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転生したらまた魔女の男子だった件

41.僕の熱とかき氷

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 薔薇乙女仮面のお面はマオさんが作っていた。
 作り方をマオさんに教えてもらって僕はマオさんがとても器用なことを知った。

「最初に粘土で型を作ります。それを乾かして、その上から千切った和紙を貼っていくのです」

 張り子という技術で作られるお面は立体的で顔の形に合っている。薔薇乙女仮面のお面はリラの顔の形に合わせていて、目に穴が空いていて、筆で赤紫の薔薇が描かれている。

「ラナちゃんとジアちゃんとあそんだときに、おもいついたの。ばらおとめかめんにへんしんしたら、かっこういいんじゃないかって」
「リラ様に相談されて、頑張ってしまいましたよ。お祭りで売るお面を作るくらいは、巫女の嗜みですからね」

 お祭りで売るお面を作れるというのもすごいが、マオさんがそんなことを考えていたなんて知らなかった。
 おかげでリラは薔薇乙女仮面になれて大満足のようである。

 白虎の兄妹が来た次の日に、一本目の上の前歯が抜けた。
 抜けた後からは歯茎の下で大きな大人の歯が生えている気配がしていた。
 リラも同じ日に前歯が一本抜けた。
 双子なので同じ時期に生え変わるようだ。

「しばらく硬いものは出さないようにしましょうね」
「おせんべいは、たべちゃダメ?」
「他の歯で噛めるなら食べてもいいですけど、できますか?」
「よこからたべればいいわ!」

 歯が抜けたことよりも食欲を優先するのでリラは元気だったが、僕は少しものが食べにくくて食べる量が減った。数日後にはもう一本の前歯も抜けた。そのときには一本目の前歯はほとんど生えて来ていたのでよかったが、歯がぐらぐらしている間も食べにくかったし、抜けたら更に食べにくいし、僕は困ってしまっていた。
 僕の食欲が落ちたので、セイラン様とレイリ様はうどんやお粥など、食べやすいものをマオさんに作ってもらうように頼んでいた。

「わたしはへいきよ! たべられるわ!」

 ぼりぼりと煎餅も横から齧っているリラの逞しさが羨ましい。僕は繊細なようだった。
 前世で歯の生え変わり時期はどうだったのだろう。
 小さな頃だからあまり覚えていない。
 食べられなくて母を困らせた記憶が薄っすらある。

「リラのようにたべられたらいいのですが……」
「ラーイはラーイだ。無理をすることはない」

 お粥を口に運んでくれるセイラン様は僕のことを呆れたり、無理やりに食べさせたりするようなお方ではなかった。

 あまり食べられないせいか、小学校が始まってから僕は熱を出してしまった。
 朝から体が怠くて、気温は高いのに寒くて布団から起き上がれない。一緒に寝ていたセイラン様がお腹の上に乗せている僕の体温の高さに気付いた。

「ラーイが熱を出したようだ」
「何か食べられそうなものはありますか?」
「しょくよくない……」

 あまり食べたくない気分だったので正直に言えば、マオさんが生姜湯を作ってくれる。甘い生姜湯を飲みながら僕はくらくらとする頭でセイラン様の部屋に引きこもっていた。
 部屋の外でリラが僕に声をかけてくる。

「おにいちゃん、おかあさんむかえにきたよー!」
「ラーイは今日は熱があるので学校は休みだ」
「え!? おにいちゃん、おねつなの!?」
「風邪でうつるかもしれないから、リラは近付かないようにしなさい」

 セイラン様に言われてリラが廊下から離れていく気配がする。僕は布団の中で熱に浮かされて、うとうとと眠り始めていた。

 前世の母は、僕と妹を可愛がってくれていた。
 追手を逃れて街に宿を取れることになったときには、美味しいものを食べさせてくれたり、欲しいものを買ってくれたりした。
 旅の生活だったので物を持ち歩くことはできなかったが、少しの好きなものくらいは持ち歩くことを母は許してくれた。
 僕はペンケースに魔法のペンを入れて、ノートを一冊だけ大事に使っていた。
 妹は鳥のぬいぐるみを大事に抱えていた。

 北の街に行ったときに、母は僕と妹にアイスクリームを食べさせてくれた。初めて食べた冷たいお菓子の味は忘れられない。口の中で溶ける感覚と、喉越し。僕はアイスクリームに夢中になっていた。

