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転生したらまた魔女の男子だった件

45.七歳のお誕生日

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 七歳のお誕生日はリラとも相談していた。

「ケーキはもうサクランボのパイじゃなくてもいい気がするんだ」

 前世のことがあったから、サクランボのパイに拘っていた僕だったが、前世を超えていけるとセイラン様に言われたときから考えが少し変わって来ていた。前世を超えて僕が生きるのならば、いつまでも前世に捉われる必要はない。

「私もサクランボのパイは好きだけど、毎年だからちょっとあきたかもしれないわ」
「違うケーキをお母さんにお願いしよう」
「そうしましょう」

 一年に一度のことだが、毎年なのでリラも飽きて来ていたようだ。たまには新しいケーキもたべたい。その話を母にすると、母は喜んで請け負ってくれた。

「美味しいケーキを焼いてくるよ」

 母の料理は上手なので、僕もリラも期待してお誕生日を待っていた。

 お誕生日には母はケーキの入った大きな白い箱を持ってやってきた。リラにはお誕生日お祝いに綺麗な造花の髪飾りを渡している。僕には無地のハンカチとポーチをたくさんくれた。

「リラはそれで髪を結んだらいいよ。絶対に可愛い。ラーイはハンカチとポーチの使い道が分かるね?」
「僕がししゅうをするんだね」
「ポーチには簡単な拡張の魔法がかけてあるから、大事なひとに渡すといいよ」

 最高のお誕生日プレゼントに僕もリラも大喜びだった。
 ケーキの箱から出てきたのは茶色の滑らかでツヤツヤなチョコレートケーキにサクランボが飾られたものだった。

「チョコレートとサクランボのケーキだよ。サクランボはチョコレートとも相性がいいのさ」

 僕とリラがずっとサクランボのパイをリクエストし続けていたのを、母は忘れていなかった。サクランボも入れつつ、新しいケーキを作って来てくれた。

 サクランボとチョコレートのケーキが切られる。断面を見ればコンポートされたサクランボが挟まれているのが分かる。

 一番上に乗っているサクランボを食べて種を吐き出し、僕はフォークでケーキを切り崩しに入った。

「ミルクティーにする? お茶にする?」
「ミルクティーがいい!」
「私も!」

 濃厚なチョコレートと甘く煮られたサクランボにはミルクティーがよく合う。ミルクティーを入れてもらって、僕とリラは飲みながらサクランボとチョコレートのケーキをいただいた。

 お誕生日はおやつの時間にパーティーをする。
 セイラン様とレイリ様と僕とリラとマオさんと母で祝うささやかなお誕生日を今年も迎えられたことが僕は嬉しかった。

「私は本当に嬉しいんだよ。ラーイが私と同じ道を選んでくれて」

 母の言葉に僕は疑問を抱く。

「姉さんたちは誰もお母さんと同じ道は選ばなかったの?」
「アマンダもアンナマリもアナも別の道を選んだよ。リラもそうだろう?」
「私、肉体強化の魔法をきわめるの!」

 魔女の森の魔女たちが母親のコピーだとすれば、能力も全く同じになるのではないだろうか。
 僕は疑問を母にぶつけてみることにした。

「魔女の森の魔女が母親のとくちょうしか持っていなかったら、魔法も母親に似るんじゃないの?」
「そうなんだろうけど、私が学校に通っていた頃に、幾つかの才能があるとは言われていてね。その中に裁縫の才能もあったし、肉体強化の才能もあった」

 幾つもある才能の中から、母は裁縫の魔法を選んだ。他の才能を姉たちは選んだのだろう。リラは肉体強化の才能を選んだ。

「ミネルヴァ先生が言っていたことって、こういうことだったのか」

 今更ながらに僕は納得する。
 魔女には幾つかの才能がある。その才能の中のどれを伸ばすかはその魔女にかかっている。生まれではなく教育がひとを変えるのだといういい例なのかもしれない。

