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転生したらまた魔女の男子だった件

127.気付いたスリーズちゃん

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 フウガくんに真剣な口調で相談された。

「俺、額に目があって、それが開くような気がしてるんだ」
「うん、気のせいだよ!」
「そうかなぁ」

 フウガくんの妙な妄想はまだ続いているようだ。

「右腕を開放すればもっと力が使える気もするし」
「気のせい、気のせい」

 全てを気のせいで終わらせるしか僕にはできない。フウガくんは普通の人間の男の子で特別な力などないように見えるのだ。

「土地神様に俺に特別な力がないか見てもらえないかな? ラーイ、土地神様の養い子で婚約者だろ?」
「ないから安心して?」
「あると思うんだけどなぁ」

 しつこいフウガくんに「ないよ」ときっぱりと言って、僕はフウガくんを幼年学校に送り出した。
 マオさんに髪を結んでもらったリラが靴を履いて外に出て来る。

「お待たせ、お兄ちゃん。今日は髪の毛に気合入れてもらっちゃった」
「すごく可愛いよ」

 気合が入っているリラは前髪に小さな花が編み込まれているし、後ろの髪はポニーテールにして三つ編みにしてたれ下げていた。
 妹が可愛いのは嬉しいのでにこにこしていると、リラがフウガくんの立ち去った道の方を見ている。

「幼年学校の男の子ってあんな感じなのかしら」
「何か言われた?」
「庭でお兄ちゃんがいないときに、他の子が来てたんだけど、土の上に蹲ってるから体調が悪いのかと声を掛けたら、『これは真の力が目覚める予兆なのだ』とか言ってて」
「うわー……」

 僕は何とも言えない気分になってしまう。
 その子がフウガくんと同じ年くらいだったら、その年齢になると妙な妄想に憑りつかれるのかもしれない。

「真の力が目覚めたら、私と戦ってね! っていったら逃げちゃった」
「それは怖い! 魔女にそれを言われたら逃げる!」

 魔女の中でも相当武闘派のリラにそれを言われてしまったら逃げるしかないだろう。変な妄想でその子がリラに勝負を挑まなくてよかったと心の底から思っていた。

 高等学校が終わって、その日はナンシーちゃんが用事があったので、母の家に寄って帰ることにした。
 母の家に行くと、スリーズちゃんがレオくんと小学校ごっこをしている。

「このもんだいがわかりまつか?」
「はい、わかります」
「レオくん、こたえてくだたい」

 スリーズちゃんが先生役で楽しそうにウッドデッキで遊んでいて、母はスリーズちゃんとレオくんに紙とクレヨンを貸してあげていた。クレヨンでぐりぐりと紙に書いているレオくんに、スリーズちゃんが「せいかい!」と言っている。
 和やかな光景でいつまでも見ていたかったが、それが一変したのはレオくんの一言からだった。

「スリーズちゃんはひとつとししただから、レオがさきにしょうがっこうにはいるよね」
「えぇ!? すーとレオくん、いっしょじゃないの!?」
「う、うん。たぶん、そうだよ」
「うそぉー! かか! かか! すー、レオくんといっしょにしょうがっこうにいきたいー!」

 ショックを受けて泣き出したスリーズちゃんを母が縫っていたものを置いて抱き上げる。針は魔法で危険のないように裁縫箱に仕舞われた。

「レオくんとスリーズは年齢が違うからね」
「いっしょがいーの!」
「そうは言っても……」

 泣き喚いて我が儘を言うスリーズちゃんに母も困っているようだ。

「いいじゃない、レオくんと一緒に小学校に入学させてあげたら。私もお兄ちゃんも二年早く小学校に入学したわ」

 リラがそういうのだが、そんなに簡単にはいかないようだ。

「ラーイとリラは魔女の森で暮らさないと魔力が足りないからそうしてもらっただけで、スリーズは特に問題はないものね。まだお乳も飲んでるし」
「かか! レオくんのまえでそれいっちゃ、やあああああ!」

 更に激しく手足をばたつかせてスリーズちゃんが暴れる。スリーズちゃんはまだ母のお乳を飲んでいるようだが、三歳なのでおかしくはないだろう。僕もこの年でセイラン様のお乳を飲んでいるので何も言えない。

