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転生したらまた魔女の男子だった件

96.社に戻って

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 王宮から出るとセイラン様は巨大な白虎の姿になった。僕はセイラン様の背中に跨る。前世の母はセイラン様のそばに寄り添った。
 風になって飛べばセイラン様とレイリ様の治める土地まではすぐだった。
 セイラン様は前世の母のために孤児院の庭に下り立っていた。孤児院からは晩ご飯の準備をするいい匂いがしている。

「母さん、今回はありがとう」
「いいのよ。あなたのためならば」

 前世の母が僕を抱き締める。抱き締められて僕はくすぐったいような心地いいような不思議な気分になる。
 もう前世の年齢を超えてしまったが、まだ僕は前世の母にも、今世の母とお父さんにも、セイラン様にも抱き締められたいのだ。

「会ってみたらあのひとのことを思い出した。私はまだ若い魔女で、初めての出産のために関係を持ったのがあのひとで、初めてで戸惑う私にあのひとは優しくしてくれた」

 あの国の国王は前世の母の最初で最後の相手だったのだ。前世の母は誰とも抱き合ったことがなく、戸惑っていたところを皇子だったあの国の国王が優しく抱いてくれた。
 それで僕と妹ができた。

「皇子のための宮殿で一夜を過ごして、私は魔女の森でしか魔女の子どもは生まれないと分かっていたから、魔女の森に帰らなければいけないと伝えたの。別れるときにあのひとは愛の証だとイヤリングをくれた。これを持っていればいつかは必ず出会えるからと」

 前世の母とあの国の国王の間に、そのときには確かに愛情があったのではないだろうか。子どもが生まれてからは、前世の母は逃げ回る生活でそれどころではなくなってしまったけれど。

「僕の前世が愛し合った二人の間に生まれたと分かって嬉しいよ」
「そうね、私、きっとあのひとを愛していたのよね」

 遠くを見るように目を細める前世の母を孤児院から子どもの声が呼ぶ。

「魔女様ー! お帰りなさいー!」
「一緒にご飯にしましょうー!」

 呼ばれて前世の母は僕の身体を離し、そちらに向き直った。

「また会いに来て。いつでも歓迎するわ」
「母さんも、元気で」
「えぇ。子どもたちが呼んでいるわ。もう行くわね」

 子どもたちの呼び声に応えて前世の母は孤児院に入って行った。
 残された僕はセイラン様の方を見る。セイラン様の背中によじ登ると、セイラン様が優しく言う。

「また来ような」
「はい」
「大陸のあの国の情勢も見守ろう」
「はい」

 これから国王が養子をもらって、国民と共に前向きに生きていけるのか、それはまだ分からない。ただ養子をもらうと決めただけでも前進だったのではないだろうか。
 前世の母という過去の女性を追い駆け続けることを止めて、国王は前を向くことができた。それは僕と前世の母が国王に会いに行ったことが無駄ではなかったことを示していた。

 社に帰ると、リラが晩ご飯を食べていた。レイリ様も一緒にテーブルについている。

「泊まって来るかと思いました。もう少し夕食を待っておけばよかったですね」
「ごめんね、お兄ちゃん、先に食べちゃった」

 謝るレイリ様とリラに、僕もセイラン様も自分たちが思わぬ速さで帰ってこられたことに気付いていた。

「私もこんなに順調に話が進むとは思わなかった。土地の神に協力してもらったのだ」
「彼の国は土地神と関係性がよいのですね」
「そのようだった。王侯貴族も国民も、土地神を崇めて信仰していると聞いた」
「鷹の土地神様と、黒い犬の土地神様でした」

 セイラン様と僕で説明すると、レイリ様は顎を撫でて考えている。

「ラーイは問題なく国王に会えたのですか?」
「はい、会えました。前世の母も会えました。国王陛下は前世の母との復縁を望んでいましたが、前世の母はそれを断って、国王陛下は養子をもらって後継者を選び国を落ち着ける方向で話はまとまりました」

