土地神様に守られて 〜転生したらまた魔女の男子だった件〜

秋月真鳥

文字の大きさ
上 下
96 / 180
転生したらまた魔女の男子だった件

96.社に戻って

しおりを挟む
 王宮から出るとセイラン様は巨大な白虎の姿になった。僕はセイラン様の背中に跨る。前世の母はセイラン様のそばに寄り添った。
 風になって飛べばセイラン様とレイリ様の治める土地まではすぐだった。
 セイラン様は前世の母のために孤児院の庭に下り立っていた。孤児院からは晩ご飯の準備をするいい匂いがしている。

「母さん、今回はありがとう」
「いいのよ。あなたのためならば」

 前世の母が僕を抱き締める。抱き締められて僕はくすぐったいような心地いいような不思議な気分になる。
 もう前世の年齢を超えてしまったが、まだ僕は前世の母にも、今世の母とお父さんにも、セイラン様にも抱き締められたいのだ。

「会ってみたらあのひとのことを思い出した。私はまだ若い魔女で、初めての出産のために関係を持ったのがあのひとで、初めてで戸惑う私にあのひとは優しくしてくれた」

 あの国の国王は前世の母の最初で最後の相手だったのだ。前世の母は誰とも抱き合ったことがなく、戸惑っていたところを皇子だったあの国の国王が優しく抱いてくれた。
 それで僕と妹ができた。

「皇子のための宮殿で一夜を過ごして、私は魔女の森でしか魔女の子どもは生まれないと分かっていたから、魔女の森に帰らなければいけないと伝えたの。別れるときにあのひとは愛の証だとイヤリングをくれた。これを持っていればいつかは必ず出会えるからと」

 前世の母とあの国の国王の間に、そのときには確かに愛情があったのではないだろうか。子どもが生まれてからは、前世の母は逃げ回る生活でそれどころではなくなってしまったけれど。

「僕の前世が愛し合った二人の間に生まれたと分かって嬉しいよ」
「そうね、私、きっとあのひとを愛していたのよね」

 遠くを見るように目を細める前世の母を孤児院から子どもの声が呼ぶ。

「魔女様ー! お帰りなさいー!」
「一緒にご飯にしましょうー!」

 呼ばれて前世の母は僕の身体を離し、そちらに向き直った。

「また会いに来て。いつでも歓迎するわ」
「母さんも、元気で」
「えぇ。子どもたちが呼んでいるわ。もう行くわね」

 子どもたちの呼び声に応えて前世の母は孤児院に入って行った。
 残された僕はセイラン様の方を見る。セイラン様の背中によじ登ると、セイラン様が優しく言う。

「また来ような」
「はい」
「大陸のあの国の情勢も見守ろう」
「はい」

 これから国王が養子をもらって、国民と共に前向きに生きていけるのか、それはまだ分からない。ただ養子をもらうと決めただけでも前進だったのではないだろうか。
 前世の母という過去の女性を追い駆け続けることを止めて、国王は前を向くことができた。それは僕と前世の母が国王に会いに行ったことが無駄ではなかったことを示していた。

 社に帰ると、リラが晩ご飯を食べていた。レイリ様も一緒にテーブルについている。

「泊まって来るかと思いました。もう少し夕食を待っておけばよかったですね」
「ごめんね、お兄ちゃん、先に食べちゃった」

 謝るレイリ様とリラに、僕もセイラン様も自分たちが思わぬ速さで帰ってこられたことに気付いていた。

「私もこんなに順調に話が進むとは思わなかった。土地の神に協力してもらったのだ」
「彼の国は土地神と関係性がよいのですね」
「そのようだった。王侯貴族も国民も、土地神を崇めて信仰していると聞いた」
「鷹の土地神様と、黒い犬の土地神様でした」

 セイラン様と僕で説明すると、レイリ様は顎を撫でて考えている。

「ラーイは問題なく国王に会えたのですか?」
「はい、会えました。前世の母も会えました。国王陛下は前世の母との復縁を望んでいましたが、前世の母はそれを断って、国王陛下は養子をもらって後継者を選び国を落ち着ける方向で話はまとまりました」

