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転生したらまた魔女の男子だった件

36.予測のつかない未来

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 セイラン様とお揃いの襟高に袷が斜めになって両脇に深いスリットの入ったシャツと簡素なズボンが届いた。寝間着はセイラン様とお揃いで長めのシャツとズボンだ。
 セイラン様とお揃いの服を着ていると、それだけで心が浮かれて来る。

 リラは髪飾りを作ってもらって嬉しそうに髪につけている。三つ編みにしたリラの髪には薔薇の花の髪飾りがついている。

 小学校に行くときでも僕は全然寂しくなかった。
 今日一日はセイラン様はあの服を着ている。僕のことを服を見るたびに思いだすだろうし、僕もセイラン様のことを服を見るたびに思いだす。

 小学校に行くと、ナンシーちゃんという女の子が他の女の子と話をしていたが、僕とリラが来ると話しかけて来る。ナンシーちゃんは学年で一番生まれが早い女の子で、もう八歳になっている。僕たちよりも正しく二歳年上の女の子だ。

「おかあさんって、ときどきすごくこわくない? ラーイくんとリラちゃんはそんなことかんがえたことはない?」

 母が怖いかと言えばそんなことはない。
 前世の母と殴り合いの長の座を取り合う決戦をしていたときには怖くて泣いて漏らしてしまったが、そうでなければちょっと意地悪なときはあるけれど、ふざけているだけで母は優しい。

「ぼくはおかあさん、こわくないよ」
「わたしも、おかあさん、こわくない。このかみかざり、おかあさんがつくってくれたの」

 髪飾りを見せるリラに女の子たちがざわめく。

「とってもかわいい!」
「まじょのおささまのところで、こんなかみかざりをつくっているのね」
「わたしもおかあさんにおねがいして、ちゅうもんしてもらおう」

 注目の的になってリラは誇らし気に髪の毛を揺らしている。
 リラの話を聞いてナンシーちゃんは首を傾げていた。

「ラーイくんとリラちゃんはとちがみさまにそだてられているのよね。もしかして、おかあさんよりもとちがみさまがこわい?」

 ナンシーちゃんの言葉に僕とリラは顔を見合わせてしまう。
 僕もリラもセイラン様とレイリ様に強く怒られたことはないし、セイラン様とレイリ様はいつもとても優しい。怖い印象など少しもなかった。

「とちがみさまはぜんぜんこわくないよ」
「とってもやさしいの。はるやすみには、つくしをつみにいったわ。タラのめもつんで、かいせんどんをたべさせてもらったの」

 セイラン様とレイリ様が怖いどころか優しいことを伝えると、ナンシーちゃんは難しい顔をしていた。

「わたしだって、おかあさんのことがきらいなわけじゃないのよ。でも、べんきょうしなさいとか、はやくしたくしなさいとか、おこることがあるから、こわいこともあるでしょう?」
「わたし、おこられたことない!」
「ぼくもおこられたことはないかな」

 リラと僕が答えると、ナンシーちゃんがため息を吐く。

「よのなかには、おこらないおやもいるのね。わたしがゆっくりしてるから、おかあさんをおこらせちゃうんだけど」

 ナンシーちゃんは性格的におっとりとしていて、動作もゆっくりしている方だ。体育で着替えなければいけないときなど、最後まで教室に残っているのを僕は見たことがある。

「ナンシーちゃんはゆっくりしてるけど、わたしやおにいちゃんにとてもやさしいわ。ナンシーちゃんにはナンシーちゃんのよさがあるとおもうの」
「リラちゃん、ありがとう」
「わたしがぬがないとおてあらいにいけなかったときには、いちばんにきてくれてかべになってくれたもの」

 五歳でも下半身裸を見せるのは恥ずかしいだろうと、ナンシーちゃんや数人の女の子がリラを取り囲んで隠してくれたことが何度もある。リラは脱がずにお手洗いに行けるようになるまで、ナンシーちゃんのお世話になっていた。

