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転生したらまた魔女の男子だった件

85.セイラン様のお乳

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 春休みが終わると、僕とリラは魔女の森の高等学校に進学した。魔女の森の高等学校に男性が入学するのは初めてだ。しかも、飛び級しているので十歳という異例の事態にも、高等学校は対応してくれていた。

「魔女の森が開かれてから、男性も暮らすようになり、男の子も生まれています。いずれは高等学校も形を変えていかなければいけなかったのです。これをいい契機として、男子生徒の受け入れを行っていきたいと思います」

 入学のときに僕はセイラン様と二人で校長先生に呼ばれて、話をしてもらった。
 校長先生は僕のために男子生徒用のトイレを作り、男子生徒用の更衣室を作った。
 今後のことも考えて、僕一人のためではなく、たくさんの男子生徒が使えるものだった。

「魔女の森の将来を考えておるのは立派なことだ。土地神としても高等学校を祝福すると共に、ラーイの保護者として感謝する」

 セイラン様は校長先生に頭を下げていた。土地神様であるセイラン様に頭を下げられて、校長先生は恐縮していた。

 問題は高等学校からは給食がないことだった。
 お弁当を持って行かなければいけない。
 僕とリラが魔女の森の小学校に入った理由は、魔女の森の空気の中に含まれる魔力を吸い取って、魔女の森の魔力に満ちた食事を食べるためだった。魔女の森が開かれた今、魔女の森の空気には以前ほど魔力は入っていないし、給食もなくなるとなると、僕もリラも魔力不足になってしまいかねない。

 魔女の森で育つ子どもたちは、セイラン様とレイリ様が設置した神力を得られる湧水を飲んだり、料理に使ったりして、魔力の代わりにしているが、僕とリラが社からお弁当を持って行くとなると、これまで小学校で食べていた給食のように魔力や神力を得られない。

 結論として、僕はセイラン様のお乳を頻繁に飲むしかなくなったのだ。

「セイラン様、お乳をください」
「……小学校と高等学校は違うのだな。仕方がない」

 夜に二人きりになって向かい合うと、セイラン様は頬を染めながら着物の袷を緩めて胸を晒してくれる。白いムチムチとした筋肉に覆われた胸に、僕は顔を埋める。

 十歳にもなってお乳を飲んでいるのは恥ずかしいのかもしれないが、僕には必要なのだから仕方がない。魔女の森の湧水を分けてもらうよりも、セイラン様から直接お乳をもらう方が僕には合っていた。

 乳首に吸い付くと、セイラン様が「あっ」と小さく声をあげる。ちゅうちゅうと吸っていると、甘いお乳が口の中に広がって、一日の疲れが癒されるのが分かる。

「セイラン様、もう片方も」
「片方では足りぬか」

 片方の胸を吸い終わるともう片方の胸を吸う。たっぷりとお乳を飲まないと僕は満足できない体になっていた。

「前世では魔力が足りなくて、病弱で寝込んでばかりでした。逃げるときにも熱が出ていたり、体力がなくて走れなかったりしてつらかった。セイラン様のお乳を飲んでいるから、僕は健康でいられます」
「それはよかったのだが……神力を込めた水ではダメなのか?」
「セイラン様は僕にお乳を飲まれるのが嫌なのですか!?」

 その可能性を考えたことがなかった。
 セイラン様が代用案を持ち出すということは、セイラン様は実は僕にお乳を飲まれることが嫌だったのかもしれない。
 幼い頃の小さく可愛い僕ならともかく、僕はもう十歳になってしまった。セイラン様にとっては僕はもう可愛い対象ではなくなったのだろうか。

 考えていると目の奥がじんと熱くなって痛んでくる。
 鼻の奥がつんと痛くなって、涙と洟が垂れて来る。
 静かに泣き始めた僕を見て、セイラン様は慌てているようだった。

「嫌ではないのだ。ラーイも十歳になるし、恥ずかしくなる頃ではないかと思ってな」
「僕は、セイラン様のお乳が飲みたいのに……」
「そんなに泣くな。私は嫌ではない」

 顔を拭いてくれて、鼻をかませてくれるセイラン様に、僕は抱き付いた。セイラン様の胴体は筋肉がついてしっかりとしている。

「お乳を飲むのはセイラン様との大事な時間だと思っていました。そんな風に思っていたのは僕だけだったのですね」
「そうではない。私にとっても大事な時間だ」
「セイラン様のお乳をこれからも飲んでいいですか?」
「ラーイが望むなら」

