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転生したらまた魔女の男子だった件
129.スリーズちゃんの精神年齢
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冬休み前の試験で、ナンシーちゃんの成績は上位に入っていた。これならば頻繁に放課後に勉強しなくてもいいのではないだろうか。
ナンシーちゃんと僕とリラはよく話し合った。
「勉強のコツが分かって来た気がするのよ。自分だけで基本的に頑張ってみて、分からないところだけラーイくんとリラちゃんに聞いてもいい?」
「もちろんだよ」
「いつでも聞きに来て」
これからはナンシーちゃんは一人で勉強する方向になっていくようだ。三人で放課後に勉強するのも楽しかったので、僕はちょっと寂しかったけれど、ナンシーちゃんの成功を祈っていた。
マンドラゴラは高等学校に行っている間は虎のポーチの中に入れている。この虎のポーチも小さな頃から使っているが、お気に入りなので特に新しいのを欲しがらずにいた。
体に比べてとても小さくなってしまったけれど、収納力は抜群だし、ポケットに入れて手ぶらで行動できるのも嬉しい。
お手洗いに行って戻ってくるときに、ポケットにハンカチを仕舞おうとして、虎のポーチを落としてしまったときのことだった。
くすりと誰かに笑われた気がする。
顔を上げると、まだあどけない表情の女の子と目が合った。
僕やリラと変わらない年齢で、多分、今年入学した一年生だろう。
「三年生でしょ? そんな子どもっぽいポーチ持ってるのおかしいわ」
くすくすと笑われて、僕は黙ってポーチをポケットに入れる。
これに込められた母の愛情や、僕の愛着、セイラン様に少し似ているそれを僕が手放せない理由など、話したところで理解されないだろう。
こういう輩には話しても無駄なのだと思って立ち去ろうとすると、追いかけて声をかけて来る。
「土地神様の養い子なんでしょう? まだ土地神様のおっぱい飲んでるって本当?」
大きな声で言うその子に、周囲できゃーという声が上がった。おっぱいという単語に女の子たちが反応しているのだろう。
高等学校になってまでひとをからかうようなことをする子どもがいるのだと呆れていると、その子の顔にバシッと手袋が叩き付けられた。
「その言葉は、土地神様に喧嘩を売っていると理解していいのよね?」
教室の方を見ると仁王立ちのナンシーちゃんと、手袋を投げた格好のままのリラが立っていた。
これはまずいやつだ。
止めようとする間もなく、窓からものすごい勢いで燕の姿のスリーズちゃんが飛び込んでくる。
「にぃにのちんぴ! ばらおとめかめん、にごー! さんじょー!」
「お兄ちゃんに無礼なことを言うのは許さないわ! 薔薇乙女仮面一号、変身!」
「土地神様の名誉を汚すようなことは許さない! 薔薇乙女仮面三号、出動!」
なんということでしょう。
薔薇乙女仮面一号と二号と三号が揃ってしまったのです。
変身した三人とも燕尾服風のデザインにフリルの付いたジャケットを着ていて、下にはワンピースを着ている。この三人の恐ろしさが分からないほど、下級生の子も鈍くはなかった。
「ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃ……」
「どんなつもりだったの?」
「土地神様を侮辱したのは間違いないわよね?」
「にぃに、いじめた! ゆるたない!」
謝っても許されそうにない場面に、女の子は泣きそうになっている。
「僕は気にしてないから」
「お兄ちゃんが気にしなくても、侮辱されたのは私でもあるのよ!」
「土地神様とその養い子を侮辱するとどうなるか、魂に刻んでやらなきゃ!」
「すー、わるいやつ、たおす!」
どうして僕の周囲の女の子はこんなにも好戦的なのでしょう。
泣きたくなってきた僕に、下級生の女の子は遂に土下座をした。
「ごめんなさい。もう言いません。許してください」
謝っているのだから許してあげたいところだが、リラとナンシーちゃんとスリーズちゃんはもうやる気になっている。三対一というのもまずいし、下級生をぼこぼこにするというのもよくない。
