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転生したらまた魔女の男子だった件

35.僕とリラの欲しいもの

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 春休みが終わって僕とリラは二年生になった。
 元々僕とリラは六歳になった春に小学校に入学するはずが、五歳の秋に入学している。一年生の時点で他の子どもたちよりも二年早く入学した形になっていた。

 担任の先生はヘルミーナ先生で変わりはない。
 新学期の最初には身体測定があった。

 僕はクラスで一番小さかった。ほとんど大きさは変わらないが、次に小さいのがリラだ。それからかなり差があって、他の子たちが並ぶ。
 体育のときも僕とリラは二列になって並ぶ先頭だった。
 教室の机も一番前でないと黒板がよく見えない。

 リラは少し勉強が遅れているところもあったので、ヘルミーナ先生の目が届く一番前の席でよかったと思うのだが、僕は勉強は進んでいる方なので、ちょっと窮屈な気はする。

 小学校の給食で零して汚すことも少なくなったけれど、トマトソースやシチューは要注意だった。
 小学校の給食は僕が社で食べているものとかなり違っていたが、母が作るものとは似ていて、何とか好き嫌いなく食べることができた。リラも食いしん坊なので、給食をお代わりして食べている。
 小さな体でもりもりと食べて、午後は眠そうにしているリラは、クラスの中でも特に可愛がられていた。

「リラちゃん、ねちゃだめよ」
「がんばって、おきてて」
「だいじなまほうがくのじゅぎょうよ」

 応援されてリラは必死に目を開けているが、頭がぐらぐらしている。僕も給食の後の午後の授業は眠くなってしまっていた。
 まだお昼寝が必要な年齢で小学校に入学したのだから仕方がない。机の下で自分の太腿をつねって、僕は必死に目を見開いていた。
 がくんっとリラの頭が机の上に落ちる。机に額をぶつけたリラは涙目で額を押さえて顔を上げている。

「ラーイくんとリラちゃんは昼休みにお昼寝をしましょうか」

 ヘルミーナ先生が二年生の面談で母に申し出てくれた。

「誕生日が来ても六歳だから、お昼寝なしは厳しいだろうね」
「お昼に二十分だけでも眠ったら全く違うと思うのです。お布団の用意をお願いできますか?」
「用意して持っていくよ」

 ヘルミーナ先生に頼まれて、母は僕とリラの分の小さなお布団と掛布団を作ってくれた。
 教室の前にお布団を敷いて、僕とリラは昼休みの間、二十分だけ眠るようになった。二十分でもヘルミーナ先生の言った通り全く違っていて、寝たらすっきりと午後の授業を受けられるようになった。

「もっと早くに提案しておけばよかったですね」

 入学したすぐはそういうことにも気付かなかったとヘルミーナ先生は反省していたが、僕とリラは秋の中途半端な時期に入学してきたので準備ができていなくても仕方がなかったし、二年も早く入学することを小学校が許して受け入れてくれただけでもあり難い。

「ヘルミーナせんせい、きにしないでください」
「ヘルミーナせんせいがわたしたちのためにかんがえてくれて、とってもうれしいのよ」

 僕もリラもヘルミーナ先生にお礼を言いたい気分だった。

 春は飛ぶように過ぎていく。
 初夏には僕とリラの六歳のお誕生日がやってきた。
 この土地では、七歳までは神の子という言い伝えがある。七歳までの子どもは死にやすく、死んでしまったとしても神の子だから神様にお返ししたのだと諦めるのだという。

 僕もリラもまだ七歳になっていなかったが、七歳になる前の最後の年を迎えられたことになる。

 小学校では母が色々と調べて、手続きをしてくれたようだ。
 毎週のように僕とリラは予防注射を受けさせられていた。

 他の子はもっと小さな時期に予防注射を受けるのだが、僕とリラはそこまでできていなかった。母も僕とリラが小学校に行き始めて、初めて予防注射を受けていないことに気付いたようだ。

 保健室に呼ばれてリラと手を繋いで、予防注射に耐えるのはつらかったけれど、病気にならないためならば仕方がない。大人になってから流行病にかかると死んでしまうこともあるので、小さなうちに予防注射で免疫をつけておくのだ。

