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転生したらまた魔女の男子だった件
105.リラとレイリ様に打ち明ける
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スリーズちゃんがケーキと戦っている。
一歳のときにはケーキの上の苺を掴んで、それだけ食べて、クリームにもスポンジにも興味を示さなかったスリーズちゃんだが、今回はスポンジとクリームも食べようとしている。
フォークで刺して切ろうとするのだが、ボロボロに崩れてしまってうまくいかない。食べようとしてもフォークから落ちて口に入らない。
あれは僕も経験したことだ。
前世の記憶の中の僕は上手に食べられていたのに、生まれ変わった体ではうまくいかない。そのことが悔しくて僕は泣きそうになったことを思い出した。
「スリーズちゃん、悔しいよね……。僕に何かしてあげられたら」
「スリーズ、お手手で食べていいわよ」
あっさりと母がスリーズちゃんの手を拭いて伝える。許しを得たスリーズちゃんはフォークを投げ捨てて、素手でもりもりとケーキを食べていた。
フォークが使えなくて僕はものすごく悔しい思いをしたのに、スリーズちゃんはちゃんと順応している。もしかすると僕よりもスリーズちゃんの方が逞しいのではないか。
そんなことを思ったお誕生日だった。
お誕生日会が終わって、社に戻ると、僕はセイラン様とレイリ様とリラに集まってもらった。マオさんは迷ったけれど、闇雲に伝えても訳が分からなくなるので、レイリ様とリラだけにすることにした。
セイラン様に立ち会ってもらって、レイリ様とリラに僕は告白をする。
「僕は生まれて来る前に、魔女の男の子で、十歳まで生きた記憶があるんだ」
「お兄ちゃん、それ、どういうこと?」
リラの頭の上に大きなクエスチョンマークが浮かんでいるような気がする。リラはあまりややこしいことは分からないのだ。
「僕が生まれ変わったってことだよ」
「生まれ変わったって、生まれる前にもお兄ちゃんがいたってこと」
「そう。生まれる前にも僕がいたんだ」
前世の妹がリラであると信じ込んでいた僕は、このことをずっとリラに内緒にしていた。
「どうして話してくれなかったの? 双子でしょう?」
「僕はリラのことを前世の双子の妹だと思い込んでいたんだ。リラが何も覚えていないみたいだから、思い出させたら悪いと思って言わなかった」
「生まれ変わる前は大変だったの?」
「魔女の森の追手に追われていたし、魔力が足りなくていつも熱を出したり寝込んだりしていたし、最後は魔女族の長に殺された悲惨な人生だったよ」
それが前世の十歳の誕生日のこと。
その話をリラにすると、眉根を寄せている。
「お兄ちゃん、そんな記憶を持って生まれてきたのね」
「そうなんだ。それで、スリーズちゃんが前世の妹だということも分かったんだ。スリーズちゃんは僕を前世の名前で呼んだ。自分のことも前世の名前で呼んでいた」
二歳の語彙力で必死に伝えようとしたことを僕は受け止めた。
リラが前世の妹と信じ込んでいただけにスリーズちゃんだったのはショックだったが、それでも何とか今はそのことも受け止められていた。
「お兄ちゃんは昔から頭がいいと思ってたら、そういうことだったのね」
「そういうことだったんだ。ずっと黙っててごめんね。レイリ様も黙っていてごめんなさい」
「いいのですよ。僕は薄々そういうことではないかと思っていました」
僕の告白に対してレイリ様もリラも寛容だった。
許されてほっとしていると、リラが何かに気付いたように大きな声をあげる。
「ってことは、スリーズちゃんは十歳なのね! お兄ちゃんと同じで、今は二歳だけど十歳の記憶がある……ややこしくて分からなくなって来たわ」
「リラの言う通りだよ。スリーズちゃんは十歳の記憶を持って生まれ変わって来ているんだ」
前世の妹がリラではないので、僕は前世の妹と一緒に生まれ変われなかったことになる。それなのに、スリーズちゃんは僕の妹として生まれ変わって来てくれた。
前世でも僕は妹のことがとても可愛かったので、また一緒に過ごせるのはとても嬉しい。
「リラは覚えてる? お母さんが戦った、前の魔女族の長に成り代わった魔女のこと」
「なんとなく覚えているわ」
「あのひとが僕とスリーズちゃんの前世の母親なんだ」
「え!? そうなの!?」
「セイラン様と二人きりで出かけていたのは、あのひとに会うためだったんだよ。大陸にもあのひとと一緒に行った。前世の父親に会うためにね」
