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転生したらまた魔女の男子だった件

22.セイラン様とレイリ様の予言

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 母が魔女族の長になったので、僕とリラは魔女族から追われることがなくなった。
 母は魔女族の長になって気合を入れていた。

「男の子を殺すような根拠のないことはさせない。魔女族を根底から変えてみせる」

 魔女族の中にはまだ魔女の男性は災厄を呼ぶと信じている頭の固い古い魔女もいないわけではない。そんな魔女たちにも、魔女族の男性が災厄となった過去はないし、根拠もないのだと浸透させるのだ。
 母の信念を姉たちも、周囲の魔女たちも応援していた。

 僕とリラが狙われなくなると、母とセイラン様とレイリ様で話し合いが行われた。
 僕とリラがどこで育つかについてだ。
 セイラン様もレイリ様もその件に関しては考えることがあったようだ。

「いつまでもラーイとリラに胸を吸わせておくのはどうかと思うのだよな」
「ラーイとリラも四歳ですからね」

 セイラン様とレイリ様が僕とリラを手放す気配を感じ取って、僕はセイラン様の足にしがみ付き、リラはレイリ様の足にしがみ付く。

「セイランさまといっしょにいます! セイランさまといっしょがいいです」
「ばいばい、いやなのー! わたしはレイリさまといるのー!」

 足にしがみ付いて叫んで泣き出す僕とリラを、セイラン様とレイリ様が抱き上げる。セイラン様とレイリ様も困っているのが分かるが、僕はどうしても譲れなかった。
 僕はセイラン様が大好きだ。セイラン様と離れて暮らすなんて考えられない。リラもレイリ様が大好きで同じ気持ちなのだろう。

「わたしは、レイリさまとけっこんするのー! レイリさまとずっとずっとずっといっしょなのー!」

 殴り合いの喧嘩を見たときには全く平気で、自分も混ざろうとしていたリラが、涙を流して主張している。その様子に母も胸を打たれたようだった。

「こんなにラーイもリラも土地神様を慕っている。引き離すことはできないよ」
「それでいいのか?」
「共に暮らすためにこれまで頑張ったのではないのですか?」
「子どもたちの幸せを願ってやれなくて、何が母親よ。子どもたちが健康で幸せに暮らすのが一番嬉しいものよ」

 母は僕とリラに理解を示してくれた。
 残るはセイラン様とレイリ様だ。
 セイラン様とレイリ様は胸を押さえて考え込んでいるようだった。

 リラがレイリ様の手を握る。

「かえろー、レイリさま」
「リラ……」
「わたしのおうちは、おやしろだけよ」

 リラの手を握ってレイリ様は心を決めた。

「僕はリラを育てていきます。僕にとってリラは可愛い娘です」
「私もラーイを育てよう。ラーイは私の可愛い息子だ」

 ようやくセイラン様もレイリ様も納得してくれて、僕は心からホッとしていた。
 魔女の森から帰ると、マオさんが庭で洗濯物を干しながら待っていてくれた。
 マオさんは白虎の姿のセイラン様とレイリ様が僕とリラを背に乗せて降り立つと、駆け寄ってくる。

「どうなりましたか?」
「無事にアマリエは魔女族の長になった。元の魔女族の長も、自分の息子と娘を殺した魔女族の長以外は手にかけていないということなので、魔女の森から離れることで決着した」

 僕に前世の記憶があることは、話を聞いていた今世の母も、レイリ様も気付いたかもしれないが、そのことには触れないでいてくれた。このことは僕とセイラン様だけの秘密なのだ。

「レイリさま、ぜんせのことはだれにもいわないでください。とくにリラには。リラはぜんせのきおくがありません」

 追い回されて殺された記憶など持っていない方がいい。
 僕が前世の記憶を喋ってしまえば、何かの拍子にリラも前世の記憶を思い出すかもしれない。それだけは避けたかった。
 僕の願いに、レイリ様は深く頷いて答えてくれた。

「おにいちゃん、なんのはなし?」
「むずかしい、おとなのはなし」
「おにいちゃんは、おとなじゃないでしょう?」

 リラは気になるようだが、僕はそれ以上リラに何かを話すつもりはなかった。

 魔女の森と社も自由に行き来できるようになっていたので、次の日には早速母と姉たちが来ていた。姉たちはリラとおままごとで遊んでくれる。リラは大喜びで外で遊ぶおままごとセットを持ち出して、砂を入れてフライパンを動かしていた。

