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転生したらまた魔女の男子だった件

39.魔女族の滅びの予兆

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 僕は母やアマンダ姉さんやアンナマリ姉さんやアナ姉さんに聞いてみたいことがあった。
 母の家に来てもらった姉たちと母を交えて話をする。
 テーブルには焼き菓子が並んで、ミルクティーがポットにたっぷりと入れられていた。
 リラはジアちゃんとラナちゃんと遊んでいる。アナ姉さんには赤ちゃんが生まれたようで、ベビーベッドに寝かせていた。

「おかあさんやねえさんたちは、こどものちちおやについてどうおもっているの?」

 僕の問いかけにアマンダ姉さんもアンナマリ姉さんもアナ姉さんもカップをソーサーに置いて考えていた。

「父親と子どもは別物よ」
「父親は子どもと関わりがないわ」
「子どもを作るためだけに関係を持つ感じね」

 魔女にとって男性とは子どもを作るための道具のようなもので、そんなに深いかかわりは持たない。姉たちの話を総合するとそうなってしまう。

「ちちおやといっしょにこそだてしようとおもわないの?」
「男のひとの子育ては信用ならないって聞いてるわ」
「魔女の森で魔女と協力して育てた方がいいのよ」
「私たちはそういう社会で育っているの」

 姉たちの説明に僕は考えてしまう。

 僕は将来セイラン様と結婚したい。
 けれど魔女の森には結婚の制度自体がないのではないだろうか。

「ぼくはセイランさまがだいすきで、けっこんしたいんだ。ずっといっしょにいたい。リラはレイリさまのことがすきで、けっこんしたいとおもっている」
「魔女だけどラーイとリラは結婚したいのね」
「ラーイとリラは特別だもの。土地神様との間だったら、結婚していいと思うわ」
「魔女の掟に捉われないでいいのよ」

 姉たちは言ってくれるが、僕にとっては魔女の掟自体が違和感を覚えるものだった。
 どうして結婚してはいけないのだろう。
 魔女の森で子どもを産まないと、死産になるのだと前世の母が言っていた。それは魔女の森に魔力が満ちていて、それがなければ魔女の出産は成立しないということだろうが、魔女の森に魔女以外、つまりは男性を入れることができないというのは不自然でもあった。

「まじょのもりには、どうしてまじょいがいはすめないの?」
「魔女の森に満ちている魔力は、常人には毒になってしまうのだよ」
「共に暮らしたい気持ちがないわけでもない。子どもを父親と会わせたい気持ちもある。でも無理なのよ」
「魔女の森に長くいると、常人は血を吐いて死んでしまうの」

 そうだったのか!
 魔女の森の魔力は僕やリラのような魔女の子どもには必要不可欠だったが、普通の人間にとっては毒となってしまう。
 魔女の森の魔力が毒とならないように研究すれば、ジアちゃんもラナちゃんもお父さんと暮らせるのではないか。

「おかあさん、まじょのもりのまりょくがどくにならないほうほうをかんがえて」
「そうだね。私もずっと女だけの魔女の森は不自然だと思っていた。男性が入れるようにこれからは考えていかないといけないのかもしれない」

 母は真剣にそのことを考えてくれた。

「男性に慣れていないから、碌でもない男の子どもを産んでしまうこともある。私みたいにね。そういうこともないように、魔女の森は魔女を中心として生活するけれど、子どもの父親は入れるようにしていけたらいいね」

 母がそう言ってくれるので僕は安心して、カップのミルクティーを飲んでフロランタンを齧った。フロランタンを食べていると、ベビーベッドでアナ姉さんの赤ちゃんが泣く。
 アナ姉さんは赤ちゃんを抱っこしてお乳を飲ませていた。
 お乳を飲ませる様子に興味津々でリラとジアちゃんとラナちゃんがアナ姉さんと赤ちゃんを覗き込んでいる。

「ちっちゃいね」
「お乳、いっしょうけんめい飲んでるわ」
「可愛い……」

 お乳を飲み終わったアナ姉さんの赤ちゃんは、アナ姉さんに教えてもらってジアちゃんとラナちゃんがオムツを替えさせてもらっていた。

「足を掴むと関節が外れちゃうかもしれないから、お尻の下に手を入れて持ち上げてあげて」
「分かったわ」
「新しいオムツですよ。きれいきれいしましょうねー」

 赤ちゃんの面倒を見ているジアちゃんとラナちゃんは本当に妹がほしかったのだと実感する。
 オムツを替えて手を洗ってからジアちゃんとラナちゃんも、リラと一緒にテーブルの方に来た。ミルクティーを飲んで焼き菓子を食べる。
 僕はぱりぱりとした食感のナッツをキャラメリゼしたフロランタンが大好きだったが、リラはバターの香りのするしっとりとしたフィナンシェが大好きだ。
 フィナンシェを取ってリラが齧って食べていると、母がリラと僕に焼き菓子を包んでくれる。

