土地神様に守られて 〜転生したらまた魔女の男子だった件〜

秋月真鳥

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転生したらまた魔女の男子だった件

90.セイラン様から聞く性教育

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 リラとマオさんが作ったお弁当を、お父さんがスリーズちゃんを膝の上に乗せて食べさせている。スリーズちゃんはお父さんが食べさせてくれると分かっているので、小さなお手手で指差して食べたいものを教えていた。

「こえ」
「おにぎりを食べるんだね」
「こえ」
「次は卵焼きか。切るからちょっと待って」
「こえ」
「またおにぎりだね」

 口いっぱい頬張って食べるスリーズちゃんを見ていると、僕もお腹が空いてくる。
 我慢しようと思ったが、僕のお腹は正直できゅるるるると鳴き声を上げてしまった。同じくきゅるるるると音が聞こえたのでリラの方を見ると、リラもお腹を押さえている。

「ラーイ、おいで」
「リラ、お弁当にしましょう」

 セイラン様とレイリ様が床の敷物の上に座って僕とリラを呼ぶ。セイラン様の膝の上に座って僕はお弁当を食べ始めた。リラはレイリ様の膝の上に座ってお弁当を食べている。

「この卵焼き美味しいですよ」
「一口もらおうか」
「レイリ様、私、煮卵に挑戦したのよ」
「それは食べてみたいですね」

 僕はセイラン様と、リラはレイリ様とお弁当を分けて食べる。

「セイラン様とレイリ様のお父上とお母上の分がないのにすみません」
「気にせずに食べていいのだよ」
「子どもは遠慮することはありません」

 僕たちだけ食べているのに、セイラン様とレイリ様のご両親は寛容だった。
 食べている間に、母がセイラン様とレイリ様のご両親にクッションを渡している。

「お二人が寛げるように、ラーイと二人で作りました。暖かくなる付与魔法もかかっています」
「これはありがたい。ラーイはこんなこともできるのだな」
「大事に使いますね」

 クッションを受け取って、セイラン様とレイリ様のご両親は顎の下に敷いて寛いでいた。

「ラーイは私の仕立て屋の魔法を継いでくれようとしています。私にはリラとスリーズの他にも娘が三人いますが、どの子も私とは違う道を選びました。ラーイが私と同じ道を選んでくれてとても嬉しいのです」
「よく分かります。私たちもセイランとレイリが土地神となったときには嬉しかったものです」
「ラーイは母君の跡を継ぐのだな」

 母の口からこんな言葉を聞くのは初めてで、僕はお弁当を食べながら不思議な気持ちになっていた。飄々として、いつも愉快そうで、人生を楽しんでいる母でも、これまでの姉たちが自分の跡を継がなかったことに関しては思うところがあったようだ。それが、僕が母の技術を学んでいるということで、喜びを感じている。

 僕は母に期待される息子なのだと嬉しくなってしまった。

 お弁当を食べ終わると、スリーズちゃんが眠くなってしまって、お父さんに抱っこされたままぐすぐすと泣いている。お父さんはスリーズちゃんを抱っこして揺らして寝かしつけようとしている。

「小さな子ども連れに長時間の滞在は難しいな」
「またいつでも来てください」
「今日は来てくれて本当にありがとう」
「楽しい時間を持てました」

 セイラン様とレイリ様のご両親に送り出されて僕とリラとセイラン様とレイリ様は社に、母とお父さんとスリーズちゃんは魔女の森に帰った。
 社に帰るとマオさんが待っていてくれた。

「早いお帰りでしたね。どうでしたか?」
「セイラン様のお父上もお母上も、すごく優しかったよ」
「スリーズちゃんが眠くなっちゃったのよ。それで帰って来たの」

 説明を終えてから、リラが真剣な顔になった。

「しうと? しうとめ? 私、まだ頭がこんがらがっているんだけれど、あれはどういうことだったの?」
「まず、結婚した相手の父親を義父、そして舅、結婚した相手の母親を義母、そして姑といいます」
「そうなのね」
「僕とリラが結婚したら、リラの両親は僕の義理の両親、僕の両親はリラの義理の両親になります」
「あ、そういうことか!」
「そうなのです。ですから、アマリエとエイゼンが僕の義母と義父になって、僕の両親がリラの義母と義父になるのです」