もう隠すことは何もない。
全部話してしまうと、リラは納得していた。
「お兄ちゃんは、私を生まれ変わる前の妹と思っていたから、私の記憶が戻らないように前のお母さんやお父さんに会わせないようにしたのね」
「そうなんだよ。でも、僕の完全な勘違いだった」
セイラン様とレイリ様のご両親も魂の輝きが違うのはスリーズちゃんでリラには何も感じないと言っていたし、前世の母もリラには何も感じていなかった。スリーズちゃんは「りーにぃ」と拙いながらに僕を呼んで必死に伝えようとしてくれていた。
それを全く聞いていなくて、リラが前世の妹だと思い込み続けていたのは恥ずかしすぎる。
「私、言ったわよね。生まれる前の記憶は、お母さんのお腹の中にいた記憶しかないって」
「そうなんだよ! リラもそう言っていたのに、僕は思い込んでしまって」
「私、一度も生まれ変わったとか言ってないわよね?」
「そうなんだよー!」
僕は床の上をごろごろと転げ回りたいくらい恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。リラは一貫して前世の記憶など語っていなくて、生まれる前の記憶を聞いたら、今世の始まりの記憶を話していたのに、それも僕は真面目に聞いていなかった。
他人の話はよく聞きましょうというが、僕はそれが一番できていなかったのだ。
「リラ、そう言ってやるな。ラーイも前世は十歳で、今世でも十一歳なのだ。子どもの万能感で思い込んでしまったのだろう」
「いつも賢いお兄ちゃんがこういうときだけポンコツになっちゃうとは思わなかったわ」
「そこまで言うー!?」
その通りなのだがリラに言われてしまって僕は恥ずかしくてセイラン様に抱き付いた。半泣きになっている僕をセイラン様は抱き締めてくれる。
「思い込みが激しいところがあるもんね、お兄ちゃんは。今度からは気をつけるのよ」
「はい……」
妹に諭されてしまった。
リラとレイリ様に説明を終えると、僕はセイラン様にお願いしたいことがあった。スリーズちゃんの件だ。
「セイラン様、スリーズちゃんは僕の前世の妹だということが分かりました。スリーズちゃんも前世の母に会わせてあげることはできないでしょうか?」
スリーズちゃんが生まれ変わって記憶を持っていて、前世の母も生きているのならばお互いに会いたいことだろう。僕のお願いにセイラン様は顎を撫でる。
「アマリエが気にしないのであれば会わせることもできるだろうが……」
「あ、そうですよね」
母はスリーズちゃんを産んだ今世の母だ。前世の母と僕やスリーズちゃんが会うのは快く思わないかもしれない。
僕は生まれたときからセイラン様に預けられていて、ほとんどセイラン様の子どものようなものだから、セイラン様の判断で前世の母に会わせることもできるのだが、スリーズちゃんは僕とは少し違う。生まれたときから母が育てていて、夏だけしかこの土地にいられないがお父さんもいて、スリーズちゃんは両親に愛されて育っている。
前世の母がそこに入って行けるかというと疑問だった。
「母に聞いてみます」
「大丈夫よ、お兄ちゃん。お母さんならきっと『いいわよ』って言ってくれる」
明るいリラの声に励まされて、僕は次の日の高等学校の帰りに母の家に寄って、母に話をした。
「スリーズちゃんが前世の妹だという話はしたよね。前世の母が魔女の森から離れて孤児院を開いているんだ。前世の母に僕は時々会っているし、大陸にも一緒に行った。スリーズちゃんも前世の母に会わせてあげられないかな?」
僕のお願いに、母はスリーズちゃんを抱き上げる。
「前世のお母さんに会いたい?」
「かか! すち! じぇんてのかか、すち!」
「私のことは好きだけど、前世のお母さんにも会いたいのね?」
「かか、だいすち!」
今世の母も前世の母も同じく好きだというスリーズちゃんに、母が笑顔になる。
「仕方がないわね。セイラン様とラーイに連れて行ってもらいなさい」
「かかは?」
「私がいると、前世のお母さんが気まずいでしょう?」
それはそうだ。
前世の母は魔女族の長に成り代わって、僕とリラの命を狙い、今世の母と殴り合いの決闘をして負けている。幸い殺した子どもはいないけれど、前の魔女族の長を殺していて、決闘に負けて僕が前世を語った後は、僕と妹の弔いをすると言って魔女の森を出て、孤児院を開いて子どもたちを育てている。
もう自分の子どもを持つ気はなくて、血の繋がっていない身寄りのない子どもや、親が育てられない子どもを引き取って孤児院で育てることが母の喜びなのだ。
「スリーズちゃん、僕とセイラン様と行こう」
