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転生したらまた魔女の男子だった件
98.上級生からの恋文
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「あなたがラーイくん?」
高等学校で声をかけて来たのは上級生だった。
時刻は昼休みで、僕はリラと一緒に空き教室でお弁当を食べていた。明るい髪色に制服を着崩した上級生はじっと僕を見ている。
「僕はラーイですけど……」
答えると、後ろにいる仲間の上級生にその子は大きな声で言った。
「男の子の魔女だからどんな子か見に来たけど、女の子と変わらないわ」
「可愛い顔してるわね」
「本当に男の子なのかしら」
なんだか嫌な予感がする。
リラの方を見ると、リラはお弁当箱の蓋を閉じてポーチに仕舞い、拳を握って臨戦態勢に入っている。
「本当に男の子か見せてよ」
「男の子は女の子にはついてないものがついているんでしょう?」
うわー。
こういうことを言ってはいけないし、してはいけないと、僕は小学校のときに習っていたが、上級生たちはその授業を聞いていなかったようだ。くすくすと笑われて僕はリラに飛び付く。
リラが上級生に殴りかかろうとしたのだ。
「どういうこと? そういう場所は大事だから、ひとに見せてもいけないし、見せるように言ってもいけないって、習ってないの?」
「この子、生意気ね」
「見せるくらいタダでしょう?」
無茶苦茶なことを言う上級生に、僕はリラを抑えきれなくなった。僕を振り払ったリラが、上級生の顔面に拳をめり込ませる。鼻血を出した上級生が仲間の上級生に泣き付こうとしていると、そちらの上級生には鳩尾に拳がめり込む。
「酷いわ!」
「先生に言ってやる!」
泣きながら先生を呼んできた上級生が戻ってくる前に、僕とリラは空き教室にいたナンシーちゃんを含めた同級生に囲まれていた。
上級生が連れて来た先生に訴える。
「あの子が私たちを殴ったんです!」
「鼻血が出ました!」
「この二人を殴りましたか?」
先生の問いかけに、ナンシーちゃんが凛と答えた。
「その二人は、ラーイくんが男の魔女だからって、大事な場所を見せろといったり、女の子みたいだと侮辱したりしていました」
「リラちゃんはラーイくんを守ったんです」
「暴れようとするリラちゃんをラーイくんは止めていました」
同級生たちの証言に先生が上級生二人を見る。
「この話は本当ですか?」
「それは……」
「えっと……」
答えられない上級生たちに、リラが胸を張って答えた。
「本当よ! 私、そのひとたちを殴ったことを後悔してないわ!」
堂々と答えたリラに、先生がため息を吐く。
「暴力はよくありませんが、彼女たち二人がやったこともよくありません。今回は喧嘩両成敗ということでいいでしょうか」
「もう二度とお兄ちゃんに近付かないでよね!」
「は、はい、ごめんなさい」
「すみませんでした」
謝って上級生二人は先生に連れられて行った。
先生と上級生が去ってから、教室に一年生の担当の先生がやってきた。一年生の担当の先生にもナンシーちゃんが状況を話してくれた。
「上級生がラーイくんが男の魔女だけどそう見えないから、大事な場所を見せろとか、女の子みたいだとか言ったんです。リラちゃんはラーイくんを庇ったんです」
「そのようですね。一応、上級生は怪我をしているので、保護者の方には説明をさせてもらいます」
「リラちゃんが悪くないことは、みんなが見てました」
「そのことも伝えます。上級生には担当の先生から、保護者に伝えてもらうようにしましょう」
こんなことで僕の保護者が呼び出されるのかと思うと嫌な気分だったが、ナンシーちゃんを含め同級生は僕を庇ってくれたので、そのことはありがたく思っていた。
その日は高等学校に残って母とセイラン様とレイリ様が来るのを待っていた。
同じ部屋にリラに殴られた上級生もいて、その母親が恐縮しているのが分かる。
「うちに父親がいないせいか、急に男の子に興味を持ち始めて」
「ちゃんと教育しておくべきでした。申し訳ありません」
上級生の母親たちが恐縮しているのは、僕とリラの保護者が魔女族の長とこの土地の土地神様であるからに違いなかった。
やってきた母とセイラン様とレイリ様の姿を見ると、床の上に土下座する。
「うちの娘が申し訳ありませんでした!」
「どうかお許しください」
必死に謝っている母親たちに反して上級生は顔を背けている。
「ラーイ、リラ、何があったのだ?」
「そこの二人の上級生がお兄ちゃんのおちんちんを見たがったのよ! お兄ちゃんが女の子みたいな顔だから、本当に男の子か確かめたいって!」
リラ!?
