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転生したらまた魔女の男子だった件
118.褒められる僕
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春休みの試験でナンシーちゃんは成績が真ん中よりも上になっていた。勉強を教えた甲斐があるというものだ。
ナンシーちゃんの前で僕をからかった女子生徒に関しては、後日揃って謝りに来た。
「男の子がいなかったから、どう接すればいいか分からなかったんです」
「からかうようなことをしてごめんなさい」
「私たちも男の子と話をしてみたい気持ちが、空回りしてしまいました」
謝ってくれたので僕は許すことにしたが、リラはこれ見よがしにシャドウボクシングをしていて敵意を露わにしていた。
「何よあれ。男の子と話してみたかったとか、失礼ね! お兄ちゃんと話してみたかったなら分かるけど、男の子で一括りにしないでよね」
「リラ、そんなに怒らないで」
「リラちゃんの気持ちも分かるわ。男の子を珍しいもののように言って。ラーイくんはラーイくんという個人なのに」
ナンシーちゃんもあの女子生徒たちを許していないようだ。
でも、僕が許しているので、これ以上は手出しをすることがないだろう。僕はあの女子生徒たちにもう二度と僕に関わらないように願っていた。
リラは成績優秀者になった。
ナンシーちゃんに勉強を教えていたのがリラにも復習になって、試験でいい成績を取れたのだ。
僕と同じ成績優秀者になって、リラも学費が免除されることになって、とても誇らしそうだった。
僕とリラの学費は母が払っているので、通達は母にも行っているはずだ。母が何も言わないのは、リラが一番にレイリ様に伝えたいのだと分かっているからだ。
春休み前の最後の日、僕とリラは母の家に寄ってスリーズちゃんと遊んでから帰った。久しぶりに遊んであげてスリーズちゃんは大はしゃぎだった。
「にぃに、みて! すーの!」
綺麗に縫われたままごとの具材は母が作ってくれたのだろう。魚や野菜や肉もある。
「すー、じゅうじゅうする。にぃに、ねぇね、たべて!」
「スリーズちゃんのお料理楽しみだなー」
「美味しいの作ってね!」
「あい!」
木のフライパンとお鍋を使って、綺麗に縫われた具材で遊ぶスリーズちゃんは輝いていた。
社に帰るとリラは真っすぐにレイリ様のところに走って行った。
持っていた試験の解答用紙を出して、レイリ様に見せる。
「レイリ様、私、成績優秀者になったのよ! 来年は一年、学費が免除なの!」
「すごいじゃないですか、リラ。よく頑張りましたね」
「レイリ様、お祝いして」
「お祝いに今日はリラの好きなものをマオに作ってもらいましょうね。何がいいですか?」
「私、おうどんがいいわ! 天ぷらをいっぱい乗せるのよ」
無邪気に喜び合っているリラとレイリ様を見て心がほっこりしていると、セイラン様が僕に声をかける。
「ラーイも見せてみよ」
「え? 何をですか?」
「リラと同じものをだ」
僕が解答用紙を見せると、セイラン様が大きな手で僕の頭を撫でてくれる。
「ラーイもいつも頑張っておるのだな。好きな天ぷらの具を言うといい」
「えーっと、僕は何が好きかな? 小柱のかき揚げが食べたいです」
「マオに作ってもらおうな」
僕まで褒めてもらえて、僕はすごく嬉しかった。セイラン様に抱き付くと、セイラン様が少し申し訳ない顔をする。
「ラーイはいつも成績がいいから、これまで褒めて来なかった。気が付かなかった私を許して欲しい。ラーイも褒められるべきだった」
「今褒めてくださいました。僕はとても嬉しいです」
「これからは毎回褒める。試験のたびに、解答用紙を見せるがよい」
セイラン様に毎回褒めてもらえるとなると、僕も勉強にやる気が出て来た。
春休みにセイラン様とレイリ様の元に使者がやってきた。
大陸の砂漠の国の土地神様の眷属の犬と鷹の神族だった。
セイラン様とレイリ様の前に犬と鷹の神族は深く深く頭を下げている。