 セイラン様はそう言ってくれたけれど、僕はセイラン様が僕が泣いてしまったから優しくしてくれているだけなのではないかと思ってしまう。セイラン様は優しいから泣いてしまった僕を突き離せなかったのではないか。

 白虎の姿になったセイラン様のお腹の上に乗って目を閉じても、その日はよく眠れなかった。

 翌日、高等学校の休み時間にお弁当を食べながら、僕はリラに聞いてみた。

「リラはレイリ様にお乳を飲むのを嫌がられたことがある?」

 肉団子を食べていたリラは、もぐもぐと咀嚼して飲み込んでから答えた。

「ないわ」
「僕だけなのか……」
「嫌がられたことはないけど、そろそろ卒業しませんかと提案されたことはある」
「あるんじゃないか!」

 さすがレイリ様は穏やかで冷静な方だった。リラとお乳のことに関しても、ちゃんと話し合いの場を設けていたようだ。

「私は嫌だって言ったわ。レイリ様のお乳を飲んでいたいって」
「そしたら、何ておっしゃったの?」
「分かりましたって言って、話はお終いよ」

 リラとレイリ様の話は簡単に終わっていた。
 僕は自分が駄々を捏ねて泣いてしまったのが恥ずかしくなる。

「僕は、湧水にしないかって言われて、セイラン様が僕にお乳をあげるのが嫌なんじゃないかと思って泣いてしまったんだ」
「それって、いいことじゃない?」
「いいこと?」
「セイラン様が、お兄ちゃんを意識してるんだわ」

 意識している。
 一瞬何のことを言われているか分からなかったが、恋愛的なことだと少し遅れて理解できた。
 リラがそんなことを言うなんて僕は思っていなかったのだ。

「レイリ様だってそうよ。卒業しませんかって言うのは、私が大人になりかけてるから。私のことを意識し始めてるからだと思って、私は嬉しかったわ」

 リラはレイリ様の恋愛対象として意識し始められている。
 セイラン様も僕を恋愛対象として意識し始めている。
 それが昨日の話ならば僕はショックよりも嬉しさが勝って来た。

「セイラン様は僕を意識しているのか」
「私とお兄ちゃんが大人に近付いていなければ、レイリ様とセイラン様からそんな言葉は出なかったわ。私たちの成長の証なのよ」

 前向きなリラの言葉に、僕は大いに勇気付けられた。

 高等学校に入学してから、僕とリラは二人だけで魔女の森に通っているが、帰りには必ず母の家に寄る。
 一歳の誕生日が近いスリーズちゃんは、活発に動くようになったし、歩けるし、言葉もかなり増えて来た。

「にぃに! ねぇね!」
「ラーイとリラが来てくれたね。スリーズは本当に二人のことが大好きだね」

 僕とリラが来ると駆け寄ってくるスリーズちゃんを、僕とリラで抱き留める。

「お母さん、スリーズちゃんの一歳のお誕生日の服、僕に縫わせてくれる?」
「教えてあげるから、一緒に作りましょう」
「ありがとう!」

 スリーズちゃんの一歳のお祝いの服は母に教えてもらって、僕が作らせてもらえることになりそうだ。

「私は、ご馳走を作るお手伝いがしたいわ」
「当日にはアナが来て作ってくれる約束をしたから、手伝いを申し出てみなさい」
「分かったわ!」

 リラもスリーズちゃんの一歳を祝いたい気持ちでいっぱいのようだ。
 スリーズちゃんのお誕生日が終われば、僕とリラのお誕生日も来る。
 その頃にはお父さんもこの土地に来ているだろう。

「お父さんはスリーズちゃんの成長に驚くだろうね」
「エイゼンとも早く会いたいわね」
「お父さんにも会いたいわ」

 お父さんに会ったら、小学校を卒業したこと、高等学校に入学したこと、スリーズちゃんが一歳になったこと、話したいことがたくさんあった。
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