレイリ様のお父上とお母上にお話があるのです」
宴が始まる前に僕はセイラン様とレイリ様のご両親にお話ししておかなければいけないことがある。
口を開くと、緊張してくる。
「お気付きだったかもしれませんが、僕は生まれる前の記憶があります。生まれる前も僕は魔女の男の子で、十歳のときに殺されました」
「そうでないかと思っていた」
「魂の輝きが違いましたからね」
やはりセイラン様とレイリ様のご両親は気付いておられた。
木から落ちないようにセイラン様に支えられて僕は一歩前に出る。
「僕はずっと自分の前世の妹はリラだと思っていたのですが、十歳のときに生まれたスリーズちゃんだということが分かりました」
「魔女の長と渡る神の娘であったな。あの子も魂の輝きが違った」
「生まれ変わったのではないかと思っていたのですよ」
セイラン様とレイリ様のご両親はスリーズちゃんのことも気付いておられた。
それならば話が早い。
「僕は前回こちらに来た後で、大陸で前世の父と会いました。前世の父は前世の母に執着して、国王なのに子どもも作らずに後継者争いになっていた。前世の母の説得で前世の父は養子をもらって後継者争いに終止符を打つことができたのです」
「大変な冒険をしたのですね」
「大陸の情勢は耳に入って来る。あの国の国王だろうなということも分かっている」
「分かるのですか?」
「それは分かるよ。我らの眷属もあの国の近くの土地の土地神となっておる」
あの国の近くの土地にはセイラン様とレイリ様と同じ白虎族の土地神様がいた。新しい事実に、会っておけばよかったとちょっと後悔する。
大陸にはセイラン様も気軽に行けるわけではないのだ。
「お話を聞いてくださりありがとうございました」
「いや、いつでも話に来るといい」
「私たちの息子たちが選んだ婚約者ですからね」
セイラン様とレイリ様のお父上もお母上も優しくて、僕は話し終えてほっと胸を撫で下ろしていた。
宴の準備がされている間、リラがセイラン様とレイリ様のご両親に話しかけていた。
「私、高等学校で成績優秀者になったんです!」
「成績優秀者とはどのようなものですか?」
「えーっと、勉強がよくできて、生活態度もよくて、成績優秀者になると高等学校に払っている学費が免除されるんです」
「それはすごいではないか」
「お兄ちゃんはずっと成績優秀者だったんですが、私もなることができました」
「それはよかったですね」
「それも祝わねばなるまい」
「それならば、ラーイの成績も一緒に祝うのですよ」
「それはそうだな」
リラだけでなく僕の成績も祝ってもらえるようだ。
僕は二度目の人生だし、勉強ができて当たり前のように感じていたが、セイラン様も最近は褒めてくれるようになったし、セイラン様とレイリ様のご両親もこうやって祝ってくださる。
僕は本当に幸せ者だと噛み締めていた。
場所をセイラン様とレイリ様のご両親の家に移して、宴が行われる。
運ばれて来たご馳走に、僕もリラも視線を奪われた。
「子豚が一匹焼かれてる!?」
「これ、食べられるの?」
子豚の丸焼きが大きなお皿に乗せられて僕とリラの前に置かれる。
セイラン様とレイリ様がナイフとフォークを持って子豚の丸焼きを解体してくれる。
「皮がぱりぱりして美味しいのだぞ」
「塩と香辛料をかけて食べると美味しいのですよ」
お皿の上に乗せられた大きな肉の塊に僕もリラも涎が垂れそうだった。子豚の丸焼きからは香ばしいいい香りがしてくる。
それだけではない。
大きな葉っぱで包まれたもち米の炊き込みご飯も用意されていた。
葉っぱを開けるときに蒸気で熱くて躊躇ってしまうが、吹き冷ましながら開けて食べるともちもちしていてとても美味しい。
子豚の丸焼きに香辛料と塩をかけて食べながら、炊き込みご飯も食べる。
なんて贅沢なのだろうと僕はほっぺたが落ちそうになっていた。
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