「我らの土地のものがこちらの土地でご無礼を働きましたこと、我が主も深く謝罪申し上げております」
「この世界で唯一魔女の住まう森があると聞いて、興味を持つものは多いのです。それが土地のものや魔女を傷付けかねないと考えが及んでおらず、申し訳ありませんでした」
土地神様の眷属がわざわざ出てきて謝罪をするということは、それだけセイラン様の怒りが相手の土地神様に伝わったということだ。
白虎の姿で社に来た眷属を迎えていたセイラン様とレイリ様は、一瞬顔を見合わせてから、ごうと吠えた。
吠え声に使者が震え上がる。
「二度とあのようなことがないようにせよと伝えよ」
「我らの土地で勝手に狩りを行い、魔女を面白半分で見に来るなど、あってはならぬことです。次があれば、彼の土地は我らと事を構えるつもりなのだと考えるやもしれませんよ」
鋭いセイラン様の一喝と、声を抑えたレイリ様の言葉に、床に頭を擦り付けて使者は返事をしていた。
「必ず伝えます」
「二度となきようにいたします!」
これで一応、大陸の砂漠の国とこの土地との友好は守られた。
帰る前の使者に僕は聞いてみる。
「国王陛下の統治はどうですか?」
「あの国の国王は病気から回復して、養子をもらって、育成に励んでいます」
「養子とも実の子どものように仲がよく、養子は次の王に相応しいと言われています」
「一部反対派がいますが、それを押し切ってでも国王は養子を後継者にするでしょう」
「後継者争いがやっとおさまりそうです」
あの国はあの国でなんとかやっているようだ。
話を聞くと僕は前世の母に会いたくなった。
「セイラン様、前世の母に会いたいのですが」
「会いに行くなら、スリーズも誘う方がいいのではないか?」
「そうですね! スリーズちゃんも誘おう」
セイラン様にお願いして、僕は魔女の森まで飛んでもらった。
魔女の森の入口にある母の家に行くと、母がスリーズちゃんにご飯を食べさせていた。
「かか、やーの!」
「スリーズ、食べ物を床に捨てないで! 食べたくないときにはそう言えば分かるから」
「これ、やーの! よーるぐと、いーの」
「パンは嫌なのね。ヨーグルトを食べるのね?」
「あい」
ピザトーストを投げ捨てていたスリーズちゃんに母が注意している。ピザトーストを拾った母は、ヨーグルトと果物をスリーズちゃんにあげていた。
魔の三歳とはいうが、言うことを聞かないイヤイヤ期がスリーズちゃんにも来てしまったのだろう。
「ラーイ、来ていたのね。土地神様も、いらっしゃいませ」
「スリーズちゃんと前世の母のところに行こうと思うんだ。お母さん、スリーズちゃんと行っていい?」
「スリーズも時々前世のお母さんに会わせて上げないとね。ちょっと待って。スリーズ、お出かけするから、お口を拭いてお着替えをするわよ」
「おでかけ! にぃにとおでかけ!」
食べ終わってヨーグルトでどろどろになった服で逃げ出そうとしていたスリーズちゃんが、お出かけと聞いて戻ってくる。素早く母がスリーズちゃんを捕まえて、着替えさせて僕に渡した。
僕はしっかりとスリーズちゃんを抱っこする。
「にぃに、おでかけ、どぉこ?」
「前世の母さんのところだよ」
「かか! いくぅー!」
スリーズちゃんにも前世の十歳までの記憶があるはずだ。どこまで鮮明なのかは僕には分からないけれど、僕は曖昧なところもあったし、忘れているところもあった。
前世の名前を僕は覚えていなかったが、スリーズちゃんは覚えていたなんてこともある。
スリーズちゃんを抱っこして、虎の姿のセイラン様に跨り、僕は前世の母のいる孤児院に連れて行ってもらった。
僕とスリーズちゃんが孤児院の庭に降りると、前世の母が出て来てくれる。
「母さん、あの国から使者が来たよ」
「あなたや私に何か用があって?」
「違うよ。あの国の貴族がこの土地で狩りをして、魔女を探そうとして、セイラン様とレイリ様を怒らせたんだ。そのお詫びに来ただけだけど、あの国の情勢を聞いてきた」
僕と前世の母が話していると、スリーズちゃんが黒い目をきょとんとさせている。
