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転生したらまた魔女の男子だった件

76.お父さんとの別れと僕とリラの進路

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 夏の間中、お父さんはスリーズちゃんに付きっきりだった。
 母の家に行くと燕の姿で巣の上に乗っているか、スリーズちゃんの喉に離乳食を詰め込んでいるお父さんの姿が見える。スリーズちゃんが糞をすると、人間の姿になってティッシュで取り除いていた。

「燕の雛には、燕の親が便利ね」
「スリーズもすっかり私に懐いているようだよ」
「別れが寂しくなるわね」

 寄り添い合う母とお父さんの姿に、僕は夏がいつまでも終わらなければいいのにと思わずにいられなかった。
 スリーズちゃんは燕の姿ではよちよち巣の中を歩ける。人間の赤ん坊の姿では寝返りも打てないので、燕の姿の方が自由度は高い。
 スリーズちゃんが燕の姿でいるのは、人間の赤ん坊の姿よりも動けるからなのかもしれない。ベビーベッドの柵から落ちてしまわないように、巣からは出られないように魔法がかかっているが、それでも巣の中でスリーズちゃんはよちよち歩いて、お腹が空くとお父さんに大きな口を開けていた。

「夏が終わるのが寂しいよ、お父さん」
「私も……」

 お父さんを困らせる気はないが、どうしても夏休みが終わりに近づくとため息が増えて来る。お父さんと過ごす毎日は楽しかった。

「また来年来るよ。それしか言えない父親でごめんね」
「ううん、お父さんは季節を運ぶ渡る神だもの」
「私こそ、お父さんを困らせてごめんなさい」

 分かってはいるのだが、寂しさはぬぐえない。
 僕とリラは夏の終わりが憂鬱だった。

 お父さんがいる間はアナ姉さんもアンナマリ姉さんも、時々しか来ないでいい。お父さんはしっかりとスリーズちゃんの離乳食作りもアナ姉さんに習って、スリーズちゃんの世話をしていた。

 お父さんがいなくなるとスリーズちゃんは探すのだろうか。
 巣ごとスリーズちゃんを抱っこすると、スリーズちゃんが目を覚まして僕の指を突いてくる。
 なんで突かれるのか分からないけれど、スリーズちゃんには主張したいことがあるようだ。

「僕は抱っこが下手なのかな?」
「巣を抱っこするのに下手も上手もないわよ、お兄ちゃん」
「なんで僕だけ突かれるんだろう」
「お兄ちゃんのことが好きなんじゃない?」

 嫌われているかもしれないと思っていたが、逆かもしれない。スリーズちゃんは気持ちを言葉で表すことができないから、僕を突いているのであって、必ずしも嫌いというわけではないと気付く。
 嫌われているのでなければ僕も突かれるくらい気にしないことにした。スリーズちゃんの嘴はまだ小さくて突かれてもそれほど痛くはない。

 スリーズちゃんは生まれたときには羽が生えていなかったが、今は羽が生え揃いつつある。お父さんのように艶々で生え揃っているわけではないが、ちょっと胸などがぼさぼさしつつも、翼は黒々としている。喉はお父さんのように赤くないが、成長しているのが分かる。

「燕の雛は十五日前後で巣離れするから、スリーズもそろそろ飛び始めるかもしれない」
「え!? もう飛ぶの!?」
「燕は成長が早いんだ」

 スリーズちゃんが飛び始めるかもしれない。
 お父さんの言葉に僕もリラも母も驚いていた。
 羽が生え揃って来たとは思っていたが、もう飛ぶなんて。
 人間の赤ん坊ならば寝返りも打てない時期なのに、燕の姿ならば飛べる。それならスリーズちゃんは燕の姿でいることを望むだろう。

「飛び始めたら危険がないようにしないと」
「人間の姿になった方が安心じゃないか?」
「飛び始めるころには、私が見ているとき以外は、人間の姿になってもらいましょうかね」

 母とお父さんで話し合って、母はスリーズちゃんを人間の姿にする方法をお父さんから聞いていた。神力を使わなくても魔法でどうにかなりそうだ。

「スリーズちゃんは動きたいかもしれないけど、危ないからね」
「いい子にしているのよ、スリーズちゃん」

 ベビーベッドの中の巣に僕とリラで話しかけた。

 夏休みが終わると、お父さんは次の南の土地に飛んで行った。見送る僕もリラも、涙目になっていた。

「お父さんがずっといられないのは分かってたつもりなんだけど、一年間会えないとなるとこんなに寂しいなんて思わなかった」
「私、お父さんのことが大好きになったの。お別れは寂しいわ」