 その後には魔女の追手がやって来て、宿から深夜に眠い中起こされて逃げることになるのだが、僕はその日のことを鮮明に覚えていた。

 目を覚ますと汗をかいてパジャマがびっしょりと濡れていた。お手洗いに行きたくなって部屋から出ると、居間にいたセイラン様がすぐに気付いて僕に歩み寄ってくる。
 額に手を当てられて、熱を測られた。

「熱は下がっておるな。何か食べられそうか?」
「すこしなら。さきにおてあらいにいきたいです」
「着替えもせねばな」

 レイリ様は土地の見回りに行っているようだ。
 僕はお手洗いに行って、着替えて居間のテーブルについた。マオさんが月見うどんを作ってくれる。
 レンゲの上でぷつりと割った卵の黄身にうどんをつけて、僕は月見うどんを啜って食べた。柔らかいうどんなので、噛むのもそれほど苦労しなかった。

 食べ終わると、レイリ様がちょうど帰って来た。帰って来たセイラン様にレイリ様が近寄って話をしている。

「手に入ったか?」
「なんとかなりましたよ」
「それはよかった」

 何のことかと思っていると、レイリ様が氷の塊を出してくる。気温が高いので氷はこの土地では手に入る時期ではない。遠くまで行って手に入れてくれたのだろう。

「この氷をかいて、かき氷を作ってやるからな」
「かきごおりですか?」
「ふわふわの雪のような氷にシロップをかけるのだ」

 氷を風の力でかまいたちを起こして雪のようにかいて、お皿の上に山盛りにすると、マオさんがそれにお手製の梅シロップをかけてくれる。
 かき氷をスプーンで掬って口に入れると、口の中が冷たくなって、しゃりしゃりとしてとても美味しい。

「つめたくておいしいです」
「リラの分も残しておかねばなるまいな」
「溶けないといいのですけれどね」

 かき氷に夢中になっていると、リラが小学校から帰ってくる。

「ただいまー! おにいちゃん、いきてるー?」
「いきてるよー! ねつはさがったよ」
「よかった!」

 小学校から帰って来たリラは、まず手を洗って、うがいをして、僕の正面に座った。レイリ様が風の力でかまいたちを起こして、かき氷を作る。

「なにこれ!? ゆきみたい!」
「冷たいおやつですよ。ラーイが熱を出しているので、セイラン兄上が氷をもらって来いと言って」
「わたしもたべていいのね!」
「もちろんです」

 梅シロップをかけてもらってリラもかき氷を食べる。しゃくしゃくといい音が居間に響いている。

「氷が残っておるな。溶かしてしまうのはもったいない」
「マオにも食べてもらいましょう」
「いいのですか!?」

 マオさんもかき氷を食べられることになって、僕とリラとマオさんは氷が溶けないうちにかき氷を堪能した。

 夏は終わっていたがまだ気温は高い日が続いていたので、かき氷はとても美味しかった。

 次の日には僕の熱も下がって小学校に行くことができた。
 迎えに来た母に、リラが目を輝かせて話している。

「レイリさまがわたしにかきごおりをつくってくれたの。こおりをかぜのちからでゆきみたいにして。うめシロップをかけてたべたんだけど、おいしかったわ」
「熱のときには食欲が落ちるから、冷たいものが食べやすいからね」
「マオおねえちゃんもたべたのよ」

 リラの言葉に母は少し考えているようだった。

「土地神様はわざわざ遠くの山まで氷を取りに行ったのだろうか」
「そうだとおもう」

 僕が答えると、母は苦笑しているようだ。

「私のところに来れば、氷でもアイスクリームでも、魔法で作ることができたのに」

 そうだった。
 母は魔法が使えるのだ。
 セイラン様とレイリ様は魔法に頼る感覚がないが、母に頼れば氷もアイスクリームも簡単に作ることができた。

「セイランさまとレイリさまは、とおくまでとんでいけるから、きがつかなかったのでしょうね」
「灯台下暗しとやらだね」

 次からはいつでも頼っていいという母に、僕は身を乗り出す。

「アイスクリームもたべられる?」
「ラーイはアイスクリームを食べたことがあるのかい?」
「えーっと……ほんでよんだよ」

 うそではない。
 アイスクリームの載っている本はあるし、僕が前世でアイスクリームを食べて夢中になったことを今世の母は知るはずがない。

「アイスクリームを今度作ってあげようね」
「アイスクリームってなぁに?」
「あまくておいしい、つめたいおかしだよ」

 よく分かっていないリラに説明すると、涎を垂らしている。
 今度は母の作ったアイスクリームを食べられそうな予感に、僕はワクワクしていた。
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