「あのくに、なぁに?」
「前世の僕とスリーズちゃんのお父さんがいる国なんだ。お父さんはその国の国王だったんだ」
「おうたま!?」
そう言えばスリーズちゃんにはこの話はしていなかった。驚いているスリーズちゃんに僕はゆっくりと説明する。
「前世の僕とスリーズちゃんは母さんにとって初めての子どもで、王太子だったころのお父さんと出会って、子どもを作ったんだって。その後にお父さんは国王になったけれど、子どもは作らなかったって聞いてる。母さんを忘れられなかったんだ」
「おーじたま、いない?」
「そう。それで、後継者争いが起きて、お父さんも病気で寝込んでいたんだけど、養子をもらうことにして、体調もよくなって、国も活気づいてるみたいだよ」
「おーじたま、いる?」
「うん、養子の王子様がいるね」
やはりスリーズちゃんはただの三歳児ではない。僕と同じ十歳までの記憶があるようだ。話が通じているのを感じる。
「かか、とと、なかよち?」
「いいえ、私はあの国では生きないわ。私が生きる場所はここ。この孤児院で子どもたちを育てていくの」
「かか、たみちい?」
「寂しくないのよ。私には子どもたちがいるから」
スリーズちゃんの問いかけにも前世の母は優しく答えていた。
お腹がいっぱいになっていたし、疲れていたスリーズちゃんは帰りには眠ってしまっていた。眠ってしまったスリーズちゃんを抱っこして母に渡すと、母は僕をスリーズちゃんごと抱き締めた。
「何度前世のお母さんの元に行ってもいいわ。私の元に帰って来てくれるなら」
「必ず帰るよ。僕のお母さんは、お母さんだからね」
「ラーイ、愛しているわ」
「僕も、お母さん」
前世の母との関係も認めつつも、母は自分のところに僕とスリーズちゃんが帰って来てほしいと思っている。僕もスリーズちゃんも今世の母が大好きだし、今世では母だけを母と思っているので、帰らない選択肢はなかった。
社に戻ると、晩ご飯の用意がされていた。
厨房からお出汁のいい匂いがしている。
「お兄ちゃん、お帰りなさい! おうどん、食べましょう!」
「小柱のかき揚げもありますよ」
リラとレイリ様に迎えられて、僕は社に帰って来たのだった。
ナンシーちゃんの前で僕をからかった女子生徒に関しては、後日揃って謝りに来た。
「男の子がいなかったから、どう接すればいいか分からなかったんです」
「からかうようなことをしてごめんなさい」
「私たちも男の子と話をしてみたい気持ちが、空回りしてしまいました」
謝ってくれたので僕は許すことにしたが、リラはこれ見よがしにシャドウボクシングをしていて敵意を露わにしていた。
「何よあれ。男の子と話してみたかったとか、失礼ね! お兄ちゃんと話してみたかったなら分かるけど、男の子で一括りにしないでよね」
「リラ、そんなに怒らないで」
「リラちゃんの気持ちも分かるわ。男の子を珍しいもののように言って。ラーイくんはラーイくんという個人なのに」
ナンシーちゃんもあの女子生徒たちを許していないようだ。
でも、僕が許しているので、これ以上は手出しをすることがないだろう。僕はあの女子生徒たちにもう二度と僕に関わらないように願っていた。
リラは成績優秀者になった。
ナンシーちゃんに勉強を教えていたのがリラにも復習になって、試験でいい成績を取れたのだ。
僕と同じ成績優秀者になって、リラも学費が免除されることになって、とても誇らしそうだった。
僕とリラの学費は母が払っているので、通達は母にも行っているはずだ。母が何も言わないのは、リラが一番にレイリ様に伝えたいのだと分かっているからだ。
春休み前の最後の日、僕とリラは母の家に寄ってスリーズちゃんと遊んでから帰った。久しぶりに遊んであげてスリーズちゃんは大はしゃぎだった。
「にぃに、みて! すーの!」
綺麗に縫われたままごとの具材は母が作ってくれたのだろう。魚や野菜や肉もある。
「すー、じゅうじゅうする。にぃに、ねぇね、たべて!」
「スリーズちゃんのお料理楽しみだなー」
「美味しいの作ってね!」
「あい!」
