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転生したらまた魔女の男子だった件

23.白虎族の村に行く

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 セイラン様とレイリ様と白虎族の村に行くことになった。
 お出かけをする僕とリラのためにマオさんがお着換えセットを作ってくれた。
 パンツとズボンとシャツと下着を一つに纏めたセットを三つ。

「出かけた先でお漏らしをしてしまうかもしれませんし、食べ物や飲み物を零すかもしれませんからね」
「ありがとう、マオさん」
「マオおねえちゃん、ありがとう!」

 受け取った僕とリラは着替えセットをどうしようか悩んでしまった。持って行かなければいけないのだが、かさばって僕とリラで持っていくのは難しい。
 セイラン様とレイリ様に預けるのは申し訳ない気がする。

 出かける前にそのことを来ていた母に相談してみる。母は土地神二人が出かけるので土地のことを任されて留守番を頼まれたのだ。

「きがえをいれるものがほしいんだ」
「わたしも」

 僕とリラで頼むと、母は素早くポーチを縫ってくれた。こういうときはさすが仕立て屋の魔女だと思う。手縫いで細かな縫い目のポーチをあっという間に作ってしまう。肩から掛けるポーチは、虎の形をしていて、魔法がかかっていて、中が拡張されているようだ。

「これだけで倉庫一つ分は入るから、気にしないで入れるといいよ。入れたもののときが止まるから食材は傷むことがない。仕切りがあるから入れる場所も分けられる」
「ママ、ありがとう」
「ママじゃないけど、ありがとう!」

 虎のポーチに着替えを入れると、重さを感じない。これも魔法がかかっていた。
 あり難く母の作ったポーチを下げて、僕は白虎の姿のセイラン様の背中に乗って、リラは白虎の姿のレイリ様の背中に乗って白虎の村まで飛んだ。

 空の中を飛んでいき、雲海を下に見る山の頂に白虎の村はあった。
 村につくとセイラン様とレイリ様の周囲に子どもの白虎が集まってくる。

「セイランあにうえー!」
「レイリあにうえ!」
「おかえりなさいませー!」

 寄ってきた子どもの白虎にセイラン様とレイリ様がすりすりと体を擦り合わせている。

「白虎族は全員が兄弟のようにして育つのだ」
「幼い頃は人間の姿にはなれないのですよ。僕たちも白虎の姿で育ちました」

 セイラン様とレイリ様が教えてくれた。
 白虎族は血の繋がりに関係なく、群れ全体が家族として過ごし、年上の子どもを兄や姉、年下の子どもを弟や妹と思って育つのだという。小さい頃は人間の姿にはなれないので、白虎の姿のままで育つようだ。

 話を聞きながら僕は胸がちくちくした。
 セイラン様にこんな風に近付いてくる子どもが僕以外にいるのが気に食わなかったのだ。

 心が狭いと反省しつつセイラン様の背中に乗って村の中を進んでいくと、村の中央に大きな木が生えている。その木に一気に登って行くセイラン様とレイリ様。
 木の上にはセイラン様とレイリ様よりも巨大な白虎の姿があった。

「お久しぶりです、父上、母上。セイラン、戻って参りました」
「レイリ、父上と母上に紹介したい子がおります」

 巨大な白虎の隣りには、一回り小さい白虎が寄り添っていた。

「よく帰って来た。土地は治められているか?」
「背中に可愛い子を乗せていますね。紹介してもらいましょう」

 二匹の白虎がセイラン様とレイリ様と僕とリラを見て言う。僕は緊張してセイラン様の背中にしがみ付いていた。

「土地は無事に治められています。最近隣接する魔女族の長の代替わりも見届けました」
「魔女族の長は代替わりしたのか。よい導き手になりそうか?」
「彼女ならば大丈夫だと思います」

 セイラン様がお父上と話をしている。
 レイリ様はリラを背中から降ろして太い枝の上に立たせて、僕にもセイラン様の背中から降りるように視線で促す。
 木から落ちてしまわないように気を付けながら、僕はセイラン様の背中から降りた。