その言い方だとものすごく誤解を生んでしまうような気がするんですけど!?
「男の子かどうか確かめたかっただけよ!」
「お、おち……そんなこと言ってない!」
さすがに上級生も反論するが、笑顔のままで母が部屋の入口の柱を握り締めた。めきょめきょと柱にひびが入って行く。
「うちの息子に何をしてくれたんですって?」
「ひぃ!? ごめんなさい!?」
「許してください!?」
柱を握り潰す母に、上級生たちが怯えて土下座する。
十分に反省したようなので、僕は母の前に立った。
「お母さん、もういいよ」
「ラーイがそう言うのなら」
許す様子を見せている母に、僕はほっと胸を撫で下ろす。リラも喧嘩っ早いが、母も同じくらい喧嘩っ早いのだ。前世の母と殴り合いで魔女族の長を勝ち取ったように、母はものすごく腕が立つ。
話し合いも終わって、それで問題は解決したように思えた。
数日後、僕は傷を治した上級生に呼び出されていた。
僕の下半身を見たがった上級生ということで、警戒してリラが一緒に来ているが、構わずに上級生は僕に手紙を渡した。
「それ、一人のときに読んで」
そのまま走り去っていく上級生に、素早くリラが僕の手から手紙を取り上げて封を開けてしまう。中から便箋を取り出してリラが読み上げる。
「『ラーイくんのことが好きです。お付き合いしてください』はー!? なにこれ!」
僕は上級生の顔もよく覚えていないし、お付き合いする理由がない。
何よりも、僕にはセイラン様がいる。
「何で、僕なの?」
「周囲に男性がいないのよ。だから、最初からお兄ちゃんが好きで、ああいう絡み方しかできなかったんじゃない?」
僕に絡んで来たのが僕に好意があったからとして、あんなことをされて好きになるはずがないだろう。本当に何を考えているのか分からない。
呆れてしまった僕に、リラは手紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。
ごみ箱に捨ててしまうのは何となく申し訳ないし、返事はしなければいけないので、僕はゴミ箱からその手紙を拾って、広げてノートに挟んでおいた。
社に帰ってから手紙の返事を書こうとノートを広げると、ひらりと手紙が落ちてしまう。僕の部屋の前を通りがかったセイラン様がそれを拾ってくれた。
「恋文か。ラーイもそんなものをもらう年になったのだな」
「恋文……そうか、これは恋文だったのですね」
内容からしてそうなのだが、僕はあまり気にしていなかった。答えは決まり切っていたからだ。
「僕にはセイラン様がいるし、お断りしようと思うのですが」
「いいのか? 同年代の女子と付き合いたくはないのか?」
セイラン様の言葉に僕は眉間に皺を寄せた。
「セイラン様、僕はセイラン様の婚約者なのですよ!」
「そうだが……気が変わることもあるだろう。ラーイはまだ十一歳だ」
「気が変わるはずがありません! 生まれてから十一年、セイラン様以外を愛したことなんてないんですよ!」
はっきりと伝えてもセイラン様の反応が鈍くて、僕は目の奥が熱くなってくる。涙が滲んでセイラン様がよく見えない。
「セイラン様のことが好きなのにぃ……なんで、そんなことを言うのですか」
ぐすぐすと洟を啜る僕を、セイラン様が抱き寄せる。セイラン様の大きな手で髪を撫でられて僕は大きくしゃくり上げた。
「すまない、ラーイ。泣かせるつもりはなかったのだ」
「セイラン様が好きなんです」
「私もラーイが好きだ」
「セイラン様の好きは、僕の好きと違うぅ」
「そうかもしれぬが、ラーイを大事に思っておることには変わりない」
僕の好きはセイラン様と結婚したい好きなのだが、セイラン様の好きは子どもに対するもののような気がする。それはまだ僕が十一歳なので仕方がないのだが、真剣に受け取ってもらえないことが悔しくて仕方がなかった。
「セイラン様ぁ、セイラン様ぁ」
セイラン様の胸に顔を埋めて僕は泣き続けた。
高等学校で声をかけて来たのは上級生だった。
時刻は昼休みで、僕はリラと一緒に空き教室でお弁当を食べていた。明るい髪色に制服を着崩した上級生はじっと僕を見ている。
「僕はラーイですけど……」