木のフライパンとお鍋を使って、綺麗に縫われた具材で遊ぶスリーズちゃんは輝いていた。
社に帰るとリラは真っすぐにレイリ様のところに走って行った。
持っていた試験の解答用紙を出して、レイリ様に見せる。
「レイリ様、私、成績優秀者になったのよ! 来年は一年、学費が免除なの!」
「すごいじゃないですか、リラ。よく頑張りましたね」
「レイリ様、お祝いして」
「お祝いに今日はリラの好きなものをマオに作ってもらいましょうね。何がいいですか?」
「私、おうどんがいいわ! 天ぷらをいっぱい乗せるのよ」
無邪気に喜び合っているリラとレイリ様を見て心がほっこりしていると、セイラン様が僕に声をかける。
「ラーイも見せてみよ」
「え? 何をですか?」
「リラと同じものをだ」
僕が解答用紙を見せると、セイラン様が大きな手で僕の頭を撫でてくれる。
「ラーイもいつも頑張っておるのだな。好きな天ぷらの具を言うといい」
「えーっと、僕は何が好きかな? 小柱のかき揚げが食べたいです」
「マオに作ってもらおうな」
僕まで褒めてもらえて、僕はすごく嬉しかった。セイラン様に抱き付くと、セイラン様が少し申し訳ない顔をする。
「ラーイはいつも成績がいいから、これまで褒めて来なかった。気が付かなかった私を許して欲しい。ラーイも褒められるべきだった」
「今褒めてくださいました。僕はとても嬉しいです」
「これからは毎回褒める。試験のたびに、解答用紙を見せるがよい」
セイラン様に毎回褒めてもらえるとなると、僕も勉強にやる気が出て来た。
春休みにセイラン様とレイリ様の元に使者がやってきた。
大陸の砂漠の国の土地神様の眷属の犬と鷹の神族だった。
セイラン様とレイリ様の前に犬と鷹の神族は深く深く頭を下げている。
「我らの土地のものがこちらの土地でご無礼を働きましたこと、我が主も深く謝罪申し上げております」
「この世界で唯一魔女の住まう森があると聞いて、興味を持つものは多いのです。それが土地のものや魔女を傷付けかねないと考えが及んでおらず、申し訳ありませんでした」
土地神様の眷属がわざわざ出てきて謝罪をするということは、それだけセイラン様の怒りが相手の土地神様に伝わったということだ。
白虎の姿で社に来た眷属を迎えていたセイラン様とレイリ様は、一瞬顔を見合わせてから、ごうと吠えた。
吠え声に使者が震え上がる。
「二度とあのようなことがないようにせよと伝えよ」
「我らの土地で勝手に狩りを行い、魔女を面白半分で見に来るなど、あってはならぬことです。次があれば、彼の土地は我らと事を構えるつもりなのだと考えるやもしれませんよ」
鋭いセイラン様の一喝と、声を抑えたレイリ様の言葉に、床に頭を擦り付けて使者は返事をしていた。
「必ず伝えます」
「二度となきようにいたします!」
これで一応、大陸の砂漠の国とこの土地との友好は守られた。
帰る前の使者に僕は聞いてみる。
「国王陛下の統治はどうですか?」
「あの国の国王は病気から回復して、養子をもらって、育成に励んでいます」
「養子とも実の子どものように仲がよく、養子は次の王に相応しいと言われています」
「一部反対派がいますが、それを押し切ってでも国王は養子を後継者にするでしょう」
「後継者争いがやっとおさまりそうです」
あの国はあの国でなんとかやっているようだ。
話を聞くと僕は前世の母に会いたくなった。
「セイラン様、前世の母に会いたいのですが」
「会いに行くなら、スリーズも誘う方がいいのではないか?」
「そうですね! スリーズちゃんも誘おう」
セイラン様にお願いして、僕は魔女の森まで飛んでもらった。
魔女の森の入口にある母の家に行くと、母がスリーズちゃんにご飯を食べさせていた。
「かか、やーの!」
「スリーズ、食べ物を床に捨てないで! 食べたくないときにはそう言えば分かるから」
「これ、やーの! よーるぐと、いーの」
「パンは嫌なのね。ヨーグルトを食べるのね?」
「あい」
ピザトーストを投げ捨てていたスリーズちゃんに母が注意している。ピザトーストを拾った母は、ヨーグルトと果物をスリーズちゃんにあげていた。
