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転生したらまた魔女の男子だった件

60.セイラン様と僕の夜の話

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 布を切って花びらの形と葉っぱの形を作る。
 花びらと葉っぱを染色する。
 花びらにはこてを当てて、丸みを持たせる。
 針金に緑色のテープを貼って、綿で花芯を作る。
 花芯に花びらを貼って行って、花を作り上げる。
 葉っぱば針金を入れて貼り合わせて作る。

 クラスの人数分の花を作るのはかなり大変だった。
 一つの花に花びらが八枚、葉っぱが四枚必要だとして、クラスの人数が約三十人で、二百九十枚の花弁と百二十枚の葉っぱを切ることになる。その上で、その花びら一枚一枚にこてを当てて丸みを持たせるのだから、気の遠くなるような作業だ。

「お母さん、こんなことをいつもしているの!?」
「花束を作るように頼まれたときには、それだけで三十本は作るから、同じくらいの作業をしているね」
「お母さん、すごいよ」

 魔法を込めるだけでなく、細かな作業まで母は完璧にこなしていた。僕は改めて母を尊敬した。
 出来上がった造花はリボンを結んで透明な箱に入れていく。全部で約三十個。出来上がったときには僕はへとへとだった。
 数日にわたって行われた造花作りで、僕の冬休みのほとんどは終わってしまった。
 後はセイラン様とレイリ様とリラとマオさんと過ごす年末年始だ。

 リラは夜空のようなマントと手袋とワンピース、靴下に靴まで揃えてもらって満足そうにしていた。母はリラの薔薇乙女仮面の衣装に魔法をかけたようだった。

「見て、今から変身するわ! 変身!」

 声をかけるとリラを光が取り巻いて、眩く光って、光が消えたときにはリラは、マントのフードを目深に被った、マントと同色の手袋とワンピースと靴下を見に纏った薔薇乙女仮面になっていた。
 マントのフードを外すと、リラの髪に大きな薔薇の髪飾りが付いていて、薔薇のイヤリングもネックレスもつけているのが分かる。

「リラ、可愛いですよ」
「レイリ様、守ってあげるからね」
「心強いですね」

 完全に薔薇乙女仮面になり切ったリラは、ポーズを決める練習をしていた。

 年末には僕はセイラン様にプレゼントがあった。
 裾の方に竹林の模様を刺繍した襟高で袷が斜めになっていて、裾が長くてスリットが入っているシャツを出しだすと、セイラン様が受け取って広げてくれる。

「上手に竹が刺繍できたな」
「どういう風に刺繍しようか迷いましたが、裾に竹林を作りました」
「胸には蝙蝠の模様が刺繍されておる。ありがとう」

 セイラン様にしみじみとお礼を言われて僕は嬉しくて飛び上がりそうだった。
 セイラン様とお揃いの刺繍で僕の服も作ってある。リラとレイリ様は母が違う刺繍で服を作ってくれていた。

「マオさんにも」

 おずおずと僕が差し出すとマオさんが目を丸くしている。

「私にですか?」
「マオさんも家族だから、一緒に新年を祝おう?」

 差し出した服をマオさんは受け取ってくれた。
 マオさんの服は作りはセイラン様とレイリ様と僕とリラと同じだったが、銀色の花を散らした模様を刺繍していた。

「季節外れだけど、銀木犀なんだ」
「私が銀木犀が好きだとよくご存じでしたね」

 マオさんは庭で洗濯物を干しているときに、銀木犀の木をよく眺めていた。銀木犀が咲く時期には、銀木犀のそばで笛を吹いている姿を見たこともある。

「そうじゃないかなって思って」
「嬉しいです。ありがとうございます」
「マオお姉ちゃんも、私が守ってあげるからね!」
「リラ様、ありがとうございます」

 決めポーズの練習をしていたリラもマオさんに声をかけている。

 年末は年越し蕎麦をみんなで食べた。
 僕とリラは、年越し蕎麦に卵を落としてもらって、ちくわの磯部揚げも乗せてもらった。セイラン様とレイリ様とマオさんは蕎麦をそのまま食べていた。

 レンゲの上でぷつりと割った卵の黄身に蕎麦をつけて食べるととても美味しい。口の周りが黄色くなってしまうが、それはセイラン様が拭いてくれる。

「セイラン様、レイリ様、マオさん、来年もよろしくお願いします」
「改まって言われると不思議な感じだな」
「来年もよく食べてよく寝て、大きくなるのですよ」
「こちらこそお願いします」