「じゅーじゅー。もうすぐできますからねー」
「楽しみだわ。美味しいのを作ってよね」
「何ができるんでしょうね」
「私はお腹が減っているから、たくさん食べたいわ」
「はーい! おおもり、いっちょー!」

 姉たちが遊んでくれるのでリラもすっかりと警戒心を解いていた。
 母はセイラン様とレイリ様に話があったようだ。

「先見の魔法を使う魔女が妙なことを言いだした」
「妙なこと?」
「なんですか?」

 神妙な顔の母に、セイラン様もレイリ様も怪訝そうに聞いている。

「『魔女の男女の双子は土地神様を孕ませる』と」
「はぁ?」
「どういうことです?」

 意味が分からないとばかりにセイラン様とレイリ様は顔を歪めている。

「言葉通りだと思う」
「私がラーイに孕まされるということか?」
「リラは女の子ですよ? 逆ではないのですか?」

 僕がセイラン様を孕ませる。
 孕ませるってどういう意味なのだろう。
 気になって僕はそわそわしてしまう。

「はらませるってなぁに?」

 リラにはできないことならば、もしかするととは思っているが、はっきりとは意味が分からない。

「孕ませるとは……赤ん坊ができるということだ」
「ぼくがセイランさまとあかちゃんをつくるんですか?」
「予言が当たるとは限らないがな」

 僕は男性で、セイラン様も白虎族の雄。子どもができるのかと言えば疑問しかない。
 白虎族は神族なので、雄でも子どもができるような奇跡が起きることがあるのかもしれない。
 母が帰ってから、セイラン様とレイリ様は話し合っていた。

「アマリエが話したことが気になっている。私たちが孕むという予言だ」
「僕も気になっています。白虎族でそんな前例があったかを調べたいものです」
「今度白虎族の村に行ってみるか……」

 話しているセイラン様とレイリ様の足元に、いつの間にかリラが丸いお目目を見開いて立っていた。

「セイランさま、レイリさま、びゃっこぞくのむらにいくの?」
「里帰りをしてもよいかなと思っておる」
「そうですね。ラーイとリラは僕たちの養い子。一度紹介しておいてもいいかもしれません」
「わたしもいくー! レイリさまのパパとママに、ごあいさつするー!」

 どういうつもりでのご挨拶なのか僕にはよく分からないが、リラは行く気でいるようだ。
 僕もセイラン様のご両親には会ってみたい。

「ぼくもいきたいです」
「予言の件もあるから、ラーイとリラを見てもらった方が話しは早いかもしれぬな」
「父上と母上にラーイとリラを紹介したいです。僕たちの可愛い息子と娘ですからね」
「やったー! びゃっこぞくのむらにいけるー!」

 飛び上がって喜ぶリラは、さっきの予言の話も聞いていないし、聞いていても意味が分からなかっただろう。
 それにしても、リラの方が赤ちゃんができるのではなくて、土地神様を孕ませるということは、レイリ様の方に赤ちゃんができるということではないのだろうか。
 どういうことなのか、僕には全然分からない。
 リラとレイリ様ならば、当然リラの方が赤ちゃんを産むのではないだろうか。

「よげんがまちがっているのですね。リラがあかちゃんをうむのでしょう」
「リラが大きくなってそういう関係になったら、当然リラの方が赤ん坊を授かると思うのですが」

 予言が間違うこともあるし、僕は災厄の子だと言われていたけれど、それに根拠なんて全くなかった。
 きっと何かの間違いだ。
 レイリ様とリラは将来結婚するかもしれないけど、そのときに赤ちゃんができるのはリラに違いない。

 そうなると僕とセイラン様はどうなのだろう。
 予言の通りならば僕がセイラン様に赤ちゃんを産んでもらうことになるのだろうが、セイラン様は赤ちゃんが産めるのだろうか。

 どういう風にすれば赤ちゃんができるかも、僕は死んだときに十歳だったので知識があるわけがない。
 ただ、赤ちゃんというのは結婚した男女の間にできて、女性のお腹が大きくなって生まれてくるのだという知識はあった。
 白虎族の村のセイラン様のご両親は、セイラン様に赤ちゃんができるかどうか、答えをくれるのだろうか。
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