魔の三歳とはいうが、言うことを聞かないイヤイヤ期がスリーズちゃんにも来てしまったのだろう。
「ラーイ、来ていたのね。土地神様も、いらっしゃいませ」
「スリーズちゃんと前世の母のところに行こうと思うんだ。お母さん、スリーズちゃんと行っていい?」
「スリーズも時々前世のお母さんに会わせて上げないとね。ちょっと待って。スリーズ、お出かけするから、お口を拭いてお着替えをするわよ」
「おでかけ! にぃにとおでかけ!」
食べ終わってヨーグルトでどろどろになった服で逃げ出そうとしていたスリーズちゃんが、お出かけと聞いて戻ってくる。素早く母がスリーズちゃんを捕まえて、着替えさせて僕に渡した。
僕はしっかりとスリーズちゃんを抱っこする。
「にぃに、おでかけ、どぉこ?」
「前世の母さんのところだよ」
「かか! いくぅー!」
スリーズちゃんにも前世の十歳までの記憶があるはずだ。どこまで鮮明なのかは僕には分からないけれど、僕は曖昧なところもあったし、忘れているところもあった。
前世の名前を僕は覚えていなかったが、スリーズちゃんは覚えていたなんてこともある。
スリーズちゃんを抱っこして、虎の姿のセイラン様に跨り、僕は前世の母のいる孤児院に連れて行ってもらった。
僕とスリーズちゃんが孤児院の庭に降りると、前世の母が出て来てくれる。
「母さん、あの国から使者が来たよ」
「あなたや私に何か用があって?」
「違うよ。あの国の貴族がこの土地で狩りをして、魔女を探そうとして、セイラン様とレイリ様を怒らせたんだ。そのお詫びに来ただけだけど、あの国の情勢を聞いてきた」
僕と前世の母が話していると、スリーズちゃんが黒い目をきょとんとさせている。
「あのくに、なぁに?」
「前世の僕とスリーズちゃんのお父さんがいる国なんだ。お父さんはその国の国王だったんだ」
「おうたま!?」
そう言えばスリーズちゃんにはこの話はしていなかった。驚いているスリーズちゃんに僕はゆっくりと説明する。
「前世の僕とスリーズちゃんは母さんにとって初めての子どもで、王太子だったころのお父さんと出会って、子どもを作ったんだって。その後にお父さんは国王になったけれど、子どもは作らなかったって聞いてる。母さんを忘れられなかったんだ」
「おーじたま、いない?」
「そう。それで、後継者争いが起きて、お父さんも病気で寝込んでいたんだけど、養子をもらうことにして、体調もよくなって、国も活気づいてるみたいだよ」
「おーじたま、いる?」
「うん、養子の王子様がいるね」
やはりスリーズちゃんはただの三歳児ではない。僕と同じ十歳までの記憶があるようだ。話が通じているのを感じる。
「かか、とと、なかよち?」
「いいえ、私はあの国では生きないわ。私が生きる場所はここ。この孤児院で子どもたちを育てていくの」
「かか、たみちい?」
「寂しくないのよ。私には子どもたちがいるから」
スリーズちゃんの問いかけにも前世の母は優しく答えていた。
お腹がいっぱいになっていたし、疲れていたスリーズちゃんは帰りには眠ってしまっていた。眠ってしまったスリーズちゃんを抱っこして母に渡すと、母は僕をスリーズちゃんごと抱き締めた。
「何度前世のお母さんの元に行ってもいいわ。私の元に帰って来てくれるなら」
「必ず帰るよ。僕のお母さんは、お母さんだからね」
「ラーイ、愛しているわ」
「僕も、お母さん」
前世の母との関係も認めつつも、母は自分のところに僕とスリーズちゃんが帰って来てほしいと思っている。僕もスリーズちゃんも今世の母が大好きだし、今世では母だけを母と思っているので、帰らない選択肢はなかった。
社に戻ると、晩ご飯の用意がされていた。
厨房からお出汁のいい匂いがしている。
「お兄ちゃん、お帰りなさい! おうどん、食べましょう!」
「小柱のかき揚げもありますよ」
リラとレイリ様に迎えられて、僕は社に帰って来たのだった。
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