「スリーズちゃん!」
「あい!」
「一発だけ、優しく『天誅!』してきてくれる?」
「あい! てんちゅー!」
ボゴッてとても痛そうな音がした。
僕は人選を間違ったかもしれない。
スリーズちゃんに蹴られて吹っ飛んでいく下級生の女の子に、僕は手を合わせた。
迎えに来た母にスリーズちゃんを渡していると、母はリラから事情を聞いていた。
「お兄ちゃんの大事な虎さんのポーチを馬鹿にしたのよ。その上、セイラン様からおっぱいをもらっているってことを大声で言って、お兄ちゃんを辱めようとしたの」
「それは決闘して当然ね」
「当然なの!?」
「スリーズちゃんが蹴り飛ばしたから許したんだけど」
「よくやったわ、スリーズ」
「よくやった、なの!?」
リラと母の感覚に僕はついて行けなくて突っ込んでしまう。突っ込まれてもリラも母も全く気にしていない様子だった。
高等学校に来たついでに母は担任から話を聞いていた。
「ラーイくんだけでなくリラちゃんも成績優秀者となって、学費が免除されるようになって、担任としては誇らしい限りです。ラーイくんとリラちゃんは、成績が伸び悩んでいたナンシーちゃんのことも助けています。とても立派な生徒です」
「そう言っていただけて嬉しいです。私にとってもラーイとリラは自慢の息子と娘です」
「ラーイくんは高等学校でただ一人の男の子だから、注目を集めるのは仕方がありません。トラブルにならないように、こちらでも気を付けます」
「リラとナンシーちゃんとスリーズが守りますわ。ラーイは守られて安心です」
度重なる決闘の件も担任の先生はちゃんと把握していた。
魔女同士の決闘は止めることができない。魔法を使うことがないので、決闘をした方が安全なので推奨されているのだ。
「お母さん、帰ろう」
「ラーイとリラの話をもっと聞きたいわ」
「れおくん、まってる。かか、かえろ?」
「そうだったわ! レオくんにお留守番してもらってるんだった」
スリーズちゃんに言われて母は気付いたようだった。
急いで帰り支度を始めて、スリーズちゃんを小脇に抱えて、僕とリラと手を繋いで、母の家まで魔法で飛んだ。
玄関の前で座り込んで足をぶらぶらさせていたレオくんが僕たちが帰って来たのに気付いて走ってやってくる。
「スリーズちゃん、きゅうにとんでったけど、だいじょうぶだった?」
「にぃに、いじめられてたの! すー、めっ! してきた」
「スリーズちゃんが、めっ! したらあんしんだな」
とても安心とは言える状況ではなかったのだけれども、まぁなんとかなったということで、僕はよしとしておいた。
「レオくん、ふえ、ふいて!」
「わかったよ!」
レオくんがお父さんからもらった白い艶々した笛を吹いてスリーズちゃんを応援する。スリーズちゃんは果敢にサンドバッグに飛びかかって行った。
「ラーイ、リラ、おやつの準備をするから、スリーズとレオくんを見ててくれる?」
ウッドデッキから部屋に入る母が僕とリラに言う。
「いいよ、見てる」
「美味しいおやつ作ってね」
久しぶりに母の家でゆっくりおやつが食べられる。
僕もリラも、レオくんの笛でスリーズちゃんが戦うのを見ながら、おやつを楽しみにしていた。
今日のおやつは角切り林檎の入ったムースだった。
しゃくしゃくの歯ごたえのいい林檎と、柔らかな蕩けるようなムースがよく合う。
食べていると自然と笑顔になってしまう。
「スリーズちゃん、ほっぺ、ついてる」
「どぉこ?」
「ここだよ」
ポケットからハンドタオルを出してレオくんがスリーズちゃんの頬っぺたを拭いてくれている。スリーズちゃんは拭いてもらってにこにことしていた。
「レオ、スリーズちゃんのおにいちゃんだからな」
「え? すーがねぇねよ?」
「スリーズちゃんはさんさい、レオはよんさいだよ?」
「すー、さんさい……」
納得していない顔をしているスリーズちゃんの気持ちには僕は心当たりがあった。
スリーズちゃんには前世の記憶があって、三歳の体だが十歳のつもりなのだろう。
肉体と精神の年制の乖離というのはとても苦しいものだった。
「すー、みっつ! でも、すー、じゅっさいよ?」
「じゅっさいじゃないよ、スリーズちゃんはさんさいだよ?」