「あい、らーにぃに!」
可愛くお手手を上げて返事をするスリーズちゃんに、僕は頬が緩んでしまった。
一歳のときにはケーキの上の苺を掴んで、それだけ食べて、クリームにもスポンジにも興味を示さなかったスリーズちゃんだが、今回はスポンジとクリームも食べようとしている。
フォークで刺して切ろうとするのだが、ボロボロに崩れてしまってうまくいかない。食べようとしてもフォークから落ちて口に入らない。
あれは僕も経験したことだ。
前世の記憶の中の僕は上手に食べられていたのに、生まれ変わった体ではうまくいかない。そのことが悔しくて僕は泣きそうになったことを思い出した。
「スリーズちゃん、悔しいよね……。僕に何かしてあげられたら」
「スリーズ、お手手で食べていいわよ」
あっさりと母がスリーズちゃんの手を拭いて伝える。許しを得たスリーズちゃんはフォークを投げ捨てて、素手でもりもりとケーキを食べていた。
フォークが使えなくて僕はものすごく悔しい思いをしたのに、スリーズちゃんはちゃんと順応している。もしかすると僕よりもスリーズちゃんの方が逞しいのではないか。
そんなことを思ったお誕生日だった。
お誕生日会が終わって、社に戻ると、僕はセイラン様とレイリ様とリラに集まってもらった。マオさんは迷ったけれど、闇雲に伝えても訳が分からなくなるので、レイリ様とリラだけにすることにした。
セイラン様に立ち会ってもらって、レイリ様とリラに僕は告白をする。
「僕は生まれて来る前に、魔女の男の子で、十歳まで生きた記憶があるんだ」
「お兄ちゃん、それ、どういうこと?」
リラの頭の上に大きなクエスチョンマークが浮かんでいるような気がする。リラはあまりややこしいことは分からないのだ。
「僕が生まれ変わったってことだよ」
「生まれ変わったって、生まれる前にもお兄ちゃんがいたってこと」
「そう。生まれる前にも僕がいたんだ」
前世の妹がリラであると信じ込んでいた僕は、このことをずっとリラに内緒にしていた。
「どうして話してくれなかったの? 双子でしょう?」
「僕はリラのことを前世の双子の妹だと思い込んでいたんだ。リラが何も覚えていないみたいだから、思い出させたら悪いと思って言わなかった」
「生まれ変わる前は大変だったの?」
「魔女の森の追手に追われていたし、魔力が足りなくていつも熱を出したり寝込んだりしていたし、最後は魔女族の長に殺された悲惨な人生だったよ」
それが前世の十歳の誕生日のこと。
その話をリラにすると、眉根を寄せている。
「お兄ちゃん、そんな記憶を持って生まれてきたのね」
「そうなんだ。それで、スリーズちゃんが前世の妹だということも分かったんだ。スリーズちゃんは僕を前世の名前で呼んだ。自分のことも前世の名前で呼んでいた」
二歳の語彙力で必死に伝えようとしたことを僕は受け止めた。
リラが前世の妹と信じ込んでいただけにスリーズちゃんだったのはショックだったが、それでも何とか今はそのことも受け止められていた。
「お兄ちゃんは昔から頭がいいと思ってたら、そういうことだったのね」
「そういうことだったんだ。ずっと黙っててごめんね。レイリ様も黙っていてごめんなさい」
「いいのですよ。僕は薄々そういうことではないかと思っていました」
僕の告白に対してレイリ様もリラも寛容だった。
許されてほっとしていると、リラが何かに気付いたように大きな声をあげる。
「ってことは、スリーズちゃんは十歳なのね! お兄ちゃんと同じで、今は二歳だけど十歳の記憶がある……ややこしくて分からなくなって来たわ」
「リラの言う通りだよ。スリーズちゃんは十歳の記憶を持って生まれ変わって来ているんだ」
前世の妹がリラではないので、僕は前世の妹と一緒に生まれ変われなかったことになる。それなのに、スリーズちゃんは僕の妹として生まれ変わって来てくれた。
前世でも僕は妹のことがとても可愛かったので、また一緒に過ごせるのはとても嬉しい。
「リラは覚えてる? お母さんが戦った、前の魔女族の長に成り代わった魔女のこと」
「なんとなく覚えているわ」
「あのひとが僕とスリーズちゃんの前世の母親なんだ」
「え!? そうなの!?」
「セイラン様と二人きりで出かけていたのは、あのひとに会うためだったんだよ。大陸にもあのひとと一緒に行った。前世の父親に会うためにね」
もう隠すことは何もない。
全部話してしまうと、リラは納得していた。
「お兄ちゃんは、私を生まれ変わる前の妹と思っていたから、私の記憶が戻らないように前のお母さんやお父さんに会わせないようにしたのね」
