土地神様に守られて 〜転生したらまた魔女の男子だった件〜

秋月真鳥

文字の大きさ
上 下
115 / 180
転生したらまた魔女の男子だった件

115.涙のマンドラゴラ

しおりを挟む
 冬は大根や蕪の実る季節である。
 セイラン様とレイリ様は近くの村のひとたちに相談されて畑に出向いていた。

「夜になると大根と蕪が畑を抜け出して踊り出すのです」
「もしや、魔物ではないかと思っていて」

 村人に言われてセイラン様とレイリ様が畑を確かめてみると、土の中で何かが喋っているような声が聞こえる。

「びぎゃ」
「びょえ」

 その声は、スリーズちゃんが薔薇乙女仮面二号と「にぎょー!」と主張する声に似ていた。
 僕もリラも気になって聞いていると、セイラン様とレイリ様が僕とリラの頭の上で話しているのが聞こえる。

「これは、あれではあるまいか?」
「あれは、魔女の森で栽培されるのですが、こちらまで種が飛んできたのでしょうか?」
「鳥の糞で種が運ばれた可能性もある」

 「あれ」とは何のことなのだろう。
 不思議に思っていると、セイラン様とレイリ様が蠢く大根と蕪の葉っぱを掴んだ。
 大根と蕪は体をねじって逃げようとするが、セイラン様とレイリ様の力には敵わない。
 捕まえられた大根と蕪には、手足のようなものがついていて、顔もついていた。

「セイラン様、レイリ様、これはなんですか?」
「正月にアマリエが来たときに聞いてみるといい」
「ラーイとリラで飼ってみるといいですよ。なかなか面白い生態をしていますからね」

 答えはそれだけで、詳しくは教えてもらえなかったが、僕が蕪を、リラが大根を選んで観察日記をつけることにした。
 毎日大根と蕪は庭の土に埋まって栄養吸収をしている。

「普通の植物みたいね」
「こうして見てると、普通の大根と蕪に見えるよね」

 観察しながら、リラと僕は話していた。
 土から出ると冷たい水で水浴びをして泥を落とす。丁寧に洗っているので、社の中に上がって来ても大根と蕪から土が落ちることはない。
 社の中ではマオさんも興味津々で大根と蕪を見ている。

「ラーイ様、リラ様、名前を付けたのですか?」
「つけてないな。リラは名前は付けた?」
「ダイにしようかと思ってたわ」
「ダイか。僕はどうしよう」

 大根からダイと付けたのだろうが、結構格好いい響きで僕も格好いい名前を付けたくなってしまう。
 カブではあんまりだろう。
 こういうペットの名前を他のひとはどうやって付けているのだろう。

 僕は隣りの家のフウガくんに聞いてみることにした。
 隣りの家とは生垣で隔てられているのだが、フウガくんを呼ぶと社の入口まで回って来てくれる。

「フウガくん、ペットは飼ってる?」
「ペットっていうか、ネズミ捕らせるために猫は飼ってるし、犬も家の番をさせるために飼ってるよ」
「猫と犬の名前を聞いていい?」

 参考にしたいと僕が聞くと、フウガくんはちょっと恥ずかしそうにしながら答えてくれた。

「猫がサバトラだから、トラ、犬はちび助だったからチビって名付けたけど、今はすっかり大きいよ」
「トラか、いいね」
「土地神様が白虎で虎だから、あやからせてもらったんだ。お陰で毎日ネズミを何匹も獲ってくるいい猫に育ったよ」

 フウガくんの家の猫はトラで、犬はチビだった。
 僕はフウガくんに悩みを打ち明ける。

「今、僕はこの不思議な蕪を飼っているんだけど、名前をどうしようか迷っているんだ」
「そいつ、白いな」
「うん、すごく白いよ」
「シロはどうだ?」
「安直すぎない?」

 シロでもよかったのだが、僕は格好いい名前を求めていた。白いからシロなんて安直すぎるではないか。

「シロ……シロ……シロウ! シロウはどうかな?」
「シロと変わらない気がするけど、ラーイがいいんならいいんじゃないか?」

 シロと提案したフウガくんの助けを得て、蕪の名前はシロウに決まった。

 お正月にやって来た母とスリーズちゃんは大根と蕪が社にいるのに驚いていた。セイラン様とレイリ様が大根と蕪は社から出られない術をかけてあって、魔女の森に連れて行ったことはなかったのだ。