 幾つもある才能の中で、自分ができることよりもしたいことを選びなさいとミネルヴァ先生は言ってくれた。僕にも色んな才能があったはずだが、僕は裁縫の道を選んだ。

「お母さんは僕にとってはお師匠様になっちゃうね」
「ビシバシ鍛えてあげるからね」
「うん、しっかりきたえて!」

 僕はセイラン様の服を作りたいのだ。しっかりと鍛えてもらって教えてもらわないとそれは実現しない。息子だからと甘くされていると、僕のためにもならないのだ。
 それを母も分かっているのだろう。

 お誕生日のパーティーが終わると、お茶を飲んで寛ぐ母に僕は聞いてみる。

「お母さんは、僕とリラを産む前に先見の魔法を使う魔女に見てもらったの?」
「そうだよ。魔女の男の子は必ず女の子と双子で生まれて来るからね。双子だと気付いたら男の子かもしれないと疑った方がいいと医者に言われた」
「双子だと気付いたのはいつ?」
「医者の魔女に見せたら、心音が二つあると言われたときかな。心臓の音が二つならば、双子に決まっているだろう」

 医者の魔女はそんなことまで分かるようだ。
 前世の母の時代にはそこまでの技術がなかったのかもしれない。前世の母は僕と妹が双子だということも、男女であるということも知らぬままに出産に臨んでいた。

「男女の双子だと分かったから、魔女の森から逃げて、社で僕とリラを産んだの?」
「そうだよ。魔女の森を出ると赤ん坊を流産してしまうと言われていたけれども、どうせ殺される子どもたちなら、土地神様の威光に縋ろうと思ったんだ」

 僕とリラが殺されてしまうかもしれないと思って、母は賭けに出た。
 殺されてしまうくらいならば、安全な場所で産んで土地神様に預けてしまう方がマシだと考えたのだ。一歩間違えれば僕もリラも死んでいたが、土地神様に守られて、僕もリラも無事に生まれてくることができた。

「魔女の森の魔力がなくても、土地神様の神力があったら、魔女の子どもは無事に生まれるんだね」
「土地神様の神力を浴びて生まれたからこそ、ラーイとリラは土地神様のお乳で育てたのかもしれない」

 土地神様の神力を浴びて生まれた僕とリラは、土地神様にお乳を出させることに成功して、そのお乳を飲んで順調に育っている。土地神様のお乳がなければ僕もリラも病気がちで、死んでいたかもしれないと思うとぞっとする。生まれた瞬間から土地神様の守護を得て、土地神様にお乳をもらっていたのだから、僕もリラも生きていくことができた。

「赤ん坊を産む場面に立ち会うなど初めてだったぞ」
「セイラン兄上は落ち着いてラーイを取り上げていたではないですか」
「レイリはリラを受け止めていたな」

 七歳のお誕生日にして聞く初めての事実。
 僕とリラが生まれたときに取り上げくれたのはセイラン様とレイリ様だった。
 生まれた瞬間に抱き留めてくれたのがセイラン様だったなんて、僕は全然知らなかった。

 この体に生まれて七年経っているが、生まれたときのことは記憶にない。生まれてから一か月くらい経ってから僕は前世のことを思い出した気がする。

「セイラン様に僕は取り上げいただいたのですね」
「初めてのことだったから、慌てたぞ。赤ん坊は小さくてふにゃふにゃしておるし、産湯にもつかわせて、産着も着せねばならなかった」
「双子だったからラーイとリラは特に小さかったのですよ。こんなに小さくて生きていけるのかと毎日心配していました」

 僕とリラを産み落とした後に、母は一人で魔女の森に帰っている。
 自分の赤ん坊を手放して魔女の森に帰った母の気持ちはどれだけつらかったのだろう。

「土地神様に預ければ大丈夫だと自分に言い聞かせて魔女の森に帰ったよ。お腹の子は死んだと周囲には言っていた」

 死産した母を周囲は気遣ってくれたけれど、おかしいと思っていた魔女はいたようで、その後、僕とリラの居場所は露見してしまう。
 その件に関してはもう一件落着したのでよいのだが。

「懐かしい話をしたね」
「また話して、お母さん」
「今日はありがとう、お母さん」

 帰り支度を始めた母に、僕とリラがお礼を言って送り出す。
 セイラン様とレイリ様は大事な育ての親だったが、母も確かに僕とリラの母として大事だった。
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