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転生したらまた魔女の男子だった件

114.リヒ様の修行

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 冬休み前の試験で、僕とリラは成績優秀者になって、ナンシーちゃんも問題なく試験を切り抜けることができた。
 リラはこれまで成績優秀者ではなかったのだが、ナンシーちゃんに教えたことによって復習がしっかりとできて、成績が上がったのだ。

「私が成績優秀者になれたのは、ナンシーちゃんのおかげだわ。ありがとう!」
「リラちゃんこそ、私に教えてくれたから、私が試験を合格できたのよ。分からないところがどこか分からないような状態だったから、分かっているラーイくんには伝わりにくかったもの」

 そうなのだ。
 ナンシーちゃんはどこが分からないのかも自分では分からないような状態だったから、僕は教えようがなかった。そこにリラが入って来て、「私はここが分からなかったわ」「ここが難しかった」と言ってくれることで、ナンシーちゃんの分からない場所を探すことができたのだ。

 ナンシーちゃんを試験に合格させた功労者は間違いなくリラなので、僕もリラを素直に讃えていた。

「リラ、すごいよ。ナンシーちゃんに教えられただけじゃなく、自分まで成績優秀者になって」
「レイリ様に一番に教えるのよ。お兄ちゃん、黙っててね?」
「分かったよ」

 その日は母の家に寄らずに真っすぐ社に帰って、リラはレイリ様に飛び付いていた。大きな虎の姿で寛いでいたレイリ様は、リラに気付いて人間の姿になって抱き留める。

「私、成績優秀者に選ばれたの!」
「それはすごいですね、リラ。リラも学費免除になるのではないですか?」
「それは春休み前の試験を受けてみないと分からないけど、春休み前も、私、ナンシーちゃんと勉強するわ」
「ひとに親切にしたら、自分にも返ってくるのですね。リラ、とてもいい行いをしましたね」

 手放しにレイリ様から褒められてリラは誇らし気に胸を張っていた。その胸が若干膨れてきているのに僕は気付いていた。
 リラは女性らしい体付きになろうとしているのだ。
 それに比べて僕はまだ背も高くないし、膝も腕もつるつるで股間には毛が生えているが、その量も少なく、大人に近付いているとはとても言えない姿だった。

 リラに置いて行かれるような気持がしつつも、僕は切り替えてずっと気になっていたことをセイラン様とレイリ様に言うことにした。

 リヒ様が具体的にどんなことを修行するのか、僕は興味があった。
 その修業はセイラン様とレイリ様もかつて受けたものではないかと思ったからだ。

 セイラン様とレイリ様にお願いしてみる。

「リヒ様の修行を見せていただけないでしょうか?」
「リヒ様の修行? 私も見たいわ!」

 リラも興味を持って話に入って来る。
 膝の上にリラを抱いていたレイリ様も、大きな虎の姿で寝転がって寛いでいたセイラン様も、顔を見合わせて話し出す。

「修行を見て面白い物であろうか?」
「リラとラーイは魔女の子です。何か感じるものがあるでしょう」
「それならば、冬休みの間にリヒとの修行を見せよう」

 約束をしてくれるセイラン様に、僕は飛び跳ねて喜びたいくらいだった。

 冬休みの一日、僕とリラは母の家に行かずに社に残っていた。社ではセイラン様とレイリ様がリヒ様を迎えている。
 リヒ様は足を揃えて正座で座って、セイラン様とレイリ様は胡坐をかいていた。

 セイラン様とレイリ様の前には水盤がある。浅い大きなお皿のようなものに水を張ったものだ。
 セイラン様がそれに手を翳す。

「この地域の水脈を見てみよう。水が動くのは季節の神にとってとても大事な情報だ」
「はい、よろしくお願いします」
「この水脈のどこに乱れがあるのか分かるか?」

 水盤の上にはこの土地の水脈が映し出されているようだが、神ではない僕とリラにはよく見えない。見えないのだが、雰囲気だけでも、ものすごいことをしているのだと分かる。

 セイラン様とレイリ様の後ろに立って水盤を覗き込む僕とリラを、リヒ様は苦笑していたが、咎めはしなかった。セイラン様とレイリ様が許していると分かっているのだろう。

「お兄ちゃん、見える?」
「見えない。いや、ちょっとだけ見える気がする」
「私もちょっとだけ見えそうなんだけど、見えないのよ」

 ひそひそとセイラン様とレイリ様の後ろでリラと話していると、セイラン様が僕を抱き留めて膝の上に座らせて、レイリ様がリラを抱き留めて膝の上に座らせる。
 セイラン様が指で作った丸の中から覗いてみると、水盤の上に水脈が映し出されているのが見える。レイリ様も同じようにリラに指で丸を作って見せていた。