「マオだったっけ? ラーイとリラを育ててくれている女性。そのひとに渡しておくれ」
「マオさん、よろこぶよ。ありがとう、おかあさん」
「マオおねえちゃんにおみやげね」

 受け取った焼き菓子の包みを僕は虎のポーチに入れた。
 虎のポーチは凝った作りになっていて、口のところが大きく開くのだ。口から物を出し入れして、口の中を覗いて中に何が入っているのか見るのは、子ども心をくすぐる。

 母が作ってくれた虎のポーチだが遊び心もあって、僕はとても気に入っていた。

 ジアちゃんとラナちゃんは、猫のポーチを下げている。猫のポーチも口が開くようになっていて、母はジアちゃんとラナちゃんにもお土産を持たせていた。

「母さんはそろそろ次の赤ちゃんは考えていないの?」
「まだまだラーイとリラが小さいからね。二人が成人してから考えるよ」
「そうなのね。私とアマンダ姉さんは、次の赤ちゃんを考えているの」

 アマンダ姉さんとアンナマリ姉さんは一緒に暮らしている。同じ時期に赤ん坊を産んで一緒に育てているのだ。
 魔女の森は女性同士でパートナーのようになって、子どもを育てることが多いようだった。パートナーは姉妹や仲のいい親友で構成される。

 アマンダ姉さんとアンナマリ姉さんはお互いにパートナーになることを決めて子どもを産んだ。初めての子どもがジアちゃんとラナちゃんだ。ジアちゃんもラナちゃんもアマンダ姉さんもアンナマリ姉さんも、みんな母に似ているので、双子のように見える。

「まじょのこどもはちちおやのとくちょうはでないの?」

 僕は大陸からやって来た実父のことを思い出す。僕は黒髪に紫色の目だが、実父はどうだっただろう。目の色はよく見えなかったが、髪の色は薄茶色で僕とは違った。

「ラーイは目の色は父親に似たみたいね」
「え!? そうなの!?」

 あの父親に似たというのはショックだったが、男性の魔女は父親の特徴が出ることもあるという証拠のようなものだった。女性の魔女には母親の特徴しかでないから、アマンダ姉さんもアンナマリ姉さんもアナ姉さんも、その子どものジアちゃんとラナちゃんも、全員母にそっくりである。

「魔女の森は閉鎖された環境だからね。自分たちとそっくりの子どもしか産めない魔法がかかっているのかもしれない。それも調べていかないといけないね」

 自分たちとそっくりの子どもしか産めなくても困ったことはないのだけれどと、母は笑っているが、僕は真剣にそのことを捉えていた。
 もしも魔女の森の子どもたちが母親のコピーでしかないのならば、いつか綻びが出て来るのではないだろうか。
 それを埋めるために魔女の男性が生まれる。そうだとすれば、僕は災厄の子でもなんでもなくて、魔女の森が滅びかけていることを告げる予兆なのかもしれない。

「まじょのもりはほろびかけているんじゃないかな。こどもがおやのコピーでしかないなら、いつか、そのシステムにはほころびがでてくるよ」

 何度も何度も繰り返しコピーを続けた遺伝子がどうなるか、僕は本で読んだことがある。太古の魔法使いが自分を生きながらえさせるために、自分の身体をコピーしては次の身体に乗り移り、魂を入れ替えて生き延びていた物語があったのだ。
 その物語ではコピーを続けていくうちに、遺伝子というひとの身体を形作る設計図のようなものに少しずつ歪みが出てしまって、最終的には大魔法使いは崩れるコピーの身体に魂を移さなくてはいけなくて、滅びてしまっていた。

 その本の内容を魔法の本に映し出して母に見せると、母は難しい顔をして読んでいる。

「遺伝子とか、そんな難しい本を読めたんだね」
「そ、それは……」

 僕が前世の記憶があることを母は勘付いているだろうが、正式には内緒にしていた。
 僕が言葉に詰まると、母は笑って「分かってるよ」と言ってくれた。

「この話を魔女族の全員に周知していこう。魔女族がこの状態に陥っていないか、再度検証が必要だ」

 母は僕の言ったことを馬鹿にせずに受け止めてくれた。
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