「男の子がラーイ、女の子がリラ、どちらも魔女族の長の子どもです。僕たちが預かって育てています」
「魔女族では男の子は災厄の子だと言われて、魔女族を滅ぼすといういわれのない嫌疑をかけられていました。それをこの子たちの母親が晴らして、魔女族の長になったのです」
「本来は二人は魔女族に返すべきなのでしょうが、僕たちも情がわいてしまって」
「この子たちが可愛くて堪らないのです」

 こんな風に紹介されると僕は照れてしまう。セイラン様のお父上とお母上なのだから、いいところを見せたい。
 両足を踏ん張ってお腹から声を出す。

「ラーイです。よんさいです。セイランさまとレイリさまといっしょにくらしています」
「リラよ。よっつなの。レイリさまのおとうさんとおかあさんってことは、わたしのおじいちゃんとおばあちゃん?」

 リラはレイリ様を「ママ」と決めている。僕は畏れ多くて白虎族の高い地位にありそうなセイラン様とレイリ様のお父上とお母上を「おじいちゃん」と「おばあちゃん」と呼べないが、リラは四歳なのでその点は全く気にしていなかった。

「セイランとレイリが育てておるのならば、そなたたちの祖父と祖母になるのかの」
「孫の顔がこんなに早く見られるなんて思いませんでした」

 くすくすと笑ってリラの言動を許しているセイラン様とレイリ様のお父上とお母上に、僕は勇気をもって言ってみた。

「おおきくなったら、セイランさまとけっこんしたいんです」
「わたしはレイリさまとけっこんするのよ」

 四歳の子どもの宣言だが、セイラン様とレイリ様のお父上とお母上は笑わなかった。

「それほどにセイランとレイリのことを思ってくれるのか」
「セイランに婿、レイリに嫁が来るなんて嬉しいことですね」

 にこにこと笑って受け入れてくれるセイラン様とレイリ様のお父上とお母上に僕はほっとする。リラは誇らし気な顔で木の枝に立っていた。

「本当に結婚するかは分からないですよ。まだ子どもの言うことですから」
「いや、この子たちはいい目をしている。特に男の子。ラーイと言ったか? 魂の色が少し特殊だな」

 セイラン様とレイリ様のお父上には僕のことが見抜かれていた。僕が前世の記憶を持っていて、生まれ変わったことが見ただけで分かるのだろう。

「ぼくはじじょうがあって……。でも、いもうとのリラはふつうのこです。リラのためにも、ぼくのことはいわないでください」

 僕の事情を明かしてしまったがためにリラの記憶が戻るようなことがあってはいけない。リラには今世の人生を満喫してほしかった。
 僕の気持ちが届いたのか、セイラン様とレイリ様のお父上はそれ以上僕の事情について追及してこなかった。

「父上、先見の魔女から予言されたのです。私たちがラーイとリラの子どもを孕むと」
「白虎族の雄が孕むことがあるのですか?」

 本題を口にしたセイラン様とレイリ様に、セイラン様とレイリ様のお父上は難しい顔をしている。

「セイランとレイリは雄ではないか」

 セイラン様とレイリ様のお父上は白虎族の雄が孕めるかを知らなかったようだ。そこに口を開いたのはセイラン様とレイリ様のお母上だった。

「いや、雄でも神族なので赤子を孕める可能性があります」
「本当か!?」
「数は少ないですが、雄同士で結婚した白虎が子を産んだ記録があります」

 セイラン様とレイリ様のお父上は知らなかったようだが、お母上は白虎族の記録を知っていた。

「ありうる話なのですか……」
「リラとのことは恐らく間違いだと思いますが、セイラン兄上はラーイと……」
「そうなる未来があり得ない話ではないということか」

 ショックを受けているセイラン様に、僕は目を潤ませてセイラン様を見上げる。

「ぼくのこと、きらいですか?」
「ラーイを嫌うことなど絶対にない。ラーイは私の可愛い息子だ」

 そうでなければ乳などあげていない。

 セイラン様の言葉に、セイラン様とレイリ様のお父上とお母上の表情が変わる。

「セイラン、レイリ、乳が出るのか?」
「魔女族の子どもを育てているのですからね。そういう不思議なこともあるでしょう」
「乳が出るのならば、子を孕んでもおかしくはないな」

 ぽろりとセイラン様が言ってしまったことで、セイラン様とレイリ様のお父上とお母上は納得していた。セイラン様は片手で顔を覆って恥ずかしがっていた。
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