答えると、後ろにいる仲間の上級生にその子は大きな声で言った。
「男の子の魔女だからどんな子か見に来たけど、女の子と変わらないわ」
「可愛い顔してるわね」
「本当に男の子なのかしら」
なんだか嫌な予感がする。
リラの方を見ると、リラはお弁当箱の蓋を閉じてポーチに仕舞い、拳を握って臨戦態勢に入っている。
「本当に男の子か見せてよ」
「男の子は女の子にはついてないものがついているんでしょう?」
うわー。
こういうことを言ってはいけないし、してはいけないと、僕は小学校のときに習っていたが、上級生たちはその授業を聞いていなかったようだ。くすくすと笑われて僕はリラに飛び付く。
リラが上級生に殴りかかろうとしたのだ。
「どういうこと? そういう場所は大事だから、ひとに見せてもいけないし、見せるように言ってもいけないって、習ってないの?」
「この子、生意気ね」
「見せるくらいタダでしょう?」
無茶苦茶なことを言う上級生に、僕はリラを抑えきれなくなった。僕を振り払ったリラが、上級生の顔面に拳をめり込ませる。鼻血を出した上級生が仲間の上級生に泣き付こうとしていると、そちらの上級生には鳩尾に拳がめり込む。
「酷いわ!」
「先生に言ってやる!」
泣きながら先生を呼んできた上級生が戻ってくる前に、僕とリラは空き教室にいたナンシーちゃんを含めた同級生に囲まれていた。
上級生が連れて来た先生に訴える。
「あの子が私たちを殴ったんです!」
「鼻血が出ました!」
「この二人を殴りましたか?」
先生の問いかけに、ナンシーちゃんが凛と答えた。
「その二人は、ラーイくんが男の魔女だからって、大事な場所を見せろといったり、女の子みたいだと侮辱したりしていました」
「リラちゃんはラーイくんを守ったんです」
「暴れようとするリラちゃんをラーイくんは止めていました」
同級生たちの証言に先生が上級生二人を見る。
「この話は本当ですか?」
「それは……」
「えっと……」
答えられない上級生たちに、リラが胸を張って答えた。
「本当よ! 私、そのひとたちを殴ったことを後悔してないわ!」
堂々と答えたリラに、先生がため息を吐く。
「暴力はよくありませんが、彼女たち二人がやったこともよくありません。今回は喧嘩両成敗ということでいいでしょうか」
「もう二度とお兄ちゃんに近付かないでよね!」
「は、はい、ごめんなさい」
「すみませんでした」
謝って上級生二人は先生に連れられて行った。
先生と上級生が去ってから、教室に一年生の担当の先生がやってきた。一年生の担当の先生にもナンシーちゃんが状況を話してくれた。
「上級生がラーイくんが男の魔女だけどそう見えないから、大事な場所を見せろとか、女の子みたいだとか言ったんです。リラちゃんはラーイくんを庇ったんです」
「そのようですね。一応、上級生は怪我をしているので、保護者の方には説明をさせてもらいます」
「リラちゃんが悪くないことは、みんなが見てました」
「そのことも伝えます。上級生には担当の先生から、保護者に伝えてもらうようにしましょう」
こんなことで僕の保護者が呼び出されるのかと思うと嫌な気分だったが、ナンシーちゃんを含め同級生は僕を庇ってくれたので、そのことはありがたく思っていた。
その日は高等学校に残って母とセイラン様とレイリ様が来るのを待っていた。
同じ部屋にリラに殴られた上級生もいて、その母親が恐縮しているのが分かる。
「うちに父親がいないせいか、急に男の子に興味を持ち始めて」
「ちゃんと教育しておくべきでした。申し訳ありません」
上級生の母親たちが恐縮しているのは、僕とリラの保護者が魔女族の長とこの土地の土地神様であるからに違いなかった。
やってきた母とセイラン様とレイリ様の姿を見ると、床の上に土下座する。
「うちの娘が申し訳ありませんでした!」
「どうかお許しください」
必死に謝っている母親たちに反して上級生は顔を背けている。
「ラーイ、リラ、何があったのだ?」
「そこの二人の上級生がお兄ちゃんのおちんちんを見たがったのよ! お兄ちゃんが女の子みたいな顔だから、本当に男の子か確かめたいって!」
リラ!?