 細かく報告するとレイリ様が納得している。

「それならばよかったですね」
「お兄ちゃん、ぜんせって、何?」
「あ、いや、なんでもないんだ」
「知ってるわよ、私」
「え!? リラ、前世を知ってるの!?」

 僕が目の前で話してしまったからリラは前世を思い出してしまったのだろうか。僕の胸がドキドキと早鐘のように打つ。リラは遂に前世を思い出したのか。

「お餅を入れた、小豆のお汁のことでしょう?」
「それは、ぜんざい!」

 誇らしげな顔で言ったリラに、僕は思い切り突っ込んでいた。

「あれ? 違った? お兄ちゃん、ぜんざいを一緒に食べるひとがいるんだと思ってたわ。あれ、冷やしても美味しそうよね」

 話が全く違う方向に行ってしまったが僕は方向転換しないことにした。リラは勘違いしたままの方がいい気がする。

「マオお姉ちゃん、私、ぜんざいが食べたいわ。なんとか冷たいぜんざいを作れないかしら?」
「お餅ではなく、白玉団子にすれば、少しは硬くなるのを防げるかもしれません」
「実践と研究あるのみね!」

 料理を始めたリラはマオさんと一緒に冷たいぜんざいの作り方を真剣に考えていた。

「泡立てた生クリームを添えてもいいかもしれません」
「いいわね! 絶対美味しいやつだわ!」
「小豆はいっそゼリーのようにして、冷たく食べられるようにすればいいのでは?」
「マオお姉ちゃん、天才じゃない!?」

 喜んで興奮しているリラとマオさんの話はずっと続いていた。
 その間に僕はセイラン様と厨房に行って料理を取ってくる。今日はご飯とお味噌汁と煮魚だった。
 臭みがないように煮てある魚を食べながら、魚と一緒に煮てある牛蒡や茄子や厚揚げも食べる。魚の旨味がしみ込んでいてとても美味しい。
 セイラン様も魚と牛蒡と茄子と厚揚げを肴にお酒を飲んでいた。

 食べ終わったリラはお風呂に行って、レイリ様とセイラン様と僕が残る。レイリ様はセイラン様の盃にお酒を注いでいた。

「セイラン兄上、お疲れさまでした」
「レイリも留守番ご苦労だったな」
「セイラン兄上がいなかったので、少し不安だったのは内緒ですよ」
「そうか? レイリの方が私より強かろうに」
「僕は戦うのには慣れていませんからね」

 土地神様としてレイリ様はこの土地が襲われたら守らなければいけない立場にある。セイラン様がいなければレイリ様一人でこの土地を守らなければいけない。
 これだけ強い神族のレイリ様でも心細いことがあるのだと僕は驚いてしまった。

「ラーイは明日はアマリエとエイゼンに報告をせねばならぬな」
「そうですね。母とお父さんにはお土産もありますし」

 話しているとお風呂から出て来たリラがパジャマ姿で髪にバスタオルを巻いてレイリ様の膝の上に上がって来た。

「レイリ様、髪を乾かして」
「いいですよ、リラ」

 風の術を使ってレイリ様がリラの髪を乾かす。リラの髪は前髪も長く伸びていて、後ろの髪は背中まであった。
 癖のある黒髪を指で梳いて丁寧に乾かすレイリ様の動作には、愛情が籠っている。

「ラーイ、お風呂に入っておいで」
「はい、セイラン様」

 セイラン様に促されて、僕はお風呂に向かった。着替えを脱衣所に置いて風呂場で身体と髪を洗って湯船に浸かる。お湯はぬるかったが、全身の疲れが取れるようだった。
 あの国は暑かったし汗もかなりかいていた。体を洗って流すとすごくさっぱりとする。
 お風呂から出た僕はセイラン様に髪を乾かしてもらって、寝室に行った。

 セイラン様もお風呂に入って出てきたところで、僕はセイラン様の着物の袷を大きく開ける。露わになった白い胸に、ごくりと唾を飲み込んだ。

「いつになったら乳離れするのか」
「僕がお乳を飲んでいたら嫌ですか?」
「嫌ではないのだが……」

 言葉を濁すセイラン様に、僕はその胸に吸い付いた。胸に吸い付くと甘いお乳が出てくるのはセイラン様に拒まれていない証だ。もう片方の手で無意識に反対側の乳首を摘まむと、ぴゅっとお乳が出て来た。

「セイラン様、お乳が張っているのではないですか?」
「そ、そんなことは……」
「ちゃんとそっちの胸も飲みますからね」

 僕の必要とする量は成長に伴って少なくなってきているはずなのだが、セイラン様のお乳はしっかりと右も左も出る。セイラン様もそれが制御できることではないようで戸惑っている様子が見られる。

「セイラン様のお乳、美味しいです……」
「黙って飲んでくれ……」
「セイラン様?」

 どうしてセイラン様の顔が赤いのか分からない。お乳を飲む行為は僕にとっては命を繋ぐための大事なことなのだが、セイラン様にとっては恥ずかしいのだろうか。

 僕にはまだ分からないことがたくさんだ。
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