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転生したらまた魔女の男子だった件

25.魔女の森に行った僕とリラ

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 僕とリラは、魔女の森に来ている。
 魔女族の長が母になったので、僕が魔女から命を狙われるようなことはなくなり、平和になった。母は僕とリラに自分の工房を見せたいと言ってくれた。

 セイラン様とレイリ様と離れるのは初めてだったが、いつも社に来てくれる母が一緒だし、リラも一緒だ。姉たちも母の工房に来てくれている。

「お手洗いに行きたくなったらすぐに教えてね」
「小さくて可愛いですね。男の子の面倒は見たことがないですが、ラーイは賢いので大丈夫でしょう」
「私たちのこと頼っていいからね」

 姉たちも僕とリラに親切にしてくれる。
 アマンダ姉さんも、アンナマリ姉さんも、アナ姉さんも、波打つ黒髪に金色の目で母にそっくりだった。リラも波打つ黒髪の癖毛に金色の目で、将来は母にそっくりになりそうだ。
 僕だけが真っすぐの黒髪に紫色の目で、姉やリラと似ていない。

「おかあさん、ねえさんとリラはおかあさんににてるのに、ぼくだけにてないのは、なぜ?」

 問いかけてみると母は考えている。

「魔女の子どもはみんな母親にそっくりに生まれてくるのよ。でも、それは女の子の話で、男の子は違うのかもしれないわ」
「どうして、ははおやにそっくりなの?」
「魔女族は他の種族と子どもを作っても、血が混じらないと言われているの。魔女族だけの血を引く子どもを産めるのだと」

 そうなると魔女族には女性の子どもしか原則的に生まれないのは意味が分かる。僕は例外なのだ。

「ぼくはまじょぞくじゃないのかな?」
「魔力もあるし、魔法も使えるから、魔女族であることは間違いないと思うけど」

 母の言葉に僕は考える。
 魔女族が長年の間男性の子どもをこれだけ恐れて殺してきたのには、やはり意味があるのではないか。女性しか生まれないはずの魔女族の中で、異変が起きている兆候なのではないだろうか。

「まじょのおとこのこは、ほろびのしょうちょうじゃなくて、いへんのちょうこう?」
「難しい言葉を知っているのね。魔女族に変化が訪れるのならば、それは受け入れていくべきだと私は思う。魔女族が変わることに、ラーイの存在は関係ないわ。そのときが来たというだけよ」

 魔女族の長である母がそう思ってくれるのならば、僕は安心することができた。
 僕と母が話している間に、リラは姉たちに話しかけていた。

「わたしのおねえちゃんなの?」
「そうよ。私はアマンダ」
「私はアンナマリです」
「私はアナよ」
「さんにんもおねえちゃんがいたの!?」

 驚いているリラは姉たちが自分の姉だと気付いていなかったようだ。まだ小さかったから仕方がない。

「わたしのおねえちゃんってことは、おにいちゃんのおねえちゃん?」
「そうよ、ラーイのお姉ちゃんでもあるわ」
「リラとラーイ、二人の姉ですよ」
「アマンダ姉さんとアンナマリ姉さんは、私の姉でもあるけれどね」
「え!? さんにん、いっしょじゃないの!?」
「私が一番上の姉よ」
「私が二番目で、アマンダ姉さんの妹で、アナの姉です」
「私が三番目で、アマンダ姉さんとアンナマリ姉さんの妹で、ラーイとリラの姉よ」

 情報が多くなりすぎて来ていて、リラが目を回しているのが分かる。三人の姉たちはみんなよく似ているし、年齢も同じくらいに見える。
 母がどのくらいの期間を置いて子どもを産んでいたのか知らないけれど、魔女はある程度の年齢に育つと老化を止めるので、三人の姉は若々しい美女で、母も同じくらいの年齢に見えて、見分けがつかなくなりそうだ。

「わたしも、おねえちゃんやおかあさんみたいになれる?」
「リラは私たちに似ているから、そっくりに育つと思うわ」
「すぐに大きくなれますよ」
「魔女は成人するまでは人間と同じ速度で年を取るからね」