「そうなんだよ。でも、僕の完全な勘違いだった」
セイラン様とレイリ様のご両親も魂の輝きが違うのはスリーズちゃんでリラには何も感じないと言っていたし、前世の母もリラには何も感じていなかった。スリーズちゃんは「りーにぃ」と拙いながらに僕を呼んで必死に伝えようとしてくれていた。
それを全く聞いていなくて、リラが前世の妹だと思い込み続けていたのは恥ずかしすぎる。
「私、言ったわよね。生まれる前の記憶は、お母さんのお腹の中にいた記憶しかないって」
「そうなんだよ! リラもそう言っていたのに、僕は思い込んでしまって」
「私、一度も生まれ変わったとか言ってないわよね?」
「そうなんだよー!」
僕は床の上をごろごろと転げ回りたいくらい恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。リラは一貫して前世の記憶など語っていなくて、生まれる前の記憶を聞いたら、今世の始まりの記憶を話していたのに、それも僕は真面目に聞いていなかった。
他人の話はよく聞きましょうというが、僕はそれが一番できていなかったのだ。
「リラ、そう言ってやるな。ラーイも前世は十歳で、今世でも十一歳なのだ。子どもの万能感で思い込んでしまったのだろう」
「いつも賢いお兄ちゃんがこういうときだけポンコツになっちゃうとは思わなかったわ」
「そこまで言うー!?」
その通りなのだがリラに言われてしまって僕は恥ずかしくてセイラン様に抱き付いた。半泣きになっている僕をセイラン様は抱き締めてくれる。
「思い込みが激しいところがあるもんね、お兄ちゃんは。今度からは気をつけるのよ」
「はい……」
妹に諭されてしまった。
リラとレイリ様に説明を終えると、僕はセイラン様にお願いしたいことがあった。スリーズちゃんの件だ。
「セイラン様、スリーズちゃんは僕の前世の妹だということが分かりました。スリーズちゃんも前世の母に会わせてあげることはできないでしょうか?」
スリーズちゃんが生まれ変わって記憶を持っていて、前世の母も生きているのならばお互いに会いたいことだろう。僕のお願いにセイラン様は顎を撫でる。
「アマリエが気にしないのであれば会わせることもできるだろうが……」
「あ、そうですよね」
母はスリーズちゃんを産んだ今世の母だ。前世の母と僕やスリーズちゃんが会うのは快く思わないかもしれない。
僕は生まれたときからセイラン様に預けられていて、ほとんどセイラン様の子どものようなものだから、セイラン様の判断で前世の母に会わせることもできるのだが、スリーズちゃんは僕とは少し違う。生まれたときから母が育てていて、夏だけしかこの土地にいられないがお父さんもいて、スリーズちゃんは両親に愛されて育っている。
前世の母がそこに入って行けるかというと疑問だった。
「母に聞いてみます」
「大丈夫よ、お兄ちゃん。お母さんならきっと『いいわよ』って言ってくれる」
明るいリラの声に励まされて、僕は次の日の高等学校の帰りに母の家に寄って、母に話をした。
「スリーズちゃんが前世の妹だという話はしたよね。前世の母が魔女の森から離れて孤児院を開いているんだ。前世の母に僕は時々会っているし、大陸にも一緒に行った。スリーズちゃんも前世の母に会わせてあげられないかな?」
僕のお願いに、母はスリーズちゃんを抱き上げる。
「前世のお母さんに会いたい?」
「かか! すち! じぇんてのかか、すち!」
「私のことは好きだけど、前世のお母さんにも会いたいのね?」
「かか、だいすち!」
今世の母も前世の母も同じく好きだというスリーズちゃんに、母が笑顔になる。
「仕方がないわね。セイラン様とラーイに連れて行ってもらいなさい」
「かかは?」
「私がいると、前世のお母さんが気まずいでしょう?」
それはそうだ。
前世の母は魔女族の長に成り代わって、僕とリラの命を狙い、今世の母と殴り合いの決闘をして負けている。幸い殺した子どもはいないけれど、前の魔女族の長を殺していて、決闘に負けて僕が前世を語った後は、僕と妹の弔いをすると言って魔女の森を出て、孤児院を開いて子どもたちを育てている。
もう自分の子どもを持つ気はなくて、血の繋がっていない身寄りのない子どもや、親が育てられない子どもを引き取って孤児院で育てることが母の喜びなのだ。
「スリーズちゃん、僕とセイラン様と行こう」
「あい、らーにぃに!」
可愛くお手手を上げて返事をするスリーズちゃんに、僕は頬が緩んでしまった。
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