 細かく報告するとレイリ様が納得している。

「それならばよかったですね」
「お兄ちゃん、ぜんせって、何?」
「あ、いや、なんでもないんだ」
「知ってるわよ、私」
「え!? リラ、前世を知ってるの!?」

 僕が目の前で話してしまったからリラは前世を思い出してしまったのだろうか。僕の胸がドキドキと早鐘のように打つ。リラは遂に前世を思い出したのか。

「お餅を入れた、小豆のお汁のことでしょう?」
「それは、ぜんざい!」

 誇らしげな顔で言ったリラに、僕は思い切り突っ込んでいた。

「あれ? 違った? お兄ちゃん、ぜんざいを一緒に食べるひとがいるんだと思ってたわ。あれ、冷やしても美味しそうよね」

 話が全く違う方向に行ってしまったが僕は方向転換しないことにした。リラは勘違いしたままの方がいい気がする。

「マオお姉ちゃん、私、ぜんざいが食べたいわ。なんとか冷たいぜんざいを作れないかしら?」
「お餅ではなく、白玉団子にすれば、少しは硬くなるのを防げるかもしれません」
「実践と研究あるのみね!」

 料理を始めたリラはマオさんと一緒に冷たいぜんざいの作り方を真剣に考えていた。

「泡立てた生クリームを添えてもいいかもしれません」
「いいわね! 絶対美味しいやつだわ!」
「小豆はいっそゼリーのようにして、冷たく食べられるようにすればいいのでは?」
「マオお姉ちゃん、天才じゃない!?」

 喜んで興奮しているリラとマオさんの話はずっと続いていた。
 その間に僕はセイラン様と厨房に行って料理を取ってくる。今日はご飯とお味噌汁と煮魚だった。
 臭みがないように煮てある魚を食べながら、魚と一緒に煮てある牛蒡や茄子や厚揚げも食べる。魚の旨味がしみ込んでいてとても美味しい。
 セイラン様も魚と牛蒡と茄子と厚揚げを肴にお酒を飲んでいた。

 食べ終わったリラはお風呂に行って、レイリ様とセイラン様と僕が残る。レイリ様はセイラン様の盃にお酒を注いでいた。

「セイラン兄上、お疲れさまでした」
「レイリも留守番ご苦労だったな」
「セイラン兄上がいなかったので、少し不安だったのは内緒ですよ」
「そうか? レイリの方が私より強かろうに」
「僕は戦うのには慣れていませんからね」

 土地神様としてレイリ様はこの土地が襲われたら守らなければいけない立場にある。セイラン様がいなければレイリ様一人でこの土地を守らなければいけない。
 これだけ強い神族のレイリ様でも心細いことがあるのだと僕は驚いてしまった。

「ラーイは明日はアマリエとエイゼンに報告をせねばならぬな」
「そうですね。母とお父さんにはお土産もありますし」

 話しているとお風呂から出て来たリラがパジャマ姿で髪にバスタオルを巻いてレイリ様の膝の上に上がって来た。

「レイリ様、髪を乾かして」
「いいですよ、リラ」

 風の術を使ってレイリ様がリラの髪を乾かす。リラの髪は前髪も長く伸びていて、後ろの髪は背中まであった。
 癖のある黒髪を指で梳いて丁寧に乾かすレイリ様の動作には、愛情が籠っている。

「ラーイ、お風呂に入っておいで」
「はい、セイラン様」

 セイラン様に促されて、僕はお風呂に向かった。着替えを脱衣所に置いて風呂場で身体と髪を洗って湯船に浸かる。お湯はぬるかったが、全身の疲れが取れるようだった。
 あの国は暑かったし汗もかなりかいていた。体を洗って流すとすごくさっぱりとする。
 お風呂から出た僕はセイラン様に髪を乾かしてもらって、寝室に行った。

 セイラン様もお風呂に入って出てきたところで、僕はセイラン様の着物の袷を大きく開ける。露わになった白い胸に、ごくりと唾を飲み込んだ。

「いつになったら乳離れするのか」
「僕がお乳を飲んでいたら嫌ですか?」
「嫌ではないのだが……」

 言葉を濁すセイラン様に、僕はその胸に吸い付いた。胸に吸い付くと甘いお乳が出てくるのはセイラン様に拒まれていない証だ。もう片方の手で無意識に反対側の乳首を摘まむと、ぴゅっとお乳が出て来た。

「セイラン様、お乳が張っているのではないですか?」
「そ、そんなことは……」
「ちゃんとそっちの胸も飲みますからね」

 僕の必要とする量は成長に伴って少なくなってきているはずなのだが、セイラン様のお乳はしっかりと右も左も出る。セイラン様もそれが制御できることではないようで戸惑っている様子が見られる。

「セイラン様のお乳、美味しいです……」
「黙って飲んでくれ……」
「セイラン様?」

 どうしてセイラン様の顔が赤いのか分からない。お乳を飲む行為は僕にとっては命を繋ぐための大事なことなのだが、セイラン様にとっては恥ずかしいのだろうか。

 僕にはまだ分からないことがたくさんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

雄牛は淫らなミルクの放出をおねだりする

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...