 丁寧なレイリ様の説明がリラの胸には一番響いたようだ。やっとすっきりした顔をしているリラに、僕も安心する。
 僕はすんなりと理解できることだったがリラには、僕が説明して、セイラン様とレイリ様のご両親が説明して、レイリ様が説明してやっと理解できることだった。
 もう前世の年齢は超えているのだし、僕とリラに差はないはずなのだが、やはり理解力に差があるのだろうか。

「セイラン様、僕はおかしいのですか?」

 問いかけてみるとセイラン様が僕を優しく抱き寄せる。

「おかしいのではない。ラーイは賢いのだ」
「僕は賢い……」
「リラが劣っているということではない。リラにはリラのよさがある。ラーイにはラーイのよさがある。ラーイはリラに肉体強化の魔法でも体育でも勝てないが、他の教科は勝てるだろう。それが個性というものなのだ」

 穏やかにセイラン様に耳元で囁かれると、心が落ち着いてくる。セイラン様の声は低くて耳に心地よい。

 セイラン様と僕が話している間に、リラは厨房に行ってお弁当箱を洗っていた。マオさんが手伝いながら声をかけている。

「お弁当は食べられましたか?」
「全部食べたわ。お兄ちゃんも全部食べた。スリーズちゃんも食べてたわ。煮卵、上手にできてて美味しかった!」
「煮卵、成功しましたか」
「晩ご飯も煮卵食べたいわ」

 話しながらお弁当箱を洗って戻って来たリラとマオさんに、レイリ様が言う。

「晩ご飯は、素麺と煮卵でいいのではないですか?」
「素麺食べたいわ! つるつる冷たくて美味しいもの」
「冷水できゅっとしめましょうね」

 晩ご飯の献立を決めるレイリ様とリラとマオさんに、僕もセイラン様も文句はなかった。

 晩ご飯は冷水でしめた素麺と煮卵だった。素麺をつゆに入れてお腹いっぱい食べて、僕は満足してセイラン様と二人きりになった。セイラン様の寝室で床に敷いた敷物の上で向かい合って座る。

「セイラン様、お乳をください」

 僕が言えばセイラン様は若干恥じらいながら胸を晒してくれる。
 十一歳になっても、僕はセイラン様のお乳を飲むのを止める気は全くなかった。セイラン様の胸に吸い付くと、乳首に歯が当たってしまう。

「あっ……」

 セイラン様の口から色っぽい声が出たような気がした。思わず口を外してセイラン様を見詰めると、セイラン様の顔が赤い。

「ラーイ、これはその……違うのだ」
「何がですか?」
「いや、何でもないのだ」

 何が起きているか分からないけれど、僕は股間がむずむずしてくる。それがどういうことなのか僕にはよく分からない。

「セイラン様、ここ、なんか変です」
「へ、変とは?」
「むずむずします」

 正直に股間を指差して言えば、セイラン様が狼狽えているのが分かる。

「どのように説明すればいいのか……ラーイにも伝えるべき年齢になったか」

 こほんと咳払いをして、セイラン様は真剣な表情になった。

「そこから子種が出るのを、ラーイは知っているか?」
「は、はい」

 小学校のときに僕はカルロッタ先生から授業で習っていた。男性器からは子どもの種が出て、女性器からは子どもの卵が出る。その卵と種が出会って、赤ちゃんは生まれるのだ。

「ラーイもそろそろ来るかもしれないが、そこから初めて子種が出るのを、精通という」
「精通、ですか」
「そうだ。早い子はラーイくらいの年から、遅い子はもっと後に精通が来るのだが、精通が来れば、それからは定期的に子種が作られて、そこから出したくなるのだ」
「セイラン様もですか?」

 素直に聞いたつもりだが、セイラン様は顔を赤くして困った表情になってしまった。

「私はそういう欲が薄いようで、出したくはならないのだ。だが、出したくなっても、ならなくても、どちらも個人差があるから、おかしいことではない」

 セイラン様と四六時中一緒にいた赤ん坊のころから、僕は一度もセイラン様がそこに触れているのを見たことがない。出したくなる性質ではないというのは本当なのだろう。

 僕はどっちなのだろうか。
 まだ精通は来ていないので分からないが、頻繁に出したいと思うのか、それとも出したくならないのか。

「セイラン様が家族と離れて眠りたくなったというのは、精通が来たからですか?」
「そうだ。その後は家族とは別々に眠りたくなった」

 以前に話してもらったセイラン様が家族と別々に眠りたくなった年頃とはその頃だった。
 僕も精通が来たらセイラン様と離れて眠るようになるのだろうか。
 想像できなくて、僕は考えるのを放棄してセイラン様のお乳を飲むことにした。
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