 寝る前に挨拶をするとセイラン様もレイリ様もマオさんも笑っていたようだ。

 眠って夜が明ければ次の年になる。
 その年には僕は九歳になるのだ。
 そろそろ一人で寝なければいけない時期なのかもしれない。

 セイラン様の部屋でお乳をもらって飲みながら、僕は一人で眠ることを考えていた。
 これまでずっと白虎の姿のセイラン様のお腹の上でもふもふの毛皮に包まれて眠って来た。夏は暑かったが、セイラン様が起こす風でなんとか汗をかきながらも眠れた。
 夜中に起きてもセイラン様がいない。
 一人のベッドで僕は眠れる気がしない。

 胸を吸いながら涙目になっていると、鼻が詰まってしまって吸えなくなる。息をするために僕が口を外すと、ぽろりと涙が零れた。

「ラーイ、何故泣いておる?」

 セイラン様が大きな手で僕の涙を拭いてくれる。僕はセイラン様の胸にしがみ付いた。たらりと洟が垂れた気がするが、今はどうでもいい。

「セイラン様と離れて、一人で寝ないといけないと思ったら、寂しくて涙が……」
「ラーイは一人で寝たいのか?」
「寝たくないです!」

 誤解をされたくないと強く言った僕に、セイラン様がぐしゃぐしゃの僕の顔を拭いてくれて微笑む。

「それならば、私と寝ていればいいではないか」
「でも、来年になれば、僕は九歳になるのです。いつまでもセイラン様と寝ていてはおかしいのではないですか?」
「そのうち嫌でも私とは寝てくれなくなる。私と寝たいと言ってくれているうちが花よ。その時期を私は大事にしたい」

 九歳になるから別々に寝なければいけないとか、そんなことをセイラン様は考えていなかった。
 それどころか、セイラン様と寝たいと言っている時期は寝てもいいと言ってくれている。

「いいのですか?」
「男の子は複雑だからな。そのうちにすぐに親とは寝たくないと言い出すものだ」
「セイラン様と寝たくない未来なんて、想像できません」
「想像できなくても、いつかは来るのだよ」

 悟ったようなセイラン様の様子に僕は戸惑ってしまう。セイラン様は子どもを育てるのは初めてのはずなのに、何故そういうことが分かっているのだろう。

「セイラン様も経験がありますか?」
「白虎の村では家の中で雑魚寝だったが、そういう時期が来たときには、一人になりたかった」
「そ、そういう時期とは?」

 恐る恐る僕が問いかけると、セイラン様は真剣に答えてくださる。

「体が大人になりかける時期だ。その時期には体に変化が起きて、それを親や兄弟にでも知られたくないと思うようになる」
「体が大人になりかける時期……」

 前世で僕は十歳までしか生きていない。
 僕はその時期を経験したことがなかった。その時期が来たら僕はどうすればいいのだろう。

「具体的にどんなことが起きるのですか?」
「男性器から子種が出るようになる」
「ぴゃ!?」

 親として真剣にセイラン様は教えてくれているのだが、包み隠さない言葉に僕は顔が真っ赤になってしまった。男性器が大事な場所だということは幼い頃の教育で知っていたが、そんなものが男性器からは出て来るのか。

「セイラン様は何歳くらいでしたか?」
「十三くらいだっただろうか? 白虎族は神族だから若干遅いと思うのだが、ラーイは魔女族だからもう少し早いかもしれないな」

 十三歳。
 僕が前世で死んだ年齢を三歳も超えている。
 そういう年になれば、僕はセイラン様と寝ることが恥ずかしくなって、一人で寝るようになるのだろうか。

「十歳より先は全然分かりません」
「体が大人になることを、私がラーイに教えなければいけないな。親として」
「セイラン様が、僕に……」

 好きなひとにそんなことを教えてもらうとなると恥ずかしくて、僕は顔が熱くなる。熱い頬を押さえていると、セイラン様が僕の髪を撫でる。

「ゆっくりでいい。急いで大人になろうとしなくていい。できるだけそばにいておくれ」

 セイラン様の言葉に、僕は小さく頷いてセイラン様の胸に顔を埋めた。
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