土地神様に守られて 〜転生したらまた魔女の男子だった件〜

秋月真鳥

文字の大きさ
上 下
112 / 180
転生したらまた魔女の男子だった件

112.お父さんの後継

しおりを挟む
 セバスチャンを見上げたまま海斗が固まっている。口がぽかんと開いたままだ。
 優希はこんな海斗の姿を見るのが珍しくて、思わずじっと見つめてしまっていた。
「海斗?」
 なんとなく声を掛けてみる。
「は? あ……」
 呆然とした顔のまま優希を見下ろす。余程驚いたのだろう。
 あれだけ見たかった海斗の驚いた顔を見られて、優希はすっかりご満悦になっていた。思わずふふっと笑ってしまう。しかし海斗の表情は変わらない。
「一体、ここは……」
 そしてずっと抱き締めたまま固まっていた海斗は優希を離すと、まだ信じられないといった表情のまま周りを見回す。
「ワンダーランドっていうんだって。前に鏡の世界に行ったでしょ。それに関係してるみたい。海斗何も聞いてないの?」
 今度は優希がワンダーランドについて説明する。連れてこられた際に聞いているとばかり思っていた。海斗は城に囚われている間、どうしていたのだろうと首を傾げる。
「あ、あぁ……名前だけは、さっき聞いたが……そうか……だから俺は捕まったのか」
 平静を取り戻した海斗は、優希の話で漸く自分の置かれた立場を理解したのだった。恐らく、前にあの店で会った青年が言っていた、『規律に背く行為』そして『あの鏡を壊した罪』そのどちらか、もしくは両方の罪で自分はこの世界に連れてこられたのだろう。
(ん? 魂?)
 ふと、先程セバスチャンが話していた言葉が引っかかった。
「あ、あのっ。さっき『連れてこられた魂』って……」
 海斗は再び木の上のセバスチャンを見上げると、緊張しながらも疑問を投げかけた。
「あぁ。お前は生身の人間ではない。魂が人の形を作ったものだ」
「えっ!」
 セバスチャンの話に横で優希が声を上げた。
 確かに海斗の体は海斗の部屋にある。橘が言っていたように『魂』だけが抜けてしまった状態の体が。
 海斗に会えたことで嬉しくて忘れていたが、今目の前にいる海斗は本物の海斗ではない。いや、本物でもあるのだが、本来実態がないはずなのだ。
「どういうこと?」
 今度は優希がセバスチャンに尋ねる。
「うむ。俺も実際に見るのは初めてだ。しかし、ホワイトキャットと違うことは分かる。なんと言うべきか、まるで置物や張りぼてのような物と言えば分かるか?」
「本物の体じゃないから?」
 セバスチャンの説明に優希はじっと見上げながら更に問い返す。
「そうだな。見た目はホワイトキャットと変わらず人間だが、実際は違う。何かあればその体は消えてなくなるだろう」
「そんなっ!」
 思わず声を上げる。海斗の本当の体は優希達の世界にあるとはいえ、消えてなくなるなんて絶対に嫌だ。今目の前にいる海斗は魂が作ったもの。つまり消えてなくなるということは海斗の死を意味する。
「…………ちゃんと痛みも感触もあって、食べ物も食べられて、食べたら出るものも出て。それなのに実物ではない――か。そんなことができるのか」
 黙ってセバスチャンの話を聞いていたが、海斗は自分の手をじっと見つめながら話す。
「海斗……」
 不安そうに優希が海斗を見上げる。
「大丈夫だ、心配するな。何もなければ消えないさ。多少、普通の人間より脆いってだけだろう」
 心配そうに見上げる優希の頭に自分の手を乗せると、海斗は優しく笑いながら優希に言い聞かす。と、そこへ、
「日も暮れてきたし、そろそろご飯にしよっ」
 いつの間に来ていたのか、突然アリスがそう切り出した。
「えっ? もうそんな時間っ?」
 優希が驚いて声を上げる。確かに薄っすら暗くなってきている気がする。元々ワンダーランドは曇り空の為、明るさがいまいち分かりづらい。
「っ!?」
 アリスの声で振り返った海斗がその姿を見て固まっていた。
「海斗? どうかした?」
 優希は隣の海斗の様子に気が付き不思議そうに声を掛ける。
「……あ、いや。人違いか」
 ――エリスかと思った。
 海斗は目の前にいるアリスをエリスと勘違いしたのだ。しかし、よく見ると頭に猫耳が付いているし、顔も少し違うような気がした。
「……もしかして、エリスだと思った?」
 笑顔が一転、厳しい顔でアリスが問い返した。睨み付けるようにして海斗を見ている。
「エリスを知っているのか?……っ! もしかして、エリスの兄弟か?」
 まさかエリスの名前を聞くとは、と思わず聞き返す。そして気が付く。そういえば、エリスには双子の兄がいると言っていたことを思い出したのだ。
「……そうだね。あんな奴、もう兄弟だなんて思ってないけど」
 アリスはそう答えながらぷいっと横を向く。不機嫌そうに口を尖らせている。
「あんな奴? なんだその言い方は。あいつはそんな奴じゃないだろう」
 今度は海斗がアリスの言葉に反論する。自分を助けてくれたエリスを『あんな奴』と言われて腹が立ったのだ。
「は? アンタには分からないよっ。あいつは裏切り者なんだからっ」
 ムッとした顔で再びこちらを見ると、アリスが怒鳴り返す。
「なんだと? 俺はあいつに救われた。ここにいられるのもエリスが助けてくれたおかげだ。裏切り者な訳がないだろうっ」
「うるさいっ! 何も知らないくせにっ!」
「やめないかっ!」
 言い合うふたりを遮るように、セバスチャンの厳しい声が響き渡った。
 その声でしんと静かになった。優希も横でおろおろとしながら見ていたのだが、セバスチャンの声でびくりと体が固まった。
「ふむ……アリス、何度も言うが、お前の兄弟は裏切り者なんかじゃない。お前が一番分かっていることだろう?」
 セバスチャンは今度は静かに、そして宥めるようにアリスに問い掛ける。
「…………これ、置いてくから勝手に食べれば」
 アリスはそれだけ言うと『どこでもご飯』の箱を置いて立ち去ってしまった。
「アリスっ!」
 ずっと静かにしていたジェイクがアリスの後を追っていった。
 海斗と優希はそんなアリスを見た後、困ったような顔で見合わせていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

雄牛は淫らなミルクの放出をおねだりする

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

処理中です...