上 下
23 / 180
転生したらまた魔女の男子だった件

23.白虎族の村に行く

しおりを挟む
 セイラン様とレイリ様と白虎族の村に行くことになった。
 お出かけをする僕とリラのためにマオさんがお着換えセットを作ってくれた。
 パンツとズボンとシャツと下着を一つに纏めたセットを三つ。

「出かけた先でお漏らしをしてしまうかもしれませんし、食べ物や飲み物を零すかもしれませんからね」
「ありがとう、マオさん」
「マオおねえちゃん、ありがとう!」

 受け取った僕とリラは着替えセットをどうしようか悩んでしまった。持って行かなければいけないのだが、かさばって僕とリラで持っていくのは難しい。
 セイラン様とレイリ様に預けるのは申し訳ない気がする。

 出かける前にそのことを来ていた母に相談してみる。母は土地神二人が出かけるので土地のことを任されて留守番を頼まれたのだ。

「きがえをいれるものがほしいんだ」
「わたしも」

 僕とリラで頼むと、母は素早くポーチを縫ってくれた。こういうときはさすが仕立て屋の魔女だと思う。手縫いで細かな縫い目のポーチをあっという間に作ってしまう。肩から掛けるポーチは、虎の形をしていて、魔法がかかっていて、中が拡張されているようだ。

「これだけで倉庫一つ分は入るから、気にしないで入れるといいよ。入れたもののときが止まるから食材は傷むことがない。仕切りがあるから入れる場所も分けられる」
「ママ、ありがとう」
「ママじゃないけど、ありがとう!」

 虎のポーチに着替えを入れると、重さを感じない。これも魔法がかかっていた。
 あり難く母の作ったポーチを下げて、僕は白虎の姿のセイラン様の背中に乗って、リラは白虎の姿のレイリ様の背中に乗って白虎の村まで飛んだ。

 空の中を飛んでいき、雲海を下に見る山の頂に白虎の村はあった。
 村につくとセイラン様とレイリ様の周囲に子どもの白虎が集まってくる。

「セイランあにうえー!」
「レイリあにうえ!」
「おかえりなさいませー!」

 寄ってきた子どもの白虎にセイラン様とレイリ様がすりすりと体を擦り合わせている。

「白虎族は全員が兄弟のようにして育つのだ」
「幼い頃は人間の姿にはなれないのですよ。僕たちも白虎の姿で育ちました」

 セイラン様とレイリ様が教えてくれた。
 白虎族は血の繋がりに関係なく、群れ全体が家族として過ごし、年上の子どもを兄や姉、年下の子どもを弟や妹と思って育つのだという。小さい頃は人間の姿にはなれないので、白虎の姿のままで育つようだ。

 話を聞きながら僕は胸がちくちくした。
 セイラン様にこんな風に近付いてくる子どもが僕以外にいるのが気に食わなかったのだ。

 心が狭いと反省しつつセイラン様の背中に乗って村の中を進んでいくと、村の中央に大きな木が生えている。その木に一気に登って行くセイラン様とレイリ様。
 木の上にはセイラン様とレイリ様よりも巨大な白虎の姿があった。

「お久しぶりです、父上、母上。セイラン、戻って参りました」
「レイリ、父上と母上に紹介したい子がおります」

 巨大な白虎の隣りには、一回り小さい白虎が寄り添っていた。

「よく帰って来た。土地は治められているか?」
「背中に可愛い子を乗せていますね。紹介してもらいましょう」

 二匹の白虎がセイラン様とレイリ様と僕とリラを見て言う。僕は緊張してセイラン様の背中にしがみ付いていた。

「土地は無事に治められています。最近隣接する魔女族の長の代替わりも見届けました」
「魔女族の長は代替わりしたのか。よい導き手になりそうか?」
「彼女ならば大丈夫だと思います」

 セイラン様がお父上と話をしている。
 レイリ様はリラを背中から降ろして太い枝の上に立たせて、僕にもセイラン様の背中から降りるように視線で促す。
 木から落ちてしまわないように気を付けながら、僕はセイラン様の背中から降りた。

「男の子がラーイ、女の子がリラ、どちらも魔女族の長の子どもです。僕たちが預かって育てています」
「魔女族では男の子は災厄の子だと言われて、魔女族を滅ぼすといういわれのない嫌疑をかけられていました。それをこの子たちの母親が晴らして、魔女族の長になったのです」
「本来は二人は魔女族に返すべきなのでしょうが、僕たちも情がわいてしまって」
「この子たちが可愛くて堪らないのです」

 こんな風に紹介されると僕は照れてしまう。セイラン様のお父上とお母上なのだから、いいところを見せたい。
 両足を踏ん張ってお腹から声を出す。

「ラーイです。よんさいです。セイランさまとレイリさまといっしょにくらしています」
「リラよ。よっつなの。レイリさまのおとうさんとおかあさんってことは、わたしのおじいちゃんとおばあちゃん?」