「これは、川の位置?」
「それだけじゃないんじゃないかな? 地下水路もありそうだ」
「すごいわ。こんなに張り巡らされているのね」
「水の流れってこの土地だけでもこんなに細かいんだ」

 感心しているリラと僕に、リヒ様が水盤の一部を指差す。

「ここの水脈に乱れを感じます」
「そうだな。そこで水が詰まっておる」
「ここを通しておかねば、大雨が降ったときなどに山の斜面から水が吹き出ますね」

 リヒ様が指さしたのは地下水路のようだった。地下水路の一部が詰まっているとなると、大雨のときには大変なことになる。酷いときには土砂崩れも起きるのではないだろうか。

「我らは土地の見回りのときに実際に出向いて水脈の動きを整える」
「この地下水路は、リヒ殿にお任せしていいですか?」
「分かりました。必ずいい結果を見せましょう」

 水盤での修業はそれだけではなかった。

「次は地脈を見てみよう。リヒ、水盤で地脈を映してみるのだ」
「はい、やってみます」

 リヒ様が水盤に手を翳す。僕にはよく見えないが、水盤に映っているものが変わった気配だけは感じた。

「地脈って何かしら。水脈は水の流れでしょう? 地脈は何の流れなのかしら?」
「なんだろうね。僕にもよく分からない」

 セイラン様とレイリ様の膝の上に抱っこされてひそひそとリラと話していると、セイラン様とレイリ様が答えてくださる。

「地脈は土地の力のことだ」
「いわゆる、エネルギーですね。土地を走るエネルギーです。それを制御できねば、土地神の仕事はできません」
「力が均等に分配されるようにしなければならぬのだ。一か所にたまると、よくないことが起きる」

 よくないこと?
 それは何なのだろう。

「力が溜まると起きるよくないこととはなんですか?」
「地震が起きたり、土砂崩れが起きたり、力が溢れすぎて土地が腐ったりする」
「逆に枯渇するようになると、土地が枯れてきますね。豊かな実りを平等に渡すには、土地神も渡る神も地脈の流れを把握しておかねばならないのです」

 説明を受けて、僕とリラはセイラン様とレイリ様が指で作った丸を通して水盤を見て、そこに映るものを見せてもらう。

「血管のように張り巡らされています」
「高等学校で習ったわ。血管は全身に血を運ぶのよ」

 僕とリラの感想にセイラン様とレイリ様が深く頷く。

「地脈は土地の血管と言っていい」
「土地に豊かな恵みを運ぶのですから、人間の血管と同じですね。詰まると大惨事になるところも」

 セイラン様とレイリ様に教えてもらって僕もリラも賢くなった気分だった。

 リヒ様は土地に血管のように張り巡らされている地脈を見て感嘆の声を上げている。

「素晴らしい状態ではないですか。どこにも詰まりもない、どこも不足している場所もない」
「私たちは常に最高の土台を作って渡る神を待っている」
「渡る神はこの張り巡らされた地脈に、季節の力を吹き込みます。それがなければ、土地の実りはありえません」
「私の叔父もこの地脈に力を注いでいるのですね」

 水脈を見るのも、地脈を見るのも、リヒ様にとっては修行の一部となるようだった。

「自分でも地脈や水脈を細かく見て、常に修行を続けて行こうと思っています」
「頑張られよ、リヒ」
「リヒ殿、応援しています」

 修行を終えたリヒ様はお礼を言って帰って行った。
 厨房からマオさんが出てきて、リヒ様が帰ったのに気付く。

「食事をしていかれるかと思ったので、準備をしていたのに……」
「神族は幼い頃には食事を必要とするが、長じてからは必要としないからな」
「気にすることはありませんよ。マオ、リラとラーイに食事の用意をお願いします」

 長時間の修行を見ていて僕もリラもお腹を空かせていた。
 お昼ご飯が用意されて、僕とリラは喜んでテーブルにつく。

 温かいうどんにたっぷりの鶏肉と卵が入ったものは、体が温まりそうだった。
 セイラン様とレイリ様が寒さにも強いので、社は暖房が入っていなくて寒いのだ。

 湯気の上がるうどんに卵を絡めて食べて、たっぷり入っている鶏肉も食べていると、セイラン様が僕の隣りに座って煮卵を食べていた。マオさんの作る煮卵は絶品なので、僕も欲しくなってしまう。

「マオさん、僕にも煮卵ちょうだい!」
「マオお姉ちゃん、私にも!」

 煮卵もうどんに乗せてもらって、卵が多すぎかと思いつつも、僕とリラはうどんを美味しくいただいた。
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