レオくんにはそういうことは分からない。
スリーズちゃんはちょっと不服そうにしていたが、ムースを食べてミルクティーを飲んだらまた外でレオくんと遊び始めた。
ナンシーちゃんと僕とリラはよく話し合った。
「勉強のコツが分かって来た気がするのよ。自分だけで基本的に頑張ってみて、分からないところだけラーイくんとリラちゃんに聞いてもいい?」
「もちろんだよ」
「いつでも聞きに来て」
これからはナンシーちゃんは一人で勉強する方向になっていくようだ。三人で放課後に勉強するのも楽しかったので、僕はちょっと寂しかったけれど、ナンシーちゃんの成功を祈っていた。
マンドラゴラは高等学校に行っている間は虎のポーチの中に入れている。この虎のポーチも小さな頃から使っているが、お気に入りなので特に新しいのを欲しがらずにいた。
体に比べてとても小さくなってしまったけれど、収納力は抜群だし、ポケットに入れて手ぶらで行動できるのも嬉しい。
お手洗いに行って戻ってくるときに、ポケットにハンカチを仕舞おうとして、虎のポーチを落としてしまったときのことだった。
くすりと誰かに笑われた気がする。
顔を上げると、まだあどけない表情の女の子と目が合った。
僕やリラと変わらない年齢で、多分、今年入学した一年生だろう。
「三年生でしょ? そんな子どもっぽいポーチ持ってるのおかしいわ」
くすくすと笑われて、僕は黙ってポーチをポケットに入れる。
これに込められた母の愛情や、僕の愛着、セイラン様に少し似ているそれを僕が手放せない理由など、話したところで理解されないだろう。
こういう輩には話しても無駄なのだと思って立ち去ろうとすると、追いかけて声をかけて来る。
「土地神様の養い子なんでしょう? まだ土地神様のおっぱい飲んでるって本当?」
大きな声で言うその子に、周囲できゃーという声が上がった。おっぱいという単語に女の子たちが反応しているのだろう。
高等学校になってまでひとをからかうようなことをする子どもがいるのだと呆れていると、その子の顔にバシッと手袋が叩き付けられた。
「その言葉は、土地神様に喧嘩を売っていると理解していいのよね?」
教室の方を見ると仁王立ちのナンシーちゃんと、手袋を投げた格好のままのリラが立っていた。
これはまずいやつだ。
止めようとする間もなく、窓からものすごい勢いで燕の姿のスリーズちゃんが飛び込んでくる。
「にぃにのちんぴ! ばらおとめかめん、にごー! さんじょー!」
「お兄ちゃんに無礼なことを言うのは許さないわ! 薔薇乙女仮面一号、変身!」
「土地神様の名誉を汚すようなことは許さない! 薔薇乙女仮面三号、出動!」
なんということでしょう。
薔薇乙女仮面一号と二号と三号が揃ってしまったのです。
変身した三人とも燕尾服風のデザインにフリルの付いたジャケットを着ていて、下にはワンピースを着ている。この三人の恐ろしさが分からないほど、下級生の子も鈍くはなかった。
「ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃ……」
「どんなつもりだったの?」
「土地神様を侮辱したのは間違いないわよね?」
「にぃに、いじめた! ゆるたない!」
謝っても許されそうにない場面に、女の子は泣きそうになっている。
「僕は気にしてないから」
「お兄ちゃんが気にしなくても、侮辱されたのは私でもあるのよ!」
「土地神様とその養い子を侮辱するとどうなるか、魂に刻んでやらなきゃ!」
「すー、わるいやつ、たおす!」
どうして僕の周囲の女の子はこんなにも好戦的なのでしょう。
泣きたくなってきた僕に、下級生の女の子は遂に土下座をした。
「ごめんなさい。もう言いません。許してください」
謝っているのだから許してあげたいところだが、リラとナンシーちゃんとスリーズちゃんはもうやる気になっている。三対一というのもまずいし、下級生をぼこぼこにするというのもよくない。
「スリーズちゃん!」
「あい!」
「一発だけ、優しく『天誅!』してきてくれる?」
「あい! てんちゅー!」
ボゴッてとても痛そうな音がした。
僕は人選を間違ったかもしれない。
スリーズちゃんに蹴られて吹っ飛んでいく下級生の女の子に、僕は手を合わせた。