 リラはレイリ様を「ママ」と決めている。僕は畏れ多くて白虎族の高い地位にありそうなセイラン様とレイリ様のお父上とお母上を「おじいちゃん」と「おばあちゃん」と呼べないが、リラは四歳なのでその点は全く気にしていなかった。

「セイランとレイリが育てておるのならば、そなたたちの祖父と祖母になるのかの」
「孫の顔がこんなに早く見られるなんて思いませんでした」

 くすくすと笑ってリラの言動を許しているセイラン様とレイリ様のお父上とお母上に、僕は勇気をもって言ってみた。

「おおきくなったら、セイランさまとけっこんしたいんです」
「わたしはレイリさまとけっこんするのよ」

 四歳の子どもの宣言だが、セイラン様とレイリ様のお父上とお母上は笑わなかった。

「それほどにセイランとレイリのことを思ってくれるのか」
「セイランに婿、レイリに嫁が来るなんて嬉しいことですね」

 にこにこと笑って受け入れてくれるセイラン様とレイリ様のお父上とお母上に僕はほっとする。リラは誇らし気な顔で木の枝に立っていた。

「本当に結婚するかは分からないですよ。まだ子どもの言うことですから」
「いや、この子たちはいい目をしている。特に男の子。ラーイと言ったか? 魂の色が少し特殊だな」

 セイラン様とレイリ様のお父上には僕のことが見抜かれていた。僕が前世の記憶を持っていて、生まれ変わったことが見ただけで分かるのだろう。

「ぼくはじじょうがあって……。でも、いもうとのリラはふつうのこです。リラのためにも、ぼくのことはいわないでください」

 僕の事情を明かしてしまったがためにリラの記憶が戻るようなことがあってはいけない。リラには今世の人生を満喫してほしかった。
 僕の気持ちが届いたのか、セイラン様とレイリ様のお父上はそれ以上僕の事情について追及してこなかった。

「父上、先見の魔女から予言されたのです。私たちがラーイとリラの子どもを孕むと」
「白虎族の雄が孕むことがあるのですか?」

 本題を口にしたセイラン様とレイリ様に、セイラン様とレイリ様のお父上は難しい顔をしている。

「セイランとレイリは雄ではないか」

 セイラン様とレイリ様のお父上は白虎族の雄が孕めるかを知らなかったようだ。そこに口を開いたのはセイラン様とレイリ様のお母上だった。

「いや、雄でも神族なので赤子を孕める可能性があります」
「本当か!?」
「数は少ないですが、雄同士で結婚した白虎が子を産んだ記録があります」

 セイラン様とレイリ様のお父上は知らなかったようだが、お母上は白虎族の記録を知っていた。

「ありうる話なのですか……」
「リラとのことは恐らく間違いだと思いますが、セイラン兄上はラーイと……」
「そうなる未来があり得ない話ではないということか」

 ショックを受けているセイラン様に、僕は目を潤ませてセイラン様を見上げる。

「ぼくのこと、きらいですか?」
「ラーイを嫌うことなど絶対にない。ラーイは私の可愛い息子だ」

 そうでなければ乳などあげていない。

 セイラン様の言葉に、セイラン様とレイリ様のお父上とお母上の表情が変わる。

「セイラン、レイリ、乳が出るのか?」
「魔女族の子どもを育てているのですからね。そういう不思議なこともあるでしょう」
「乳が出るのならば、子を孕んでもおかしくはないな」

 ぽろりとセイラン様が言ってしまったことで、セイラン様とレイリ様のお父上とお母上は納得していた。セイラン様は片手で顔を覆って恥ずかしがっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥
恋愛
エリザベートは六歳の公爵家の娘。 国一番のフェアレディと呼ばれた母に厳しく礼儀作法を教え込まれて育てられている。 母の厳しさとプレッシャーに耐えきれず庭に逃げ出した時に、護衛の騎士エクムントが迎えに来てくれる。 エクムントは侯爵家の三男で、エリザベートが赤ん坊の頃からの知り合いで初恋の相手だ。 エクムントに連れられて戻ると母は優しく迎えてくれた。 その夜、エリザベートは前世を思い出す。 エリザベートは、前世で読んだロマンス小説『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』で主人公クリスタをいじめる悪役令嬢だったのだ。 その日からエリザベートはクリスタと関わらないようにしようと心に誓うのだが、お茶会で出会ったクリスタは継母に虐待されていた。クリスタを放っておけずに、エリザベートはクリスタを公爵家に引き取ってもらう。 前世で読んだ小説の主人公をフェアレディに育てていたら、懐かれて慕われて、悪役令嬢になれなかったエリザベートの物語。 小説家になろう様、ノベルアップ+様にも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

処理中です...