 僕とリラの言葉に、お父さんは微笑んで髪を撫でてくれる。

「別れを惜しんでくれるのは嬉しいよ。ラーイとリラの本当の父親になれた気がする」
「お父さんは、誰よりも僕のお父さんだよ」
「お父さん、そばにいない間も私たちのこと忘れないでね」

 抱き付くとお父さんは僕とリラを抱き締めてくれる。

「スリーズのことをよろしくね」
「分かったよ。頑張ってお世話する」
「お父さんの分も可愛がるわ」

 涙の別れになってしまったけれど、母は泣いていなかったし、寂しそうでもなかった。

「お母さんは寂しくないの?」
「お父さん、行っちゃうよ?」
「私は寂しくないわ。来年には来てくれるって分かっているし、エイゼンが私を愛してくれているのも分かっているからね」

 穏やかに微笑む母に、僕はそれだけ母はお父さんを信頼しているのだと感じた。僕も将来セイラン様とこれだけ信頼し合える仲になれるだろうか。
 お父さんが飛び去ってしまった空を見上げながら僕は考えていた。

 秋になってセイラン様のお腹で寝るのが心地よくなる季節になる。
 夏の間は僕は汗だくでセイラン様のお腹に乗って眠っていた。暑くてもセイラン様のお腹に乗らないと安心できないのだから仕方がない。

「リラはレイリ様のお腹に乗って寝てるの?」
「お兄ちゃん、そんなデリカシーのないこと聞いちゃうの?」
「え!? 僕はデリカシーがなかった!?」

 白虎の姿のセイラン様のお腹の上に僕は乗って眠っているので、リラもそうなのだと思って聞いてみたら怒られてしまった。僕はデリカシーがなかったようだ。
 反省していると、リラが声を抑えて囁く。

「白虎の姿のレイリ様のお腹に乗ってるわ」
「やっぱりそうなんだ」
「お兄ちゃんも同じでしょう?」
「そうだよ、白虎の姿のセイラン様のお腹に乗って寝てる」

 白虎の姿のセイラン様とレイリ様はとても大きくて、僕やリラが乗ったくらいでは全然揺らがない。お腹を見せてごろんと寝転がるので、僕はセイラン様のお腹の上に乗って眠っている。

「お腹に乗らないとおっぱいが飲めないじゃない」
「お腹に乗ってるか聞くのはデリカシーがないけど、おっぱいを飲むのは別に話してもいいんだ!?」
「レイリ様のおっぱいを飲まないと、私は大きくなれないもの」

 リラのデリカシーの基準がよく分からない。
 でも、確かに僕もセイラン様のお乳を飲まないと体調を崩してしまう。魔女の森に行った日はいいのだが、それ以外の日はセイラン様のお乳が必要だった。

 リラもレイリ様のお乳を飲んでいる。
 小さい頃からのことなので、セイラン様もレイリ様もお乳を飲むことに関しては、諦めている気がする。

「セイラン様、明日からはまた小学校が始まります」
「六年生の夏休みも終わったか。卒業まで近くなって来たな」
「小学校を卒業したら、僕とリラはどうするんでしょう?」

 これまで聞いたことのなかった疑問を口にすると、セイラン様とレイリ様が話し合っている。

「やはりラーイとリラには高等学校まで行ってもらうべきでしょう」
「そうだな。二人ともきちんと学んでほしい」
「魔法を僕たちは教えられません。魔女の森の高等学校が一番でしょう」
「それに、魔力も得られるであろう」

 僕とリラは小学校を卒業したら高等学校に入学させてもらえるようだ。小学校の勉強もとてもためになったし興味深かったので、僕は高等学校に行かせてもらえると知って喜んでいた。

「リラ、一緒に高等学校に行こうね」
「ジアちゃんとラナちゃんも一緒だわ」
「そうだね」

 学年が一つ上だがジアちゃんとラナちゃんも高等学校に行っている。ジアちゃんとラナちゃんと同じというのも僕には嬉しかった。

 夏休みが終わったら、六年生は進路指導がある。
 そのときに僕とリラは高等学校に行くと答えられる。
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