「マンドラゴラじゃない。こんなところにいるなんて珍しいわ」
「まんどらごら?」
「お母さん、これはマンドラゴラって言うの?」

 やはり母は大根と蕪の正体を知っていた。
 マンドラゴラという魔法植物だったようだ。

「魔法を使うときの補助にしたり、魔力が足りないときに食べさせたりするんだけど、魔女の森以外で育ったのは初めて見たわ」
「魔女の森にしか育たないの?」
「他の土地では育てられていないの?」
「魔女の森の魔力を吸って大きくなるから……。でも、この土地は土地神様に守られてとても肥沃だから、マンドラゴラが育つ可能性があったのかもしれないわ。マンドラゴラが広く栽培されたら、私たち魔女も助かる」

 マンドラゴラを見た母はセイラン様とレイリ様に交渉に行っていた。

「いくつかの農家にマンドラゴラを育てるように言ってもらえないかしら? マンドラゴラが育って食べることができれば、ラーイとリラも母乳を必要としなくなるわ」
「それは本当か?」
「ラーイとリラの発育に関わるのだったら、やらねばなりませんね」
「種を提供するわ。ラーイとリラが乳離れできるようにしてあげて」

 母は母で、僕とリラがずっとセイラン様とレイリ様にお乳をもらっているのを気にしているようだった。

「あんなに大きくなったのに、お乳を飲むのは恥ずかしいでしょう」

 母の心配とは裏腹に、僕はセイラン様のお乳を飲み続けたいと思っていることは口に出せなかった。

 お雑煮を食べて母とスリーズちゃんは帰って行った。
 セイラン様とレイリ様は早速一つの村にマンドラゴラの栽培を命じた。
 土地神様から栽培を頼まれるなんて名誉なことだから、その村のひとたちはとても気合を入れていた。

 その夜、僕はセイラン様のお乳を飲みながらセイラン様を上目遣いに見ていた。
 お乳を飲まれているときに、セイラン様は恥ずかしそうに目を伏せている。セイラン様と目が合わないので、僕は一度口を離して、セイラン様の頬に手を置いた。

「セイラン様、マンドラゴラで僕の栄養が足りるようになっても、僕はセイラン様のお乳を飲みたいのです」
「ラーイももう十三歳になる。乳を飲んでいては恥ずかしい年になるのではないか?」
「セイラン様のお乳は特別です。僕はずっとセイラン様のお乳を飲んできました。セイラン様、乳離れなんて嫌です」

 目に涙をいっぱい溜めて言う僕に、セイラン様が額と目元に口付けてくださる。これが親愛の口付けなのだと分かっているけれど、セイラン様を愛している僕にはもっと甘い口付けが欲しくて堪らない。

 セイラン様と口付けたい。
 セイラン様の体に触れて、セイラン様を抱きたい。

 僕の体は大人になっているのだから、それができないわけではないが、この年齢でセイラン様に触れてはいけないことも分かっていた。
 気持ちがぐちゃぐちゃになって泣いてしまう僕に、セイラン様は何度も顔を撫でて、額に口付けを落とす。

「乳がよければ飲んでもいいのだ。ただ、ラーイが学校や友人からからかわれることがないように、対外的には、マンドラゴラで栄養を取っていることにする。それならば納得するか?」
「お乳は飲んでいいのですか?」
「仕方がないであろう。ラーイを泣かせたくない。私はラーイの泣き顔に弱いのだ」

 ぎゅっと抱き締められて、僕は新たな涙が出て来てしまう。
 泣いている僕をセイラン様はずっと抱き締め続けてくれた。

 翌朝、リラも真っ赤な目で起きて来た。
 僕はリラの目が赤い理由が分かるような気がした。

 リラとレイリ様はしっかりと手を繋いでいる。

 リラの方もレイリ様と話はまとまったのだろう。
 僕の目もきっと赤くて、リラはその理由を察しているのだろうと思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-

牛一/冬星明
ファンタジー
神様に気に入られた悪女令嬢が好きな少女は眷属神にされた。 どう見ても人の言う事を聞かなそうな神様の下で働くなって絶対嫌だった。 少女は過労死で死んだ記憶がある。 働くなら絶対にホワイトな職場だ。 神様のスカウトを断った少女だったが、人の話を聞かない神様が許す訳もない。 少女は眷属神の卵として転生を繰り返す。 そいて、ジュリアーナ・マジク・アラルンガルはこの世界に転生された。 だが、神々の加護を貰えないジュリアーナはすぐに捨てられた。 この可哀想な神様の卵に幸はあるのだろうか?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...