 姉たちに教えてもらってリラは満足そうに僕のそばに戻って来た。僕の耳に口を近付けて、囁く。

「わたし、おっぱい、おおきくなるよ!」

 声が大きい。
 これでは筒抜けだ。
 そのことをリラは気にしていたのか。
 リラの言葉に姉たちも母も笑っていた。

 お昼ご飯には母がピザパンを作ってくれた。
 トマトソースを塗ったパンの上に、ベーコンと、茹で卵を輪切りにしたものと、玉ねぎとピーマンを散らして、チーズをたっぷり乗せて焼くのだ。
 初めてのピザパンに僕もリラも厨房から漂ういい匂いに涎を垂らしていた。

 ピザパンに齧り付くと熱さで涙が出そうになる。
 リラはこういうときは慎重なので吹き冷ましているが、僕はそのままかぶり付いてしまった。
 口から出すこともできず顔を真っ赤にして悶絶していると、アマンダ姉さんが冷たい牛乳をくれる。冷たい牛乳で口の中を冷やして、僕はどうにかピザパンを飲み込んだ。

 僕はどうも食いしん坊のようで、熱いものにも突撃してしまう。リラは慎重派で熱いものには警戒して何度も吹き冷ましてから食べている。
 食べ終わるとお手洗いに連れて行ってもらって、着替えたが、別の場所に来ている興奮があったので眠気は来なかった。

 母が丁寧な手つきで僕とリラの身体を採寸する。

「すぐにおおきくなっちゃうから、もったいないよ」
「これも成長の証だと思って、作らせておくれ」
「おかあさん、ものすごくかわいいの、つくってね」
「リラは何色が好きなんだい?」
「あかと、あかむらさきと、みずいろ!」

 元気に答えるリラに母が裁縫箱の一番下の引き出しを開ける。魔法のかかっている裁縫箱からは、色とりどりの布が出て来た。

「この赤紫布に紫の刺繍を入れてあげようか?」
「すてき! きれいないろね」
「ラーイは何色が好きなんだい?」
「あおと、むらさきと、あおむらさき」
「それなら、この青紫の布に青の刺繍を入れてあげようね」

 新しい布を見せられるとそれだけで心が躍る気がする。
 それだけでなく、母は裁縫箱の上の引き出しから布で作られた飾りボタンを取り出して来た。花の形をしているものや、くるくると巻いているものがある。

「袷を斜めにして、ここにこのボタンを置いて、二人お揃いのシャツを作ろう」

 母は魔女族の長でもあるが仕立て屋の魔女でもあった。
 僕とリラのシャツのデザインが決まるのを、僕とリラは目を輝かせて聞いていた。

 まだお泊りはできないので、夕方には僕とリラは母に送られて社に帰った。
 社に帰るとセイラン様とレイリ様が待っていてくれる。
 走って行ってセイラン様に飛び付くと、抱き上げてくれた。

「魔女の森は楽しかったか、ラーイ?」
「はい、とても。ねえさんたちともなかよくなりました」
「それはよかったな」

 目を細めて微笑むセイラン様。
 リラはレイリ様に抱き上げられている。

「寂しくはなかったですか?」
「へいきよ。わたし、つよいんだから!」
「僕はリラがいなくて寂しかったですよ」
「レイリさまにはあいたかったけど」

 ぎゅっと抱き付いている僕とリラに、セイラン様もレイリ様も暖かく微笑んでいた。

 その夜はお昼寝をしなかったので、僕とリラは晩ご飯の途中で眠ってしまいそうになった。
 セイラン様とレイリ様が急いで僕とリラをお風呂に入れて、歯を磨く。歯を磨かれながらも僕は眠くてたまらない。
 うとうとしていると、歯磨きが終わった僕をセイラン様が抱き上げてベッドに連れて行ってくれた。
 ベッドに行ったが、不思議とお乳が欲しいとは思わなかった。

 魔女の森には魔力が満ち満ちていて、それで僕は今日の分の魔力を十分補給できたのだ。
 胸を探らない僕にセイラン様は驚いていたようだった。
 僕はセイラン様のお腹の上に乗って、すやすやと眠った。リラもレイリ様のお腹の上に乗って眠っているだろう。

 魔女の森で過ごす半日は楽しかったが、眠るのはセイラン様と一緒ではないと落ち着かない僕だった。
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