「レイリさま、わたし、がっこうにいきたくない……」
「クラスで嫌なことがありましたか?」
「ちがうの」
「授業が分からなくて大変ですか?」
「ちがうわ」
「それならどうして?」

 突然憂鬱そうに言い出したリラに戸惑うレイリ様。リラは真剣な顔をして答えた。

「ちゅうしゃ、もういやなのよ!」

 レイリ様の膝に取り縋って泣いているリラの気持ちは、僕にもよく分かった。しなければいけないと分かっていても、注射が怖いという気持ちはどうしても消せなかった。
 涙目でぷるぷると震えていると、セイラン様が僕を抱き寄せてくれる。

「ラーイも注射が嫌か?」
「いやです……。しなければいけないのはわかっています」
「ラーイはいい子だな。泣いてもいいのだぞ」
「セイランさま……」

 優しいセイラン様の言葉に、僕はセイラン様の胸に顔を埋めて泣いた。

 お誕生日には母がサクランボのパイを持って来てくれた。
 お誕生日は一年に一度、サクランボのパイを食べられる日になっていた。

「ぼくがすきだからサクランボのパイをたべてるけど、リラはすきなケーキはないの?」
「わたしもサクランボのパイ、だいすきよ」
「ぼくのすきなものでいいの?」
「わたしがすきなの」

 前世の記憶はないが、リラもサクランボのパイが大好きなようだ。僕ばかり我が儘を言っているのではないかという恐れは消え去った。
 サクサクのパイ生地に瑞々しいサクランボがたくさん乗せられたサクランボのパイを、僕は頬張る。もりもりと食べていると、リラも美味しそうに食べている。

「ミルクティーがいる子は誰だい?」
「はい! ほしい!」
「わたしも!」

 ミルクティーも母の家に行くまで飲んだことがなかったが、今ではすっかりと慣れてしまっている。紅茶と牛乳を半々くらいにしたミルクティーを母は僕とリラのために作ってくれる。
 パイ生地で乾いた喉をミルクティーで潤して、僕は口の中のものを飲み込む。

「おかあさん、わたし、おたんじょうびプレゼントがほしいの」
「何が欲しいのかな?」
「かみかざり! きれいなおはなのかみかざりがほしいのよ」

 食べ終わったリラが母におねだりをしている。母は笑ってポーチから紙を取り出して絵を描いている。

「薔薇の花にする? それとも、椿? 向日葵も、チューリップも可愛いよ」
「バラがいいわ」
「ヘアピンも作ろうか?」
「うれしい!」

 リラの髪は解くと背中まである。その髪を毎日マオさんに編んでもらって、前髪も編んで邪魔にならないように横に流している。
 髪の毛を可愛くするのはリラにとっては今流行っていることのようだ。

「ラーイは欲しいものはないのかな?」

 母に聞かれて、僕は考えてしまった。
 服は母が心を込めて作ってくれているし、靴はセイラン様とレイリ様がサイズが合わなくなったら買い替えてくれる。虎のポーチには大量に物が入るし、魔法の本があるので本は特にいらない。

「ぼくはほしいものはないかな」
「ラーイは欲がないね」

 母に言われるが、本当に欲しいものがないのだからどうしようもない。
 強いて言えばないわけではないのだが、それには先にセイラン様に聞いてみないといけない。

「セイランさま、ぼくとおそろいのねまきをきてくれますか?」
「寝間着でいいのか? 普段着でもいいのだぞ?」
「いいのですか!?」

 セイラン様は普段から着流ししか着ないので、それ以外のものは着ないのだと思っていた。普段着でセイラン様とお揃いにできないので、寝間着をお揃いにしようと考えたのだが、セイラン様は普段着でもいいと言ってくれている。

「セイランさまとおそろいのふくがほしい!」
「寝間着も普段着も、どっちも作ろうか?」
「いいの、おかあさん?」
「それくらい簡単なものさ」

 引き受けてくれた母に僕は心からお礼を言う。

「おかあさん、ありがとう」
「わたしも、ありがとう」

 リラも僕の横に来て母に頭を下げていた。
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