その言い方だとものすごく誤解を生んでしまうような気がするんですけど!?
「男の子かどうか確かめたかっただけよ!」
「お、おち……そんなこと言ってない!」
さすがに上級生も反論するが、笑顔のままで母が部屋の入口の柱を握り締めた。めきょめきょと柱にひびが入って行く。
「うちの息子に何をしてくれたんですって?」
「ひぃ!? ごめんなさい!?」
「許してください!?」
柱を握り潰す母に、上級生たちが怯えて土下座する。
十分に反省したようなので、僕は母の前に立った。
「お母さん、もういいよ」
「ラーイがそう言うのなら」
許す様子を見せている母に、僕はほっと胸を撫で下ろす。リラも喧嘩っ早いが、母も同じくらい喧嘩っ早いのだ。前世の母と殴り合いで魔女族の長を勝ち取ったように、母はものすごく腕が立つ。
話し合いも終わって、それで問題は解決したように思えた。
数日後、僕は傷を治した上級生に呼び出されていた。
僕の下半身を見たがった上級生ということで、警戒してリラが一緒に来ているが、構わずに上級生は僕に手紙を渡した。
「それ、一人のときに読んで」
そのまま走り去っていく上級生に、素早くリラが僕の手から手紙を取り上げて封を開けてしまう。中から便箋を取り出してリラが読み上げる。
「『ラーイくんのことが好きです。お付き合いしてください』はー!? なにこれ!」
僕は上級生の顔もよく覚えていないし、お付き合いする理由がない。
何よりも、僕にはセイラン様がいる。
「何で、僕なの?」
「周囲に男性がいないのよ。だから、最初からお兄ちゃんが好きで、ああいう絡み方しかできなかったんじゃない?」
僕に絡んで来たのが僕に好意があったからとして、あんなことをされて好きになるはずがないだろう。本当に何を考えているのか分からない。
呆れてしまった僕に、リラは手紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。
ごみ箱に捨ててしまうのは何となく申し訳ないし、返事はしなければいけないので、僕はゴミ箱からその手紙を拾って、広げてノートに挟んでおいた。
社に帰ってから手紙の返事を書こうとノートを広げると、ひらりと手紙が落ちてしまう。僕の部屋の前を通りがかったセイラン様がそれを拾ってくれた。
「恋文か。ラーイもそんなものをもらう年になったのだな」
「恋文……そうか、これは恋文だったのですね」
内容からしてそうなのだが、僕はあまり気にしていなかった。答えは決まり切っていたからだ。
「僕にはセイラン様がいるし、お断りしようと思うのですが」
「いいのか? 同年代の女子と付き合いたくはないのか?」
セイラン様の言葉に僕は眉間に皺を寄せた。
「セイラン様、僕はセイラン様の婚約者なのですよ!」
「そうだが……気が変わることもあるだろう。ラーイはまだ十一歳だ」
「気が変わるはずがありません! 生まれてから十一年、セイラン様以外を愛したことなんてないんですよ!」
はっきりと伝えてもセイラン様の反応が鈍くて、僕は目の奥が熱くなってくる。涙が滲んでセイラン様がよく見えない。
「セイラン様のことが好きなのにぃ……なんで、そんなことを言うのですか」
ぐすぐすと洟を啜る僕を、セイラン様が抱き寄せる。セイラン様の大きな手で髪を撫でられて僕は大きくしゃくり上げた。
「すまない、ラーイ。泣かせるつもりはなかったのだ」
「セイラン様が好きなんです」
「私もラーイが好きだ」
「セイラン様の好きは、僕の好きと違うぅ」
「そうかもしれぬが、ラーイを大事に思っておることには変わりない」
僕の好きはセイラン様と結婚したい好きなのだが、セイラン様の好きは子どもに対するもののような気がする。それはまだ僕が十一歳なので仕方がないのだが、真剣に受け取ってもらえないことが悔しくて仕方がなかった。
「セイラン様ぁ、セイラン様ぁ」
セイラン様の胸に顔を埋めて僕は泣き続けた。
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