 授業が終わって社に送ってもらう途中で、リラが母に言っていた。

「わたし、ナンシーちゃんっていうおともだちがいるの」
「ナーダの娘だね。初めての娘で、ナーダは子育てが分からないって、よく相談しに来ているよ」
「やさしくて、いいこなの。わたしがズボンもパンツもぬがないとおてあらいにいけなかったときに、かべになってかくしてくれたの」
「それは助かったね。お礼をしなきゃいけない」
「ナンシーちゃんに、わたしとおそろいのかみかざりをあげたいわ。おかあさん、つくってくれる?」

 上目遣いでおねだりするリラに、母が微笑んで請け負う。

「いいよ、色は何色がいい?」
「わたしがあかむらさきだから、ナンシーちゃんはみずいろがいいんじゃないかな。ナンシーちゃんのおめめはあおだもの」

 母は水色の髪飾りを作ってくれると約束して僕とリラを社に送ってくれた。
 社に帰るとセイラン様が僕とお揃いの襟高のシャツとズボンを着ている。セイラン様の足に飛び付くと、脇の下に手を入れられて抱き上げられる。

「お帰り、ラーイ。学校は楽しかったか?」
「はい、とても」
「レイリさま、わたしもだっこして」
「いいですよ、リラ。お帰りなさい」

 セイラン様に抱き締められて僕は安心してぎゅっと抱き付く。リラもレイリ様にしっかりと抱き付いていた。

「セイランさまはぼくができないことがあっても、おこりませんよね」
「怒ってもどうにもならないからな」
「どういうことですか?」
「ラーイはまだ小さい。大きくなればできることを怒って無理やりに小さい頃にさせることはない。自然とできるようになるのだからな」

 それだけ大らかな気持ちを持っているから僕もリラもセイラン様とレイリ様に優しく育てられて、リラは自己主張の強い子になってしまったが、それもレイリ様は受け入れてくれている。

「宿題はいいのですか? ご飯の前に終わらせないと眠くなりますよ」
「そうでした。リラ、やろう!」
「おにいちゃん、おしえてね!」

 入学当初は相当勉強が遅れていたリラも、冬休みの間にラナちゃんとジアちゃんに教えてもらってかなり伸びて、二年生になってからは少しの遅れくらいで何とかなっている。
 成績はクラスの真ん中くらいだろうか。

 僕は成績はクラスで一番いいのだが、それは前世の記憶があるから当然だ。十歳の子どもが七歳や八歳で勉強することをやっているのだ。何よりも、僕は前世で母に頭がとてもいいと言われていた。

 母は僕を学校に通わせてやりたいとずっと言っていた。
 それが今世では叶っているし、幸せなのだが、七歳や八歳の子が勉強する内容はちょっと退屈でもある。

 それでも、僕はいつかを思って勉強を怠らなかった。

 いつか僕は前世で生きていた十歳を超える。
 セイラン様に言われるまでピンと来ていなかったが、僕はこのまま生きていけば軽く十歳を超えて生きていくだろう。
 魔女という種族なので、人間よりもずっと長い年月を生きる。
 僕が生きて来た十年という年月は、これから生きる年月に比べれば一瞬のようなものだ。

「セイランさま、ぼくはじゅういっさいになるのが、すこしこわいのです」

 宿題を終えてご飯を食べてお風呂に入って、セイラン様と二人きりになって、僕はセイラン様に打ち明けていた。
 セイラン様は静かに僕の言葉を聞いてくださる。

「じゅっさいまではきおくがあります。でも、それをこえたら、ぼくはどうやっていきていけばいいのかわからないのです」
「それは皆同じだ。私とて、来年の今頃は何をしているか全く分からぬ。未来というものは全く予測がつかぬものなのだ」

 セイラン様に言われて、セイラン様もそうなのかと僕は納得する。
 セイラン様も未来は予測がつかないままで、生きている。

「前世を忘れるほどに楽しい人生になるとよいな」

 十一歳、十二歳、十三歳と予測のつかない未来が、よりよいものであるようにセイラン様は願ってくれている。

 僕もセイラン様と生きる未来がいいものであるように願わずにいられなかった。
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