「魔女は乳離れが遅いのよ。乳離れしてしまうと成長が遅くなるから、ギリギリまで親は飲ませておきたいの」

 恥ずかしいことじゃないという母に、レオくんがそばかすの散った頬っぺたを赤くして口を開く。

「レオものんでるから、スリーズちゃん、はずかしくないよ」
「レオくんも?」
「かあちゃん、まだのんでていいっていうから」

 そもそも魔女の乳離れは遅かったと僕は初めて知った。さすがに僕の年齢まで飲んでいる子はいないだろうけれど、レオくんの年齢まで飲んでいる子は普通にいるということだ。

 セイラン様とレイリ様ではなく母に育てられていたら、僕も普通にレオくんくらいの年までお乳を飲んでいたのだろう。

「平気よ、スリーズちゃん。私はまだレイリ様のお乳を飲んでいるから!」
「リラ、それを言っちゃう!?」
「何で? お兄ちゃん、全然恥ずかしいことじゃないわ」
「レイリ様が恥ずかしいから、マンドラゴラで魔力を足していることにしようって話だったじゃない!」
「あれぇ? そうだったっけ?」

 平然とスリーズちゃんに宣言しているリラに僕の方が焦ってしまった。リラは全くの平静だ。

「ねぇねも? にぃにも?」
「そうだよ」
「は、恥ずかしいから言っちゃダメだよ?」
「あい」

 スリーズちゃんはリラと僕がお乳を飲んでいることで少し落ち着いたようだ。

「小学校に行くのはオムツが取れて、お乳を飲まなくなってからね」
「すー、おむちゅ、とる! おちち、のまない!」
「急に頑張らなくていいのよ。まだ時間はいっぱいあるのだし」
「すー、レオくんとしょうがっこう、いくぅー!」

 これはスリーズちゃんは本気で譲らないモードに入っている。
 母はまた小学校の校長先生に相談しないといけないだろう。特に理由がないのに一年早く小学校に入りたがるスリーズちゃんを校長先生は受け入れてくれるだろうか。
 それも二年後の話なので、それまでに母が根回しをしているだろう。

「まだまだ先に話だから、今は落ち着いて」
「かか、すーをレオくんといっしょにして?」
「できるだけのことはするわ」

 僕とリラを小学校に入れてくれたときも、母はちゃんと根回しをしてくれていた。魔女の長という地位を母は存分に利用していた。
 こういう個人的なことに魔女の長という地位を利用するのはよくないのだが、スリーズちゃんにも事情がないわけではないのだ。

「お母さん、スリーズちゃんは十歳の女の子が生まれ変わっているから、それは考慮してあげて」
「そうだったわね。スリーズはもう字も読めるものね」

 手首が安定していないので、字は上手く書けないが、スリーズちゃんは字を読めるのだという。絵本も放っておくと自分で呼んでいたり、レオくんに呼んであげていたりするようだ。

 スリーズちゃんの成長を聞いて僕は自分のことを思い出す。
 前世では本だけが友達だった僕。スリーズちゃんも同じだったはずだ。内容の変わる魔法の本を二人で覗き込んで読んでいた。あの瞬間、遠い世界が見えたようで僕はすごく幸せだったのだ。

「その話をすれば校長先生も考えてくださると思うわ」
「スリーズちゃんとレオくんはあんなに仲がいいもの。一緒に小学校に行って欲しいよね」

 何より、まだ魔女の森には男の子の魔女が少ない。レオくんの年齢ではレオくんだけだろうし、最近一人生まれたと聞いているが、その子もその年齢では一人きりかもしれない。
 魔女に男の子が生まれるようになったと言っても、その数は非常に少なかった。

 レオくんの上の代の魔女の男の子は僕だし、魔女の森に男の子は僕とレオくんと最近生まれた子の三人しかいないことになる。レオくんは魔女の中でも守られなければいけない存在だった。
 そういう意味でもスリーズちゃんとレオくんが一緒に小学校に行くのは意義があるのではないかと僕は思っていた。
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