迎えに来た母にスリーズちゃんを渡していると、母はリラから事情を聞いていた。
「お兄ちゃんの大事な虎さんのポーチを馬鹿にしたのよ。その上、セイラン様からおっぱいをもらっているってことを大声で言って、お兄ちゃんを辱めようとしたの」
「それは決闘して当然ね」
「当然なの!?」
「スリーズちゃんが蹴り飛ばしたから許したんだけど」
「よくやったわ、スリーズ」
「よくやった、なの!?」
リラと母の感覚に僕はついて行けなくて突っ込んでしまう。突っ込まれてもリラも母も全く気にしていない様子だった。
高等学校に来たついでに母は担任から話を聞いていた。
「ラーイくんだけでなくリラちゃんも成績優秀者となって、学費が免除されるようになって、担任としては誇らしい限りです。ラーイくんとリラちゃんは、成績が伸び悩んでいたナンシーちゃんのことも助けています。とても立派な生徒です」
「そう言っていただけて嬉しいです。私にとってもラーイとリラは自慢の息子と娘です」
「ラーイくんは高等学校でただ一人の男の子だから、注目を集めるのは仕方がありません。トラブルにならないように、こちらでも気を付けます」
「リラとナンシーちゃんとスリーズが守りますわ。ラーイは守られて安心です」
度重なる決闘の件も担任の先生はちゃんと把握していた。
魔女同士の決闘は止めることができない。魔法を使うことがないので、決闘をした方が安全なので推奨されているのだ。
「お母さん、帰ろう」
「ラーイとリラの話をもっと聞きたいわ」
「れおくん、まってる。かか、かえろ?」
「そうだったわ! レオくんにお留守番してもらってるんだった」
スリーズちゃんに言われて母は気付いたようだった。
急いで帰り支度を始めて、スリーズちゃんを小脇に抱えて、僕とリラと手を繋いで、母の家まで魔法で飛んだ。
玄関の前で座り込んで足をぶらぶらさせていたレオくんが僕たちが帰って来たのに気付いて走ってやってくる。
「スリーズちゃん、きゅうにとんでったけど、だいじょうぶだった?」
「にぃに、いじめられてたの! すー、めっ! してきた」
「スリーズちゃんが、めっ! したらあんしんだな」
とても安心とは言える状況ではなかったのだけれども、まぁなんとかなったということで、僕はよしとしておいた。
「レオくん、ふえ、ふいて!」
「わかったよ!」
レオくんがお父さんからもらった白い艶々した笛を吹いてスリーズちゃんを応援する。スリーズちゃんは果敢にサンドバッグに飛びかかって行った。
「ラーイ、リラ、おやつの準備をするから、スリーズとレオくんを見ててくれる?」
ウッドデッキから部屋に入る母が僕とリラに言う。
「いいよ、見てる」
「美味しいおやつ作ってね」
久しぶりに母の家でゆっくりおやつが食べられる。
僕もリラも、レオくんの笛でスリーズちゃんが戦うのを見ながら、おやつを楽しみにしていた。
今日のおやつは角切り林檎の入ったムースだった。
しゃくしゃくの歯ごたえのいい林檎と、柔らかな蕩けるようなムースがよく合う。
食べていると自然と笑顔になってしまう。
「スリーズちゃん、ほっぺ、ついてる」
「どぉこ?」
「ここだよ」
ポケットからハンドタオルを出してレオくんがスリーズちゃんの頬っぺたを拭いてくれている。スリーズちゃんは拭いてもらってにこにことしていた。
「レオ、スリーズちゃんのおにいちゃんだからな」
「え? すーがねぇねよ?」
「スリーズちゃんはさんさい、レオはよんさいだよ?」
「すー、さんさい……」
納得していない顔をしているスリーズちゃんの気持ちには僕は心当たりがあった。
スリーズちゃんには前世の記憶があって、三歳の体だが十歳のつもりなのだろう。
肉体と精神の年制の乖離というのはとても苦しいものだった。
「すー、みっつ! でも、すー、じゅっさいよ?」
「じゅっさいじゃないよ、スリーズちゃんはさんさいだよ?」
レオくんにはそういうことは分からない。
スリーズちゃんはちょっと不服そうにしていたが、ムースを食べてミルクティーを飲んだらまた外でレオくんと遊び始めた。
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